第20話 決戦! トラスニーク
この時、既にポカチフの強襲部隊は組合本部の間近にまで迫っていた。
やはりここは勇猛果敢で鳴らした歴戦の戦士だ。
「怯むな! 進め! 組合本部はすぐそこだ!」
しかも今回参加した陸戦隊兵士はヨシュア方面軍の精鋭部隊の一つだった。部隊は迅速な動きでトラスニーク防衛隊を蹴散らしていくと遂に組合本部へと到達した。
「おいおい、マジかよ。こりゃ洒落になんねぇぞ……」
先ほどの決意とは裏腹に、カナセはその光景を物陰から戦々恐々と見詰める。
四騎のヒキガエルの様なマギアギアが玄関前を固める中、機材を持った兵士達が続々とトラックがら降車し、組合本部の中へと入っていった。
奴等の目的はすぐに判明した。兵士が十数人掛かりでもっこを担ぐと中から450番コアを運び出して来たのだ。
「大変だ……早く何とかしないと」
カナセが遠巻きに眺める光景に息を飲む。
幾ら骨とう品とはいえ、あの450番コアがヨシュアの象徴である事には変わりない。
奪われた事でこの国の人々の戦意が折れる可能性だってある。
「それにクレアには俺がコアを守るって大見栄切ったんだ……」
隠れて何も出来なかったでは顔向け出来ない。
しかし相手は多勢に無勢、手持ちの武器がない今の状態では流石に太刀打ちできない。
やがてもっこに乗せられたコアが一騎のマギアギアの前に運ばれると、そのまま格納庫内へと呑み込まれていった。呑み込んだヒキガエルの体には401號の番号が見える。
「用は済んだ! このまま撤収する!」
頭を模した司令塔の上で老将の声が響く。
カナセがその顔を見たのはこれで三回目だった。
「あいつ、ポカチフ!」
間違いない。リードヒルで仕留め損ねたあの司令官だった。
そしてビンズ・デンを魚雷で殺した張本人だ。
「まさか、こんな所で会うなんて……」
そうつぶやいた瞬間、カナセは思わず身を乗り出した。それが祟って足元に捨てられた空き缶を誤って蹴り飛ばす。
空き缶が甲高い音を上げると兵士たちの視線が一斉にカナセの方に注がれた。
「居たぞ、敵だ!」
兵士達がカナセに向かって発砲した。
「しまった!」
カナセは慌てて通りの奥へと逃走する。
「放って置け、子供一人に何が出来る。それよりも今すくここを離れるぞ。守備隊の増援に来られたら面倒だ」
ポカチフ陸戦隊は組合本部前で翻ると再び港の方へと移動を開始した。
その後を一旦、撤退したカナセが舞い戻り、追跡を開始する。
「厄介な事になったな……」
敵の目的は450番コアの奪取だった。それにどんな意味があるのかは判らないが、この際、相手の動機なんてどうだっていい。問題はどうやってあのコアを奪い返すかだ。
幸い潜水艇からモーフィングした四騎のマギアギアは鈍足で、それに歩兵を乗せたトラックがゆっくりと追随する形を取っている。
その為、部隊は機械化のわりに移動速度が遅い。だかからといって人の足より遅いという訳ではなく、カナセは徐々に引き離されていく。
「こっちにもマギアギアがあれば……」
カナセの気持ちが次第に焦りに捕らわれていく。
そんな時だった。前方で擱座した一両の戦闘車両を見つけた。
近づいてみれば左側の転輪が破壊され履帯が外れていた。
「走行装置が壊されて放置されたんだな……」
カナセは車体によじ上ると注意深く観察した。
車両は珍奇な形をしていた。戦車の仲間の様だが砲塔の様な物は一切なく、代わりに主砲は車体前面に直乗せされていた。
その主砲も一般の戦車の物よりは一回り大きい。
カナセは開いたままのハッチから操縦席に乗り込んだ。
「コアさえ無事なら……」
そして珍奇な戦車の詳しい状況を調べる。
この乗り捨てられた車両の正体は駆逐戦車と呼ばれる戦闘車両の一種だった。
砲塔を無くしたせいで柔軟な戦闘には不向きだがその分、強力な火力が搭載出来ている。
「ああ、勇ましきかな闘神マルケルスよ。我の骨となり肉となりその身を捧げ、百鬼羅刹を討ち滅ぼせ……」
カナセが魔煌技を唱えるとマルケルスの神技に導かれながら駆逐戦車の破壊された走行装置が修復される。
カナセが排水場のポンプを修理しようとした時と同じモーフィング・マギアの力だ。
修理が完了するとカナセは駆逐戦車の支配権を掌握した。
駆逐戦車にはヨシュア陸軍からハルバート駆逐戦車の名称が与えられていた。
「行け! ハルバート・ヴァイハーン!」
アクセルを踏むと主力戦車と同型のコア・モーターが咆哮を上げた。
それに合わせて左右の履帯が前進と同時に石畳を削る。
「よ~し、良い調子だ」
駆逐戦車の形を保ちながらヴァイハーンは市街地を走り抜けた。
そして陸戦隊の後ろに追いつくと徹甲弾で直ちに砲撃を開始した。
ハルバート駆逐戦車の主砲は105㎜砲。ヨシュアの戦車の中で最も強力な砲を搭載していた。
ハルバートが通りから姿を現した間際の攻撃はそのまま奇襲となった。
砲声の後、最後尾に居た404號は直撃を受け、一瞬で擱座させられた。
「何だ!」
突然の戦禍にポカチフ以下、陸戦隊の全員が後ろを振り返る。
404號が燃える向こうで敵の駆逐戦車が低姿勢で身構えていた。
初弾の発砲を終えたハルバートは魔煌力の恩恵によって自動的に次弾の装填を開始した。
その装填速度は人力を遥かに超えていた。
「発射!」
落ち着いたところでカナセが二射目の引き金を引いた。今度は榴弾だ。
榴弾はトラックに命中し満載していた兵士もろとも爆炎に包む。
「よし決まった!」
炎に焼かれ路上で悶える兵士達を照準器から覗きながらカナセがつぶやく。
「恨むなよ。攻めて来たお前らが悪いんだ……」
戦う魔煌士が死者に許しを請う暇は無い。
一方でポカチフの陸戦隊は迎撃態勢に入る。
「歩兵部隊は降車! そのまま対戦車戦闘用意! 402號と403號はここで防戦! 401が離れるまでの時間を稼げ!」
残ったトラックから兵士が降りると、建物の影から左右へと展開した。
それに倣う様に二騎の潜航艇から変形したマギアギアも武器を構えて駆逐戦車ににじり寄る。
402號と403號の武器は魚雷と一緒に積み込んでいた75㎜甲板砲だ。威力は十分でこの距離からなら光の被膜の加護があってもヴァイハーンを正面から撃ち抜ける。
その間にポカチフを乗せた401號は隊を置いて全速力で逃走した。
「よし、敵が上手く引っかかった!」
カナセはヴァイハーンに搭載されていた煙幕装置で煙を撒いた。
「このまま速やかに後退!」
そして一旦、砲撃でけん制するとヴァイハーンは彼等の前から姿を消した。
後は別の通りで反転、今度は全速力で港の方に向かった。
「このまま大将の乗ったマギアギアを追いかけるぞ!」
通りの中をハルバートが走る。
駆逐戦車は後方の敵部隊から急速に離れていくのとは逆に先行して逃走する401號に近づいていった。
「ここまでは計画通りだ……」
カナセはひとりつぶやく。
この戦闘で鍵となるのは時間と兵力だった。
路上で初めてハルバートを見た時、走行装置が破壊されていた。撃破の原因は歩兵の携行ロケットランチャーによるものだった。それは敵が歩兵からマギアギアまで強力な対戦車火器を装備している事を意味した。
あの数で正面から攻められれば流石にヴァイハーンでも太刀打ち出来ない。更に市街戦は障害物が多く身を隠しやすいため歩兵に接近され囲まれでもしたら一貫の終わりだ。
カナセの計画では初期段階で401號と他の部隊を分断させる必要があった。
「それに敵は上手く乗ってくれた!」
後は分断した401號から450番コアを奪い返す。
しかしポカチフが先に淡海に逃げ込むか分断された味方と再び合流するかすれば、カナセはコアを奪い返す機会を永遠に失う事になる。
ここからの戦いは常に時間との勝負だ。
「見つけた!」
カナセは前方で全速で走る401號を発見した。ドタドタとしたヒキガエルの足取りは重く潜水艦を無理やり陸上で運用してしまった故の無様をさらけ出していた。
おまけに敵は武器を持っていない。恐らくここに至るまでに既に消耗してしまったか大型のコアを搬送する為に放棄せざるえなかったのどちらかだ。
「逃がすか!」
カナセは401號に追いつくと駆逐戦車を背後から衝突させた。
ぶつけられた401號は無様にも通りを転がる。
「うわああああああ!」
艦橋内でポカチフが叫んだ。
更に駆逐戦車は401號の前に出るとモーフィングして闘神マルケルス・ヴァイハーンへと姿を変えた。
「450番コアを返してもらうぞ! それと柄じゃあ無いがビンズ・デンの仇も晴らさしてもらう!」
無線機ごしにカナセが怒鳴る。
「おのれ、ヨシュアの魔煌士め! どこから涌いて出おった!」
それに答えるかの様にポカチフが大声で喚く。
闘神ヴァイハーンは105㎜砲を捨て、ファイティングポーズを取った。
今回の目的は撃破ではない。中のコアを奪い返す事こそ本命だ。不用意な砲撃は大事なコアを傷付けるだけだ。
それに呼応するかのように401號も低く構えた。
「舐めるなよ、ヨシュアの魔煌士!」
「行くぞ、髭親父!」
「突っ込め、艇長!」
今度は人の形と潰れたカエルの二騎のマギアギアが真正面からぶつかった。
互いが取っ組み合い、壮絶な力比べが始まる。
「ぐぬぬぬ……」
「ぐぬにぃ!~」
双方、コア・モーターの最大出力は700煌力。どちらも一歩も引かず、押し込み押し返されを繰り返す。
「フンッ、やりやがる!」
結局、力比べは引き分けだ。しかしのんびりもしていられない。後続の敵部隊が追い付いてくれはカナセは450番コア奪還の機会を失う。
しかし事態の深刻さから言えばポカチフ側も変わらなかった。
「こんな所で足止めを喰らうとは……」
ヨシュア防衛隊の増援が押し寄せれば部隊は全滅、もはや総裁への名誉挽回どころではない。
「艇長、貴官に一任する。存分に戦え」
ポカチフが後ろから魔煌士兼艇長の肩を叩く。
すると艦内の主導権が艇長に移った途端、401號の動きが変わった。
ヒキガエルの鼻先から穴が開き火焔が吐き出される。
「うわっ!」
突然の火炎放射がヴァイハーンの目の前を覆う。
「マギアフレイムだって?」
カナセは思わずたじろいだ。
火炎放射は古代から使われる一般的な攻撃魔煌技だった。
しかし多用されていたのは剣と盾で異界の召喚獣を駆逐していた時代までで四周を鋼鉄の装甲版で囲われた戦闘車両への効果は限りなく薄い。
それは潜航艇のコアを火力の源に用いても同じだ。
ヴァイハーンの装甲を幾ら焼いても火焔はカナセの元まで届かない。
しかし視界を塞ぐ分には充分に効果を発揮した。
「しまった!」
相手の姿を見失った直後、今度は左側から凄まじい衝撃が襲い掛かる。
「がぁ!」
ガツンッ!という金属音の直後、カナセの体が操縦席に叩き付けられる。
まるで卒倒しそうな衝撃だ。
同時に吹き飛ばされたヴァイハーンが通りに立っていた三階建ての民家と衝突した。
レンガ造りの壁には大穴が空き、部屋の中にヴァイハーンの全身がめり込む。
「うわあああああああ!」
更に民家の二階の床が抜けると倒れたヴァイハーンの上に倒壊し生き埋めにした。
「な、何だ? 何が……おこった……」
意識朦朧とする中、カナセが視察孔から外を眺める。
すると信じられない物を目撃した。
先ほどまでヒキガエルを模していた401號が形を変え通りからこちらを睨みつけていたのだ。
今では二本の脚で直立する鉄巨人と化してヴァイハーンににじり寄る。
「多段変形だって?」
間違いなくそれは二回の変形を終えた潜航艇の姿だった。
しかも401號の両腕は五本の指先ではなく巨大な鉄槌に変わっていた。それは最初から格闘戦に特化した強力な打撃武器だった。
「あれで……殴られたって事か?……」
カナセはその事実に愕然とする。
先ほどまではあんな姿ではなかった。それどころかマギナギアを更にもう一段変形させられる大技が在った事すらカナセは今の今まで知り得ずに居た。
「こんな事、師匠から一言も……」
しかし茫然とするカナセの前に更なる攻撃が繰り出された。
瓦礫に埋まったヴァイハーンに向かって今度は右腕のハンマーが振り下ろされる。
ヴァイハーンはハンマーから逃れようと瓦礫を掻き分けながら慌てて起き上がる。しかしそれも叶わず、401號のハンマーはヴァイハーンの右肩を強打した。
「ぐわぁ!」
勢いに負けたヴァイハーンが再び飛ばされ民家の壁を突き破り、今度は隣の棟のアパートの壁に頭から突っ込んでいく。
「うう……」
度重なる殴打でカナセは卒倒寸前だ。
しかし401號の容赦ない攻撃は尚も続く。
左腕の鉄槌の先の爪でヴァイハーンの首を引っかけるとそのまま先ほどまで居た通りに向かって投げた。
ヴァイハーンは通りの真ん中で転がされ、そこに401が駆け込むと、闘神の胴体を右脚で蹴り飛ばした。
ヴァイハーンの身体が宙を浮き、今度は通りの反対側の銀行の壁と接触する。
銀行の壁は思ったよりも頑丈で闘神は背中から壁にぶつかると立ったまま止まった。
そこへ401號が歩み寄り、今度は両腕で殴打を始めた。
左から右への続けての打撃! その度に鉄槌が闘神の顔面と胴体に食い込む! ヴァイハーンを襲う流れる様な連続攻撃。強靭な高張力鋼耐圧殻で作らてた鉄槌で滅多打ちに痛めつけられる鉄の闘神。401號の優位が揺らぐことは無い。
「がぁ! くっ!」
殴られた衝撃が中のカナセをも打ちのめす。その素早い動きに付いていけずヴァイハーンは401號の激しい攻撃に成すがままだ。
「フンッ、どうだ! 手も足も出まい!」
それを眺めながらポカチフが401號の中でほくそ笑む。
「こんな魔煌技があるなんて……」
一方でカナセはヴァイハーンの中で打ちひしがれていた。
そして自分の不甲斐なさに歯を軋ませる。
確かにカナセは師匠から伝授された。マルケルス神技は強力な魔導技だった。同じコアを使った場合のインドラ系のマギアギアよりも高い能力を発揮する事ができる。
しかしカナセの魔煌技術は師匠からの伝承以来、一歩も前に進んでいなかった。言い換えればモーフィング・マギア以外の戦闘魔煌技が扱えないという事だった。
実際の魔煌技の世界は多彩で奥が深かった。多くの魔煌士が九曜神技の幾つかを併用して学び、使う事を好む。
九曜神技の間に宗派や学派による派閥争いは一切存在しなかった。
誰もが自身の能力や目的に合わせ自由に魔煌技を学び、組み合わせ、最終的に自分だけの魔煌大系を作り上げる。逆に一系統の神技に固執し極めようとする者の方が稀だった。
そんな魔煌士の世界の趨勢の中、401號の艇長はマギアギアを用途に合わせて変形させるという自己の魔煌体系を作り上げたのだ。
逆にカナセは師匠から伝授された神技のみに満足し、それ以後の自身の発展の為の鍛錬を怠った。
そのツケが今、ここで現実となって本人に襲い掛かって来たのだ。
徹底的に痛めつけられたヴァイハーンがまた石畳の上で倒れた。
外殻を魔煌技で成形し直し最適化された鉄槌の威力は絶大だった。その打撃の衝撃波は光の被膜を超え、中のマギライダーの体まで傷付いていく。
なのに一方的に殴られるばかりで手も足も出せない。
徹底的に打ちのめされた闘神は石畳の上に伏すしなかい。
「フアハハハ! 決まったな、どこぞの魔煌士よ!」
401號の中で勝ち誇るポカチフの笑う声が響く。
悔しい。しかしこれも自身の無知と怠惰が原因、悪いのは誰あろう自分なのだ。
「だからって……はい、そうですか、で納得出来るわけ無ぇだろ!」
カナセは残った気力を振り絞ると、ふらつく足で再びヴァイハーンを立ち上がらせた。
しかし損傷が激しく正面からやり合うだけの力は残っていない。
「フンッ! まだやる気か、あの魔煌士!」
ポカチフは嘲り哂う。しかしポカチフも何時までも関わっていられる暇はない。
今、この時にもヨシュア防衛隊の増援がここに押し寄せてくるかもしれないのだ。
「止めを刺せ。遊びは終わりだ」
ポカチフは艇長に指示を出す。艇長はうなづくと今度は右腕の鉄槌を巨大なドリルに変形させた。
「どこの誰だか知らぬが。ここまで我等と渡り合おうとするその勇気。あっぱれと誉めてやろう!」
401號は満身創痍のヴァイハーンに向かってドリルを回転させた。
その鈍色の回転錐の先には傷付いたカナセが居た。
401號はヴァイハーンに向かってドリルを突き入れた。
火花を散らしながらドリルが少しずつ闘神の胸板を穿つ。
もやはヴァイハーンに逃れる術はない。
だがカナセは最後の力を振り絞って魔煌技をもう一度、発動させた。
「甦れ、ヴァイハーン!」
その直後、コアの残った煌気が注ぎ込まれ傷ついたヴァイハーンの騎体を再構築していった。全身の損傷はドリル痕を除いて一瞬で修復され、元の猛々しい闘神へと復活していく。
「なにぃ!」
戦闘の最中にほとんどしゃべらなかった艇長が叫んだ。
しかしドリルの先端は完全に正面の獲物を捕えたままだ。
それは逆に蘇ったヴァイハーンですら逃げられない事を意味した。
だがそこへ回転するドリルにヴァイハーンの両手が掴み掛かる。
「捕まえた!」
しかしドリルの刃は止まることなく、闘神の両指は回転する刃先に負けボロボロと削り取られていく。
「もう、諦めろ! 貴様は負けたのだ!」
カナセの往生際の悪さにポカチフが死ねと吠える。
それでも血気に燃えるカナセは最後のチャンスに全身全霊を注ぐ。
確かに自分にはマギアギアを変形させる知恵も無ければ魔力も無い。しかし今持っている物の全てをこの瞬間につぎ込めば……。
「俺は勝てる!」
カナセの気迫は僅かに残った700煌力の胆力を一気に燃焼させた。
ヴァイハーンの脚力が全力で石畳を蹴り、両脚を地面から浮かせる。
その勢いに任せて闘神の身体は胸板を穿つドリルを軸にぐるりと回転させられた。
天地が逆転する感覚。カナセの視界に映ったのは逆さになった401號の司令塔だった。
「行けぇえええええ!! ヴァイハーン!」
カナセがヴァイハーンの右脚を大きく振り上げた。
そしてそのまま401號の司令塔目掛けて撃ち込む。
「一蹴突貫! 超弾旋迅脚!」
司令塔にヴァイハーンの全てを注ぎ込んだ回し蹴りがさく裂した。
古代パンクラチオンでは延髄切りと呼ばれる必殺の足技だった。
その蹴撃はドリルの回転力まで加わった事で更に威力を増し、高張力鋼耐圧殻で作られた司令塔の側面に大きな陥没痕を刻んだ。
そして陥没痕の向こうにはポカチフと艇長が居た。
「なっ!」
突然、自分の真横で分厚い外殻が隆起しポカチフが狼狽える。
だがそれだけでは終わらない。直後に鋼の外殻に裂け目が入ると、そこから半壊したヴァイハーンの右脚が飛び込んできたのだ。
一瞬の出来事だった。
司令塔に居たポカチフと艇長は呆気なく右脚に押し潰さた。
そして勢いに押されたまま、今度は401號の巨体が石畳の上に転がった。
転倒した途端、特殊潜航艇401號は司令塔に大きな陥没を残したまま、船内に孕んでいた450番コアを石畳の上へと吐き出した。
そしてモーフィングの魔法が解かれると、潜航艇は陸に上がったガラクタに成り下がり、その艦歴を閉じた。
潰れた司令塔の中ではポカチフと艇長が並んで即死していた。
そんな鉄屑の横では戦いを終えたヴァイハーンが石畳の上に突っ伏していた。
胸板に深く突き刺さっていたドリルは引き抜かれていたもののコアも力尽き、闘神の姿は解け元の駆逐戦車にも戻れずバラバラになり朽ち果てていった。
それは煌気の力を残らず使い果たしたマギアギアの末路だった。
機械の屍の中から人影が立ち上がった。
それは全身傷だらけのカナセ・コウヤだった。
辛くも401號に勝利したカナセは450番コアの前に立つとその黒いガラス玉にしがみ付いた。
そして何も言わず気を失なった。
やがて大勢の兵士達が450番コアの下に集まってきた。
彼等はトラスニークの危機に駆け付けたヨシュア陸軍の増援部隊だった。
既にポカチフの残りの陸戦隊はこの増援部隊によって撃破されていた。
もうこのヨシュアで450番コアを奪おうとする者は居ない。
同時にそれはトラスニークに平和が戻った事を意味した。
そんな中、兵士達は450番コアに掴み掛かったまま動こうとしない少年を見て目を丸くした。
彼等には少年がヨシュアの宝である箱舟のコアを守っている様に思えた。
だがこの少年が何者であるか、それを知る者はひとりも居なかった。
「おい、大丈夫か?」
ひとりの兵士が少年に声を掛けた。
だが少年は傷だらけのまま呼びかけに答える事は無かった。
それでも彼の眠った顔は達成感で満ち溢れ、笑っている様に見えた。




