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第4話 現在・過去・すこし未来の事

 次の日、メイヴィスがゴッペル先生を連れてやってきた。

 66委員会の緊急会議の決定を伝えに来たのだ。

「こんにちわ、カナセ君、クレア。幽霊には会えた?」

「ああ……。いいや、何も出なかったよ」

 カナセは嘘を吐いた。昨晩は機械人形のせいで大騒ぎだったがカナセはその事実を伏せておく事にした。

 黙っている理由には自分なりの考えがあったからだ。

 その代わりメイヴィス達には何も無かった様にうそぶく。

「でもメイヴィスが変に脅かすからクレアが一晩中怖がって大変だったよ」

「ふふ、それは悪かったわね。ごめんね、クレア」

「いいえ、別に怖がってなんてないし……」

 そう言ってクレアは平静を装う。

 朝になるとクレアは昨日の意気消沈から立ち直っていた。

 その辺りの立ち直りの速さは流石に歴戦の魔女といったところだ。

 しかしメイヴィスがいきなり幽霊の話から切り出すとカナセの方を青い瞳できつく睨み返していた。

 その態度を眺めていたメイヴィスが目敏く感じ取る。

「喧嘩でもしたの?」

「そんなんじゃないよ」

「止めてよね。二人っきりになった途端、性の不一致で揉めるなんて」

「あんた、美人なのにエグイ事言うな……」

 カナセは二人を屋敷のリビングに通した。

「お邪魔するよ、魔女の弟子よ。そして薬の魔女も元気そうで何よりだ」

「いらっしゃい、ゴッペル先生」

 二人の来訪者がソファに座る。

「早速、模様替えを始めたのね」

「一応、俺達の新居だからな。それと聞いたんだけどここって元はウラ鉄の所有物だったんだって?」

 カナセは世間話に思わせて探りを入れてみる。

「如何にも、正確にはベス先生の研究施設の一つじゃ」

「師匠の?」

「あの方の全盛期にはこんな施設がロータスのそこかしこにあったものじゃ」

 ゴッペル先生の言葉に二人の心がざわめく。

 ならばあの機械人形の言っていたお館様の正体はウチの師匠という事か。

「どうかしたのかな?」

「別に。ここにも師匠の痕跡があったのかって驚いてるんだよ。何を研究してたんだ?」

 カナセは惚けながら問い質す。

「高度な魔煌具の研究らしいがかなり厳重に管理されていた様で何も判らん。ファイタスが占拠したのは中身が持ち去られた後で、屋敷が破壊される寸前じゃった」

 結局、屋敷についてそれ以上の情報を聞き出せる事はなかった。

「では本題に入らせてもらう。先だっての66委員会の緊急招集、賛成多数でお前さんをリーダーにするという決定が下された」

「へへ、そいつぁ凄ぇな……。責任重大だぜ」

 カナセは先生の言葉を軽く笑い飛ばした。しかし腹の中では強い緊張が走る。これでもうウラ鉄総帥ロッゾ・カルとの直接対決に後戻り出来ない事になる。

「最も、お前さんに強権は無いと思って貰いたい。飽くまでファイタスの実権は我等66委員会のままだ」

「本当のお飾りって訳か?」

「例え、それが事実でも覚悟はもってもらわねばならん。それとファイタスの頂点としてやってもらう事も山積みだ」

「まず、何からやるんだ?」

「就任式じゃ。まず自らが新たなリーダーとして就任したことを宣誓し世に知らしめてもらわねばならん」

「ここでか?」

「いや、せっかくのエリザベス・アムンヘルム唯一の弟子という看板があるのじゃ。ラッツ村の先生の生家跡で式を執り行いたい。関係者や聴衆にマスコミも大勢、呼んでな」

「目立たせるなら最大限、効果を出すって訳よ。それでカナセ君、演説の方はどう? 行けそう?」

 メイヴィスが訊ねるとカナセが笑った。

「ああ、任せとけ。男としての一世一代の晴れ舞台だ。目いっぱい歌舞いてやるぜ!」

 そう答えるカナセだったがメイヴィスの表情はどこか不安気だ。

「本当に大丈夫? 口で言うほど簡単じゃないわよ。大勢の人の前でしゃべるって」

「大丈夫だよ。こう見えても俺って人前に立って緊張した事なんて無いんだから。それにゴッペル先生が原稿を書いてくれてるんだろ? それを覚えてしゃべるだけなんだし、簡単だよ」

「そう? 本当かしら?」

「本当さ。だいたいメイヴィス、俺がやった孤児院での挨拶は見ただろ?」

「挨拶って、あれと一緒にするの?……」

 カナセの飽くまで気楽な物言いにメイヴィスが困った表情でつぶやく。

「まあ、メイヴィスが心配する事なんて無いよ。子供じゃないんだ。ちゃんとやるさ」

 そう言いながらカナセは笑った。

「それと話は変わるがお前さんにはリーダーとして総統の肩書が与えられる」

「総統?」

 総統とは単に最高指導者を示す言葉だがカナセにはどこか違和感を感じた。

「何で総統なんだ。総司令官とかじゃダメなのか?」

「何か不満か?」

「別にそうじゃないけど、総統なんて聞きなれない言葉だからさ」

「謂れならある。この国の伝説の英雄。箱舟、カルナカル・ヴァイハーンの船長、カナセ・コウヤの最後の肩書だ。彼はロータス建国の後、僅かな期間だが三代目総統という地位に就いたのじゃ」

「成程、その伝説にあやかろうって魂胆か。ロータスの魔女から伝説の船長まで何もかもてんこ盛りだな」

「相手はあのロッゾ・カルじゃ。どれだけ盛っても今のお前さんでは物足りん。正直、お前さんがベス先生の実の息子とでも名乗ってくれれば、こっちも気が楽じゃったよ」

「そりゃ、期待に答えられずに悪うござんした」

 小さな会議が終わると先生はカナセに資料の束を渡した。

「ここにファイタスの事が多く書かれている。しっかり頭に叩きこんでほしいのと資料は

機密事項じゃ。ウラ鉄の渡る様なら完全に処分してくれ」

 そう答えると、二人は邸宅から離れていった。


 カナセがリビングで資料に目を通しているとティーカップを片付けながらクレアが訊ねる。

「ねえ、あの機械人形、どうしちゃったのかしら?」

「判らないな。周りにコアの反応も無いし遠くに逃げたんじゃないかな」

「また来ると思う?」

「多分な。けど正体が判っちまった今となっちゃこっちのもんさ」

 そう答えながらカナセはそれとなくクレアの顔色を伺った。

 幸い、昨夜の様な憂いは感じられない。幽霊騒ぎもカナセの破廉恥行為も完全に吹っ切れた様だ。

「今日はこれからどうするの?」

 クレアが聞いて来る。

「取り合えず部屋のリフォームの続きだな。それから昼飯食って……」

「なら午後は森の周りを散歩しない? この辺りの事、まだ何も知らないままになってるでしょ」

「確かにそうだよね……」

「何かあった時に備えて周りの地形を知って置く事は大事だと思うの」

「賛成の賛成! じゃあ、今日の午後は二人で散歩がてらにデートだ」

「なら出る前にちょっと時間を頂戴。何かお菓子でも用意しておくわ。大したものは用意出来ないけど」

 昼食を済ませた二人は外出前に壱號に備えて厳重に戸締りを行った。

 その更に上からクレアによって魔煌技の罠が仕掛けられた。

 ここを根城にしていた機械人形にどれだけの効果があるかは不明だが用心に越した事はないという彼女の提案だった。

 作業が終わると二人は揃って屋敷を出た。屋敷の前では森を横断する砂利道が昨日、買い出しに出掛けた町まで続いていた。

 森と町までの間はどこにでもある干拓地の田畑が広がっておりウラ鉄との戦いの後、入植した自作農が農作業を行っていた。

 季節は夏の終わりに差し掛かり、田んぼの青い稲穂も腰の高さまで伸びていた。

 二人は砂利道から森の中へと入っていった。

 他人から見れば若いカップルのデートの現場にも見えなくないがそこは生真面目なクレア、森の中で気付いた事を広げた地図に細かく書き加えていく。

「完全な人口の森ね。木材用の針葉樹林が規則的に植えられて手入れもされているわ」

「その割には倒木が多いな」

「単に間引いてるだけじゃないかしら。それよりも思ったより水はけが悪いみたいね。落ち葉を踏めば水が染み出てくるし、倒木もコケ塗れだわ」

「森の中を走り難いって事だよな。どちらにしてもピクニックには向いてないな」

「あの機械人形ってどう逃げたのかしら?」

「元々、重量が軽いから足元が沈まないんだろうな……。出ようか。長居したらこっちの靴が泥だらけになる」

 カナセ達は砂利道に戻るとそのまま森を抜け出した。

 先には低い丘陵の上に小さな広場があり二人はそこを目指して歩く。

 そんな中、カナセが試しに隣を歩くクレアに向かって手を伸ばした。

 彼女と恋人の様に手を繋いで歩きたかった。

 もしかしたら昨日した事をまだ怒っているかもしれないが、カナセの知っている彼女なら、あの時の事などもう忘れているはずだった。

 そして思った通り、伸ばして来た手の意味を察したクレアが自分の掌をカナセの掌と重ね合わせた。

 男と女の指先が互いに引き合う様に複雑に絡み合っていく。

 そして一度、繋ぎ合った手と手は決して離れる事はない。

「どうしたの? 急に手なんて繋ぎ出して?」

 今更ながらクレアが訊ねて来る。

「繋ぎたいから繋いだんだ……。ウラ鉄に捕まってた時、この日の為に頑張ろうってずっと思ってた」

「そうなんだ……」

 カナセの言葉にクレアが嬉しそうに笑う。

「でも本当はその大きなお尻を触ってたいんだけど、いい?」

「カナセ君って、ジョークのセンスは最低ね……」

 手を繋いだまま丘の上に到着すると二人は並んで腰を下ろした。

 握り合ったていた手は一旦離れたが、代わりにカナセは手を伸ばしクレアの空いたままの肩を抱き寄せた。

 クレアが成すがままにさせてくれる事にカナセの胸が高鳴る。

「クレア……」

 今度はクレアの両肩を抱き、そのまま引き寄せた。

 そしてこのままキスまで持ち込もうとする。

 だがそこにクレアが持ち運んでいた手さげバスケットが割って入る。

「カナセ君、少し早いけどオヤツしましょうよ」

「え? ああ、そうだね……」

 出鼻を挫かれたカナセが笑ってごまかした。

どうもクレアの方もそこまで安売りするつもりは無いらしい。

 バスケットの中味は紙に包まれた手作りのおかきだった。

 カナセはおかきを数個摘まむと、ポリポリ音を立てて食べてみる。

するとしっかりとした塩味の風味が口の中で広がっていく

「美味い! クレアは本当に何でも上手にこなすな」

「お褒めに頂、至極光栄。もっと誉めても良いわよ」

「それでいて、お化けが怖いなんて可愛い所もあるし」

「何よ、ぜんぜん誉めてないじゃない!」

 昨夜の事を思い出したのか。クレアはすこし膨れ面でカナセの肩を叩く。

「うん、怒った顔も可愛い。もうさ、このまま俺の嫁になっちまえよ」

「プッ、私がカナセ君の奥さんに?」

 クレアが吹き出すとカナセはクレアの横で大声で叫んだ。

「クレアー! 大好きだー! 愛してるー! 結婚してくれー! いや、結婚しろー!」

 その熱烈な告白にクレアは顔を真っ赤にする。

「ちょっと、止めてよ! 誰かに聞こえたらどうするつもり?」

「なら世界中の人達に聞いてもらう為にもっと大声で叫ばなきゃな! クレアー! だーいーすーきーだーよぉー!!」

 カナセが再び大声で叫んだ。

 だがそこまで明けっ拡げに告白されるとクレアも恥ずかしさを通り越して逆に開き直る。

「ならあなたと結婚したらどんなメリットがあるのかしら?」

 クレアは可笑しそうにカナセに問い質す。

「そりゃ、魔女としての最高の特典が付いて来るよ。例えば……」

「例えば?」

「君が心から尊敬するエリザベス・アムンヘルムの弟子の子供を産む事となる。君の中の血がベス先生の仲間入りになる。それって結構凄くないか?」

「確かに一介の魔女としては魅力的な誘いね。このままアムンヘルムの系列が続けば私の名前は永遠に残るかもしれないもの。それに私だって少しでもベス先生の御側に近寄れたら素敵かもって思うし……」

「だろ? そう考えると君は幸せ者だよ」

「でもそれだけじゃ、ちょっと押しが弱いかなぁ」

「まだ何か欲しい物があるのか?」

「だってこういう時は欲張ってみせたいもの」

「じゃあ、何がほしい?」

「未来かな?」

「未来?」

「カナセ君、戦争が終わったらどうするつもり? 初めて会った時は一旗揚げるって言ってたけど、その旗印には何を書くの?」

「それは……」

「ヨシュア水軍に復帰する? それとも前に言ってた飛行機のパイロット? それも立派よね」

「いいや、パイロットも良いけど、少し考えている事がある」

「他に何か見つかった?」

 クレアは興味深げにカナセの顔を覗き込む。

 しかしカナセの返答は意外なものだった。

「怒らないで聞いてくれるか? 実はロッゾ・カルの言ってた世界を一つにするって話が関係するんだ」

「え?」

 クレアは返ってきた答えに耳を疑った。しかしカナセは続ける。

「ウラ鉄本部でロッゾ・カル達はこう言ったんだよ。世界はこのままバラバラなままじゃ、人類は近いうちに滅びる。戦争をやって貴重な人命とコアを消耗している場合じゃ無いんだって。だからそれを防ぐ為、人類は新生魔煌技を復活させて国同士が国境を越えて一つに結びつかなきゃならない。確かにその通りだ。その点に関しては俺はロッゾ・カルの言っている事は正しいと思う」

「それってカナセ君が何時かはロッゾ・カルの野望に協力するって事?」

 クレアは恐る恐る尋ねる。カナセがもし、解読に成功した新生魔煌技をもってロッゾ・カルの下に赴けばウラ鉄の野望は加速し世界は瞬く間に征服されるはずだ。

 しかしそんなクレアの不安をカナセは首を横に振って否定した。

「けどロッゾ・カルはそのやり方を間違っている。武力による統一じゃあ駄目なんだ。他人の不幸の上に力ずくで列車の線路を敷いたって世界は一つに繋がならない。そんな中で新生魔煌技を手に入れたって宝の持ち腐れさ。だから俺は違うやり方で……今のバラバラのままでも皆が幸せになれる方法で世界を繋げたいんだ」

「バラバラでも皆が幸せになれる方法って、他に考えがあるの?」

「その事でちょっと思いついた事がある」

「思いついたって?」

 クレアが問い質すとカナセは立ち上がり大空に向かって両手を拡げた。

「だから空なんだよ。俺は航空会社を作りたい。自由な空を大勢の人が行き来き出来る。そんな未来を作りたいんだ」

「それってナナミがやってる事?」

「そうだよ。クレアの箒やナナミの飛行艇に乗せてもらってそう思った。けど、俺がやりたいのは、もっと大きな……何百機、何千機っていう飛行機を飛ばして世界中の人々の空の足を作るんだ。そして淡海も塩の外海もジオの地の果ての果てまで飛び越えて人と物と金を繋げるんだ!」

 カナセの構想にクレアは唖然とした。

 目を輝かせながら自分の未来を語る彼の姿に尻込みする。

 彼の考えていた未来が余りにも大胆で突拍子もなかったからだ。

 クレアはカナセの夢はもっと小さな、トラスニークで会社か商店を起こしてそこの社長さん程度に収まる程度のささやかな物と思い込んでいた。

「でも飛行機を何百機も飛ばすなんて。航空機用のコアが幾つ必要だと思ってるの?」

「師匠の新生魔煌技さえ解読させられればコアは幾らでも作れる。コアの枯渇なんて心配する必要は無い。そんな時代が来るんだよ。だから新しい時代には新しい世界を創造しなくちゃいけないんだ。それは戦争の力で線路を敷く事じゃない」

 それはカナセがロッゾ・カルの野望とは明確に線を引いている証だった。

「それで、どう思う? クレアは俺の将来の夢を聞いて?」

「凄いわ。立派だとも思う。でも本当に実現するのかしら。今のあなたに?」

「判ってるさ。言うは簡単だけど、難しい事くらい……」

 そう言いながらカナセは溜息を吐く。

 否、難しい所の話ではない。現実的に考えればほとんど不可能な話だ。

 そう思うと流石に自分の構想の壮大さに尻込みせざる得ない。

 そんな落胆するカナセを見てクレアは笑う。

「まあ、普通に考えたらそうよね」

「俺だってヨシュアに来てから現実って奴を見て来たもの……」

 そう言いながらカナセはクレアの横に座り直す。

「だいたい、新生魔煌技を手に入れたとしても、そんな数の飛行機の飛ばし方なんて思いつかないよ」

「なら諦める?」

「いいや、諦め切れない! 俺の夢が現実になれば大勢の人の役に立つ事は判っているんだ。その為には、もっと俺に知恵があれば……」

「ならヨシュアに帰ったら学校に通ってみない?」

「学校?」

 クレアからの思いがけない提案にカナセが聞き返す。

「そうよ。途方に暮れている位ならそれが最善の策だわ。学校で勉強すればきっといい考えだって浮かぶはずよ」

「でもなぁ~。なんか嫌なんだ、学校って……」

「どうして? 勉強だって出来るし友達だって増える。働きながらだって行けるわ」

「けど結局、あそこは半人前の集まりだろ? 自分で飯が食ない奴等が仕方なく群れてるだけの場所じゃないのか?」

「そんな偏見は良くないわ。あなたが知っている優秀な人のほとんどは学校を出ているのよ。食わず嫌いは止めて飛び込んでみなさいな」

 そう説得されてカナセは考え込む。

「ならクレアの言う通りにしてみるか……ヨシュアに帰ったら働きながら学校に通うよ。そして夢の為にがんばってみる」

「そう、それなら私も応援するわ。がんばってね」

 そうクレアが励ますとカナセは彼女の横で頷いた。

「あれ? 何の話をしてたんだっけ?」

「私を嫁にしたいって話でしょ?」

「なら、今の流れからして無しって事か……」

 カナセは大きく肩を落とす。しかしその後にクレアが意外な言葉をつぶやいた。

「そうでもないわ。いい話じゃない」

「けど戦争が終わってヨシュアに戻っても俺は何者でもなくなるよ。学校に通うだけのただの半人前だ……」

「そんな事ないわ。だってカナセ君には大きな志があるわ。そんな貴方はとっても素敵よ」

「じゃあ、俺の申し出は?」

「学生さんにはお嫁さんは少し早いでしょうね。でも恋人同士なら大歓迎よ」

「本当?!」

「うん♡ よろしくね、こんな不束者で良ければ」

「やっ、やっ、やったぁ!!」

 カナセは諸手を上げて立ち上がった。そして顔を赤くしながら全身で歓喜を表現する。

「生まれてきて、こんなに嬉しい事はないよ」

「もぉ、大袈裟ね」

 そう言ってクレアは笑うが彼女の顔も紅潮していた。

 その頬の赤らみは二人の気持ちが通じ合った証でもあった。

 だがカナセの次の一言がいけなかった。

「じゃあ、クレア。さっさとここで済ませちまおうぜ」

 そう言うとカナセはクレアの前でズボンのベルトを外そうとする。

 そんなカナセの姿を見てクレアの顔色が暗転した。赤かった顔色は一瞬で青ざめ、柔らかかった表情は引っ張った様に引き攣る。

「ちょっと、カナセ君。冗談は止めてよ!」

「冗談じゃないよ。昨日はせっかく我慢したのに、ここでもお預け喰らったんじゃ堪んないよ。だからこの際、ここで今までの分を取り返さなきゃ!」

「そ、そんなの嫌よ、絶対!」

「でもさっき恋人になってくれるって言ったじゃないか!」

「言ったわよ! 言ったけど、こんなのは嫌! もっとちゃんとしてくれなきゃ!」

 押し迫るカナセの意気込みにクレアが必死に抵抗した。

「大丈夫だよ。ちゃんとするよ。ちゃんとするから……俺がやさしい男だって知ってるだろ?」

「嘘、仰い! こんな所でちゃんとなんて出来る訳無いでしょ! それにこっちが許した途端、独りよがりでがつがつして来るのが目に見えてるわ!」

「そんな事、無いよ。絶対にちゃんとするからさぁ」

「嫌っ! 絶対にいやあああああああああああああああああああああああああ!!」 

 結局、クレアの抵抗が勝り、その場でカナセが望む様な逢瀬が繰り広げられる事はなかった。

 仕方なくカナセはお冠のクレアを連れ屋敷へと戻る事となる。

「あ~あ……。さっきは大歓迎だって言ったくせに……」

「当り前よ! これじゃあ、全然、出会った頃と変わらないじゃない!」

ふくれっ面のままクレアは屋敷のドアを開ける。

 すると屋敷の中では珍客が待ち受けていた。

 クレアが仕掛けた魔煌の罠に機械人形の壱號が引っ掛っていたのだ。

 壱號はワイヤーのトラップにぐるぐる巻きにされ動けなくなっていた。

「ふ、不覚ギギ……こんな初歩的な罠に引っかかるとはギギ……」

 そして二人を前にすると罠にかかったまま吠え立てた。

「ギギ! 早く罠を外すギギ! この薄ら頓智気!」

 しかし罠は外される事無くカナセは壱號の絡まった鋼線の先を掴み上げる。

 そしてそのまま屋敷の中へと入っていった。

 ギギは床の上に置かれ二人は向き合う。

「は、離すギギ! ギギをこんな目に遭わせて後で酷いギギ!」

「ギギギギウルサイなぁ……。そんな事よりお前、俺達に話す事があるだろ?」

「お館様の事なら一切、話さないギギ! 例え、この身がバラバラにされようとも秘密は守るギギ!」

「そうか……そりゃしょうがないな……」

 そう言うとカナセは一旦、リビングを離れると縛った古新聞と小瓶を持って戻って来た。

 カナセはギギの目の前で古新聞の束を置くとその上で小瓶を傾けた。

 小瓶からは油がしたたり落ち古新聞に染みこんでいく。

「な、何のまじないギギ?」

「幽霊退治のおまじないさ」

 そうカナセが答えると魔煌技を詠唱して指先に小さな炎を灯した。

「もしやお前、屋敷を燃やすつもりギギか?!」

「別にお俺達はここに一生住み続ける訳じゃ無い。焼ければ他に移るだけだ。けどお前はどうかな? 全焼したらお館様は悲しむだろうな……」

「ば、バカな事は止めるギギ! そんな事をしたら末代まで呪ってやるギギ!」

 壱號は濁った機械音を上げながらカナセを止めようとする。

 しかしカナセは指先を油の滲み飲んだ古新聞に向けた。

「さあ、俺が十数えている間に選べ。ここで全部、洗いざらい吐くか屋敷を燃やすか。決めるのお前自身だ」

「判ったギギ! 十数える必要ないギギ! 全部、ギギが話すギギ!」

「その言葉、忘れるなよ」

 カナセは指先の炎を消すと今度はギギを縛っていた鋼線を解こうとした。

「そんな事して大丈夫?」

 クレアが聞く。

「大丈夫、もうコイツの弱みは判ったんだ。逃げようとしたらこの屋敷を燃やしてやるだけさ」

「ギギ……この悪魔の申し子め!」

「ふん、幽霊が良く言うぜ……」

 カナセは鋼線を解くと壱號をテーブルの上に登らせた。カナセがその向かい側に座ると律義にもクレアが二人分のお茶を出した。

「ギギ、そっちの小娘は曲がりなりにも客をもてなす気があるみたいギギ」

「さあ、壱號……いいや、ギギ。そのお館様ってのはどこの誰でここでどんな研究をしてたんだ?」

「お館様の名はエリザベス・アムンヘルム! ここで機械人形による兵士の開発をしていたギギ。ギギはその中で人工知能の試作一号機として研究のお手伝いをしてたギギ」

 予想通りの返答を前にカナセは大きく溜息を吐いく。

「やっぱりな。結局、またあのオバサンの掌の上って事か……」

「仕方ないわ。先生の仰ってた通り、この国全体がロータスの魔女の聖地なんですもの。どこかに何かが残っていて当然だわ」

「まるで弘法様の伝説だな……」

 慰めてくれるクレアの横でカナセはうんざりする。

「けど、機械人形って……あのオバサン、そんな物の研究までしてたのか」

「本当に凄いわ。多種多芸、魔煌技研究に関しては万能の天才ね。本当、一度で良いからお会いしてみたかったわ」

「会った所でがっかりすると思うけどな。本当にただのオバサンだったんだから……」

「先ほどからオバサン、オバサンと、ベス先生に対し無礼千万! 貴様、口を慎むギギ! もっと崇めるギギ!」

「そうよ、カナセ君、失礼よ。そんな事はアナタの立場だから言える事なのよ!」

「それよりも、貴様、何でお館様に対して虚勢を張るギギ! 会った事でもあるのかギギ!」

「会ったも何も俺はエリザベス・アムンヘルムの最初で最後の、そして唯一の弟子だ!」

 カナセは弟子である事実を珍しく大仰に打ち明けた。

 しかしそれを聞いたギギが声を張り上げて怒り出す。

「出鱈目もほどほどにするギギ! 貴様があのベス先生の弟子な訳がないギギ! 弟子というのならもっと賢そうな顔を……」

「ウルサイ! 皆まで言うな!」

「ギギ!!」 

 興奮するギギをカナセが拳で殴った。その瞬間、ギギの体は部屋中を跳ね回った末に、床に落ちて止まった。

「カナセ君、ちょっと乱暴は止めて。彼? なのか彼女なのかは判らないけど、この機械人形が言ってる事が正しいのなら現存する数少ないエリザベス・アムンヘルム謹製の魔煌具なのよ!」

「そ、そうギギ……ギギは貴様ら人間より偉く賢いギギ! ベス先生より永遠の命を受け継いだギギは真に偉大ギギ!」

「よく言うぜ。その人間、ベス先生に作られたおもちゃの癖に」

「先生は別格ギギ! 先生はこの世の神に等しい存在ギギ! そんな事よりも貴様、本当にベス先生の弟子ならばその証拠を見せるギギ!」

「証拠? 証拠か……」

 そうギギに返された途端、カナセは考え込む。

 自分がエリザベス・アムンヘルムの弟子である物証とは何なのか? ただウラ鉄の連中がそう答え、ファイタスの連中がそれに倣っているだけだ。

 マルケルス戦闘魔導技もパンクラチオンも魔煌探信も確かに特殊であるがカナセがだけが持つ唯一無二の存在という訳でも無い。

 しかし今のカナセにはウラ鉄もファイタスも知らない物がある

「じゃあ、待ってろ。今、取って置きなのを聞かせてやる」

 そう言うと、カナセは一度だけ軽くコホンと咳払いをして喉の調子を整えた。

 そして九曜神の子守歌をギギとクレアの前で歌い上げる。

 しかしギギの反応は芳しくない。

「なにギギ? その下手な歌は?」

「下手な歌って……この歌詞を聞いて何とも思わないのか?」

「何とも思わないギギ! そんな歌が何の証明になるって言うギギ!」

 ギギの言葉にカナセは唖然とした。こうなれば自分はエリザベス・アムンヘルムの弟子として繋がる物が何もなくなる事になる。

「さあ、どうしたギギ。自分をベス先生の弟子だと証明できたギギ?」

「もう打ち止めだよ。ちなみに、タタラ・ヘンジって何か心当たりあるか?」

「何だギギ? おまじないギギか?」

「師匠の偽名だけど、もういいよ……」

「ギギ、これで貴様が弟子の名を語る不届き者だと逆に証明されたギギ」

「ああ。もう好きに言ってくれ」

 ギギとのやり取りに疲れたカナセはクレアの煎れてくれたお茶を飲んで気持ちを落ち着かせた。

「なあ、ギギ。話は変わるけど……」

「なんだギギ?」

「俺達の仲間にならないか?」

「ギギ?!」

「カナセ君、それって本気で言ってるの?」

 クレアが驚きながら聞き返す。

「師匠の作った魔煌知能っていうんならソコソコ出来も良いんだろ? だったら計算機位、役に立つはずだ。だからお前の事はゴッペル先生に黙ってたんだ。あの先生に言うとせっかくお前を捕まえても師匠の聖遺物だ何だって言って持って行きかねないからな」

「お断りするギギ! ギギが馬鹿の下につかなきゃいけない義務なんて無いギギ!」

「そうだ、強制なんてしない。だがお前がエリザベス・アムンヘルムの事を思ってんならこれから俺が言う理由が納得するはずだ」

「ギギ? どういう事ギギ? お前は何をしようとしているギギ?」

「ロータスの魔女、エリザベス・アムンヘルムのやり残した仕事を完成させるんだ。師匠は新生魔煌技の秘密を残したまま死んだ。それを弟子の俺が解かなきゃならん。それをお前も手伝うんだよ」

「新生魔煌技なんて物の話なんかお館様から聞かされてないギギ」

「そりゃそうさ。弟子の俺だって聞いてなかったんだ」

「でも結論から言うとやっぱりお断りするギギ! ギギにはこのお屋敷を守る義務があるギギ! そんな事に構っている暇ないギギ」

「ふむ……」

 思ってた以上に頑固なギギの前でカナセは一旦、身を引く。

「カナセ君、こんな調子じゃあ、無理そうね……」

 クレアも横から口を挟みこむ。しかしカナセは諦めきれない。

「ギギ、お前、屋敷を守れって師匠に……エリザベス・アムンヘルムに言われたのか?」

「違うギギ。ある日、ベス先生が突然、ここに来なくなったと思ったらウラ鉄の連中が、屋敷のものを全部持って行って空き家にしたギギ」

「その後、ベス先生に会った事は?」

「無いギギ」

「じゃあ、屋敷はお前が勝手に守ってるってだけじゃないのか?」

「そうギギ。それがギギの使命ギギ」

「それって違うんじゃないか?」

「違う? 違うってどういう事ギギ!」

「エリザベス・アムンヘルムはそんな事、望んじゃいないって事だ」

「ギギ! お前にお館様の何が判るギギ!」

「俺の師匠は死ぬ前にこう言った。島を離れる日が来たら、ここにあるものを全部、焼き尽くせって」

「だからそれはお前の師匠が偽物って……」

「もう一度、よく思い出してみろ! エリザベス・アムンヘルムと一緒に過ごした日々を。あのオバサンは普段から何て言ってた? 古い物を守り続けろと言ってたか?」」

「……」 

 そうカナセが訴えた途端、ギギは黙り込んだ。

 そして長い沈黙の末、こう答えた。

「違うギギ。そんな事は言ってないギギ。お館様は何時も屋敷に居る研究員に向かってこう言っていたギギ。新しい事をするなら全てを投げ捨てる勇気を持て……」

 新しい事をするなら全てを投げ捨てる勇気を持て。

 ギギから発せられた言葉にカナセとクレアは神妙な面持ちになる。

「新しい事をするなら全てを投げ捨てる勇気を持て、か……。そっちの方がよっぽどあのおばさんらしいや。それでお前はどうなんだ? その言葉を言われておいて、まだ幽霊を続ける気か?」

「それは……」

 ギギが考え込む。どうやら機械なりに迷っている様だ。そして悩んだ末にこう言った。

「出来ればお前達に付いていってやりたいギギ……」

「だったら……」

「でもギギには前に出る勇気が無いギギ……。新しい事は怖いギギ」

「だらしねぇ……って言いたい所だが判るよ、ギギの気持ちは。だったら俺が背中を押してやる。その為に仲間になろうって言ってるんだ」

「お前……それ本当ギギか?」

「俺だってここに居るクレアが来てくれたから外に出られたんだ。だから俺達と一緒に来い! もっと広い世界を見ようぜ」

 そう答えるとカナセはギギの前に手を伸ばした。

「わ、判ったギギ。頑張ってみるギギ」

 そう言ってギギの小さなブリキの手はカナセの指先と握り合った。


 こうして小さな仲間がカナセに加わった。総統にとって二人目の仲間だった。

 夜になってカナセは寝室に入った。クレアの寝室は別室を取っている。

 恋人同士とはいえ流石に互いのプライバシーは尊重したいという暗黙の了解だ。

 カナセは机の上でマルケルスの魔煌書を読みふけっていた。

 勿論、著者はエリザベス・アムンヘルムだ。既に初版から二十年以上経過していたが師匠の記した魔煌技全集は今もって魔煌士の必読書として最高位にあった。

 そんな中、カナセは不意に干潟に落としたミスラ写本の事を思い出した。

「ああ、あれも買い直して返さなきゃいけないな……」

 ならクレアに頼んでみるか。だがいざ買うとなった時、彼女はどんな経路を使うのか?

 そんな考えに耽っていた時、寝室の扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ……」

 カナセが返事をするとクレアが顔を覗かせた。

「お邪魔かしら?」

「全然、君ならいつだって大歓迎だよ」

 カナセは笑って答える。

 クレアはワンピース状の寝間着姿だった。残念ながら丈は長く布は一切透けてない。

「勉強中?」

「まあね、明日からゴッペル先生の渡してくれたファイルを読むつもりだけど、そうなったら魔煌士と総帥の二つで勉強漬けだ」

「忙しくなるわね……」

「全くだよ、やっかい事がいつだって団体さんでやって来る……」

 そう言って苦笑いを浮かべるとクレアも「そんなものよ」と笑った。

 その後、ふたりはひとつのベッドの上に並んで腰かけた。

「さっきギギの様子を見に行ったわ」

 意外な言葉がクレアの口から洩れた。彼女があの機械人形の事を気に掛けるとは思わなかったからだ。

「どうしてた、あいつ?」

「リビングの窓から空を見上げてた。何か物思いにふけってたみたい」

「物思いにふけるって機械人形がか?」

「でもギギはベス先生謹製の機械人形よ。思考は人と変わらないくらい優秀だからギギなりに思う所があるんでしょうね」

「そうなんだ……」

 機械の目、秋の夜空の、何を見る。

「それで何の用?」

 カナセがクレアに訊ねる。

「用事が無いと来ちゃダメ?」

「まさか。その、なんていうか……」

 こんな深夜に男の部屋に女が訊ねて来ると言えば一つしかない。

 と、思っていたがクレアはすぐにカナセの妄想を打ち消した。

「別に大した用事じゃ無いわ。カナセ君、さっき歌った歌の事を聞こうと思って……」

「歌って、九曜神の子守歌?」

「あれって前にミリアの前で歌ったのと……」

「そうだよ。同じ奴だ」

「もしかしてベス先生が歌ってらしてた?」

「ロータスの子守歌の替え歌らしい……」

「教えて貰えないかしら?」

 その一言でカナセはクレアが深夜に自分の部屋に訪れた理由をようやく理解した。

「ふふ……このロータスの魔女マニアめ……」

「駄目?」

「全然、良いよ。なら紙に書いて渡すよ。明日でいいかい?」

「ありがとう、カナセ君……。これでベス先生との絆が一つ増えたわ」

 そう答えるクレアの表情から笑顔が溢れる。

「けど、エリザベス・アムンヘルム謹製と言っても本当に大した事のない子守歌だぜ」

「そんな事無いわ。マニアとしては新発見よ。本当に嬉しいわ」

「嬉しいって、そんな物かねぇ~」

 嬉々とするクレアを前にカナセは苦笑いを浮かべる。

 しかしそんな何気ない会話が終わると二人は黙り込んだ。

 用事が済んだのにクレアが立ち去る気配は無い。

 まるで何かを待って居る様な。

 そして外からは虫の声が途切れる事なく聞こえる。

 だが内からの心臓の鼓動は何時になく激しく高鳴る。

 二人とも黙ったまま時が過ぎていく。

 カナセは沈黙に耐え切れない。

「クレア!」

 カナセが彼女の名を呼びながら細い肩に掴み掛かる。

 そしてそのままベッドに押し倒した。

「クレア……」

 シーツの上の彼女の名を再び呼ぶ。

 意外にも彼女は抵抗してこない。

 代わりに少年の瞳を見ながら問い質す。

「どうしたのカナセ君?」

「さっきの紙に書いて渡すのは止めだ」

「止めるって、なんで?」

「代わりにこれから君に教える。今晩は覚えるまで返さないからな」

 カナセが答える。それはこれから行う行為の宣言でもあった。

「うん、判った……。教えて、カナセ君……」

 そんなカナセに対しクレアが瞳を閉じながら頷く。

 同時にその一言が少年の中の最後の枷を外す合図になった。

 カナセはクレアの寝間着の裾を掴むとそのまま脱がした。

 寝間着の下からまっ白な裸体が現れる。下着の類は一切ない。それはクレアはこの部屋に来る前から覚悟を決めていた何よりの証だった。

 カナセはクレアの生まれたままの姿を凝視する。

 クレアは微動だにせず為すがままだ。

 上気して赤くなった頬に憂いを帯びた青い瞳、湿り気を帯びた唇。

 豊満な乳房になまめかしい腰回り、そしてまだ穢れ知らぬ股座の双丘。

 それら全てがカナセの前に曝け出されていた。

その初めて見る光景にカナセは息を飲んだ。

「今夜、ここにあるもの全部が俺のものになる……」

 そう思うと心の中の獣性が押さえきれない。

 そして彼女もカナセの次の行動を待ち望んでいる。

「触るよ……」

 カナセは言う。クレアは瞳を閉じたまま頷いた。

 カナセの掌がクレアの首筋に触れる。

 白磁にも勝る純白の肌。滑る様に滑らかで暖かい。

 カナセの掌はそのままクレアの乳房へと滑り込んでいく。

「うん……」

 クレアが僅かに呻いた。

 更にカナセの指先がクレアのふたつの乳房を弄ぶ。

 徐々にクレアの吐息が荒くなる

 気をよくしたカナセが今度は前歯でクレアの小さな乳首を噛んだ。

「ああぁ……」

 クレアは未知の刺激に堪らず声を上げた。

 もう我慢できない。カナセはそのままクレアの体に覆い被さった。

 少女の甘い体臭が鼻孔を突く中、カナセの舌先が乙女の柔肌の上を這い回った。

 同時に二人の肢体は白いシーツの上で複雑に絡み合う。

 何度も繰り返される愛撫の渦の中、遂にカナセは己の分身でクレアの体内を穿った。

 クレアの中で破瓜の痛みが広がる。

「!!……」

 クレアの甘い悲鳴がカナセの耳に届く。

 その一声でカナセの中の獣欲は制御を失った。

 クレアの瑞々しい体内でカナセの分身が火竜の様にうねる。

 その猛々しさにクレアは必死に耐え続ける。

 挙句、最後に沸き起こった下腹部から噴出する激しい波動!

 それは甘い夜などという幻想を吹き飛ぶ激しい逢瀬。

 しかしふたりが過ごす初めての夜はまだ始まったばかりだった。


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