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第8話 66委員会臨時会議

 それから何事も無く三日ほどラッツ村での生活が続いた。

 村での生活に慣れ始めた事、久しぶりにメイヴィスが孤児院に顔を出した。

 乗って来たのはトラックではなく、小ぶりなバンだった。

「カナセ君、乗って。あなたをファイタスのリーダー達に会わせるわ」

 それが彼女の要件らしかった。

 バンが走り出すと二人は車内で何気ない会話を繰り返す。

「村での生活はどう?」

「退屈以外は良い感じだよ。孤児院の子供達の名前も皆、覚えちまったし」

「あら、そう? 仲良くしてくれてるのね」

「まあね、孤児院の畑仕事を手伝ったり、干潟の沖合で手掴みで大きな鯉を獲ったりしたら人気者になったよ」

「それは何よりだけど……。私の書いたメモは?」

「読んだよ。その顛末はまあ、お察しの通りだ」

「残念ね……。少しは期待してたのに」

 メイヴィスは落胆の溜息を吐く。

 途中、カナセ達はとある町のホテルの前でゴッペル先生と合流した。

 先生の身なりは診療所で見せた白衣ではなく、一張羅の法衣姿で顔から酒も抜けていた。

 その行きの同乗の中でカナセは先生にファイタスの事を色々聞かされた。

 ファイタスとはこのロータス国内でウラ鉄に対する抵抗勢力の総称の事だ。

「って、事は幾らかのグループが寄り集まっているって事か?」

「その通り、大まかに十二ほどの大きな組織と有象無象の他の連中に別れて居る」

「ちなみに先生達は何てグループに居るんだ?」

「ロータス解放戦線。抵抗組織の中では一番古い」

「リーダーは?」

「この儂じゃ」

「おやまぁ。先生、お偉い方だったのね」

 デニスが真っ先にカナセの事を報告しに行った理由もこれで頷ける。

 しかし今更、リーダー達に会った所で自分がどうなる訳でも無い。

「だから、さっきも話しておいた様に俺に期待しても無駄だからな。ミスラ写本を見た瞬間、俺にとっての新生魔煌技は完全に終わったんだから」

 カナセは到着する前に釘を刺した。勝手に期待されて勝手に落胆されて、さて貴様の事が気に入らないと言われては理不尽にも程がある。

 だがその事に関して先生は何も言わない。多分、ファイタスのリーダー達の面々に会うまで余計な事は言わない気でいるらしい。

「ふん! まあ、良いけど。ガッカリしたって責任は取らない。それだけは言っとくぞ」

 カナセは半ばやけくそ気味に言い放った。

 やがてトラックは小さな森の中にある古びた洋館の前に辿り着いた。洋館は二階建ての木造で物珍しいところは何もない。

「ここがそのファイタスの集会場って訳か」

「もう、ほとんどのリーダーが集まっている様じゃな」

「元は何の建物だったんだろう?」

「地主の館って聞いたけど詳しい事は判らないわ」

 入口の前には武装したファイタスの兵士達が立っていた。

カナセは施設内に通されるとそのまま会議室へとたどり着く。

 会議室は広く大きな円卓が一つ置かれそこに老若男女を問わず三十人ほどの人間が椅子に腰かけていた。

「こちらがウラ鉄と日々戦い続けるお歴々って訳か……」

「別に大それた者は居らん。ただ祖国の独立の為に志を一つにしてるだけの者達じゃ」

 そう言いながらゴッペル先生は円卓に並べられた椅子の一つに腰掛けた。

「さあ、座れ。今日の会議の主役はお前さんなのじゃからな」

 カナセが特別に用意されたゲスト席に座ると先生が皆の前で宣誓した。

「これよりファイタス66委員会の臨時会議を行う。皆、忙しい中、急な呼び出しに応じてくれた事を感謝する」

 議長であるゴッペルが会議の始まりを告げると早速、参加者達から質問が飛んだ。

「それよりも議長。暗号書簡の内容は事実なのか? あのエリザベス・アムンヘルムの弟子が見つかったというのは……」

「そのゲスト席に座っている少年がその弟子か?」

「とてもそんな風体には見えぬが確かめたのか?」

「そうだ。ベス先生の弟子ならこう、もっと賢そうな……」

「なんならここで魔煌技の一つも見せてもらえぬか?」

「それよりもベス先生の方こそどうなされた? 何とかお会いしたい! 先生はご無事か?」

 皆、カナセの前で自分勝手な事を口走る。

「皆、静粛に!」

 ゴッペル先生が騒然とする議場を見兼ねて出席者の声を遮った。

「暗号書簡の内容は事実だ。ここに居る少年こそエリザベス・アムンヘルム先生の弟子であるカナセ・コウヤ君だ」

「カナセ・コウヤ……。ロータスの箱舟、カナルカナ・ヴァイハーンを操る伝説の船長の名ではないか」

 カナセは思いも依らぬ場所で自分と自分のマギアギアの名前の由来を知る事になった。

「そしてその事実をもって彼はウラ鉄により遠くヨシュアからここロータスまで移送されたのだ」

「ヨシュア? 先生はヨシュアに居られたのか?」

「まさかそれが弟子である証拠だとは言わんだろうな、議長」

「そうだ。それこそが奴らがこちらを惑わす偽情報かもしれんぞ」

「では、これよりその事実を示す一つの証明実験を行う」

 そうゴッペルが答えると、カナセの前に両手で抱えられるほどの小さな機械が運び込まれた。機械はゼンマイで動く箱型オルゴールだった

「カナセ君、これに魔煌技を掛け給え」

「何でも良いのか?」

「君に任せる。但しベス先生の教えに沿ったものでな」

 そう言われてカナセは機械を手に取って呪文を詠唱した。

「ああ、勇ましきかな闘神マルケルスよ。我の骨となり肉となりその身を捧げ百鬼羅刹を打ち滅ぼせ。立ち上がれ、マルケルス・ヴァイハーン」

 カナセが呪文を詠唱し終えるとテーブルの上のオルゴールが小さな戦士へと変形した。カナセはヴァイハーンを掌の上に立たせると皆の前に掲げる。

「おお、確かにそれはマルケルス戦闘神技」

「自力で動かせるか?」

 参加者の一人が質問するとカナセはこう答えた。

「俺はマギライダーだ。マギアギアには常に操縦者が必要だ」

「しかし先ほどの詠唱文は一言一句、間違いなく先生が唱えられていた物と同じ軍神マルケルスの呪文だった」

「だがやはり神技だけで先生の弟子とは……他に何を教えられた?」

「コアの索敵だ。それは人よりも上手くやれる自信があるぜ」

「他には?」

「古代格闘技、それと読み書き計算。師匠から教わったのはそれだけだ」

「待ち給え! では肝心の新生魔煌技はどうなのだ?」

 “早速、お出でなすった”カナセが心の中で嗤う。

 恐らく彼等の最大の関心事であり、この会議の主要議題だ。

 だったら教えてやれば良い。包み隠さず彼等の知りたい真実をここで洗いざらい打ち明けてやる。

「新生魔煌技って奴を期待するならさっさと諦めた方が良いぜ。ウラ鉄の“瓶詰め”にも言ってやったが、そんな大それたもん、これっぽっちも師匠からは知らされて貰って無いんだからな」

 カナセの言葉に会議室がざわつく。

 彼等は明らかに動揺していた。

 しかし打ち明ける前から凡その想像は着いていた。

結局、彼等も欲しい物はウラ鉄と同じなのだ。

「信じる信じないはアンタ達の自由だ。でもな、無い物は本当に無いんだ。アンタ達が師匠から何も聞かされていない様に俺も聞かされてない。もう俺に弟子としての何かを期待するのは無意味って事だ」

カナセは会議室に居る面々に向かって突き放した言い方をした。

 だが大勢の前で言えた事で胸の奥が吹っ切れた様な気がした。

 師匠の因縁から決別し自分は自由を手に入れたのだ。

 後はファイタスの連中だけで好きな様に納得すれば良い。

 そんな中、参加者が質問を変えた。

「ところで先生は御壮健で居られるのか?」

 それにカナセが即答する。

「師匠なら三年前に死んだよ。心臓の病気だ」

「……」

 カナセが答えた途端、ざわついていた会議室の中が静寂に包まれた。

 まるで葬儀の最中の様な湿っぽさだ。

「ショックは隠し切れないか……」

 エリザベス・アムンヘルムが亡くなった事で彼等は本人と新生魔煌技の両方を同時に失ったのだ。今はその現実に必死に耐えているはずだ。

「まあ、同情くらいはしてやれるかな……」

 なぜなら自分自身も師匠が死んだ時は泣きながら途方に暮れたではないか。

 しかしここまでだ。全ての情報を打ち明ける事でウラ鉄の本部から助けてもらった恩くらいはこれで返せたはずだ。

 だがもう一押しオマケくらい付けてもらいたい。

「もう俺に聞くことが無ければこっちの言い分も聞いてくれ」

 静寂を壊すかのようにカナセが声を発した。会議室に居る全員が一斉に弟子を見る。

「悪いが俺にもう用はないだろ? だったらヨシュアに帰る手配をしてくれ。ここまで協力したんだからそれ位やってくれたって良いだろ?」

 カナセは横柄な態度で要求した。だがそれはウラ鉄ですら欲しがった情報への当然の報酬のはずなのだ。

 それに対して議長であるゴッペル先生が口を開いた。

「悪いがカナセ君、その要求には答えられない」

「答えられないだって? このロータスから人一人を脱出させるだけだせ。幾ら、アンタ達でもそれ位の事、可能だろ?」

「……」

 しかしそれにゴッペル先生答えない。その態度にカナセは不快感が込み上げる。

「じゃあ、判ったよ! ここから淡海を泳いで帰ってやらぁ!」

「まあ、待ち給え。少し冷静になり給え。君はベス先生の弟子なのだろう」

 ゴッペル先生とカナセが激しくやり合う。

 だがその時、二人の会話に割り込む者が現れた。

「何、言ってんだ。本人が帰りてぇって言ってんだろ? だったら帰してやりゃあ良いじゃねぇか?」

 全員の視線が声の主に釘付けになる。

 そこには全身が鋼の様に鍛え上げられた色黒の大男が座っていた。頭には髪の毛一本無いスキンヘッドだったが年齢はカナセと一回りも違わない様に思える。

「待ち給え、ゼー・ジゴバ君。これはファイタス……否、ロータスにとって重要な問題なのだ。簡単に白黒付けて良い問題ではない」

 ゴッペル先生が青年を制しようとする。

 しかしジゴバと呼ばれた青年は老人の諫言などまるで気にも留めない。

「何が重要だっていうんだ。今更、エリザベスの弟子が何だって言うんだ。二十年も前にここを逃げたババァじゃないか。それにそこの坊主、正直に言ってくれたよな。魔女は死んだ。自分が教えられた魔煌技は二つだけだって。だがその程度の魔煌士ならファイタスにも幾らでも居るじゃないか。そんな子供に爺さん達が頭下げて謙って、傍で見ててカッコ悪いったらありゃしねぇぜ」

「口を慎み給え! ベス先生への侮辱は許さん」

「だがよぉ……」

「ジゴバ君!」

「へいへい、判ったよ。事情を知らない若造は黙ってりゃいいんだろ? フンッ!」

 そう言ってジゴバは口をつぐむと代わりに怒った様に鼻を鳴らした。

「あいつがメイヴィスの言ってたジゴバ一家の親分か……」

 カナセは遠目で末席の青年の顔を伺う。

「確かにヤクザ者って感じだな」

 会議の前、メイヴィスに聞いた話では、ジゴバ一家とはこのロータスの中で広大な土地を所有する大地主の家らしい。

 しかし先代が土地の半分近くをウラ鉄に強制的に安値で買い上げられた。

 その臥薪嘗胆を晴らすのに今の当主がウラ鉄に反旗を翻しているのだが何が気に入らないのか他のファイタスとの共闘を避け独力で戦っているとの事だった。

「けど、会議には出席するんだな……」

 蔓むのは嫌でも仲間外れも気に食わないらしい。

「ではカナセ君。この際、はっきり言わせてもらおう。先ほどの話の続きだが君には当分、このロータスに留まってもらう。当然、脱出には協力できない」

「ここに留まれだって? でもそこの兄さんは言ったよな。俺くらいの魔煌士なんてゴロゴロ居るって」

「それが事実でも君にはここに居てもらう」

「冗談じゃない! 大人しく聞いてりゃ良い気になりやがって。言っておくが俺は他人に縛られるのが一番大っ嫌いなんだ!」

「だがお前さんも本気で思っている訳ではないじゃろう。ここからヨシュアまで泳いで帰る事など到底適わぬ。途中で力尽きて鯰の餌になるのが落ちだ」

「じゃあ結局、俺は嫌でもここから出られないって事か?!」

「その通り」

「何でだ? 何で俺にそんなに拘る? 師匠の弟子だからか?」

「そうだ。それだけベス先生の弟子という言葉は此処では重いのだ。だが君個人の能力も理解できた。だから我々も君に多くは求めない。ここに居る。生きて存在すると言うだけで良い。君にはそれだけの価値があるのだ。判るか? エリザベス・アムンヘルムの弟子よ……」

「うるさい! 判る訳ないだろ!」

 カナセはその場で立ち上がると力いっぱい怒鳴った。

 そしてズカズカと歩き出すと扉の方へと向かった。

「何処へ行く?」

 カナセの行動に騒然とする会議室の中で議長が声を上げる。

「退席する! 俺の役目はもう終わったからな!」

 そう言って会議の場から出ていってしまった。

「待ち給え、カナセ君!」

 ゴッペルが必死になって止める。

 しかしカナセの足取りが止まる事は無かった。

 既にこれからのここでの処遇は決定したのだ。少なくともウラ鉄が倒されるまでは自分はこのロータスから出される事は無い。

 それが判った今ではカナセにとってこんな会議はもう何の意味も無かった。

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