第3話 虚飾の都の老王
ギップフェル島から出て六日目の夜、遂に装甲列車103東征號は目的地のロータスに到着した。
カナセは小さな小窓から外を覗くと目の前で溢れる光の洪水に驚愕した。
「何だ、これ……」
今は深夜のはずだ。なのに町は煌気を電力へと転換した照明によってどこも輝きで溢れ返っている。
それはリードヒルとトラスニークを合わせてもまだ質量で規模を上回る超巨大都市の煌めきだった。
しかも前者が石とレンガの古ぼけた街並みの都市ならここは鉄とガラスとコンクリートで築かれた鋼鉄のメトロポリスだ。
「どう? ロータスの中心、第01號首都ゴディバを初めて見た感想は」
鉄格子の向こうからラーマの声が聞こえた。隊長も副隊長も多忙な為、暇な彼女がカナセの話し相手になっている。
そんなラーマに背を向けたままカナセはつぶやく。
「凄ぇ……まるでおとぎの国の宝石箱だ」
「フフン、おとぎの国ね……」
カナセの子供っぽい表現に女スパイが微笑む。
だがラーマの声はカナセに届かずにいた。窓から目が離せない。それだけに大都市ゴディバの輝かしい情景は辺境育ちのカナセにとって刺激的だった。
「けどなんか見覚えがあるな……」
「見覚え?」
「建物の作りが水没都市にそっくりた」
「確かにそうね。どの建物も四角形を基本にしているわ」
「何だか味気ないな……」
「けどあの形が一番無駄がなく合理的で効率的だとも言えるわ」
カナセの感想にラーマが補足を加えた。
「終着駅はどこだ?」
「ゴディバの駅ならここからでも見えるはずよ。線路を辿って御覧なさい。海岸線に突き出た岬が判るでしょ」
カナセは言われた通りに線路を目で辿った。
すると前方で異様な光景が目に映る。
岬と思われていたのは岸に繋がれた城塞の様な高い塀に囲まれた人工島だった。
島は環状の塀に囲まれると所々大きなゲートがあり、そこへ数本の線路が吸い込まれるように通じていた。
「あれが……駅だって?」
「そう、あれがウラ鉄総本部。第01號ゴディバ中央駅。淡海の半分を征服した国際的鉄道会社の象徴よ」
やがて東征號は街の中から長い鉄橋を渡りゲートを潜ると、円形島の内部へと進入した。
そこに広がっていたのは外の光の都市とは対照的に画一的な棟を並べる大工業地帯の情景だった。カマボコ屋根の倉庫群や液体の詰まったタンクの列、その間を太い金属パイプや舗装された道路が縦横に敷かれていた。
「ここでウラ鉄の使ってる兵器を作ってるって訳か……」
「兵器だけじゃない。線路のレールもその上を走る機関車も客車も貨車も、その為に使う材料の鉄もガラスもプラスチックも全部ここで作られてる。文字通り、ここにはウラ鉄の全てが詰まった缶詰みたいになってるわ」
東征號が工場地帯から人工島の中央に差し掛かる。
すると今度は巨大な球形の物体が現れた。
直径300m、数は五つ。中央の細長い通信塔らしき物を囲む様にそれらは地上に五芒星の図形を描いていた。
「あれは……箱舟か?!」
間違いない、それはリードヒルで見た箱舟と同じものだった。
だが箱舟が五つも並ぶ姿は壮観というよりは、むしろ現実離れして見える。
お陰で工業地帯に鎮座するその様は、まるで荒野で目覚めを待つ世紀末の怪物だ。
「なんでこんな所に箱舟があるんだ? それもこんなに沢山……」
「総裁閣下のご趣味よ」
カナセが溜息を吐きながらつぶやくとラーマが説明した。
「ご趣味?」
「クレアから聞いた事ない? 総裁閣下が箱舟用のコアを収集されているって話」
「そう言えば……」
初めて組合本部の入った時、玄関の450番コアの前で聞かされた覚えがある。
「けど、総裁閣下の収集癖は何もコアだけじゃないわ。あそこに見える箱舟だってそう。占領した国々のこれはと思ったものを一つづつ、お集めになられてご自分の傍に置かれるのよ」
「集めるって何でそんな事を?」
「さあ、箱舟の形状にどんなフェチズムを覚えてらっしゃるかは想像するしかないでしょうけど、合理的な理由としてならばご自身の力の誇示でしょうね。占領国の箱舟を見せつける事でウラ鉄の威光を御知らしめになられているのよ」
「酷ぇ……。そんな事したら取られた方は堪ったモンじゃない」
「けど相手の自尊心を挫くにはこれ以上効果的な手段はないわ」
「それもこれも理想の為って奴か?……」
カナセには立ち並ぶ箱舟の情景にまでむかつきを覚える。
そんな中、列車が箱舟の一つに近寄っていった。
「カルナカル?……」
銀色の表面に赤く文字が書かれていた。
しかし箱舟が大きすぎた為、結局、半分しか読み切れなかった。
列車は箱舟と箱舟の谷間へと入っていく。その先には通信塔が立っていた。しかし周囲の箱舟の威容さで気付かなかったがその通信塔も恐ろしく高く、上の方は雲で霞んで天辺の赤色灯の灯りも見えない。
「凄ぇな……こんな物、どうやって建てられるんだ?……」
「ウラ鉄の本部棟、ゴディバタワーよ。ちなみに高さは1500m。線路の果てを見定める為に作られた塔って所かしらね」
「さぞかし金持ちなんだろうな、建てた奴は……」
「でもその人間があなたに会いたがってる」
列車はゴディバの塔の地下へと通じるトンネルに潜っていった。
そしてその地下には光に溢れた駅舎が現れた。
駅舎の中は広大で、左右に何十本ものホームが並べられていた。
装甲列車103東征號はその中の一本に静かに停車した。
「さあ、到着したわ」
暫くして数人の兵士がやってきてカナセを貴賓室から解放した。
周囲をウラ鉄の兵士に囲まれながらカナセが列車からホームに降ろされるとグレンとリサが待って居た。
構内はその広さに反して人の数が少ない。
その中をグレンが先頭を進み、最後尾にリサが立った。その間をウラ鉄の兵士に挟まれたカナセとラーマが並んで歩く。
「思ったよりも寂しい所だな……」
「もう終電が過ぎている時間だもの。居たとしてもウラ鉄の職員か兵士だけでしょうしね。だけどラッシュアワーになればどこのホームも人で溢れ返るわ」
説明は常にラーマがしてくれた。
やがて一行が塔の上階へと向かう特別性のエレベーターの前に立つとそれにカナセは乗せられた。
「じゃあね、カナセ君」
ここでラーマと別れると同行者はグレンとリサの二人だけになった。
エレベーターが動き出した途端、頭を押さえつけたような不快感に襲われる。
「どこに行くんだ?」
「それは機密事項だ。しかし行けば判るよ」
カナセが尋ねると今度はグレンが答えた。
「さっきから思ってたんだけど手錠はしないのか?」
「ここでの君は飽くまで来賓という扱いだ。しかし君の態度如何によっては手錠どころか全身を荒縄で締め上げる事も辞さないからそのつもりでいてくれ」
グレンは冗談のつもりで言ったが、カナセは笑う気にはなれなかった。
やがてエレベーターが止まると扉が開き長い廊下が現れた。三人が廊下を進むと突き当りの応接室にカナセは通された。
「ここで暫く待って居てくれ」
そうグレンアは言い残すと二人はカナセの前から姿を消した。
応接室はヨシュアの魔煌組合本部の物などまるで比べ物にならないほど広かった。
天井も高くここでも無数の証明があまねく室内を照らしてる。
その広い部屋の中に向き合う様に重厚なソファとテーブルが置かれていた。
だが金殿玉楼の豪奢な内装という訳ではない。
古風で落ち着きがある中で機能面でも優れており主人の思想の様な物も伺える。
そんな応接室の中で一番、目を引くのは壁に掲げられた巨大な一枚の絵だった。
額縁に収められた絵は高さだけでもカナセの身の丈の倍ほどあり、その横幅は更に高さの三倍近くある。
それに引き換え、絵の内容は陰気臭い風景画だった。
堤防の内側に沈んだ広大な水没都市の全景を白黒の濃淡だけで表現していた。
それはここで見た煌びやかな大都市と比べて余りにも対照的な光景だ。
「おヌシの眼にはそれが何に見える?……」
背後から不意に老人らしき男の声が聞こえた。
カナセが声の方へと振り向いてみせる。
そこに在ったのは高さ3mほどの円筒形のガラスケースだった。
ケースの天辺にはコアが装着され何かの魔煌機械に思われた。
カナセは透明なガラスケースの中身を注視する。
ケースの中には青色に発光する液体が満たされ幾つかの塊が浮かんでいた。
だが浮いていた塊が人間の臓物である事に気付いた瞬間、カナセは思わず身を引いた。
「な、何だ?……これ!」
その光景にカナセは慄然とする。
「おヌシを驚かせてしもうた様だな……」
老人の声はその臓物の詰まったガラスケースの下にあるスピーカーから聞こえた。
「まあ無理もない。初めて見た者は誰もがそんな顔をするものだ」
しかし聞こえてくる声は明瞭で穏やかだった。
ガラスケースは車輪の付いた台座で自走し、それに付き従う様にグレンとリサが並んで歩いていた。
「おい、隊長さん! こいつは何の冗談だ!」
カナセがグレンに向け荒い語気を投げかける。ここまで来てガラスケースに入れられた死体の標本など見せて何の意味があるというのか。
しかしグレンは何も答えない。
代わりにガラスケースの中身が答えた。
「ではおヌシにもう一度聞く。その絵に写るものが何に見える?」
「死んだ町……水害か何かの跡か。酷い光景だ……。荒れた墓場みたいだ」
カナセは戸惑いながらも答えた。
その言葉にガラスケースの中身が一度だけ泡立つと臓物の瓶詰は答える。
「いかにも……だが同時にウラ鉄の最初の記憶でもある。今から百五十年前、その絵に記された都市が沈んだ時からウラ鉄の歴史が始まった。この絵はその日を忘れぬ為の自らの楔だ」
臓物のゆっくりとした口調には異様な重苦しさがあった。
「お初にお目に掛かる。我が名は“ロッゾ・カル”。このウーラシア大陸横断鉄道公社のの総裁だ」
総裁と言う言葉を前にカナセは息を飲んだ。
総裁とはウラ鉄における最高責任者の肩書だ。
「成程な、悪の権化に相応しい化け物だ……」
カナセはふてぶてしくもこの円形島の主に言い放った。
しかしそれはカナセにとっての精一杯の抵抗、気持ちで負けない為の強がりだった。
それを知ってか知らずか、臓物がカナセの言葉を耳にした途端、スピーカーを震わせて笑った。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、儂が悪の権化か……」
だがガラスケースの上方、液内に浮かんでいた二つの眼球は獣の様に鋭く輝く。
カナセは何よりその鋭さに負けまいと思った。
「でも挨拶されたんならこっちも礼儀で返さねぇとなぁ。初めまして、人呼んでトラスニークの英雄。マギライダーのカナセ・コウヤだ」
「ではトラスニークの英雄に三度、聞く。英雄として悪の権化を前にして何とする?」
「無論、平和の為に倒させてもらう! そのガラス瓶をカチ割ってな!」
そう答えた瞬間、カナセは右拳を突き出し殴ったポーズを取った。
それを見たリサが無表情のまま腰に下げた剣の柄を握る。
だがグレンは片手を軽く上げリサを静かに止めた。それを総裁も咎めようとしない。まるでグレンと臓物の心が通じ合っている様だ。
総裁ロッゾ・カルは言った。
「難敵を前に屈しない気概と死を恐れさせぬ無鉄砲さ。若さとは素晴らしいな、少年」
「だがな爺さん、俺は師匠に年寄りは敬うもんだって教えて貰ってる。アンタの命を取る前に答えてもらう。俺をここに連れて来たのは爺さんの指図なんだろ?」
「如何にも」
「何でだ? そこの隊長さんは俺の師匠がどうのって言っていたが」
「長い話になるが聞いてもらえるかな?」
「気にしないでくれ。残された時間なら爺さんよりたっぷりあるはずだ」
そう言うとカナセは傍にあったソファに我が物顔で腰を下ろした。
「ふぉふぉ、言いおるわい」
少年と向き合った臓物が再び笑った。
「まず聞くがコアには寿命がある事は知っておるな」
「俺を誰だと思ってるんだ? コアごとの蓄煌量なんて魔煌士とっての常識だ」
「その通り。どんなコアにも限界はある。指輪に嵌める極小のコアでも箱舟を空に飛ばす巨大コアでもそれは変わらん。使い切ればそれで終い。だが、かつてこの星で魔煌文明が全盛期を迎え取った頃はそんな心配は無かった。コアが死ねば新しいコアを生産する。一個のコアを失えば百個のコアを生み出す。そんな具合に煌玉は無限に作られ続けてきた」
魔煌の元である煌気の正体は大気中から採取される、今もって正体不明の魔法の粒子だった。その埋蔵量は地上でさえほぼ無限大で魔煌文明の繁栄は永遠に続くかと思われた。
しかしジオの地に巨大な氷惑星が落下した事で全てが変わる。
「そのアイスインパクトを境に古代魔煌文明は崩壊、同時に天から降って来た氷の粒の中に含まれておった特殊な粒子が煌気と影響し合い、そのせいで大気中の煌気をコアに封じ込める事が不可能になった……」
結局、それはコアの生産が金輪際不可能である事を意味する。
そして臓物の老人の説明の後にカナセが続く。
「お陰で手持ちのコアを使い果たしたら最後、現在、維持し続けている文明レベルは石と棒切れにまで衰退し、やがて人類は滅びる。それは避ける事の出来ない、いつか訪れる最期の日だ……。俺の師匠の受け売りだけどな。けど爺さんよ、何で今更、そんな話を持ち出すんだ?」
「それこお前さんがここに呼ばれた核心だからかの……ふぉふぉふぉ」
そう答える老人は愉快そうだった。
だがカナセは焦らされている様で居心地が悪い。
「しかしな少年、今から二十数年前、その人類が抱えるジレンマから解放する画期的な発明がここウラ鉄でなされた。人類は再びコアを生み出す事が可能になったのだ」
「何だって?!」
老人の言葉にカナセが色めき立つ。再びコアを生産する魔煌技、それがどんな事を意味するか、魔煌士の肩書を持つ者なら誰でも理解できるはずだ。
「新たなコアを生み出す魔煌技。それを我々は新生魔煌技と呼んでおる」
「新生魔煌技……」
カナセが鸚鵡返しにつぶやく。
それが事実なら人類は古代の様な高度魔晄文明を再建する事も可能になる。
しかしここでひとつの疑問が浮かぶ。
「だがおかしいぞ。前にウラ鉄の奴等が俺の所にコアの供出に協力しろって押し掛けて来やがった。ダグウィードだってそうだ。新生魔煌技があるんなら、そんな盗人猛々しい真似する必要ないじゃないか?」
その素朴な疑問をカナセは総裁にぶつけるとガラス瓶の中身はこう答えた。
「確かに新生魔煌技は完成された。しかしその研究結果が二十年前、あるひとりの魔女によって独占された挙句、残っていたデータの全てを破壊され持ち逃げされた」
「それでその悪い魔女ってのは今の何処に?」
「今もって行方知れず。このウラ鉄の力を持ってしても一向に足取りが掴めん」
「ふ~ん、そりゃお気の毒に……。じゃあ結局は元の木阿弥って事か」
カナセは他人事の様に鼻で笑う。
しかしそんなカナセの態度に総裁は不満を持つ。
「ここまで聞いて何か思う節は無いかな?」
総裁がガラスケースの中で聞き返す。
「何って……まさか、それをやったのがウチの師匠だって言い出すんじゃないだろうな」
「そのまさかだ!……」
総裁は断言した。
「我等の長年の苦労はおヌシの言うタタラ・ヘンジという魔女に潰されたのだ」
臓物の老人はもう笑っては居なかった。
代わりにその声には暗い情念が籠っていた。それは裏切りを受けた者なら誰でも絞り出す無念の声だった。
しかしカナセは老人の言葉に首を横に振る。
「嘘付け、ウチの師匠がそんな大それた事するわけ無ぇだろ?」
「いいや、事実だ。でなければ弟子のおヌシをここまで連れて来る事などあるまい!」
老人の言い返す声にも力が籠る。しかし俄かに信じがたい。
「じゃあ爺さん、ウチの師匠を本当に知ってるってのか?」
そんなカナセの前で総裁ロッゾ・カルは高らかに言った。
「エリザベス・アムンヘルム! かつてロータスの魔女と呼ばれた稀代の天才魔女でありウラ鉄の要だった女だ! そしてそれがおヌシの師匠、タタラ・ヘンジの正体だ!」
「うちの師匠があのエリザベス・アムンヘルムだって?!」
老人の言い放った言葉にカナセは愕然とした。そちらの方がカナセにとって信じがたい事実だ。
「はは……信じられねぇ。あんないい加減なオバサンがか?」
「信じられんのも無理はない。だがおヌシの作った祠に収められている骨を調べた結果、本人だと断定された」
「だからって……」
到底、信じられない。あの田舎魔女の師匠が図書館やクレアの家の本棚の最上段の置かれた数多の魔晄書の著者と同一人物なんて事実が本当にあり得るのだろうか。
「我々の戦争目的は鉄道によって世界を一つにする事だ。だがその中に行方を眩ませたエリザベス・アムンヘルムの捜索も含まれておる。儂は淡海を超え外海の果てに逃げようとも追い詰める腹積もりでおった! だが残念ながらエリザベスが姿の消息は我々がどれほど手を尽くしても見つける事は出来なかった。おヌシの詠唱に興味を持ったこのグレン・ハルバルトが辺境の祠を調べるまではな。故にエリザベスの亡骸を見つけられたのも神が授けたもうた奇跡かもしれん」
「じゃあ師匠が仮に……。仮にエリザベス・アムンヘルムだとして俺に何の関係があるってんだ?」
「おヌシが真にエリザベスの弟子であるならば、彼女から新生魔煌技を受け継いでおるはずだ」
「受け継ぐだって? 馬鹿言うな! そんな物がある訳無いだろ!」
カナセはきっぱりと否定した。
「そんな大それた物、教えられて俺の頭で理解できると思うか? アンタ達が何十年も研究してきた超高等魔煌技だろ?」
「確かにその頭の中に新生魔煌技が入っているとは思わん」
「何だよ! はっきり言いやがって……」
「その代わりに新生魔煌技のヒントとなる何かを受け継いでいる可能性がまだ残っておる。それを全てこのウラ鉄本部で洗いざらい吐き出してもらう」
ここに来てカナセがこのウラ鉄の総本部に連れてこられた理由がはっきりした。
だがそれを聞いてカナセは声を張り上げて言い返す。
「ふん! おあいにく様。ここで吐いたってゲロしか出せねえよ!」
そして臓物の老人の前で唾を吐いた。
「それに仮に知ってたって俺はお前なんかに絶対、教えてやるもんか!」
「絶対だと?」
「ウラ鉄が今までやってきた事を胸当てて考えてみろってんだ! どれだけの人間を不幸にしたと思ってる!」
「我等の巡礼の軌跡が多くの屍の上に築かれた事実を今更、悔い改めようという気はない。これは避けようのない宿業なのだ」
「それに嫌気が差したから師匠はアンタ達を裏切ったんだ!」
「それはエリザベスの弁かな、少年?」
「不肖の弟子でも師匠とは気持ちくらい通じるもんさ! ウラ鉄のやってきた事は外道だ! これは俺の答えであり師匠の答えでもあるんだ!」
「では協力は得られんと?」
「何度も言わせんな! 犬に喰われろ、この臓物野郎!」
カナセは粋がって啖呵を切る。それはウラ鉄に対する断交宣言でもあった。
だがそうカナセが答えた途端、足元の床が突然抜けた。
「うわっ!」
不意にカナセの体が床に出来た穴から真っ逆さまに落ちていく。
「痛てぇっ!」
だが落下は唐突に終わり、新たに表れた穴の底でカナセは体を強かに打った。
「考え直す気はないか、少年?」
頭の上から臓物の老人の声が聞こえる。
「う、ウルサイ! 嫌だってもんは嫌だ!」
だがカナセは総裁からの要求を断固拒否する。
「正直、手荒な真似はしたくないのだがな。こう見えてもかつて儂とエリザベスは志を同じくする同志だった。愛弟子の君には敬意を払っているのだぞ」
「穴に落としておいて敬意もクソもあるかってんだ! このド畜生!」
「ではそこで少し頭を冷やしておるがいいい。おヌシにはまだたっぷり時間があるようだからな」
そう臓物の老人が言い終えると頭上の穴は閉じられていった。
その瞬間、周囲は闇に包まれる。
こうしてカナセ・コウヤとウラ鉄総裁ロッゾ・カルの初めての対面は終わった。
そしてカナセは再び一人になる。
「絶対、協力なんかするもんか!」
しかしカナセの気持ちは収まらない。
カナセは早速、立ち上がると真っ暗な闇の中を手探りで歩き始めた。
「クソッ垂れ! こんな所に閉じ込めやがって。今すぐ、ここから出てやる!」
穴の底は意外と狭かった。そして石壁らしきものに指か触れると今度はその壁に沿って歩き出した。すると冷たい石壁の次に床から天井に向かって伸びる鉄の棒の柵を見つけた。
「こいつは鉄格子だ……。て、事はまた檻の中か!」
再び虜囚の身としての扱いを受ける事にカナセはムッとする。
「クソッ! 出せ! 出しやがれ! 臓物ジジイ! 俺の声が聞こえてるんだろ! 自分の思い通りにならないからって人をこんな目に遭わせやがって!」
カナセは叫びながら鉄格子を何度も何度も叩いた。しかしウラ鉄側からは何の反応も返って来ない。
「出せ! 出せ! 出せ! 出せ! 出ったら、出せ! 出しやがれコンチクショー!」
カナセは最後に鉄格子を蹴ってみせた。
しかし蹴り飛ばしたところで鉄格子はビクともせず、逆にカナセの足裏が電気を流した様に痺れだす。
「痛ててて……」
足の痛みにカナセが呻いた。そして脱出を諦めたのか床の上で大の字になる。
「やいっ、ジジィ! よーく、聞きやがれ! この世にはどうしても思う通りにならないモノがあるって事を、この俺が教えてやる! 覚悟しろよな!」
そう最後に言い放つと後はそのまま床の上でふて寝した。




