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第8話 巨大戦艦555號

 カナセ達は森の中の屋敷に戻ると留守番をしていたもう一人の仲間とコリンを引き合わせた。

「なにこれ? おもちゃ?」

 初めて見る機械人形の存在にコリンは不思議そうな顔をする。

「おもちゃじゃないギギ! 恐れ多くも勿体なくも、その名も轟く人造知生体壱號様ギギ! 以後、有難くギギを扱うギギ!」

「ふ~ん、変なの」

 コリンはギギの自己紹介を聴きながらブリキの頭をコツンと指で弾いた」

「ギギャ~!」

 弾かれた拍子にギギは床の上に転んだ。それを見てコリンは無邪気に笑う。

「あははははははは!」

「こやつ、無礼千万! 我をロータスの魔女の傑作と知っての事ギギか?!」

「へぇ~傑作なんだぁ~」

「コリン、ギギと遊ぶのは荷物の積み下ろしてからだ。グズグズしてると日が暮れちまうぞ」

「は~い」

「ま、待つギギ! ギギとの話が終わってないギギ、この小娘!」

 どうやら魔女であってもコリンには未知の魔道具の類にそれほど興味は無い様だった。

 それでも新しい友達が出来た事には歓迎している様に見えた。

 その後、三人は引っ越し荷物の片づけを済ませると辺りを見渡した。

 女の子の持ち物が増えたせいで部屋の中の色どりが増えたのは気のせいではない。

 その証拠に次の日に屋敷にやってきたメイヴィスとデニスが部屋の中を見た時、その変化をしっかりと捉えていた。

「おや? 何だかにぎやかだな。人でも増やしたのか?」

 デニスが聞くとカナセはコリンを二人に紹介した。

 コリンがゼー・ジゴバの妹だと聞いて二人は驚きを隠せない。

「驚いた、よく、ジゴバ親分が許してくれたわね」

 だがコリンが弟子になった経緯を耳にして再び驚愕した。

「カナセ君、そういう事は私達にも事前に相談してくれないと……」

 相談とはジゴバ親分との交渉の件だ。

「まあ、今回だけだ。でも、ジゴバに出した条件の事なら諦めてくれ。もう決めちまったからな」

「気安く言ってくれるわねぇ。66委員会が知ったら腰を抜かすわよ」

「まあ、年寄りにはいい刺激だよ」

「それでカナセ、急な事だが今から我々と同行してくれ」

「何があったんだ?」

「軍事作戦の作戦会議だ。総統としてそれに参加してもらう」

「本当に急だな」

「規模が大きいといってもファイタスはレジスタンス組織みたいなものだ。ウラ鉄の目が常にどこかで光っているとなると、それを出し抜く必要がある。先々予定を固定化しいては相手に勘付かれる可能性があるからな」

「常に迅速かつ隠密を旨としなければ生き残れないって事よ」

「成程、判ったよ。クレアを連れて行くよ?」

「悪いけど遠慮してもらってくれ。行って良いのは総統とその運転手兼護衛の俺だけだ。何かあった時に容易に脱出出来る様に身軽にするのが決まりなんだ」

「了解したよ。念には念って事だな」

 カナセは簡単な身支度を済ませると屋敷の外に向かった。

 そしてデニスの乗って来た真っ赤なオープンカーを前にして溜息を吐く。

「相変わらずド派手でテッカテカだなぁ。これのどこが隠密なんだ?」

「その分、速さなら飛行機にだって負けやしないぜ。そして何よりかっこいいだろ?」

「それは認めるよ。綺麗な車だと思う……」

「ならカナセも一台買ったらどうだ? そもそもファイタスの総統の愛車がオンボロバンじゃあ、様にならないだろ?」

「まあ、確かに。逃げる時もあの車じゃスピードも出ないしな……」

 そんな事を言いながらカナセはデニスのオープンカーに乗り込んだ。

「クレア、出来るだけ早く帰って来る。夕食には間に合わせるつもりだよ。メイヴィス、二人を頼むよ。コリンもクレアの言う事をしっかり聞くんだよ」

 カナセが三人に別れを告げると真っ赤なオープンカーは走り出した。

 外の景色を眺めながらカナセがデニスに向かって語りかける。

「そういえば、デニスとだけで動くって初めてだよな」

「そうだったか?」

「いつもメイヴィスに車は乗せられてた様な気がする」

「そういや、そうかもな」

「何か理由があるのか?」

「いや、別に。偶々、アイツが暇だった時にソッチとの用事が被っただけだよ。まあ、今回は色々考えてな。こっちも気を使っての事だ」

「気を使う?」

「例えばだ、若い総統閣下が外出している最中に美人秘書がむさ苦しい男と二人っきりで留守番なんて、お前さんも気が気じゃないだろうとかな」

 そんなデニスの冗談を聞いた途端、カナセは笑った。

「成程、そういう事か。けど、わざわざそんな事に気を回してくれるなんて」

「何だ、心配じゃ無いのか?」

「心配ってどっちの心配だ? クレアにうっかり手を出して大火傷するデニスの事か?」

「ほほう~。ジョークをジョークで返すとは余裕だな」

「そりゃ、クレアの事は信じてるからな」

「信じてるか……。いいよな、若いってのは。先にある見えない小石につまづくかもなんて全然、考えもしてない……」

「何だよ、それ。おっさん臭い……」

「何事も用心が大事だって事さ」

 車がファイタスの勢力圏内を南へと進むと古びた鉄骨造の倉庫に到着した。

「ここが会議場か?」

「元はロータス軍の施設だった場所だ。急ごう、恐らくほとんどの連中が到着しているはずだ」

 会議室にはすでにファイタスの軍事部門の関係者が集まっていた。

 しかし会議の席でゴッペル先生の姿は見えない。

「先生、欠席かな?」

 カナセが席に座ると早速、会議が始まった。

 先生の代わりに議長をするのがオデロ・モンベル団長、ファイタスの中でも最強を誇るモンベル兵団の団長だった。

 だが団長は会議の始まりを皆に知らせると、すぐに横に居た若い士官に議事の進行を引き継がせた。

 カナセはモンベル団長の顔をまじまじと見る。

 まだロータスに来たばかりの時、66委員会の緊急招集会議の時から見知った顔だった。

 白髪の残る禿げ頭に染みと皺塗れの顔と白い口髭。ゴッペル先生とそれほど違わない初老のはずなのに遥かに老けて見える。

 しかし皺に埋もれた鷹の様な鋭い眼光は歴戦の勇士を感じさせるのに充分な迫力だ。

「そういや、就任式の時にも会ったのにちゃんとした挨拶もまだだったよな……」

 カナセはそんな事を思うと団長は若き総統の視線に気付いたのか、鷹の眼でじろりとこちらを睨んだ。

「どうなされたのかな、総統閣下? 何かご意見でも?」

 団長から重苦しい声が聞こえる。

「いいえ、何も?」

 カナセは平静を装いながら鷹の目から目を逸らす。

 頑固そうで口うるさい。どうもあの手の年寄りは苦手だ。

 そう言えば総統任命の会議で団長は最後までジゴバとカナセの任命を拒み続けた事を思い出した。

 ならばカナセが嫌われても好かれる理由は何処にもないはずだ。

「嫌だな……あんな爺さんと仕事なんて……」

 しかしロッゾ・カルを打倒するにはどうしてもモンベル兵団の力は必要だ。

 ならばここはセンブリを噛んででも我慢するしかない。

 そんな中、作戦会議は粛々と進んだ。

 団長から議事を引き継いだ士官は眼鏡を掛けた知的な風体の茶色い髪の青年だった。

 彼はモンベル団長が連れて来た参謀士官との事で今回の作戦の立案者でもあった。

 名前はメグレ・タータ大尉。作戦内容の説明は大半は彼が執り行った。

「モンベル団長の片腕って所だな……」

 そんな事をカナセは思いながら作戦に耳を傾ける。

 作戦はロータスの南東、カルデナ市にあるウラ鉄の軍港への奇襲作戦だった。

「カルデナ市? はて、どこかで聞いた記憶が……」

 確かにカルデナの名は聞き覚えがある。

 しかしその場ではカナセはカルデナの名の意味をどうしても思い出す事が出来なかった。

 タータ大尉がスライドを使って説明する。

 港は市に隣接し広大な敷地を要していた。

「随分と大がかりな奇襲だな……」

 カナセが小さくつぶやく。軍港といっても港の施設だけでも小さな町一つ分ほどの規模がある。

 だがこちら側の数はせいぜい一個中隊で百人程度。

 そこへの奇襲の割には戦力が少ない様に思えた。

「いいえ、今回の最終目標は港施設の攻撃ではありません」

 そうタータが答えるとスライド画面が切り替わった。

 すると今度は月明かりの湾内の沖合に一隻の艦艇の黒い影が浮かんで見えた。

 その艦影を見て会議室でどよめきが上がる。

 それはとてつもなく大きい。今までに見た事もない巨艦だった。

「これが今回の作戦の目標である試験航行中の戦艦555號です」

 カナセは渡された資料を目を通して唖然とした。

 推定で全長200m、総排水量17000t、203㎜三連装砲3基、127㎜連装砲6基、40㎜連装機関砲12基、その他大型機関砲多数装備という大昔の外洋型重巡洋艦に匹敵する規模の戦闘艦だった。

「こんな物を破壊するのか……」

 水軍勤務経験者のカナセなら、その数値が出鱈目な事くらい一見しただけで理解できる。

 空前絶後、前人未踏、破天荒解、これが成し得たのは技術者の情熱か、総裁閣下の狂気か……。

「とても現場からの要求とは思えない……」

 誰もが真面目にそう思う。

 更に資料を読み込むとまた驚かされる。

「喫水が6mから7mだって?! そんな船、真面に淡海の上に浮かぶはずがない!」

 ウーラシア淡水海の水深は平均的に浅い。水草生い茂るその下には水深1mを切る遠浅が存在する広大な海域もあり小型船舶ですら座礁する。

 その為、喫水の深い大型船は海底の測量が完了した航路のみを航行するのだが戦闘であらゆる海域を自在に航行せねばならない軍艦は浅瀬からの干渉を防ぐためにどうしても喫水が浅くなるのが常識だ。

 よって喫水が6mを超える戦艦となるとどれほど高い航行能力を持っていても移動範囲には大幅な制限が出る。

 それに淡海の水は淡水だ。総排水量17000tと言っても塩の外海でも無いのに比重の軽い真水の上で既定の浮力が得られるとは思えない。

「どんなつもりでウラ鉄はこんな船を造ったんだ? 座礁したら一発で身動きが取れなくなるぞ。そもそも真面に浮くのか?」

 カナセが訊ねるとタータ大尉は顔に掛けている銀縁のメガネを治しながら答えた。

「その件に関しては船首と船底に特殊な装置を備えているとの情報です」

「特殊な装置? 何だいそりゃ?」

 大尉の説明にカナセは首をかしげる。

「現在、調査中で詳細は判りませんが恐らく機械的な走行装置だと思われます」

「けど、本当にデカい船だな……。ウラ鉄はこんな物浮かべて何をするつもりだ」

「恐らく外洋進出を見据えての実験艦と予測しています」

 説明する士官の言葉に一同がざわつく。

「遂に塩の外海に乗り出そうというのか……」

 その下準備がこの淡海最大の巨大戦艦という事だ。

 しかしここでひとつ疑問が残る。

「なら何でこのデカ物を我々が叩かねばならんのだ?」

 別の幹部から質問が上がった。

 ファイタスの戦場は主に陸上だ。攻撃手段は要所への奇襲か強襲が基本戦術であり艦艇の存在など無視するのが普通だ。艦砲射撃の危険はあるがそんな時は広大な内陸に逃げてしまえばいいだけの事だ。

 いささか消極的ではあるがその意見にはカナセも同感だ。

 要するに放っておけばいいのだ。

 それに攻撃すべき目標は他に無数にある。危険を冒してまでウラ鉄の新型戦艦を沈める必要は無いはずだ。

「それにこんな巨艦、製造や維持には莫大なコストが掛かるはずだ。いっそ放っておいた方が奴等にとって金食い虫になるに違いない」

 そんな声も上がった。

 一方、別の声が会議室に響いた。

「では何故、我々がこの船を沈めなければならんのか?……。その疑問については自分が説明しよう」

 声を発したのはモンベル団長だった。

 団長は座ったまま他の出席者に向かって語りかける。

 今回のカルデナ港奇襲は八ヶ国連合との関連性が先にあった。

 ファイタスは先だって八ヶ国連合と同盟を結ぶ為にヨシュアへと交渉に赴いたのだが、その席で連合側が同盟成立の条件としてファイタスに新型戦艦攻撃の案件を依頼したのだ。

 連合側もウラ鉄の新型戦艦の情報は掴んでいた。それどころかその情報内容は逆にファイタスの物よりも詳細なものだった。何故ならファイタスと違い新型戦艦の存在は連合にとって直接的な脅威だったからだ。

 もしウラ鉄がこれから起こるであろうギップフェル島奪還作戦に際して、この戦艦555號が投入してくれば、多数の連合艦隊を撃沈され、ギップフェル島の制海権まで奪い返されるはずだ。

 そしてその余波をもって各国の海域までもが制圧される。

 淡海を奪われる事は海上干拓地国家にとって手足をもがれるのに等しい。

 八カ国連合はこの脅威を本格的な海戦が始まる前に排除したい。

 しかし連合自体にはロータスのカルデナ湾内への攻撃手段を持たない。

「そこで我らがその役目を買って出る事になった訳だ。同盟成立の条件にな」

 団長の説明に誰もが頷く。

「成程、あっちもタダでは手を握ってくれないって訳か」

 その後、議論が続けられたのち作戦実行の可否の採択が行われた。

 全員一致で作戦は承認された。

「よろしいかな、総統閣下」

 団長がカナセに念を押す。

「いいぜ。やるんならビシッと決めようぜ」

 総統も作戦を最終的に認可した。


 その後、会議は委員会の部下達の手に移行され実務的な話し合いが行われた。

 認可してしまったら総統の仕事はそれで終わりだ。

 後はファイタスの中で選りすぐられた百人の戦士が作戦を遂行する。

 帰りの車の中でカナセがデニスに訊ねる。

「それで実行部隊の隊長はあのメガネの参謀さんか? どんな男だろう?」

「モンベル軍団の気鋭って話だ。名前はメグレ・タータ、階級は大尉。生まれは東らしいが亡命してファイタスに来たらしい」

「ファイタスの戦士はそんな奴ばっかだな……。けど腕っこきって事だろ?」

「らしいぜ、兵団長直参の参謀だからな」

「解放戦線からも人が出るんだろう?」

「勿論だ。それに関してはこちらのメンバーはもう決まっている」

「誰が出るんだ」

「この俺が解放戦線の班長さ」

「デニスが?」

「あとメイヴィスが副班長だ。それと他、14名。残りがモンベル軍団からと他のファイタスから。ほとんどが軍団からだがな」

 自分の顔に親指で指差すデニスを見てカナセが聞き返した。

「デニスが隊長か……」

「不満か? 総統閣下」

「いいや、逆に頼りになるよ。ただ何か理由があるのかな? って思っただけ」

「まあ、あえて言うなら土地勘かな。そのカルデナ市ってのが俺の生れ育った町なんだ」

「故郷か?」

「まあ、そんな所だ」

 デニスはそれ以上は言わなかった。何か言い辛い思い出でもあるのだろうか。

「そう言えば前にメイヴィスが言ってたよな……デニスの過去は自分のそれよりも更に悲惨だったって……」

 しかしカナセもそれ以上は言及する事はなかった。

 そこでカナセは違う話題を振った。

「ところで話は変わるんだけど。あの就任式を襲った奴等、あいつらの事でラーマは何か言ってなかったか?」

 就任式の最中、カナセは謎の集団に襲われた。そして襲って来た暗殺者のひとりはカナセに向かって確かに言った。

「禍つ青き光の滅却を!」

 意味はさっぱり判らないがそれが奴等がカナセを狙った事と何か関係する事は間違いなかった。

 しかしその事をその場でデニスやメイヴィス、物知りのゴッペル先生に訊ねても判らないという回答が返ってくるだけだった。

 それでも総統を暗殺しようとした連中の手がかりには違いなく、解放戦線のラーマを中心に奴等の正体を追っていた。

「ああ、その事だか、ラーマの奴も調査中だとよ。多分、襲撃者の正体は何かしらの団体とは推測出来るって言ってたけどな」

「団体?」

「例えばウラ鉄以外でファイタスの勢力拡大を阻止しようとしている秘密結社の様な連中だ。少なくともウラ鉄による襲撃ではないって事らしい」

「断言出来るのか?」

「行動を見ればな。なぜなら、襲撃者の狙いは間違いなくカナセ・コウヤの命だった。明確な意思でお前さんを殺そうとしていたんだからな」

「ウラ鉄ならそれが違うって事か?」

「よく考えてみろよ。ウラ鉄にとってカナセ・コウヤの存在意義は総統って事じゃない。新生魔煌技の手がかりだ。その為にはお前さんを生きたまま確保する必要がある。殺してどうする?」

「確かに……。ならその動機に俺に対する個人的な怨恨の可能性も含まれるって事か?」

「恨まれたりする見覚えは?」

「悪いけど幾らでもあるかな?」

「ならそんな所だ。だから常日頃から用心していてくれよな」

二人を乗せた赤いオープンカーはいつの間にか森の中の屋敷に辿り着いていた。

「到着したぜ総統閣下。これで俺とのデートも終わりだ」

「むさ苦しいのとも、やっと解放か……」

 カナセとデニスが屋敷の玄関の扉を開けると三人の美女が出迎えてくれた。

「おかえりなさい」

 クレアとコリンの声が聞こえるのと同時に香辛料を熱く煮込んだ香りが漂って来る。

「おお! 今日はカレーか……」

 その香りにカナセが思わず高揚する。

「メイヴィスさんがお肉の良いのを持ってきてくれたの。香辛料もね」

「デニスも食ってけよ。どうせ帰ったて碌なモン食ってないんだろ?」

「最初からそのつもりだよ」

 カナセとクレア、コリンの三人が一つのテーブルに座り、残りの二人が小机のソファへと腰掛けた。

 そして各々に深皿に盛られたカレーが振舞われる。

「では早速、いただきま~す」

 カナセがスプーンで胃の中にカレーを放り込むと体の隅々にまでクレアの手作りの味が染みわたっていく。

「うん、美味い!」

「おいしい!」

「料理上手ね、クレア」

「これならいつでも嫁さんに行けるな」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

 皆が皆、クレアの料理を褒め称える。

「美人、やさしい、料理が上手い。こんな良い嫁さんを貰えて本当に俺は果報者だよ!」

 突然、カナセがクレアを褒め称える。

 それを聞いて三人が思わず噴き出した。

「あらあら、ごちそうさま」

「一皿、食う前に腹いっぱいになりそうだ……」

 ソファの上でメイヴィスとデニスが揶揄ってみせる。

 だがクレアだけあはスプーンを握ったまま顔を真っ赤にしていた。

「ちょっと、カナセ君! 急に何を言い出すのよ!」

「何って本当の事だよ。コリンもそう思うだろ?」

「うん、そうだね。って言うかカナセには勿体ない位かも」

「へへ、言いやがる……。それでコリン、クレア先生はどんな調子だ?」

「控えめに言って最高だよ! アタイもこんないい先生に着けてラッキーだと思う」

「べた褒めだな……」

「だってクレア、凄いもの知りなんだよ。薬以外の事も色々教えて貰ってるよ。教え方だってアタイが通っていた魔女の学校の先生よりもずっと判りやすいしさ。箒の乗り方だってここに居る間に教えてもらうからね」

「と、弟子は仰ってますが、先生の感想は?」

 次にカナセはクレアに聞くと彼女は少し照れながら答える。

「最初からマギアギアが召喚出来る様な子だもの。元々、基礎は仕上がってるわ。私の方が何を教えて良いか迷うくらいよ」

「けど、何でクレア・リエル嬢だったんだ。総統閣下が師匠でも良かったんじゃないか。そうすりゃ、この子はあのエリザベス・アムンヘルムの孫弟子って箔まで付くぜ」

 今度はデニスが聞いた。するとカナセはこう答えた。

「俺に教えられる事なんて何も無いよ。大体、コリンはもうマギアギアと剣技が使えるんだ。俺の持ってるマルケルス神技なんて覚えたってたかが知れてるよ」

「でもカナセ君には魔煌探信があるじゃない」

 カレーを食べながらメイヴィスが答える。

 しかしカナセは苦笑いを浮かべながらこう言った。

「あれこそ教えられないよ。今だから白状するとな。あれって、どうやって出来たのか自分でも判んねーだから」

「?」

 カナセの一言に皆が首を傾げた。

「それってどういう意味?」

「あれは師匠がまだ元気だった頃だよ。師匠は俺を水辺に連れて行ってこう言ったんだ。水の中にいくつかコアを放り入れた。それを全部取って来い、って」

「それで?」

「俺が無理だって言ったら、最初から無理だって諦めるな。煌気を心で感じるんだって……」

「それで! それでどうなったの?」

「どうって?」

「もっと、詳しく!」

 クレアが何を思ってか身を乗り出してカナセに迫る。

「クレア、飯時に近いよ」

「ご、ごめんなさい……。でもそれってベス先生による実際の講義の様子よね」

「まあ、そうだけど……」

「あ~あ、私もその場に居たかったなぁ~」

 クレアが突然、落胆の声を上げる。

「本当にクレアはロータスの魔女様が好きなのね」

 メイヴィスが呆れた口調でクレアに言う。

 そんな彼女にクレアは恥ずかしげもなく答えた。

「好きなんておこがましいわ。もう人類史上、最大の偉人よ。もし過去を超える魔煌技があるのなら全財産はたいてでも先生の所に行きたい気分なのに……」

 このまま放って置けばクレアのベス先生談義で話が終わってしまう。

「それで、カナセはお師匠の言った通りに出来たの?」

 熱を上げる師匠の横で若すぎる弟子がカナセに訊ねる。

「ああ、ちゃんと出来たよ。煌気に向かって気持ちを込めたら、一発で水の中のコアは答えてくれた」

「確かに凄いな……コア探信の魔煌技なんてかなりの上級魔煌技だっていうのに。確かにそこのおチビちゃんに教えられる物じゃないよな」

「アタイはおチビちゃんじゃない!」

「おっと、これは失敬。コリン・ジゴバ女史」

「いや、だからその……。その時、俺は魔煌技を使ってないんだ」

「使ってない?!」

 カナセの一言に一同が声を上げた。

「無声詠唱とかじゃなくて?」

「ああ、物理的に呪文を唱えていない。ただ煌気を感じる事でコアの位置が特定出来たんだ」

「そんな事が……」

 魔煌士や魔女の常識では考えられない。

「だから師匠は言ったんだよ。お前は魔煌探信については天才だよって。まあ、その後、水軍に入った時、勉強して色々と補完したけどな」

「なんと、まあ……。持って生まれた才能だったって訳か」

「そう言う事。だからコリンにも教えてられないんだ」

「別に気にしなくて良いよ。アタイにはクレアっていう立派な先生が付いてくれてるんだから」

「なら精々、クレアにみっちりシゴかれるんだな。クレアもコリンの事、これからも頼むよ。押し付けちゃった形だけど、俺がこんなんだからさ」

「私は平気よ。コリンみたいな子なら大歓迎だわ」

「けど、相当、跳ねっ返りだぞ」

「跳ねっ返りならナタルマで馴れっこよ。それでもナタルマと比べたらコリンなんてカエルが跳ねてるみたいで可愛いくらいだわ」

「ナタルマって、あんなのと比べちゃ流石にコリンが可哀そうだな」

「ナタルマ? 誰、それ?」

 二人の話を聞きながらコリンが訊ねる。

「碌でもないヨシュアのド腐れ魔女だ」

「ド腐れ魔女? 酷い言い方だね」

「それだけ言っても足りない位だよ」

 カナセはナタルマの事を口にした途端、カレーを食べながら顔を歪めた。

 そして最後にコリンに忠告する。

「いいかい、コリン。そのナタルマって魔女の真似だけは絶対にしちゃ駄目だよ。お前の師匠と大兄様を泣かせる事になるからな」

「なにそれ、そんな酷い奴なの?」

「倫理観が歪み切って修正不能な奴だ。まあ、ファイタスに居る限り、どこかで会う事になるだろうから、その時は充分に用心していてくれ」

 そう言いながらカナセは皿の上に残っていたカレーを平らげていった。

 そして空になった皿を掲げ二杯目をお代わりした。

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