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第19話 バラスト軌道奮戦記

 一方、その噂の弟子は新たな危機に直面していた。

むしろ自分から飛び込もうとしていた。

 カナセは転倒した列車の先頭に向かって走る。

 長大な連結車両は半数が脱線し横転していた。そして先頭に行けば行くほど被害は甚大になっていく。

 そこは凄まじい列車事故の現場だった。

 そんな惨状の現場に向かって武将集団が押し掛けて来た。

 奴等は銃を掲げ空に向け引き金を引く。

 銃声を耳にした途端、線路の土手をやっとの思いで脱出した人々が後ろへと逃げ惑う。

 無惨にもせっかく運び出された重傷者は置いていかれたままだ。

「どいてくれ! 通してくれ!」

 その中をカナセは人々を掻き分けながら駆けていく。

 すぐにでもこんな馬鹿げた攻撃は止めさせなければ。 

 そしてやっとの思いで先頭車両へとたどり着くと武将集団の前に立ち塞がった。

「止めろ! これは民間人専用の列車だ! 撃つんじゃない!」

 しかし相手はカナセを見つけた途端、敵と間違えて発砲した。

「うわっ!」

 カナセは攻撃を避けようと慌てて戦闘車両の連結部分に潜り込み銃撃を避ける。

 そして横転していた連結器の部品に捕まると一気に先頭車両の上へと駆け登った。

「あいつ等、ファイタスの奴等か!……」

 ウラ鉄の勢力圏にまで侵入してゲリラ攻撃を仕掛けて来るのだから間違いない。

 しかし民間人まで攻撃するのは度が過ぎている。

「こうなりゃ、実力行使だ!」

 カナセは横転した先頭車両に潜り込んだ。

 そこは後方の車両を牽引する動力車だった。

 カナセは運転室に入ると中を確かめた。

 座席には運転手が座ったままになっていた。

 しかし脱線の衝撃を誰よりも一番強く受けたせいで運転手は既死していた。

 運転席のブレーキレバーはしっかりと掛けられていた。

「死ぬ間際まで列車と乗客を守ろうとしたんだな」

 ウラ鉄の連中は気に食わないが死んだ運転手の勇気と使命感だけには感服した。

 カナセは座席から運転手を下ろすと代わりに座った。

 そしてモーフィング・マギアを発動させた。

「立ち上がれ、ヴァイハーン!」

 動力車は鎧の闘神に変形すると速やかに線路を上を立った。

 全高約20m、重量90t、恐らくカナセが乗りこなして来た煌装騎の中では最大級の闘神だ。

 その割に変形は滑らかに行われ安定している。

 それはマルケルス神技が本来、持つ魔煌技の力が大きい。インドラ神技でこの大きさの物を変形させようとするならばカナセは予想以上に難儀していたはずだ。

「……」

 そんな巨神の威容を前に、列車を襲ったファイタスの連中も一瞬、声を失う。

 一方で闘神が唸り声を上げた。

 それは動力車に搭載されていた警笛の音だった。

 凄まじい警告音を前にファイタス達の動きが一瞬で逃げ腰になる。

「行くぞ!」

 カナセがゆっくりと片脚を上げヴァイハーンを前進させた。

 巨大な闘神は一歩一歩体を揺らしながら線路の上を進む。

「これ以上の狼藉は俺が許さねぇからな!」

 運転席でカナセが吠える。

 もし抵抗を続ける気なら例え相手がファイタスであってもカナセは踏み潰す気で居た。

「うわああああああああああああああああああああ!」

 闘神の出現によってファイタス達が慌てて逃げ出した。

 古今、ゲリラは形勢が少しでも不利に変わるとすぐに撤退する。

 お陰で乗客たちを襲おうとしていたファイタスの姿は忽ち消えて無くなった。

「ふう、やれやれ……簡単に逃げてくれて助かった」

 ファイタスの連中が居なくなった事にカナセは安堵する。

 しかし今回のファイタスのやり方はとても看過出来ない。

「民間人を攻撃するなんて不逞野郎どもだな……」

 いくらロータス解放の為に戦うと言ったってやっていい事と悪い事があるはずだ。

 そもそも、襲った方も襲われた方も元は同じロータスの国民のはずなのだ。

「後でゴッペルの爺さんに文句言ってやる……」

 カナセの憤慨は当分、収まりそうにない。


 だが線路上の戦いはこれで終わりではなかった。

ヴァイハーンは突然、線路の彼方からの砲撃を受けた。

 周囲で着弾が起きた途端、爆発が起きる。

「うわあああああ!」

 呻きながらカナセが列車の進行方向を凝視すると、前後で自走する二両の装甲気動車が猛スピードで近づいて来た。

 前が75㎜の戦車砲を搭載し後ろが20㎜の四連装機関砲を搭載していた。

 カナセは並んで走る気動車に見覚えがある。

「ウラ鉄警備隊? あのカッツェ姉妹って奴等か!」

 ウラ警壱號隊のダブルエース、奴等が脱線現場にまで出向いてきたのだ!

「ミャア! 姉者、当たってないニャ!」

「昨日の夜の爆発でまだ頭がガンガンするニャ!」

「もっと近づかなきゃダメにゃ!」

 昨夜の最下層での後遺症を押しての出動だ。

「判ってるニャ! でもアレコレ忙しいって時に、反乱軍は余計な仕事を持って来るニャ!」

 姉妹は無線で互いに連絡を取り合いながら巨神の元に猛スピードで接近してくる。

「ヤバい……。こっちは武器らしい武器が無いってのに……」

 メイヴィスやデニスに聞かされている限りでは今の戦力ではカナセに勝ち目はない。

「ここは一旦、引くか……」

 カナセは逃走を決める。

 むしろウラ警の出現は幸いだ。

 もうファイタスが列車を襲う事は無いのなら彼等が負傷者の救援を行うはずだ。

 ヴァイハーンは列車に背を向けると負傷者を避けながら逃走を始めた。

 そんなカナセの不穏な動きにカッツェ姉妹もすぐに気付く。

「みゃあ! 姉者、あのマギアギア逃げようとしているニャ!」

 20㎜四連装機関砲を積んだ装甲気動車の中から妹のパールが叫ぶ。

「判ってるニャ! でも列車を襲っておいてノコノコ逃げるなんてのは虫の良い話は許さないニャ!」

 それに75㎜戦車砲を搭載した幾装甲気動車の中から姉のベールが答える。

「追い掛けるニャ?」

「追い掛けるニャ! 逃がさないニャ!」

 二両の装甲気動車は横転した列車を横を素通りしながら逃げ出したヴァイハーンの追跡に入る。そしてヴァイハーンの動きを捕えると二両揃って攻撃を開始した。

「おい、嘘だろ?」

 集中砲火を浴びながらカナセが狼狽える。奴等は脱線した列車にも線路に横たわる負傷者にも見向きもしない。

 そんな中、姉のベールがある事に気付いた。

「妹者、妹者。あのマギナギア、どっかで見覚えあるニャ」

「ニャ? どっかで見たかニャ?」

「確か、グレン・ハルバルトが言ってたカナセ・コウヤのマギアギアにそっくりニャ!」

「そうニャ! あの鉄兜がそっくりニャ!」

「絶対、捕まえるニャ!」

「捕まえるニャ!」

 逃走するヴァイハーンとの距離がみるみる縮んでいく。

 しかしヴァイハーンは度重なる攻撃で傷だらけとなり歩く事も儘ならない。

「こうなったら……」

 カナセはヴァイハーンの変形を一旦、動力車に戻すと空になった線路の上に乗せた。

 動力車は再び全速力で線路を上を走り出す。

 客車を切り離した事で車体は軽くなり作戦は成功したかに見えた。

 現に動力車は二駅ほど通り過ぎながら後続の姉妹の装甲気動車を引き離そうとする。

「ふみゃ! 無駄なあがきニャ!」

「そうニャ! 追いかけっこは終わりニャ!」

 真後ろから狙いを定めたベールが75㎜砲を発砲する。

 砲弾は命中し動力車は損傷を受けながら次の町の手前で脱線した。

「クソッ! ここまでか!」

 カナセは動力車を乗り捨てると、その足で線路から離れ、近くの町へと入っていった。

 しかしそれでカッツェ姉妹の追跡の手が緩まる事はない。

「逃がさないニャ!」

 カッツェ姉妹も町に隣接した駅にそのまま侵入すると、気動車から降車し、カナセの後を追った。

 追跡劇はまだ始まったばかりだった。


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