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第20話 嘘と人情

 二人を乗せた箒は闇夜のアヌビアス上空を飛んだ。

 何かあった時の集合場所は最初の貯水池だ。

 貯水池に到着すると二人は茂った葦原の中に身を潜めた。

「ここで暫くルイス達を待つしかないな」

「皆、無事なら良いけど……」

 しかしスカルゴンを撃破した駐屯軍が勢いに任せて敗残兵狩りに乗り出せば駐屯地に近いこの辺りも安全とは言えない。

 そんな中、クレアが鞄から何やら取り出した。

「はい。カナセ君、あーん」

「あ~ん……」

 カナセが口を馬鹿みたいに開けると口内に向かって何かが飛び込んでくる。

「うぎぇ!」

 舐めた途端、凄まじい苦みが口の中に広がった。

 それはリエル家秘伝の薬草を煎じて作った飴玉だった。

「どう、疲れが取れた?」

 クレアが包み紙を仕舞いながらカナセに訊ねる。

 飴玉はとてつもなく苦かった。

 しかしリエル家秘伝というだけあって、今までの疲れが嘘の様に消えていく。

 それでもこの苦味だけは何時まで経っても慣れる事はない。

「クレア、もう疲れが取れたし、飴玉捨てて良い?」

「そんな勿体ない事、絶対にダメ! 捨てたら絶交よ!」

「そんなぁ……」

 飴玉を捨てる事をクレアに固く禁じられカナセは渋い顔だ。

「なら、せめて味くらい変えようよ」

「駄目よ。老舗の味をおいそれと変えられるもんですか」

「頑固だなぁ~」

「それに、この味が良いって言ってくれるお客さんも居るんだから」

 暫く待って居ると、葦原の向こう側、貯水池の方からボートがやってくる音が聞こえた。

「誰か来た!」

 二人は慎重に葦を掻き分け様子を伺った。

 最初、ルイス達が戻って来たのかもと思ったが、敵の偵察隊の可能性もある。

 しかしその予想はどちらも外れていた。

 現れたのは小舟に乗ったジャンに姉と呼ばれたあの女性だった。

「良かった……。敵じゃ無かった」

「もしもし、確かオリビアさんですよね」

 声を掛けたのはクレアだった。

「キャッ!」

 だが突然、暗い葦原から声を掛けられオリビアは悲鳴を上げた。

「驚かせて御免なさい。ルイスさんとジャンさんの連れの者です」

「連れって、もしかして弟の連れて来た先生ですか?」

 オリビアは船上から恐る恐る訊ねる。

「はい、私は確かに医者ですか……。弟さん達とははぐれてしまって」

 ただクレアはどう答えてよいのか判らず、ただありのまま事実を答えるしかない。

 そんなクレアの返事を聞いた途端、何故かオリビアは安堵の溜息を漏らしながら答えた。

「良かった、ジャンは約束を守ってくれたのね」

「約束?」

 約束という言葉にカナセとクレアは顔を見合わせる。

 そんな時、貯水池の向こうから平底船が走って来る音が聞こえた。

「アネキー!」

 平底船からジャンの声が聞こえた。

 カナセは葦原から立ち上がり平底船に向かって叫んだ。

「コリン! 皆、無事か?」

「カナセ?! こっちは三人とも無事だよ」

「こっちも無事だ。クレアも居る」

 しかしスカルゴンがどうなったかまでは皆目、判らない。

 もしかしたら全滅した可能性もあった。

 貯水池の片隅でカナセ達は合流した。

 しかし合流して互いの無事を喜び合う気分にはならない。

「さあ、ルイス、ジャン。説明してもらおうか! だが回答次第では、こっちにも考えがからな!」

 カナセは憤っていた。

 来てみたら嘘八百の情報ばかりで、挙句、死にそうにまでなったのだ。

 怒って当然だ。

「それは……」

 意気消沈した声でルイスが打ち明けようとする。

 だがその横でジャンが突然、平伏するとカナセの前で声を上げた。

「スマン、総統閣下! ルイスは悪くない! 全部この自分の責任だ!」


 その後、ジャンは平底船の上で頭を垂れたまま説明を始めた。

 事の起こりは一週間ほど前、姉のオリビアの娘のアーリーがある大病に掛ったという知らせが入った時だった。

医者の診断では症状は重篤で直ぐにでも大病院に入れなければならない様な容態だった。

 だが残念ながらアヌビアスのその病気を治せる医者も病院も居なかった。

 あるとすればゴディバの上層界にある総合病院しかない。

 しかし上層界の総合病院に入院出来るとは一部の金持ちと支配階層しかない。

 とても田舎の干拓地の庶民層が入れる様な病床はなかった。

 仕方なくオリビアはロータスに居る弟のジャンに医者探しを依頼した。

 それでもアヌビアスより大国のロータスなら娘の病気を治せる医者が居ると思っての頼みだった。

 姉の願いにジャンは親友のルイスと共に医者探しに奔走した。

 しかし戦時、ロータスの外へと不治の病を治す為に向かってくれる様な殊勝な医者など、どこを探しても居なかった。

 中にはゴディバの最下層で貧しい者達の治療を行っていたゴッペル先生とヨシュアで優秀な執刀医だったというソフィア・ゴッペル親子が居たが、先生は診療所を畳んだ後、解放戦線の指導者に専念しており、居場所を見つける事すら出来なかった。

 一方の娘の方も情報部勤務で正体すら掴めない。

 だがそんな中、ひとつの情報が彼等の元にもたらされた。

外国人だが高度な魔煌薬学医療に精通した優秀な魔女がこのロータスに滞在しているというのだ。

「それって、もしかして私の事?」

 クレアがそう答えるとジャンは深く頷いた。

 総統カナセ・コウヤの主席秘書官で通り名を「薬の魔女」。彼女に頼めば姪の命が救えるかもしれない。

 幸い彼女の居場所は判っている。

 団長の葬儀の際、総統直々に総督府の住所が記されたメモ用紙を渡された。

 そこに向かえば彼女に会えるはずだ。

「まさかそんな使われ方をするとは……」

 メモの話を聞いてカナセは溜息を吐く。

「ですが現在、薬の魔女様は公人の身、自分の個人的な頼みだけでアヌビアスを離れるとは思ません」

「そこで私が今回の作戦を考えた次第です」

 そう答えたのはルイスだった。

「成程、それで俺達はまんまとルイスの策謀に嵌められたって訳だな……」

 カナセは呆れ返って怒る気もしない。

 全く、ここ最近、騙されてばかりだ。

 そしてそんな陰謀にまんまと乗せられる自分も情けない。

「成程、だからここに来てみたら話が全然違って来る訳か……」

「申し訳ございません」

 ルイスもジャンの横で平伏した。

「それでスカルゴンってのは?」

「アレクシスは私の古くからの馴染みでして、アヌビアスの隣のマツモと呼ばれる干拓地国家で農閑期だけ海賊行為を行っている様な男です。一応、本人曰く義賊という事なので、襲っているのもウラ鉄関係だけです」

「成程、話は大方理解した。二人とも頭を上げてくれ」

 二人が頭を上げるとカナセはもう怒っていなかった。

 だが次の総統の一言で彼等は顔を青ざめさせる。

「ルイス、船を動力船のある方に戻してくれ。俺達はここから撤退する」

「カナセ君!」

「カナセぇ!」

 クレアとコリンが同時に声を上げた。

「撤退って、オリビアさんの娘さんはどうするの?」

「どうするって?」

「師匠に診せないとその子、死んじゃうんでしょ?!」

「お願いです、総統様。どうか娘を助けて上げて下さい!」

 今まで黙っていたオリビアが堪え切れずに懇願した。

 このまま一行を返しては娘が病魔から回復する可能性は無くなる。

 しかしカナセは首を縦に振ろうとはしない。

「騙されたのが判ったんだ。オマケにその嘘で死にそうにもなった。なのにここまでされておいて、その上親切心を出せだって? 悪いが俺はそこまでお人好しじゃあない!」

 カナセはキッパリと言い切った。

しかしカナセの言い分をクレアは否定する。

「けど、カナセ君。本当に苦しんでいるのは何の罪もない子なのよ!」

「じゃあ、クレアはその子を助けるつもりか?」

「当然よ。医者として病気で苦しんでいる人が居るのなら救うのは義務だわ」

「そうだよ。ケチケチすんなよ、総統閣下」

「誰がケチだって?!」

「コリン、あなたは黙ってなさい! カナセ君も怒らないで」

 クレアはコリンを叱った。そしてカナセを諭す。

「カナセ君、お願い、考え直して。確かにカナセ君が怒るのも判るわ。でもルイスさん達の嘘とオリビアさんの娘さんとの事は切り離して考えて上げて」

「切り離せって……」

「でもカナセ君がここで意地を通せば、オリビアさんの娘さんの病気は悪いままよ……。そして無碍に拒否すれば、この日の事であなたは一生後悔するわ!」

「……」

 そうクレアに圧されカナセは黙り込む。

 しかし暫くすると大きく息を吐いてクレアに言った。

「止めてくれよ……。まるで俺が悪人みたいじゃないか……」

「でもカナセ君……」

「オリビアさん、娘さんの所に案内してくれ。クレアに診察させる」

「カナセ君!」

「ありがとうございます、総統様!」

 娘が救われる。オリビアは目に涙を浮かべながら何度も頭を下げた。

 それを見てジャンとルイスは再び深々と頭を下げた。

「これで良いんだろ? クレア」

「そうよ、だからカナセ君の事、大好き♡」

「エライ、エライ、さすが総統閣下」

「言ってろ、師弟揃って悪い魔女め……」

 結局、カナセは振り上げようとした拳を引っ込めざる得なかった。

 一行はオリビアの住んでいる村へと向かった。

 クレアはオリビアに連れられて家の中に入っていた。

 これから不治の病に罹った娘の診断が始まる。

 それを見守る様にカナセ達は家の外で待機していた。

 コリンは傍にあった木箱の上に乗って足をぶらつかせていた。

「病気、治るといいね……」

 コリンが願う様につぶやく。

「大丈夫だよ。お前の師匠はこの手の事では超一流だ」

 そう言ってカナセはコリンを励ました。

 しかしその励ましはコリンよりもジャンとルイスの胸の内に響く。

「総統閣下、この度は……」

 ルイスが思わず声を漏らす。

 恐らく騙していた事の謝罪が姪っ子を助けた事の感謝の言葉だ。

 だがそんな彼等に向かってカナセは手を横に振る。

「礼が言いたいのならクレアに言ってくれ。姪っ子を助けたいって言い出したのは彼女なんだからな」

 そう言って二人の言葉を跳ね除けた。

 そんな冷淡なカナセの態度にルイスが黙り込む。

 だがここで彼等を許す事などカナセには到底、出来なかった。

 彼等の嘘は自分だけでなくクレアとコリンにまで危険が及んだのだ。

 それだけでも彼等の行為は目に余る。

 許せなくて当然だった。

 しかし考えてみれば二人は女の子ひとりの為に大の大人がここまで大芝居を打ったのだ。

 その覚悟と行動力はなかなか大した物だと言えなくもない。

 だがそんな事も今まで無事だったから言える言葉だ。

「さてと、診察の方はどうなってるのかな……」

 カナセは気を取り直してオリビアの家の方を見る。

 家は普通の農家の様だ。

 平底船の上で聞いた話ではオリビアの夫は以前、ファイタスの一人として戦い、そしてそのまま戦死したとの事だ。

 そして今は母子二人で暮らしている様な状態だった。

 娘の名はアーリー、子供の頃から体の弱い子だったが、父親が死んでから気落ちが酷かったとの事で、そこを病魔に侵されたのと事だ。

「聞けば聞くほど気の毒な子だな……」

 カナセは不意に思う。

 そんな中、オリビアが家から出て来た。

 治療が終わった事を伝えに来たのかと思ったがどうやらクレアに呼んできてもらう様に頼まれたらしい。

 一行はオリビアの家に入ると居間でクレアが待ち構えていた。

 そして入れ違いにオリビアは娘の居る寝室へと向かった。

 オリビアの姿が見えなくなった所でクレアが口を開いた。

「みんな、これから私がいう事を黙って聞いて頂戴。特にお母さんに聞こえない様に」

「何かあったのか?」

「今は私が持ってきて薬で落ち着いているわ。けどはっきり言ってアーリーちゃんの容態は良くないわ。このまま放置すれば明日の朝まで持たない……」

「そんな! 何とか出来ないのか?!」

「静かにジャンさん! 外に声が漏れる」

「す、済まない……」

「それで手は無いのか?」

「無い事も無いわ。はっきり言って治療が芳しくないのは薬の不足よ。私が今、持っている分では種類が足りないの。それが原因」

「じゃあ、逆に薬があれば何とかなるって事か」

 カナセが問い質すとクレアは頷く。

「でも厄介なのが薬のある場所ね」

「薬って、要は病院に行けば良いって事だろ?」

「ええ、でもオリビアさんの話ではここから病院まで大分距離があるらしいわ。それに明朝、病院が開くまで待ってたら恐らくアーリーちゃんはそれまで……」

「そんな……」

 クレアの言葉にジャンが茫然とする。

「クレア、病院以外に薬のありそうな場所は?」

「それ以外に設備の整った施設となると軍関係くらいしか……」

「よし判った。コリン、ジャン、ルイス、これから駐屯地を襲撃して薬を強奪する。クレア、必要な薬を今すぐリストアップしてくれ」

「襲撃って、本気?!」

 クレアは青い瞳を大きく見開いた。

「本気も本気。もう、ここまで来たんだ。やり方で迷ってなんか居られない」

 カナセの決断は余りにも無謀に思える。

「大丈夫、作戦ならちゃんと考えてやる」

「けど大隊クラスの駐屯地なんて……」

「ならどうする? 一旦、ロータスまで引き返して薬を取りに行くか?」

 とてもではないが今更ロータスに戻る時間は無い。

「なら判ったわ。私も行く」

「医者が重篤の患者の傍から離れてどうするんだよ?」

「ならコリンにメモを渡すわ。コリン、責任重大よ。今こそ修行の成果を見せなさい」

「任せといて、師匠」

「ルイスとジャンもそれで良いな」

「任せて下さい」

「我等、存分に働かせて頂きます」

 作戦が決まると四人は大急ぎで平底船に乗り再び夜の水路を走った。

 暗闇の中、カナセはルイスの視線が気になった。

 彼はずっと村の方を見ている。

 カナセは不躾に聞いた。

「ひとつだけ判らない事がある。ルイス、何で今回のこの計画をアンタが実行したんだ?」

「それは……」

 カナセにはルイスの動機が判らなかった。

 ジャンの姪っ子の命が危ないというのは判る。

 しかしジャンの友情に答える為だけにファイタスの戦士として総統を罠に嵌めるまでの危険を冒せるものなのか。

「それは、その……」

 だが聞いてもルイスは答えを濁すばかりだ。

「ルイスは姉貴に惚れている……」

 そんなカナセの疑問に舵を握るジャンがぼそりと答えた。

「ジャン!」

 親友の言葉にルイスが冷や汗を掻く。

「ふ~ん、そういう事かぁ」

 それをコリンが茶化してみせると、その横でカナセは笑った。

 そして誰もがそれ以上の事を何も言わなかった。


 平底船は再び駐屯地に到着した。

一行は二手に別れ潜入する

 カナセとコリンは薬を強奪する為、医務室へと向かった。

 ジャンとルイスは兵器庫の傍で待機だ。

 場合によっては兵器庫の武器を奪いカナセ達の援護を行う。

 駐屯地内はどこもまだ煌々と照明が灯されている。

 スカルゴンの掃討の為、部隊の大半が出動している為だ。

 お陰で駐屯地内の明るさに反して隊員の人影は少なく、侵入も容易かった。

「あの襲撃が思わぬところで役に立ったって訳だね」

「まあ、怪我の功名って奴だな」

 二人は駐屯地内に建てられた医務室に到着した。

 医務室と言っても別棟で作られた小さな病院だった。

 二人は何食わぬ顔で玄関から堂々と医務室に入ると、その足で処置室に向かった。

 処置室には夜勤の医師がひとり詰めてただけだった。

 カナセ達は処置室に押し込むと夜勤の医師を脅す。

「さあ、死にたくなかったら大人しく薬の保管庫まで案内するんだ」

 カナセが光剣の切っ先を医師の横っ面に翳す。

 医師は脅えた表情を浮かべながら二人を薬局まで案内した。

「ご苦労さん、ちょっと眠っててくれ」

 カナセは鳩尾に一撃を浴びせると医師はその場で気を失った。

 一方、コリンは扉の鍵を壊すと保管庫に侵入した。

「どうだ? 目当てのものは見つかりそうか?」

 カナセは小さな声でコリンに訊ねる。

「う~ん、ちょっと待ってて」

 コリンは薬棚に足を掛けると中を漁り始める。

 そしてメモに記された薬瓶を見つけると次々とリュックの中に詰めていった。

「早くしてくれ。こっちが警備隊に気付かれでもしたら大事だぞ」

「判ってるって、焦らせないでよ」

 だがせっつかれてもコリンに焦る様子はない。

 そんな中、カナセの危惧は当たる事となる。

 カナセの魔煌探信が遠くから近付いて来る来る大型コアの反応を感じ取ったのだ。

 その数、十機。

 スカルゴンの掃討を終えたホバークラフト部隊の一部が帰還を始めた。

「コリン、敵が戻って来た! 多分、怪我人が居れば搬送でこっちにも押し寄せてくる」

「え~! まだ集め終わってないよ!」

「判った。時間を稼ぐ」

 そう言うとカナセは手信号で兵器庫の方に合図を送った。

 兵器庫の外に潜んでいたルイスとジャンが合図を確認すると兵器庫の中にあった二機のホバークラフトに乗り込んで発進した。

 予定の無い緊急発進を前に駐屯地内は騒然となる。

 駐屯地内で異変を知らせるサイレンが鳴り響く。

 ジャン達のホバークラフトが帰還して来た部隊に向かって攻撃を始めた。

 すれ違いざま、敵の浮遊艇二機が瞬く間に葬られる。

 後は湿地と化した泥田の上で敵味方入り乱れての乱戦となる。

 敵味方別れたホバークラフトの群れが田んぼの上で滑りながら戦う。

 戦いは数で劣りながらも装備が充実しているジャン・ルイス側の優勢だった。

「凄ぇ、あの二人、なかなかやるなぁ」

 窓の外からコアの動きを観察しながらカナセが感嘆する。

 しかしカナセ達もウカウカしていられない。

 駐屯地内で警戒警報が発令された。

 就寝中に叩き起こされた医師たちが警備員を伴って診療室の方に入って来る。

「ちぃ!」

 警備員の影を待合室で目撃した瞬間、カナセは来煌丸から光弾を発射した。

 警備員達は慌てて待合室の柱の陰に隠れる。

 敵の足止めに成功しながらカナセが叫んだ。

「コリン、まだか?!」

「今、終わった。いつでも脱出出来るよ」

 コリンが薬の詰まったリュックを背負い直す。

「なら付いて来い!」

 カナセは手りゅう弾を投げながらコリンと共に医務室を脱出した。

 爆発を背に二人は医務室を離れ兵器庫に潜り込む。

 兵器庫には整備員と搭乗員が詰めていたが、カナセとコリンは光剣と二刀流で蹴散らしながらルイス達と同じ様に二機のホバークラフトを強奪した。

 だが兵器庫から発進した直後、二人の前に敵が立ち塞がった。

 カナセ達の乗ったホバークラフトの二回り以上大型の戦闘用ホバークラフトだ。

「コリン、敵だ!」

「やっちゃうよ、カナセ!」

 二人はホバークラフトに搭載されていた20㎜連装機関砲で攻撃した。

 だが敵も負けじと搭載されている2基の40㎜連装機関砲と多弾倉ロケットランチャーを発砲する。

プロペラ式の巨大な推進器から轟音を轟かせながら駐屯地の狭い敷地内で撃ち合いが始まった。

 しかし火力面でこちらは圧倒的に不利だ。

 更に駐屯地内に残っていた歩兵部隊が続々と援軍に駆け付けカナセ達を攻撃する。

「コリン、ここに居ちゃあ、こっちが不利だ。外に脱出する」

「了解!」

 カナセ達のホバークラフトは駐屯地を囲うバリケードを蹴散らしながら干拓地の田畑へと逃げ込んでいった。

 その後をあの大型のホバークラフトが追って来る。

「敵は1機か……。もしかしてあれに乗ってるのがグロッギー・バミンて野郎か?」

 ルイスの話が本当ならここで悪代官気取りのウラ鉄軍人のはずだ。

 しかし今のカナセはその事実を助かめる術を持たない。

「まあ、今はどうだって良い事実だな……。コリン、船体が重い分、相手の動きが鈍い。ツーマンセルで叩く。左右から挟み撃ちだ!」

「任せて! 挟み討ちだね!」

 カナセとコリンが左右に円を描く様に綺麗に別れると水浸しの田畑の上で水しぶきを上げながら大型浮遊艇に接敵した。

 敵は左右に向け40㎜砲を発砲する。

「そんな表六玉ぁ!」

「当たんなきゃ、何てことないさぁ!」

 砲撃の中、二人果敢にも大型艇に肉薄すると自機をマギアギアに変形させた。

 ヴァイハーンの光剣とヤマブキの双鞭が左右同時に襲い掛かる。

 互いの一撃は功を奏し、大型浮遊艇の側面に大穴を開けた。

「もう一押しだ、次で決めるぞ!」

「了解、いっけえええええ!」

 一撃離脱、仕切り直して再び斬りかかる。

 二騎の剣は互いに大型浮遊艇の機内へと深々と侵入し、機関部にまで達した。

 その瞬間、大型艇は田畑の湿地の上で活動を停止し、二度と動く事は無かった。

 大型艇の大破を見届けたカナセは全員に無線を送る。

「薬は手に入った。全員、ずらかれ!」

 襲撃隊は四方に散らばり、駐屯地の前から姿を消した。

 敵もスカルゴンの掃討の後か、追い掛けて来る余力は無く、これ以上の追跡は無かった。


 カナセ達は途中でホバークラフトを乗り捨てると、積んであったゴムボートでオリビアの村へと急いだ。

 カナセが帰還したのは四人の中で最後だった。

「姪っ子はどうなった?」

 カナセが家の前に立っていた三人に聞く。

「今、師匠が治療している。薬は全部に揃っているから安心して良いって」

「いつ頃、治療は終わる?」

「明け方には終わるって」

「そりゃ、良かったな」

 何にしても、これでジャンの姪っ子は助かる事になる。

「でもお母さんやかかりつけのお医者さんに今後の治療の引継ぎをしなきゃいけないから、明日、丸一日、時間をくれって」

「そうか、じゃあ俺達がここから離れられるのは明日の夜か明後日の朝か……」

「きっちり三日間だね」

「まあ、良いさ。最初からそのつもりだったから。それより今は休ませてもらおう」

 そう言うとカナセは傍にあった丸太に腰を掛けた。

 するとカナセの前にジャンとルイスが歩み寄り、まず深々と頭を下げた。

「どうしたんだ? 急に改まって」

 カナセが訊ねるとジャンが重苦しい口調で答えた。

「この度の事、感謝の言葉もありません。我が姪を助けて戴いたこの御恩、一生、心に刻み生きていく所存でございます」

 そうジャンが答えるとルイスも黙って従っていた。

 そんな二人に向かってカナセが問い返す。

「ふん、そうかい……けど団長の件はどうなんだ? まだ恨んでるんだろ?」

「団長の事で恨む様な真似は二度とありません。団長の死は仕方の無かった事なのです。団長は戦場に立ち、戦場の中で散られたのです。あの人にとっては本望でしょう」

「じゃあ、恨みっこ無しって事で良いんだな」

「にもかかわらずこれまでの我等の不義、言葉に尽くしがたく、どの様に謝意を示せばよい物か、難儀していると所です」

「我等、願わくば総統閣下が掲げるファイタスの旗の下で命を掛けて戦わせて頂きたく思う所ですが、まずその前に我等の今回の行いに対し対し厳正な処分を下して頂きたく」

「特にこのジャン・フランドル、どのような処分も甘んじて受ける次第であります」

 要するに目的は達成出来たので、ここで事後処理を行いたいとの事だった。

 確かに規律を重んじるモンベル兵団の将校らしい物の考え方だ。

「甘んじて受けるか……。ふん、よく言うぜ」

 だが彼等の重苦しい謝罪の言葉を前にカナセは鼻で笑う。

 正直に言うと、一仕事終えた達成感の後で、そんな堅苦しい話をされたくなかった。

 面白くもない。逆に笑って終われれば気楽で良いのにとも思う。

 要するに、カナセは二人に対してもう怒ってはいなかった。

「カナセ、駄目だよ。この人達、真面目に言ってるんだから聞いて上げなきゃ……」

 だがそんなカナセの気持ちが判らないのかコリンが窘める。

 カナセは仕方なく二人に向かって答えた。

「だったらここで沙汰を言い渡す。近々ウラ鉄本部に向け反抗作戦が決行される事は知ってるよな」

「それは勿論」

 二人は口を揃えて答える。

「そこでお前達は一人百殺、それを目標に死ぬ気で戦え」

 死ぬ気で戦えという言葉に二人は心を突き動かされる。

 それは命を捨てて戦えという非情な命令だ。

「但し、命を掛けるのは亡きモンベル団長の為じゃない。ウラ鉄に支配されているロータスやアヌビアスの人々を救う為に戦うんだ。自分達の戦いを団長の弔い合戦なんて小さな枠に収めようとするな」

 そう言ってカナセは二人を叱咤激励した。

「そして必ず生き残れ。以上だ」

「了解!」

 死ぬ気で戦いながら生きて帰れ。

 一見、相反する言葉でカナセが締めると二人は総統の前で敬礼した。

 敬礼は兵団式の物だった。

 そしてカナセもそれ以上の事は言わなかった。

 それで判らない二人だとは思えなかったからだ。

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