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第10話 激闘! ギップフェル沖海戦

 そして事件は交代後の深夜、時計の針が次の日をとっくに回った闇の中で起こった。

 就寝中、艦内の全員が幾つもの爆発音によって叩き起こされる。

「な、何だ?」

 直後に闇夜を切り裂くけたたましいサイレン。ベッドの中に居たカナセも跳び上がると、その衝撃に堪らず狼狽していた。

「敵襲ー!」

 伝声艦からに当直士官の叫ぶ声が聞えた。

 皆が戦闘服に着替えながらベッドから出て廊下を走り回る。

 真夜中の奇襲。誰もがその事実の前に混乱し右往左往していた。

 その人ごみの中を掻き分けながらカナセも甲板を目指した。

 目指した先には愛騎ヴァイハーンがある。

 外に出て周りを見渡せば水上は既に戦場と変わっていた。ムラクモから離れた水面では幾つかの艦艇が被弾し燃え盛る炎に身を焦がしていた。

 闇夜に浮かび上がるオレンジ色の光はさなから地獄の劫火だ。

「一方的じゃないか!」

 先手を打たれた艦隊はここまで弱いのか。その事実にカナセは茫然とした。

 そしてある事に気付く。艦艇の数が多すぎる。コアの数を調べればカナセが索敵出来る海域に百隻以上がひしめき合ってる。

「あれって、他の国の艦隊じゃないのか?」

 少なくとも燃えている艦影はヨシュアの水軍以外の艦艇だった。

「合流地点で襲われたのか……」

 カナセは腕時計を見た。時間は01時40分。ヨシュア艦隊はとっくの昔に合流ポイントに到着していた。

「こんなに固まってちゃぁ大型艦は身動きが取れない……」

 恐らくそこを見計らっての夜襲だ。

 カナセは甲板を走ると先ほどジル一等水兵と交代した右舷後方の見張り台に駆け込んだ。

「おい、ジル! どうなってる?! 何か中尉は言って来てるか?」

 しかし見張り台の中を見た瞬間、思わず身を引いた。

 後退後に別れたはずのジル・ガスキンが冷たくなって項垂れていたのだ。

 彼の体は右肩から左肩に掛けて袈裟懸けに断ち切られていた。しかも真正面から。

「ああ……」

 その惨たらしい姿にカナセはたじろきながら言葉を失う。

「見張りはどうした?! 誰か居ないのか!」

 蓋の開いたままの伝声管からカッシーニ中尉の声が聞こえた。

 カナセは我に返ると伝声管を掴んで大声で叫んだ。

「こちら見張り台! コウヤ曹長!」

「コウヤ? ガスキンはどうした?」

「ガ、ガスキンは……ジルは死んでる!」

「なにぃ! 死んでるだと? どういう事か!」

「殺されてんだ! 正面から刃物で切られて!」

 伝声管の向こうで中尉は絶句した。

 その直後、前方を行く旗艦ヨークタウンの右舷に着弾するのが見えた。

 命中したのは水面下の船底、直立する水柱の横でヨークタウンの船体が左右に大きく揺さぶられる。

「クレア!」

 水柱を見てカナセは青ざめる。旗艦にはクレアが乗っているはずなのだ。

 もはや居ても立ってもいられない。今すぐにでもクレアを探しにヨークタウンに向かわねば。

 その時だった。水上騎兵隊に出撃命令が下る。

 格納されているヴァイハーンも出撃準備の為にクレーンが作動しはじめた。

「曹長!」

 カナセを見つけたマリウスが呼び掛けた。

「少尉! ヨークタウンが……」

 しかしカナセは狼狽えながら旗艦の名を呼ぶ。

「ヨークタウンなら大丈夫だよ。あれ位じゃ沈みやしない」

「けど中にはクレアが……」

「よく見ろ! 着弾は艦の後方! 彼女の居る様な場所じゃない」

「本当か?! なら良いんだけど……」

 今はマリウスの言葉を信じる他ない。

「それよりも緊急出撃だ。」

 マリウスは手にしていた救命胴衣とヘルメットをカナセに投げつけた。

「自分達で索敵し、見つけ次第、攻撃しろって命令だ。行くぞ!」

 カナセは言われるがままマリウスの背中を追うと着水したヴァイハーンに乗り込んだ。

「全騎出撃!」

 乗り込んですぐに大尉の指令が下りる。カナセとマリウスはコア・モーターを始動させ闇夜の淡海の中に愛騎を発進させた。

 しかし様子がおかしい、着水したはずのケルピーの大半がムラクモから離れようとしない。それどころかコア・モーターを始動させた途端、船体から火を噴く物やクレーンが動かずに宙吊りにされたままの物さえあった。

「何だ? トラブルか?」

「判らない、とにかく我々は命令通り迎撃の実行に移る」

「了解」

 カスケードとヴァイハーンは二隻だけでヨシュア艦隊から離れると、海域をうろついているはずのウラ鉄艦隊を探し始めた。

 しかし他国の艦隊がひしめく中、目当ての敵は一向に見つからない。

 艦影さえ見ればマリウスならどんな艦船でもどこの国籍か瞬時に見分ける事が出来た。

 しかしこの闇夜では近くで炎の反射光でも当たらなければ存在すら見つけ難い。

 逆にカナセの力なら魔煌探知で3㎞先からでも闇夜の艦艇を発見可能なのだが軍に入って日に浅いカナセでは艦影だけでの敵と味方の識別が難しい。両軍で扱っているコアに区別はないからだ。

「まったく二人揃って痛し痒しだ……」

 マリウスがヴァイハーンを操りながら舌打ちする。

 だが二人が連携すれば事足りる。

 カナセがまずコアの動きを見て怪し艦艇を発見し、それをマリウスが接近して敵か味方かを識別する。時間が掛かるがそれが一番、確実な方法だ。

 だが集結した八ヶ国連合艦隊だけでも艦艇の数は百隻を超えていた。その中に闇夜を使って紛れ込む敵を見つけるのは確かに至難の業だ。

「クソッ垂れが、闇夜に紛れ込むなんてまるで大昔のニンジャだ……」

「焦るな曹長。急がなきゃいけないのは確かだが拙速で取り違えてちゃ敵の思う壺だ。慎重に索敵の中から敵を探すんだ」

 そう言ってマリウスは索敵を続けるカナセを落ち着かせる。

 しかし幾ら探しても怪しい影は一向に見当たらない。早く対応しなけれ連合艦隊の被害は大きくなる一方だ。

 淡海に浮かぶ灰色の船体から紅蓮の炎が燃え盛り、海面に向かって大勢の水兵が飛び込んでいく。しかし飛び込めた者はまだ幸せである。中には脱出が間に合わず炎に焼かれる者や艦内で海中に没する者も大勢いた。

 そんな物を見せつけられていたらカナセでなくとも焦る気になる。

「何かきっかけがあれば……」

 カナセが悔しそうにつぶやく。

 しかも、その間も連合艦隊は襲撃を受け続ける。

 敵からの攻撃は鳴り止む事はなく被害は更に拡大していく。

「待てよ……、そういえば……」

 だがその時、カナセの頭の中にある疑問が浮かんだ。

 それを素直にマリウスにぶつけてみる。

「少尉、ひとつ聞くけど、今は敵の探信妨害の最中だよな」

「そうだよ。お陰で魔煌探信が役立たずだ。曹長以外は目視に頼らなきゃならない」

「だったら逆に敵はどうやってこちらの位置を掴んでるんだ? 一方的に攻撃を受けてるって事はあっちにはこっちが見えてるって事じゃないか?」

「理屈ではそうだ。相手にはこっちが……。ちょっと待て、そう言えば海戦史にも同じ様な戦例あったな……」

 無線の向こうでマリウスが思考を巡らせる。しかしそれはほんの僅かな時間だった。

「曹長! 判ったぞ! モトブルーム、空飛ぶ箒だ! 奴等、箒を使った観測隊を飛ばしてるんだ! それで上空観測しながら僚艦に指示を出して攻撃してる。高い位置の分だけ相手はこちらを発見しやすいはずだ」

 マリウスの閃きが答えを導き出す。

「水面ばっかり見てちゃ駄目だ。頭の上で飛んでいるコアの反応を見つければ!」

 カナセがそれに応えるかのようにすぐさま上空を飛行するコアを探した。

「見つけた! 8時の方向、約0.7㎞先! 五隻の船の上空に二つのコアの反応!」

「それだ!」

 二人はケルピーを翻すと上空にコアの反応のあった海域に急行した。

 すると、コアの反応が指し示された海面に黒い船影が見えた。

「発見したぞ、あいつらだ少尉!」

 先行していたカナセの声にマリウスも目視する。

「ビンゴだ! 曹長!」

 発見した敵艦影はモニター艦のみの艦隊構成だった。

 艦はそれぞれに灯火管制の上、50m級の船体へ黒地のカンバスを張り巡らしていた。

 更にマストや探照灯、艦載艇等の艤装まで大胆に撤去し、一見しただけでは闇夜と融け込んで周囲と区別が付かない。

「まさに忍者って訳か! あんなんじゃ、見つからないはずだ」

 マリウスは上空を見つめる。しかし箒の魔煌士達はそれなりの高さを飛んでいるのか目視では確認出来ない。

「まあ、どうだって良いさ。要は沈めちまえば良いんだろ!」

 カナセは艦影を75㎜砲の軸線に乗せた。

 だが同時に敵も接近してくる二隻の小型艇を発見すると近寄らせまいと攻撃を開始した。

 敵モニター艦は前回戦ったタイフォン級の改良型、武装は軽量化でロケット弾が外されていたが二門の105㎜砲は健在だ。

 ヴァイハーンとカスケードに向かって重軽伴った凄まじい砲火が降りそそぐ。五隻分の攻撃に晒されヴァイハーンは近づく事さえ儘ならない。

「うわっ! やられる!」

「駄目だ、曹長! 一旦、回避だ!」

 結局、一太刀も浴びせる事なくヴァイハーンとカスケードは後退した。

 やはり多勢に無勢、二隻の小型艇だけでは警戒する五隻のモニター艦相手に太刀打ちできない。

「少尉、どうする? これじゃ返り討ちだ」

「大丈夫だ。自分に考えがある。曹長は自分の後ろで敵の監視を続けてくれ」

 そうマリウスは答えるとカスケードはヴァイハーンを従えて反転、せっかく見つけた敵艦隊から離れてく。

 そして一番近くの連合艦隊に向かった。

 マリウスの向かった先には八ヵ国同盟の一つオニバス水軍の艦列が闇夜の淡海の中を進んでいた。

「周波数を調べている暇が無いな……」

 マリウスはその中の旗艦ベニントンを見付けると近寄って手持ち型の小型探照灯でモールス信号による通信を送った。

 ベニントンからはすぐに大型探照灯による光の返答が返って来る。

 それを読み取ったマリウスが再びカナセに無線を送る。

「曹長、先行しろ。オニバス水軍を先導する」

 カナセはマリウスの意図を理解するとオニバス艦隊が追従出来る速度で先行した。

 やがて二つの艦隊が接敵するとマリウスが照明弾を上空に上げた。

 闇夜で光を浴びた黒い艦隊の影がはっきりと浮かび上がる。

 それに向けてオニバス艦隊が探照灯を当てながら砲撃を開始した。

 オニバス艦隊の戦力は旗艦ベニントンの大型艦一隻にモニター艦二隻にガンボート六隻。総合的な戦力ではウラ鉄の忍者艦隊が上回っていた。

 しかし旗艦ベニントンも搭載されている主武装は単装127㎜砲三基と強力だ。

 その砲火力で一斉射撃を行うと、一発が中央のモニター艦に命中した。

 忍者艦隊のど真ん中に火が付き辺りを照らす。

 一方のベニントンも敵105㎜砲の猛射を受けて燃え上がった。

 だがベニントンは攻撃の手を休めない。それは戦力差を物ともしない粘り腰だ。

 更にオニバス艦隊からの応援要請を受けた他国の艦隊がたちまちのうちに集結しウラ鉄の忍者艦隊を四方から包み出した。

 その甲斐あってか戦況は瞬く間にオニバス艦隊側の優位に傾いた。

 復讐に燃える連合艦隊の包囲を受け、今度は忍者艦隊が窮地に立たされる。

 そして遂に敵モニター艦一隻が爆沈した。

「やったぜ、ザマぁ見ろい!」

 炎に包まれる黒い艦隊を眺めながらカナセが歓声を上げた。

「喜ぶのは後だ。この調子で他の敵も炙り出せ!」

 マリウスが調子づくカナセを窘める。

 事実、連合艦隊の危機的状況は今も続いてた。むしろ始まったばかりだ。

 その証拠に艦隊への攻撃は一か所だけに留まらない。

 敵の忍者艦隊が他にもいるという何よりの証拠だ。

 そして敵はカナセ達にとって最も危うい部分に忍び寄っていた。

「少尉、新たな敵を発見。上空にコアの反応もある。このまま南西……。あいつ等、ヨシュアの水軍を狙ってやがる!」

 二人は全速力でヨシュア艦隊の居る海域に急行した。

 しかしカナセ達が到着した頃には既にヨシュア艦隊は別の忍者艦隊の襲撃を受けている最中だった。

 敵は30m級の艦級不明のガンボートで数はなんと30隻を超えていた。それらが雲霞の如くヨシュア艦隊に押し寄せて来ている。

 ヨシュア艦隊はその勢いに負け次々と海上で火の手が上がる。

 特にその中で戦闘母艦ムラクモの損害は大きかった。

 船体が大きい分、敵の凄まじい砲火に晒されると、炎を背にしながら甲板の上で水兵達が焼かれていく。

 その余りにも惨たらしい光景にカナセ達は茫然とした。

 あの炎の中に仲間が大勢居るというのに助ける事も儘ならない。

 一方、旗艦ヨークタウンと僚艦のイントレピッドも搭載されている単装127㎜砲を闇夜に向かって何度も発砲していた。

 だが闇夜の中を動き回る小さな敵相手に海面を叩くばかりで一向に効果を発揮しない。

「ああ、見てられない! どこのヘタクソが撃ってんだ!」

 味方の攻撃の歯がゆさにカナセが苛立つ。

 逆に勢いに乗った敵は甲板上の炎を頼りにヨシュア艦隊の周囲をグルグル回りながらこれでもかと襲い掛かる。

 既に艦隊は敵の夜襲の前に組織としての機能を失い、各艦艇が右往左往しながら個別に敵と戦うので精一杯だ。

 そんな中、ムラクモの左舷後方で轟音と共に火柱が上がった。

 ヨシュア水軍所属河川モニター艦ホーネットが敵ガンボートの執拗な攻撃に耐え切れず爆沈したのだ。

 船体中央で真っ二つにされながら50mを超える船体が炎を捲きながら沈んでいく。

「なんてこった……」

 仲間の大型艦の損失にカナセは茫然とする。

「大変た……。このままじゃ俺達の帰る場所がなくなる!」

「曹長、くっついて戦うのは効率が悪い。ここは別れて戦おう。僚艦を狙おうとして近づいて来る奴等を優先して潰すんだ」

「了解!」

 ヴァイハーンはカスケードと別れると単独戦闘に入った。

 カナセは早速、目当ての獲物を見付けると愛馬を急接近させた。

 敵は一隻のガンボートで傷付いたムラクモを執拗に狙っていた。

「これ以上、好きにさせるか!」

 だが一方で敵側も異様な速力で接近する一隻の高速艇の存在に気付くと、一旦ムラクモへの攻撃を取り止め二基ある主砲の両方をヴァイハーンに向けた。

 ガンボートの二門の75㎜砲が同時に発砲された。

「遅い!」

 しかしカナセは舵を左に振ると敵からの至近弾を意図も容易く回避する。

 大型艦からガンボートまでその船足は約24ノット、換算すれば時速約45㎞。一方で小型突撃艇の船足は最大162ノット、時速約300㎞。その必要過多とも思えるほどの速度性能によって戦車砲から転用されたガンボートの主砲では高速突撃艇への攻撃はほとんど対応不可能だ。

 そして砲撃をかわした直後に反撃する。

「喰らえ!」

 今度は水馬に固定装備された75㎜砲が火を噴いた。

 高速突撃艇の主砲である75㎜砲は口径こそガンボートと同じではあるが10mを超える船体に取り付けられた長砲身は威力の点でほぼ2倍の貫通力を誇る。

 ヴァイハーンの放った徹甲榴弾は前方のガンボートを一撃で火だるまにした。

 たとえ鋼鉄製の軍用艇でも水馬の前ではのろまな亀に等しい。

「まずは一隻……」

 燃え盛るガンボートの前を通りすぎながらカナセは口の中で数を数えた。

 しかしまだ一隻目に過ぎない。周辺海域を徘徊するコアの動きはまだ山ほどあるのだ。

 カナセは砲弾の再装填を待ちながら艦隊から距離を取った。

 僚艦に接近しすぎて衝突事故や同士討ちを避ける為だ。

 そして旗艦ヨークタウンの生存を確認する。ヨークタウンは幾らか被弾していたが今も元気に砲撃を行っていた。

 だが何よりも心配だったのはクレア・リエルの安否だった。彼女に死なれては幾万の敵を倒した所で何の意味も無い。

「クレア、お願いだから俺を置いて死なないでおくれよ……」

 カナセが祈る様につぶやくと再びヴァイハーンを敵に向かわせた。

 そして次の獲物を見つけると一撃離脱で仕留めていく。

 以後、ヴァイハーンは着実に敵ガンボートを見つけては撃沈していった。敵はこちらの船足に追いつけないし、攻撃はこちら側が一方的に行える。

 そして何よりコア探知による夜目が効く。

 その好条件が相まってカナセは今までに八隻目のガンボートを狩り終えていた。

 しかしまだ油断は出来ない。相手を弱らせている以上に味方は苦しいはずだ。

 敵には増援の可能性もあったし、仮に撃退しても先にヨシュア艦隊が全滅する未来もまだ残っているのだ。

 それにマリウスとは別れたままになっていた。離れて戦って以来、カナセはカスケードの船影を一度、見たきりだ。

「みんな無事で居てくれれば良いけど……」

 幾ら敵を倒しても不安がぬぐい切れない。 

 そんな時だった。戦闘海域の外から異様な動きをするコアの反応を発見した。

 数は横並びで二つ。コアの反応はとにかく高速で移動している事だった。それでもケルピーには及ばないがガンボートを上回る。

「嫌な予感がする」

 カナセはそちらに向かってヴァイハーンを走らせると目標が視界に入った瞬間、息を飲んだ。

 二隻の船はウラ鉄の高速艇だった。沿岸警備に使う大きさはケルピーと比べやや前後に短く幅広の船体だった。

 しかし砲弾が飛び交う戦場では脆弱で本格的な海戦の中に居る事自体が不自然だ。

 カナセは全速で高速艇に近寄った。そして船の甲板に積まれていた物を見て仰天した。

 二隻には零れ落ちそうなほど、大量の爆薬の積み込まれていたのだ。

だがそれ以上に異様なのは操縦席には乗組員の姿が一人も見えない事だ。

「ゴーレム!」

 カナセの直感が疼く。船は無人、恐らくラーマ・パトリックが使うゴーレムの魔煌技と同じ力を使って動かしている。

 そしてそれらの事から推測される事実はただ一つ。

「特攻艇!」

 恐らく標的は三隻の大型艦、ヨークタウンかムラクモかイントレピッドの内の二隻。

「こりゃ大変だ!」

 カナセが全速力でヴァイハーンを走らせる。あの爆薬の量だ。衝突すればたとえ大型艦でも木っ端みじんに吹き飛ぶ。

「ホーネットの二の舞は御免だ!」

 カナセが一隻目の特攻艇の後ろで標準を定める。

「発射!」

 カナセが特攻艇の真後ろで発砲した。砲弾は真っ直ぐに船尾に吸い込まれ命中した。

 だがその直後、特攻艇の爆薬が誘爆を起こし、巨大な爆発と共に凄まじい衝撃波が後ろに居たヴァイハーンを襲った。

「うわああああ!」

 それは特攻艇による末期の意趣返しだった。

 衝撃波を浴びたヴァイハーンは船体に致命的な損傷を受けた。船体の一部が割れ、操縦席の風防まで粉微塵に砕け散った。カナセには奇跡的にかすり傷も無かったが一番の致命傷は搭載火器を取り巻く船体の状況だった。

「しまった、やられた……」

 主砲の発射直後に行われる自動装填装置が衝撃波からの一撃で使用不能になった。装填するはずの75㎜弾が薬室への装填中の途中で止まり無残に折れ曲がっている。

 それでなくても砲の基部では衝撃の影響で所々破壊され、とても光の膜の修理だけでは間に合わない。

「魚雷は?」

 カナセは虎の子の二本の浅深度魚雷の様子を確かめる。しかしこちらも爆発の影響を受け使用不能になっていた。

「こんな時に……」

 そして現実はカナセにモーフィング・マギアで修理する時間どころか、落胆する暇すら与えてはくれない。

 残ったもう一隻の特攻艇が既に旗艦ヨークタウンの目と鼻の先にまで迫っていた。

「駄目だ! もう直してちゃ間に合わない!」

 カナセはきっぱりと修理を諦めるとヴァイハーンの船足を最大船速にまで上げた。

 水馬のコア・モーターは無傷なまま最大出力の3000煌力を期待通りに絞り出す。

 しかし大きな破損が幾つもある船体が受ける水の抵抗が激しく、時折、蛇行して思った様に速度が出ない。それどころか水の抵抗に負けて今にも分解しそうだ。

 まさに水上の暴れ馬。しかしカナセは分解寸前の船体をそのまま最大船速で走らせると残った特攻艇に迫る。

「頼むぞ、ヴァイハーン!」

 そしてそのまま座席の横にある一本の赤いレバーを引いた。

 座席が火薬の爆発力で外へと飛び出すと、着水の直前に魔煌技の力で卵型のカプセルへと変形しカナセの体を包み込む。

 カプセルは勢い余って海面を滑ると、やがて抵抗に負けて沈んでいった。

 その直後、無人となったヴァイハーンはそのまま前方を直進する特攻艇の背後から猛追した。

「行け! ぶつかれ! ヴァイハーン!」

 カナセは水に沈んだカプセルの中で叫んだ。

 その執念が通じたのか、特攻艇は旗艦ヨークタウンに辿り着く前にヴァイハーンの体当たりを喰らい爆発した。

 巨大な火焔球が旗艦ヨークタウンの眼前で花開く。

 やがて沈んでいたカプセルが浮上すると開いたハッチからカナセが顔を出した。カプセルは高速突撃艇に標準装備されていた脱出装置だった。卵型なのは時速300㎞で走行する突撃艇から安全に脱出する為に導き出された最適解だった。

 しかしそのカプセルもハッチから水が入り込むとたちまちのうちに浸水を起こす。

「うわあぁ!」

 カナセは慌ててカプセルから脱出すると海面を漂った。

 立ち込める炎を眺めながらカナセは旗艦ヨークタウンの無事を確認した。

「よかった、間に合った……」

 カナセは水の上で安堵の溜息を吐く。

「しかしボスには悪い事をしたな……」

 せっかくの新型兵器を特攻兵器に変えてしまったのだ。

 それにカナセ自身、水馬には思い入れもある。

「あんな凄い煌装騎にはもう在り付けないかもな……」

 ケルピーは掛け値無しの高性能機だった。だがそれ故に最期の務めで旗艦ヨークタウンの危機を救ったのだ。

「悪いな、ケルピー・ヴァイハーン……。けどお前は今まで乗った中で最高にイカした奴だったぜ……」

 カナセは燃え盛る高速突撃艇に向かって敬礼をした。

 それは愛馬に対するせめてもの償いだった。

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