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第18話 ゴディバの市(4) やけっぱちのソフィア

 カナセが思わぬ災厄に直面した頃、クレア達四人はデニスの愛車に乗せられ最下層の端へと進んでいった。

「ところでゴッペル先生って何者なの? ファイタスの人物よね?」

 助手席でナナミがデニスに質問する。

「まあ、そんな所だ。詳しい事は教えられない」

「アンタ達がカナセの兄ぃさんを強奪した理由は?」

「それも機密事項だ。俺の一存では答えられない」

「何よ。君って思っていたより権限無いんだね」

「全くさ。下っ端はつらいよ」

 ナナミは嫌味で言ったつもりだったがデニスは軽く笑うだけだった。

 車は暫くしてゴッペル先生の診療所に到着した。

 診療所はカナセが来た時と変わらないままの濁った湿地帯の中に立つ高床式の一軒家だった。だが閉館中なのか待合室でも患者の姿は見えない。

 一方で処置室の奥から男女の言い争う声が聞こえてきた。

「何かしら? 揉めてるの?」

「治療費の不払いじゃない?」

「いいや、違う。あれはソフィアの声だ」

「ソフィア?」

「先生の娘だ。帰ってたんだな」

 言い争いが続く中、処置室の扉が乱暴に開いた。

 すると中から只ならぬ剣幕で一人の女が捨て台詞を吐く。

「わざわざ出向いて教えて上げに来たっていうのに! この頑固親父!」

「うるさい! さっさと出ていけ! そして二度と顔を指すな! この親不孝者!」

「ふん! なにさ!」

 そしてドカドカと足音を立てて歩き出す。

 そんな女と待合室に居たクレア達との視線がばったりと重なった。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 だがその瞬間、お互いが割れんばかりの声を上げた。

「ク、クレア!」

「ラ、ラーマ!」

 間違いなくクレア達の前に立っていたのはヨシュアでゴーレムを使う石像の魔女。否、ウラ鉄の諜報員兼破壊工作員、ラーマ・パトリックだった。

「この女ぁ!」

 ナタルマが最初に飛び出すと体ごとラーマにぶつかった。

「きゃあああ!」

 勢いに負けたラーマの体がすっ転ぶ。

 そこにナナミまでもが後から飛びつき、ラーマの体を羽交い絞めにした。

「へへ、ちょろぜ!」

「ちょっと離しなさいよ!」

「良いから観念なさい!」

 抵抗するラーマだったが二人に取り押さえられては逃げる術もない。

 そこにクレアが身を乗り出し、事もあろうにラーマの口に箒の柄を強引にねじ込んだ。

「もがっ!」

 口も利けなくなったラーマの前でクレアが呪文を詠唱し始める。

「わが守護たる竈の神よ、我の願いを聞き届け悪しき魔煌を打ち砕き給え……」

「ふがぁああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 ウェスタ神の破壊詠唱を前に口の利けないラーマが悲鳴を上げた。

「ちょっと待った!」

 そこへデニスが駆け付け、箒の柄を掴むと慌ててラーマの口から引き抜いた。

「ひ、人殺しぃ~!」

「あなたなんかに言われたくないわよ! さっさと地獄に落ちて罪を償いなさい!」

 ラーマが吠え立てるとクレアが凄まじい形相で睨み返す。そこには先ほどまであった柳眉な美少女の面影はない。

「そうよ! クレア、さっさと殺っちゃいなさいよ!」

「そうだそうだ! こんな奴、生かしておいたって碌な事にはならねぇ!」

 周りの少女達もクレアを煽り立てる。ただ一人、トギスだけが近くの長椅子の陰に隠れて震えて居た。

 だがそれを目の当たりにしたデニスが慌てて皆を諫める。

「待ってくれ。とにかく話を聞かせてくれ。ソフィアが何をしたって言うんだ? それにラーマって……」

「この女がヨシュアで名乗っていた偽名よ! こいつ、ヨシュアの情報をウラ鉄に流していたスパイなのよ!」

「それだけじゃないわ! 殺人事件を犯して艦を壊した挙句、カナセ君を騙してウラ鉄に連れ去った張本人よ!」

「それにこいつが103を呼び込んだせいでオイラは魔煌の籠手を壊された!」

「要するに、この女が全部の元凶って訳よ!」

「判ったか? 帽子野郎!」

 少女達が矢継ぎ早に言い放つ罪状を前にデニスもすっかり頭を抱える。

「ああ、凡そ把握した……。しかしだ! しかし彼女を殺すのは待ってくれ。我々、解放戦線にとっても彼女は掛け替えのない仲間なんだ」

「それがどうしたって言うのよ!」

「まあ、そう言うなよ……。ゴッペル先生も止めてくれ。このままじゃソフィアが殺されちまう!」

「別に構わんよ。この娘の身から出た錆びなら罪は償うべきだ。それが自分の血を分けた娘であれば尚更。儂は止めはせん」

「この、クソ親父! アンタの娘なんかに生まれなきゃ良かった!」

「それはこちらのセリフだ! この馬鹿娘!」

「とにかく皆、落ち着いてくれ! ここはこのデニス・ワイルダーに仕切らせてくれ!」

「下っ端のアンタが偉そうに!」

「それは判ってる。だがそれで良いよな、先生!」

「好きにすればいい。もう儂は知らんからな」

「じゃあ、そういう事で……」

「ちょっと! 何で、先生の許可が下りればそれでOKなのよ!」

「そりゃ先生がロータス解放戦線のリーダーでありファイタスを統べる六六委員会の議長だからさ」

「議長ですって?!」

 デニスの言葉にクレアとナナミがラーマを締め上げながら顔を見合わせた。


 やがてクレア達が落ち着きを取り戻すと処置室に集まり先生を囲んだ。

 ラーマは荒縄で後ろ手に縛られながら床の上に転がされている。

 ファイタス側の話からラーマが多重スパイである事が判明した。

 彼女はファイタスのメンバーという立場を隠したままウラ鉄の情報部に潜り込んだ。

 理由はスパイとしてウラ鉄の情報を収集する為だ。

 ヨシュアで工作活動に携わった事は単にウラ鉄での仕事を遂行したに過ぎない。

 だがウラ鉄側からの信頼を勝ち取る為とはいえ、利用され被害を被ったヨシュア側にしてみれば笑えない話だ。

「全く、いい迷惑だわ!」

 話を聞かされたヨシュア側の面々は面白くもなんともない。

 しかし当のラーマ・パトリックことソフィア・ゴッペルは臆面もなく皆の前でこう言った。

「ちょっと! こんな無駄な事は止めなさい! そんな事より、さっさとここから逃げるのよ!」

「逃げる? 何があったのよ?」

「ガーリックの馬鹿が捕まったのよ! アイツ、捕まった途端、すぐにこっちの事を吐いたんだから! ウラ鉄にはもうクソ親父がここに居る事までバレてるのよ!」

「うるさいわね! それでも少しくらい喋ってる時間はあるでしょ! この女狐!」

 そう言ってナナミがラーマをなじる。

「せっかく身バレ覚悟で教えに来てやったっていうのに、どうなっても知らないから!」

「まあ、この際、娘の言い分は置いてだな。よくぞヨシュアからはるばる来なすったな」

「挨拶が遅れました。ヨシュアの薬の魔女、クレア・リエルです」

「ファイタスの一人、ゴッペルだ。それでお前さん達の目的は?」

「目的は一つだけ。カナセ・コウヤという魔煌士の少年を探しています。それだけです。お話に依れば先生がそのカナセ君の居場所をご存知と伺います」

「如何にも。儂はカナセ・コウヤの居場所を知っている」

「彼を返して頂けないでしょうか?」

 クレアが率直な態度を示した。

 しかしゴッペルは首を横に振りながらはっきりと言った。

「悪いがそれは出来ん」

「何故でしょうか?」

「極秘事項だ」

「何が極秘事項よ! せっかくヨシュアから遥々来てくれたのよ。ケチ臭い事言わずに教えて上げれば良いじゃない!」

「ソフィア!」

 父が娘を窘める。しかしソフィアの口は止まらない。

「良い? よーく聞きなさい。カナセ・コウヤの正体はね。何を隠そうロータスの魔女と呼ばれた最も偉大な魔女、エリザベス・アムンヘルムの弟子だったのよ!」

 ラーマが断言する。

 しかし彼女の発言にクレア達は皆、きょとんとした表情を浮かべるだけだ。

「ちょっと、急に何を言い出すの?」

 思わずクレアが聞き返す。それが余りにも突拍子の無い冗談にしか聞こえなかったからだ。

「ふん! アンタ達、私の言葉を信じてないみたいね……」

 三人の飲み込みの悪さにラーマは呆れて鼻で笑う。

 それに釣られてナナミもせせら笑った。

「だって、アンタ自分で言った事、判ってんの? 兄ぃさんがあの偉大なるエリザベス・アムンヘルムの弟子だなんて……」

「そうだぜ。それだけの魔女の弟子ってなら、もっとこう賢そうな顔を……」

「状況から察しなさい! ならウラ鉄や解放戦線が何の茶番でカナセ・コウヤを奪い合ってると思ってるの?」

「でもカナセ君、師匠はタタラ・ヘンジって名前の人だって……」

 やはり俄かには信じ難い。

「だったらそこのクソ父親にも聞いてみなさいな!」

 するとラーマは今度は実父を顎で指した。

 それに応えるかの様にクレア達は一斉にゴッペル先生の顔を注視した。

 ゴッペル先生は影が落ちた様な深い皺を目元に浮かべていた。

「まさか……本当なの?」

 皆がその真実を前に息を飲む。クレアはその緊張感に息が詰まりそうになった。


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