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第1話 声

 第01號首都ゴディバでは朝からとあるイベントが執り行われた。

 それは三ヶ月以上前に起きた下層界崩落の際の犠牲者への合同追悼式だった。

 あの下層界の崩落から今日で丁度、百日が経った。

 事件で死傷した市民の数は判っているだけで1360人。

 そしてそれに数倍する家や家族を失った被災者達。

 それら全てが貧困層の一般市民だった。

 しかし実効支配者であるウラ鉄側からは何の事後処理も行われなかった。

 死亡者及び行方不明者はそのまま捨て置かれ、家や財産を失った者達にも何もされないままに放置されていた。

 そして今も最下層は床が抜けたまま、下を望めば遥か地表が伺える様な有様だった。

 崩落は下層界の床を支える機材の老朽化による不慮の事故と発表されウラ警隊長ジブル・シラッセルの名と暴挙は伏せられたままとなっていた。

 だがその発表を信じる下層民はほとんど居なかった。

 逆に被災者の放置が自分達とその家族は戦争継続の物資節約の為の口減らしで殺されのだという思い込みを産み、その憤懣を彼等の中で否応なく蓄積させていった。

 そんな中で今回の追悼式は行われる。式の締め括りには参加者による下層界から上層界に向けての葬送の行進が行われる予定だ。

 上層界への葬送は当初、ウラ鉄側が許可を出さなかった。

 追悼による行進をウラ鉄側への抗議と受け取られる事を嫌った為だ。

 しかし追悼式の主催者である慈善団体とその支持者の強い働きかけにより何とか可能となった。

 支持者とは上層界で生まれたエリート達であったが、中には下層界からの成り上がりの者達も含まれていた。

 そんな人々の後押しにより追悼式と行進は無事、開催される運びとなった。

 始まりを知らせる赤い花火が上がった。

 以後、追悼式は当初、平和裏に行われた。

 そして午後になって追悼式の舞台は下層界から上層界に向かっての葬送に変わった。

 当初、葬送の行列は厳かなものだった。

 葬送は飽くまで被害者追悼の為のものであり参加者も喪服姿の遺族達だけで、ウラ鉄が危惧していた様な政治的意味合いは感じられなかった。

 だが日の落ち始め、夕方過ぎになってから行進の様相は変わっていく。

 葬送の中に一般の下層界の住民達が加わり上層界の大通りを練り歩き始めたのだ。

 参加者は時間の経過と共に増え続け、遂には大通りを埋め尽くすほどの黒山のひとだかりとなった。

 どこの通りも人、人、人、で溢れ返る。

 そしてどこから持ち出して来たのか、ウラ鉄に対しての抗議文を乗せた垂れ幕やプラカードを掲げ、下層界崩落の責任を追及する抗議のシュプレヒコールを上げ始めた。

「ウラ鉄は事件の真相を明らかにしろ! 総裁は責任を取って辞職しろ!」

 それは今までウラ鉄の圧政により封じられていた市民の声だった。

 暴力と権力の恐怖を振り切り、初めて上げた人々の声だった。

 ウラ鉄が危惧した通り、葬送の為の行進はやがてウラ鉄への大規模な抗議活動と変わる。

 参加者の数、およそ150万人。ゴディバシティ始まって以来の大行進。

 上層界も下層界も関係ない、全てがウラ鉄の支配に対し不満を持つ人々の反旗の胎動だった。


 行進の参加者は追悼式の予定時間が過ぎてもそこに居座り続け抗議活動を続けた。

 そしてその行進中の一角で遂に騒ぎが起きる。

 参加者の一人が掲げていたプラカードを、警備に当たっていたウラ警が没収しようとしたのだ。

 プラカードを取り上げられた途端、両者の間でたちまち口論になる。

 最初は当事者同士のいざこざだったのが次第にエスカレートし、途中から周囲を巻き込んだ押し合いに変わった。

 そしてここで決定的な事件が起きる。

 ウラ警が圧を加えて来る参加者に向かって威嚇の発砲を行ったのだ。

 銃声が轟くと、騒ぎはたちまち参加者の間に広がっていく。

そして参加者の一部が暴徒化し、投石を繰り返しながらウラ警の人の壁を押し返すと、抗議活動は危険な暴動へと発展していった。

 群衆で溢れ返った通りが瞬く間に大混乱に陥り、市街地の方々で火の手まで上がった。

 建物が焼かれ煙が沿道に立ち込めると、一部の下層界住民による略奪が始まった。

 上層界に立ち並ぶ商店や銀行が次々と襲撃される。

 それを止めようとウラ警が鎮圧を行う。

 しかしウラ警が幾ら力を尽くしても暴動は収まる気配はみせない。

 それどころか暴動は時間の経過と共にその範囲を拡大させ凶暴化していった。

 一方でウラ警の暴動に対する動きは鈍かった。

 当然、それには理由が理由があった。 

 まず単純に暴徒の数が凄まじく多買った為だ。

 ゴディバ市内を覆い尽くす150万人規模の暴動など誰にも経験が無かった。

 そしてもう一つ、それを止めるだけの能力をウラ警がこの数ヶ月間の間に喪失していた為だった。

 ウラ警の大隊長、ジブル・シラッセルは既に亡く、主力である第一、第二小隊も壊滅、その要を失った同部隊にかつての隆盛はない。

 その後任人事もまだ完全には定まっておらず、もはや今のウラ警はロータス国内でも三流の部隊に成り下がっていた。

 結果、部隊に不満を抱える150万人もの重圧を抑え込める力はなく、市内の暴動は更に深刻化していった。

 暴徒が通り過ぎた市街地は機能を失い無法地帯へと変わっていく。

 今や暴徒の襲撃は商店や金融業への略奪だけには留まらず市内の庁舎やウラ鉄の施設にまで及び始めた。

 暴動は日が落ち夜になっても収まる気配がない。

 そんな街の様子はウラ鉄指令本部に報告され、やっと今日の暴徒がいつもの違う事に関係者は気付かされた。

 しかしウラ警が頼りにならないのでは手の施しようがない。

 もっと強い制圧力が必要だ。

 もっと強い力が……

「……と、言うのが今の司令部の現状認識です」

「それで103に出動要請が出たという訳か」

 司令部から戻って来たリサの報告にグレン・ハルバルトが答える。

 グレンは本部にある自室の窓から外を眺めながら着替えをしている最中だった。

「リサはどう思う?」

 グレンが副隊長に尋ねる。今の彼は外征部隊の任を外され本部防衛の直営の任に就かされていた。

 理由は数ヵ月前からのロータス国内の反乱軍の攻勢激化に対応しての備えだった。

 当然、ウラ警の弱体化も原因がある。

 お陰でカナセを移送して以来、本部に乗り入れた装甲列車103東征號は隊員達と一緒にそのままにされていた。

「司令部の命令ならば出動すべきかと」

 機械人形が冷静に答えるとその間に隊長は首元のタイを粛々と結び終えた。

「そうか、私はそうは思わない」

「何故でしょう?」

「カナセ・コウヤの登場で反乱軍の戦力が拡大している。なら奴等はもう、小手先の奇襲など仕掛けて来ないはずだ」

「敵の大攻勢の噂を信じるのですか?」

「私はそれが今日だと確信する。敵はこの暴動の隠れ蓑に本部を強襲するはずだ。なのに我らが本部を留守にして暴動の鎮圧に乗り出したらどうなる?」

「恐らく、本部は我々の不在の間に陥落するものを思われます」

「今回の追悼式の行進も真相は奴等が仕掛けた罠だ。言わばこの暴動はその前哨戦だ」

「これが大攻勢の為の……我々に対する揺動だという事ですね」

「それに八ヶ国艦隊がロータス近海に出没している情報もある」

「しかし暴動鎮圧の際、市民にも被害が出るはずです。あの少年がそこまでやるでしょうか?」

「いいや。やるね、彼は。カナセ・コウヤはもう辺境の少年とは違う」

 そう答えながらグレンは最後に獅子の銀仮面で美しい面差しを隠した。

「では……」

「寝ている部下を起こせ。司令部の出動要請は無視。このまま本部で待機だ」

「了解しました」

 リサが外に出ると部屋の中はグレン一人になった。

 グレンは窓の外を眺める。深夜の街並みからは幾つもの炎の光が見えた。

 その輝きにグレンの胸が高鳴る。

「ファイタスの総統となったロータスの魔女の直弟子、前哨戦は君の一歩リードだ。さて今度はどう出るか? お手並み拝見といこうか」

 部屋を出る前、最後に戦闘魔煌士グレン・ハルバルトは嬉しそうに笑った。

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