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第19話 姉のこころ・妹のこころ

 上空から十二機の水上機がトラスニーク上空に飛来した。数少ないウラ鉄の水軍航空隊の爆撃機だ。トラスニークの防空網を潜り抜けて来た爆撃隊は急降下を行うと翼の下にぶら下げた爆弾を投下した。

 市内で爆発が巻き起こり罪もない市民達に襲い掛かる。

 爆撃は市街地を進軍するポカチフの陸戦隊を援護する為の露払いだった。

 援護を受けたポカチフ率いる陸戦隊は順調に通りの中を前進する。

 その進軍の煽りを受けた形でトラスニーク市民達は大混乱の渦中にあった。

 誰もが敵からの攻撃に右往左往し、ある者はその戦火に巻き込まれ負傷する。

 その逃げ惑う群衆を避けながらカナセとクレアの乗るトラックは大通りを逆走していた。

「クソッ! 邪魔だなぁ! 退けよ! 道を塞ぐな!」

 カナセは罵りながらクラクションを鳴らし続ける。逃げ惑う市民達に道を塞がれ、トラックは足止めを何度も喰らっていた。

 そして時折、爆撃による爆音が聞こえる。

「まだ爆撃は遠いな。けど奴等、一体、何を狙ってるんだ?」

 ハンドルを握りながらカナセはつぶやく。カナセはまだ敵の本当の狙いを判っていない。

 しかし彼の横ではクレアが黙り込んだまま暗い表情を浮かべていた。

「大丈夫、ミリアは無事だよ。あの子は賢い子だ。上手く逃げてくれてるよ」

 先ほどからそうカナセは励まし続けた。

 しかしクレアの気持ちが晴れる事はない。組合本部でミリアが無事で居てくれる保障など何処にも無いからだ。

 それでも二人の乗るトラックは何とか無事に組合本部前に辿り着いた。

 幸い、ポカチフの陸戦隊より早い到着だった。

 だが玄関前にトラックを横づけする直前、本部の建物から人影が飛び出してきた。

「危ない!」

カナセが咄嗟にブレーキを踏んだ。甲高いスキール音が遠くの爆発音と混ざり合う。

 ふたりは慌ててトラックを降りると人影の安否を確かめた。

「大丈夫ですか?!」

 最初に声を掛けたのはクレアだった。

「いゃああああああああああ!! トラックに轢かれたぁああああああああ!! し、死ぬう~~~~~~~~!!」

 トラックの真正面で男が仰向けに倒れたまま狂ったような悲鳴を上げた!

「痛い痛い痛い~~~~!!。足がぁ! 右足の骨がつぶれたぁ~~~! お医者! お医者様を呼んでぇ~~~~~~~!!」」

 そして左足を両手で掴みながら泣き叫ぶ。

 男は痩せっぽち中背で頭の黒髪を見覚えのあるキノコの傘の様に切りそろえていた。

「大丈夫、足が痛いの?」

 クレアが心配げに男に声を掛けた。

「痛い! 痛いよ~。今すぐ救急車を! お医者を! 呼んでくれないと死んじゃう~」

 男は声を張り裂けんばかりに騒ぎ続ける。そして大袈裟に苦悶の表情を浮かべた。

 そんな男の態度を見かねてカナセは拳を振り上げた。

 そして一発、男のキノコ型の頭部にポカリとゲンコツをお見舞いする。

「あ、痛っ!」

「やかましいぞ! ちったぁ静かにしろ!」

 殴りつけたカナセを見てクレアの顔が青ざめる。

「ちょっと、カナセ君! 何してるの?! この人、私達の車で怪我したのよ!」

「轢いてなんてねぇよ! こっちは1mも前で急停車させたんだ! 自分で勝手に素っ転びやがっただけだよ!」

「そうなの?」

「失敬な! 僕は確かにこのトラックにぶつけられて右の足を……」

 ポカリ! 男が反論している真っただ中、カナセが二発目を浴びせた。

「痛い! また殴った!……」

「うるさい! 右足が痛ぇはずなのに何で左足押さえてるんだ、このタコ! これ以上、詰まんねぇ御託を並べると今度は本当にミンチになるまで轢き殺すって、あれ?」

 カナセはウリナリ瓢箪の様な青い顔を見ながら脅すのを止めた。

「お前、どっかで見た顔だな?」

「どうしたの?」

「こいつ何処かで会った気がするんだけど……」

「そうなの? って……ああっ!」

 クレアがウリナリ顔を眺めながら突然、声を上げた。

「あなた、トギス・エニール!」

「ひえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「知り合いか?」

「知り合いも何もタモン・エニールの従弟よ。村に押し寄せて来た時に居たでしょ? その時、秘書をやってたのが彼よ」

「そう言えば……」

 確か、こんな男がタモンの傍に居て怒鳴られていた様な気がする。

「こいつ、国奉隊の生き残りか!」

 そう言いながらカナセはトギス・エニールの胸倉を掴む。

「い、痛い! 何するんだよ!」

「だったら、また悪さをしないようにここで始末しとかなきゃな」

「や、止めてぇぇぇ!」

 カナセの剣呑な言葉にトギスが悲鳴を上げる。

「カナセ君、止めなさいよ」

「けどよ、クレア。こいつらのせいで大勢の人間が迷惑を被ったんだぜ」

「僕は悪くない! タモンに無理やり引っ張り回されて、小間使いに使われていただけなんだ! 人だって殴った事もないんだよ!」

「ふん、判るもんか!」

「それより、カナセ君。ちょっと待って、彼に聞きたい事があるわ。離して上げて」

 そうクレアに請われてカナセはやっとトギスを解放した。

「ねえ。あなた、今さっき組合の本部から出て来たわよね?」

「で、出てきたから何だって言うんだよ!」

「中で小学生の子供達を見かけなかった?」

「ああ、見たよ……。事務員の女の子が一緒に連れて歩いてた……」

「ミリア達は無事なのね!」

 トギスの言葉を聞いくや否や、クレアが立ち上がった。そして我先に本部に向かって走っていった。

「クレア、ひとりで動くと危ないよ!」

 カナセがクレアを止めようとする。しかしクレアは聞く耳を持たず本部内へとひとり入っていった。

「クレア……。ちっ、しゃあねぇなぁ!」

 カナセもクレアの後を追おうと立ち上がった。そして残っていたトギスの方を見る。

「じゃあ、俺達も行くぞ。おいお前、その子供達が居たって所まで案内しろ」

「案内って、冗談じゃないよ! もうすぐそこまで敵が来るっていうのに!」

「四の五の言わずに連れて行くんだよ! 断ったら、ここでそのダッセェキノコ頭の毛を残らず引っこ抜くぞ!」

「ひいいいいい……判った! 判りましたよ! 案内すれば良いんでしょ! なんて野蛮な人なんだ……」

 カナセの脅迫を前に男は震えながら立ち上がった。そして渋々ながら組合本部の中へと案内する。幸い、両脚とも普通に機能していた。

「全く、なんで僕がこんな目に合わなきゃいけないんだ……。叔父さんがここを辞めるっていうから荷物を取りに来ただけなのに、偶に組合に来てみたらこれだ!」

「叔父さんって誰だよ」

「ボン・エニール! 組合員なら知ってるだろ? タモンの馬鹿のせいで組合に居られなくなって辞表を書いたんだよ。一族のひとりが組合と大喧嘩したっていうのに、居られる訳ないじゃないか」

「なるほど、その爪腹を切らされたって事か」

 それが事実ならあの小憎らしいマッシュルーム頭が気の毒に思える。

 エニール課長がここに居られなくなったのは明らかにトバッチリだ。

「けどお前はよく他人事で居られるな。国奉隊のひとりの癖に」

「僕は荒事が嫌いでね。襲撃には反対したんだ。なのにあのタモンのせいで僕まで悪人扱いされて本当にいい迷惑だよ!」

 そう言ってトギスは自身が国奉隊に居た事を全く反省しようとしない。

「こんな奴も居るんだな……」

 その神経の図太さにカナセは半ば呆れ返る。

「それでエニール課長は今、どこに居るんだ?」

「自宅謹慎してるよ。まあ、ほとぼりが冷めたら一族の経営する企業のどれかに役員待遇で再就職するはずだろうけどね」

 図太いはずだ。どんなに失敗してもエニール家の一族というだけで復活するチャンスが回って来るのだ。

 カナセは手品の種明かしをされた様で嫌な気分になる。

 しかし今はエニール家の事情なんてどうだって良い。

 ミリアの安否を確かめるのが最優先だ。

 やがて二人は組合本部の中へと入っていた。

「ミリア! ミリア! 返事をして頂戴!」

 玄関のホールの中ではクレアの妹を探す声が何度も木魂していた。

 玄関前には今も450番の巨大コアが鎮座する。カナセにとっては久方ぶりの対面だ。「こっちだよ……この建物の二階の奥の廊下で見たんだ……」

 それを聞いたカナセは一階を走り回るクレアを呼び戻した。

「クレア、こっちだ! 戻って来てくれ!」

 カナセはクレアが戻って来る間に建物の中を見渡した。受付にもフーレルの姿はない。

「人っ気がしないな?」

「他の事務員や会員に人はどうした?」

「逃げたんじゃないの? 僕が来た時にはその事務員さんと小学生の子達以外は空っぽだったから……」

「じゃあ、皆、ここに居る子供達を置いて逃げたっていうの?」

 戻り際にトギスの言葉を耳にしたクレアが声を上げた。

 だがそんなクレアに対してキノコ頭は答える。

「そりゃしょうでよ? 皆、自分が一番かわいいんだ。誰も見ず知らずの子供の事なんて知ったこっちゃないよ! 僕だってそうしようと思ってたのに! なのに、いきなり車に轢かれそうになって君に殴りつけられた!」

 平然と保身を口にするトギスを前にクレアは唖然とする。

「そんな……弱い人を置いて先に逃げるなんて……」

 ヨシュアの為に戦うのが当たり前の彼女にしてみれば弱者を置いて逃げる事自体が考えられない発想だった。そしてトギスの言った事が真実ならば、その考え方が組合本部の中でさえ蔓延している事になる。

「そんな事ないさ、クレア。きっと前線に出て戦ってる奴等もいるはずだ。クレアだったらそうするだろ?」

 カナセはそう言ってクレアを慰めた。

「それに今はそんな事で頭抱えてる場合じゃない。すぐにでもミリア達を見つけなきゃ」

「ええ、そうよね……」

 一方、さっきのトギスの話を聞いてカナセは知る事になった。同じヨシュアの人間でも戦争に対する温度差がこれほどあるのだと。

「確かにクレアの考え方は正義だ!」

 だがこのトギスという男の考え方も判らなくはなかった。

 誰だって死にたくない。見ず知らずの人間の為に危険を冒したくないとうのも頷ける。

 自分もトギスの言葉にカナセも一瞬、怒りを覚えたがそれは残された小学生の中にミリアが居たからであって弱者放置に対する普遍的な怒りではなかったはずだ。

「そう考えると命を張ってでも戦おうとするクレアの考え方が特殊なのかもしれない」

 そんな時、頭に浮かんだのがフーレルの言葉だった。

「その生真面目のせいで先走っちゃうところがあるの。だからね、カナセ君……何かあった時、あの子を守って上げてね……」」

 きっとフーレルも知っていたのだろう。

 クレアの思い込みが彼女自身の命を蝕むほど危険な事を。

 そしてその危険性は妹のミリアも気付いてた。

「だから二人はそれを俺に託したんだ……」

 今すぐにでもクレアを何とかしたい。そんな気持ちがカナセの内で抑え切れなくなる。

「それもこんな時に……」

 いや、こんな差し迫った時だからこそ何とかせねばという思いに駆られているはずだ。

 やがて三人が二階の奥にあった倉庫に辿り着くと扉を開けた。

「動かないで!」

 カナセが扉を開けた途端、中から聞き覚えのある声が聞こえた。

「フーレル!」

 今度はクレアが呼び掛ける。

「クレアなの?」

「良かった、無事で……」

 クレアが安堵で胸を撫で下ろすと、その先では拳銃を構えたフーレルが片膝を突いて待ち構えていた。

 彼女の背後には十人ほどの小学生が身を寄せ合ってしゃがんでいた。

「お姉ちゃん!」

 子供たちの中からミリアの声が聞こえた。

「ミリア!」

 クレアが呼びかけるとミリアは駆け寄って涙声で抱き着いた。

「ああ、お姉ちゃん……」

「もう大丈夫よ、迎えに来たわ……」

 二人は抱き合いながら再会を喜びを分かち合う。

 それを横目で見ながらカナセも胸を撫で下ろした。

「気丈に振舞っていてもやっぱり女の子だな……」

 そして今度はフーレルの下に駆け寄った。

「フーレルも無事だったか? 子供達の中に怪我人は?」

「大丈夫よ……」

 しかし張りつめていた緊張の糸が切れたのかフーレルはその場で大きく溜息を吐く。

「肩を貸そうか?」

「ありがとう、でも大丈夫。それよりも……」

「判ってる。下にトラックを止めてある。皆で脱出しよう」

 カナセの脱出の一言に皆、安堵の笑みを浮かべた。

 そんな中、児童のひとりがトギスを見つけて指差した。

「ああ、このお兄ちゃん、助けを探してくるって言って逃げた人だ!」

 それを聞いてカナセが嗤う。

「ふん、悪い事は出来ないな。子供にまで明け透けに見られてるじゃないか?」

「失敬な! 逃げた訳じゃない! 現に言った通り助けを連れてきただろ?」

 そう言ってムキになって言い返した。

 だがそれは玄関ホールの時とはまるで逆さまの発言だったのがおかしい。

「へへ、物は言い様だな……じゃあ、お前にはひとつ頼み事を聞いてもらおうか」

「お前じゃない! 僕にはトギス・エニールっていうちゃんとした名前があるんだ!」

「俺はカナセ・コウヤだ。ところでトギスは車は運転できるか?」

「馬鹿にするなよ、運転免許くらい……」

「だったら受け取れ、トギスの旦那!」

 カナセはトギスにトラックのキーを投げつけた。

「先にひとっ走りしてトラックで待機だ。この子達を乗せて脱出するんだ」

「ええ?! 何で僕が?」

「決まってるさ、カッコいい所、見せるんだよ。出来るだろ? だが断った時は……」

「わ、判った! 判ったよ! やれば良いんだろ!」

「期待してるぜ、トギス・エニール!」

「ふん!」

 トギスが鼻を鳴らすと一足先にトラックへと向かった。

「フーレル、他にはぐれている子とかは?」

「いないわ。生徒はここに居る子で全部よ」

「じゃあ、善は急げだ。今すぐここを離れよう」

「ならカナセ君にはこれを上げるわ」

 フーレルはカナセに手にしていた拳銃を渡した。

「なんでこんな物があるんだ?」

「本部の備品よ。最近は物騒になってこんな物まで置くようになったのよ」

「受付嬢にピストル一丁で戦えってか? 世も末だな……」

 やがて一行は階段に降りると玄関ホールの450番コアを横切って本部の外に出た。

 玄関前にはトギスの乗ったトラックが停まっている。

「早く乗って!」

 窓から顔を出したトギスが皆を急かす。

 カナセ達はトラックに駆け寄ると早速、子供達を後ろの荷台に乗せ始めた。

「皆、背を低くして捕まってろ。絶対に立つんじゃないぞ」

「フーレルは前に乗って。トギスさんの道案内を」

「判ったわ」

 トラックに皆を乗せると路上ではカナセとクレアだけになった。

「さあ、クレアも乗るんだ。敵は待っちゃくれないぞ」

 しかしクレアからは意外な答えが返って来る。

「いいえ。私はここで450番コアを守るわ」

「コアを守る?」

 カナセが聞き返す。

「だって誰かがここに居ないと。あれに傷でも付いたら大変よ」

「じゃあ、俺が残る。クレアはトラックの護衛だ」

 そう言ってカナセは先ほどフーレルから預かった拳銃を今度はクレアに渡した。武器を受け取った瞬間、クレアは首を横に振った。

「そんなの駄目よ。あれはヨシュアの宝……いいえ、魂よ。失われれば人々の失意は計り知れないわ。それに……こればかりはヨシュアの民の手で守らなければ意味が無いの」 

 そう答えて自分が残る意思を示す。  

「へぇ、余所者の俺じゃ信用できないって事か?」

 だがそれを聞いたカナセはすぐさま厭味ったらしく切り返した。

 一方、思いも依らぬ返答にクレアの方が困惑する。

「そんな事を言ってるんじゃないの。何て言えば良いのかしら……。別にカナセ君を除け者にしている訳じゃないのよ」

 そんな時だった。クレアの衣服の袖を引く者が居た。

 振り向くとトラックの荷台の上で不安げな表情を浮かべるミリアが居た。

「どうしたの、ミリア。お姉ちゃん、今忙しいから後に……」

「クレア、悪いけどミリアは君の秘密をとっくの昔に知ってるよ」

 カナセはクレア前ではっきりと答えた。

 それを聞いた途端、姉は困惑する。

「ちょっと、カナセ君。こんな時に……」

「冗談で言うわけ無いだろ」

 カナセの刺さる様な視線がクレアを睨みつける。

 二人の視線に挟まれた時、クレアの表情は固く強張っていった。

「カナセ君……まさかあなた、しゃべったの? 妹にしゃべったの?!」

「そんな事しなくてもミリアは最初からお見通しだったんだ。本当に賢い子だよ。そして自分の口ではっきり言ったんだ。お姉ちゃんが死ぬのが怖いって!」

「そんな……」

 カナセの告白にクレアは茫然としながら妹を見る。

 妹は姉を見つめたまま彼女の袖をきつく握った。

「ミリア、お姉ちゃんは……お姉ちゃんはね……」

 クレアはたどたどしい言葉でつぶやく。だが気持ちが追い詰められて言葉が見つからず、何を言って良いのか判らない。

 そんなクレアをカナセが突然、抱き抱えた。

「きゃ!」

 クレアが短い悲鳴を上げる。

 だがカナセはそれを無視するとそのままトラックの荷台に彼女を放り込んだ。

「カナセ君!」

「トギス、発進だ」

「発進って、いいの?」

「ああ、俺がここに残ってコアを守る」

 聞き返すトギスに向かってカナセが瞭然と答えた。

 だが我に返ったクレアがそれを呼び止める。

「何を言ってるのよ、あなたが乗らなきゃ!」

 クレアはまだ自分が残ろうとする。しかしカナセは首を横に振る。

「クレアはトラックが上手く逃げられる様に後ろを誰かが固めておかなきゃならない、それにもう荷台は村のコアと君等で満杯だ」

「駄目よ、そんなの! やっぱり私が……」

「それが駄目だって言ってるんだよ!」

 聞き分けの無いクレアに向かってカナセが怒鳴った。

「妹が見てる前で姉の君がまた居なくなってどうする?! そんな所、見せられると思うか? 妹の気持ちを知った矢先にそれじゃ、ミリアが可哀そうだって言ってるんだ! 骨董品のコアと妹の気持ち、どっちが大切かなんて判り切ってるだろ!」

 そう言われた途端、クレアが再び妹の顔を見る。ミリアの顔は不安で泣きそうだった。

 クレアは妹の表情に気持ちが押しつぶされそうになる。

 そんなクレアに向かって、カナセはこう言った。

「嘘はもうここで終わりにするんだ。ミリアに辛い思いをさせちゃ駄目だよ。お姉ちゃんなんだからさ」

 カナセの言葉にクレアが震えだす。そして遂には堪え切れず涙を流しながら妹を抱きしめた。

「ごめんね、ミリア!。ごめんね……。ごめんね……」

 涙声で謝り続けるクレアの声がカナセには辛い。

「トギス、行ってくれ!」

 カナセは掌でトラックのドアを叩いた。トラックはカナセを置いて走り出す。

 その瞬間、クレアは顔を上げ、カナセに向かって一言だけ言い残した。

「カナセ君、死なないで! 必ず生きて帰って!」

 そんな姉の横で妹が寄り添っていた。姉妹は揃ってカナセを見詰め続ける。

 カナセは小さくなっていく二人に向かって手を振り続けた。

 やがてトラックの姿が消え組合本部の前はカナセ一人だけになった。

「さあ、一丁、かっこいい所見せてやるか!」

 カナセは肩を回しながら自信満々に言った。それはこれから始まる戦いへの決意の表れでもあった。


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