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第18話 アヌビアスからの訪問者

 モンベル団長が戦死してから三ヶ月ほどが経過した。

 恐らくカナセのロータスでの滞在帰還はヨシュアに居た頃よりも長くなったのではなかろうか。

 外ではすっかり広葉樹の葉が抜け落ち、季節も冬に変わっていた。

 メイヴィスの話ではもう雪が何時、降ってもおかしくないと言う。

 団長が戦死した後もファイタスとウラ鉄との戦いは当然の様に続いてた。

 その中でファイタスは各地で善戦し、逆にウラ鉄は敗北や後退を余儀なくされていた。

 以前のウラ警優位の均衡状態からファイタスの優勢に状況は確実に傾いていたのだ。

 戦況の変化の主な要因は、ファイタス総統による組織内の結束強化の効果が発揮した事とウラ鉄内での戦力の弱体化だった。

 特にウラ警大隊長、ジブル・シラッセルの引き起こした下層界崩落事件は決定的で、ウラ警という組織の戦力の壊滅と信用の両方を失墜させ、ウラ鉄のロータス国内の支配力を大幅に低下させていた。

 勝利はファイタスを勢い付けさせる。

 だがそれでもウラ鉄の戦略行為が終わった訳ではない。

 それはカナセ達が各地への巡行の最中の事だった。

 今日はファイタスに武器を供給する武器工場の視察とその町での演説が目的だった。

 その町の前で一行はウラ鉄襲撃の現場に遭遇した。

「カナセ見て! 町から煙が上がってる!」

 バンの天窓から身を乗り出しながらコリンが前方を指差す。

 町の郊外では一両の装甲列車が陣取っていた。

 装甲列車は十六両編制、以前カナセとゼー・ジゴバが倒した二両の後継車で百足の様な無数の脚を蠢かせていた。

「敵は一両か……」

 ハンドルを握ったままカナセは息を飲む。

 今の戦力はバンが一台。到底、排除する事は不可能だった。

 だが町から引き離す位なら出来るはずだ。

 一方、不思議な事に当の装甲列車は砲撃を行っている気配は無い。

「ならあの煙の正体は何だ?」

 そんな事を模索している時だった。

 突如、頭上から甲高いサイレンの音が鳴り響く。

 直後に大空から舞い降りた黒い影が街に向かってダイブし爆弾を投下した。

 轟音と共に町から新しい黒煙が立ち昇る。

「急降下爆撃!」

 爆撃の後、一機の単発機が翼を翻しながら急上昇していった。

「あれが黒煙の正体か」

「どうするの?」

 助手席に座るクレアが訊ねる。

 この様子では町の防衛設備はまだ機能していない様だ。

「勿論、戦う。コリン、バンを使って装甲列車を町から引き離せ。恐らく爆撃の後、町にに突入するはずだ。クレアは俺と一緒に箒で飛ぶ。爆撃隊の邪魔をするんだ。そしてファイタスの応援が駆け付けるまでの時間を稼ぐ!」

「了解!」

 カナセ達は二手に別れると戦闘を開始した。

二人が箒に乗って浮き上がると、コリンはバンをマギアギア「ヤマブキ」に変形させ装甲列車をけしかけた。

 それに反応した大ムカデはヤマブキを追う様に町から遠ざかる。

「よし、上手く釣れてる……」

 コリンも無暗に組み合おうとはせず、大ムカデから一定の距離を取りながら町からすこしづつ引き離していった。

「コリンの奴、上手くやってるな」

「そりゃ、私の弟子ですもの」

 箒に乗ったふたりがコリンの戦いを俯瞰する。

「クレア、町の上をこのまま急上昇だ」

「爆撃隊は町のどの方向から来るのかしら?」

「どっちにしたって、敵の目的がファイタスの武器工場ならそっちに行くはずだ」

「なら工場の真上で警戒ね」

 クレアは箒を工場群の上まで上昇させる。

「しかしクレアとこうやって箒に乗って戦うのも久しぶりだな」

「そうね」

「緊張してる?」

「少しはね。ベス先生のお弟子様を乗せていると思うと体が硬くなるわ」

「そりゃ大変だ。揉み解して柔らかくしなくちゃ」

 そう言うとカナセは背後からクレアの胸の双丘を突然、揉み解した。

「きゃあああああああ!」

 飛行中の最中、驚いたクレアが悲鳴を上げる。

「カナセ君!」

「どうだい? 緊張が解れたろ?」

「だからって先っぽまで摘まむ人が居ますか!」

「へへへへ……」

 怒るクレアだったがカナセが悪びれる様子はない。

 やがて箒は所定の高度に達した。

 カナセの予想通り工場群を狙って二機の爆撃機が迫って来る。

「クレア、手前の敵機に向かって急降下だ! こっちも来煌丸とクレアの火焔の二段重ねで行くぞ!」

「了解、任せて!」

 クレアは箒の軸線を先頭の爆撃機に合わせた。

 急降下する爆撃機に被さる様に箒は急接近する。

 カナセは腰に下げていた光剣を構えた。

 しかし箒の存在に気付いた後続の僚機がそれを許さない。

 後続機が先行する仲間を守る為、箒に向け機銃を発砲した。

 曳光弾の混ざり合った銃弾がカナセ達に向かって斉射される。

 しかしクレアは斉射に怯むことなく、巧みに相手の射線かわしていくと、後ろに居たカナセが来煌丸から光弾を発射した。

 生身から放たれる光弾の威力は拳銃弾と同程度で航空機相手には力不足だ。

 しかし連射性能と直進性は極めて優秀で無数の弾道は真っ直ぐに後続の爆撃機に命中していった。

 目の眩む様な光の銃弾の雨に風防を叩かれ、後続機のパイロットが思わず機体を捻る。

 後続機は編隊を離れ、援護を失った先頭の爆撃機が無防備となった。

 攻撃のチャンスだ。

「今だ、クレア!」

 カナセが叫んだ。

 しかし箒の軸線を完全に敵機に添えながらクレアは魔煌の火焔を放とうとしない。

 それ所か箒のハンドルを握ったまま石の様に硬くなり、首筋から脂汗を滲ませている。

「クレア!」

 カナセがクレアの正気を呼び戻そうと今一度叫んだ。

 その声にクレアがハッと我に返る。

 だが同時に相手の爆撃機もこちらの目的に気付くと機体を揺らして回避行動に出る。

「マギアフレイム!」

 僅かに遅れてクレアが魔煌の火焔を放った。

 火焔は急降下中の爆撃機の翼端に命中した。

 爆撃機は翼を焼かれながら旋回すると煙を上げながら戦場を離れていく。

 撃墜には至らなかったが充分な戦果だ。

 しかし戦闘はまだ終わっていない。

 残りの二機編隊が次の攻撃に移り、僚機を離脱させたれた残りの一機がカナセ達の後ろに付く。

「よーし、このまま空の上をかき回すぞ!」

 箒は上空を旋回し続けながら爆撃隊を牽制し続けた。

 クレアの巧みな箒捌きとカナセの光剣が相手を翻弄する。

 お陰で爆撃の手は止まり、その事は下に居るコリンにも見て取れた。

「おっ、流石は師匠とカナセ。夫婦揃ってやるぅ~」

 装甲列車をおびき寄せながらコリンが声を上げる。

 しかしひとつだけ気になる。

 クレアのマギアフレイムの命中精度が低い様に思えた事だ。

 発射のタイミングを僅かに遅れている様に見える。あれでは撃墜には至らない。

「どうしたんだろう、師匠? 調子悪いのかな?」

 もしかしたらカナセの働かせすぎかもしれない。

「あとでカナセにちゃんと注意しなきゃ」

 一方、コリンの方もヤマブキの二刀流で目の前の装甲列車をけしかけ続けた。

 そして余裕があれば前に出て相手の脚の一本も斬り飛ばす。

 やがてファイタスの装輪戦車中隊が現れ、装甲列車への攻撃を始めた。

 装輪戦車の半数はマギアギアに変形し砲撃を続ける。

 町の中でも対空砲を乗せたトラックが到着し、上空の爆撃隊の追い出しに掛かった。

 やがて形勢不利と見たウラ鉄側は撤退した。

 脚を斬られ車体を弾痕だらけにされた装甲車は後退し、逃げ去る爆撃隊の機体はどれも煙を吐いていた。

 町の周辺から敵が一掃されると、そこへ箒に乗ったカナセ達が舞い降りた。

 カナセとクレアは二手に別れると、クレアは町が設営した臨時の救護所に向かい医療行為に加わった。

「医師です。怪我をされた方は居らっしゃいませんか?」

 クレアが避難民の中を見て回る。

 一方、敵を撃退した総統を町の住人とファイタスの兵士達が歓喜の声で迎えた。

 だがその様子をただひとり冷ややかな視線で眺める者が居た。

「ちっ、講演先の町で偶々、戦って英雄気取りかよ」

 マギアギアに変形した装輪装甲車のキューポラから顔を覗かせながらジャン・フランドルが舌を鳴らした。

 モンベル団長の葬儀の場でカナセに殴り掛かった、あの兵団の将校だった。

「まあ、仕方ないさ。総統閣下はそれだけの事をしたんだ」

 それを隣に止まって居た別の車両に乗っていたルイス・サンチェスが諫める。

 この辺りはモンベル兵団の勢力圏内であり、装輪戦車中隊は移動しながら防衛に当たる、言わば兵団にとっての火消し隊だった。

「ふん! そのうちボロを出すさ。それまではせいぜい舞い上がっていればいいのさ」

 ジャンのカナセに対する評価は今も低いままだ。

 団長が身代わりに死んだことがまだ許せないでいた。

 しかし町は爆弾を落とされた事で講演会どころではなくなっていた。

 同時にウラ鉄を撃退した住人達の興奮は未だ冷め止まない。

 町の中の総統に対する評価は充分に高い物になっていた。

 そんなカナセ達を眺めながらルイスがジャンに言う。

「ジャン、あれが使えないか?」

 ルイスはジャンの横でカナセ達三人を指差す。

「あれって?」

「あれだよ、あれ」

 察しの悪いジャンに向かってルイスが繰り返す。

「あれってまさか!……」

 ルイスの本意を理解したジャンが驚いた顔をする。

「しかしルイス。それは幾ら何でも……」

「けど、もうこっちにだって時間は無いんだ。だったら総統閣下に一肌脱いでもらうしかないんじゃないか?」

 そう言ってルイスはジャンを煽ってみせた。

 するとジャンは諦めた様な素振りを見せながらぼそりとつぶやいた。

「そうだな……。なりふり構ってる時間なんて無いんだよな……」

 そんな二人がカナセ達の前に再び現れたのは次の日の夜の事だった。


 深夜の応接室にジャンとルイスの二人が居た。

 目の前のソファにはカナセが座り、隣にはクレアが居た。

「先日の閣下への我等の振舞いに対しては大変、申し訳なく思う所存であります」

 まずジャンがカナセの前で葬儀での自らの非礼を詫びた。

「な~んだ、殴り合いの続きに来たのかと思ったのに……」

 とはカナセも言わなかった。

 既にあの事件から三ヶ月も経過していたし、一旦、あの場でカナセは彼等を許しているのだ。

 なのでぶり返すような事はせずジャンの謝罪の言葉を素直に受け取った。

「けど、何で今頃になって謝りに来たんた?」

 その事の方が気になる。

 そんなカナセの疑問を今度はルイス・サンチェスが答える形で自分達がここに来た理由を説明した。

「どうか、我等の願いに対して閣下のお力添えを頂きたく、ここに参って来た所存です」

 彼等が総督府に訪れた理由はこうだった。

 まずロータス共和国南方にアヌビアスと言う名の小さな干拓地国家がある。

 だが正確には「あった」が正しく、現在の名は第18號アヌビアス解放干拓地区と呼ばれていたウラ鉄の占領地だった。

「要は……アヌビアスを俺の力で解放してくれって事だよな」

 それが彼等がここに訪れた理由だった。

 アヌビアスは彼等の故郷だった。

 アヌビアスがウラ鉄に占領されたのは既に40年前、占領下の歴史はロータスよりも長く、抵抗の力は既にもがれた後だった。

 しかしながら抵抗と独立の意思だけは僅かに残っており、ジャンとルイスはその申し子達だった。

 彼等は抵抗の牙を抜かれたアヌビアスを離れ、モンベル兵団に身を投じマギライダーとして戦っていた。

 だが彼等の目指すものは飽くまで故郷アヌビアスの解放だった。

「お願いです。我等、故郷の解放に力を貸してください」

 ルイスがカナセの前で訴える。

「なるほど、だったら……」

 カナセが二つ返事で彼等の願いを聞き届けようとした。

 自分は故郷を捨てた人間だがクレアを通じて失われたヨシュアを取り戻したい気持ちは理解できる。

 少なくとも今度の66会議で彼等の意見を提案しても良いとさえ思った。

「コホン!」

 しかしここでクレアがワザとらしく咳払いをした。

 そして総統と目が合うと強い視線で睨みつける。

 それはカナセに再考しろ、すなわち断れと言う合図だ。

「う~ん……」

 クレアに止められたカナセは渋い顔を浮かべる。

「無理でしょうか?」

 ルイスが頼み込む様にカナセに訊ねる。

「現状では無理だろうね……」

 カナセが申し訳なさそうに答えた。

「悪いけど君等は反抗作戦の事は知っているか?」

「当然です。ウラ鉄の本拠地であるゴディバに直接攻撃を仕掛ける作戦ですよね」

「率直に言うと、その反抗作戦の為、今のファイタスからアヌビアスに送り込める戦力は

無いんだ……」

 カナセは包み隠す事なく本当の事を答えた。

 現在、ファイタス内では懸案だったウラ鉄への大反抗作戦の下準備が着々と進められていた。

 ファイタスの戦力のほとんどを注ぎ込む史上最大の作戦だった。

 この作戦が失敗すれは恐らくファイタスは二度と立ち直れないとまで言われている。

 その為、ファイタスのほとんどが現在、ウラ鉄に対して破壊活動を行っていないほどで、そんな時期に他の地域への攻撃など出来るはずが無かった。

「それにこう考えられないか? 今度の反抗作戦でゴディバが落ちればアヌビアスだって自然と解放されるって」

「それは……」

 ルイスが言葉に詰まる。

 確かにカナセの言った事は正しかった。ゴディバが陥落すれば、それはウラ鉄の支配の終焉を意味する。

 ならば周囲の干拓地国家への支配も自然消滅もしくはかなり弱体化するはずだった。

 その効果はギップフェル島を占領した八ヶ国連合の戦略が証明している。

「故郷の奪還が君達の悲願なのは理解できる。ここに居るクレアだってそうだった。だがそれが戦略的に見て今すぐ必要な事案なのかな?」

 今度はカナセが二人に問い掛ける。

 それにルイスは言い返せない。

 だが言った傍からカナセ自身、息苦しさを感じていた。

 正直、自分が小賢しいと思った。

 適当な理由を付けて彼等を諦めさせようと思っている。

 何時から自分はこんなズルい物の考え方をするようになったのか?

 ほんの少し前なら困っている人間が居ればそのまま突っ走っていたはずだ。

 なのに今はそうしない自分の考えが息苦しいのだ。

 ただそれが最善の策なのは確かだった。

 ゴディバが陥落して彼等の故郷も救われるのなら無理に戦う必要は無い。

 だからクレアは自分を止めたのだ。

 それを知ってかルイスの横に居るジャンは謝罪から一言も発していない。

 だが内心では小童にこんな言われ方をされて面白くないはずだ。

 それに彼が自分を憎んでいる事はその理由も合わせて知っている。

 自分のせいで敬愛する団長が死んだのだ。

 それは事実であり、カナセは申し開きの言葉もない

 ならば申し開きの代わりに彼等の気持ちに答えてやりたいのも人情だ。

「……」

 カナセは思う。彼等の納得出来る最善に限りなく近い次善があるのではないか。

「所で、そのアヌビアスを占領しているウラ鉄の戦力ってのはどの位だ」

「カナセ君!」

 カナセから思わず漏らした言葉にクレアが声を上げた。

 カナセが情に絆されて彼等の意見を聞こうとしたから止めようと言うのだ。

「良いじゃないか、聞いてみるだけだよ」

 だがカナセは作り笑いを浮かべながらクレアを制する。

「実はそれほど大きな戦力はありません」

 話の流れを止められまいと今度はルイスが口を挟む。

「敵は戦車と歩兵の混成中隊が一個程度、その中でマギアギアが6騎ほど……」

「一国を抑えるには少なすぎないか?」

「アヌビアスという国自体が小さいのです。面積はロータスの五十分の一にも満たない小国家ですから」

「敵の大将は?」

「今はグロッギー・バミンというマギライダーでかなりの強者です。その男が軍政を強いてアヌビアスを支配しています。ですが残りの5騎は奴が軍に入る前からの手下達でそれほど強くはありません」

「まるで田舎の代官だな……」

「実態はそんな感じです」

「う~ん……」

 カナセは話を聞いて頭を捻る。

 聞いてみれば大した戦力ではなかった。ファイタスから一個大隊ほど出せば踏みつぶせる様な戦力だ。

 だがカナセにその一個大隊を単身、動かす能力は無い。

 動員を掛けるには総統であっても66委員会に議題として上げ、正式な作戦として議決を取らねばならないからだ。

「ところで君達はマギライダーだよな?」

「はい、自分とジャンはここで戦闘魔煌士として訓練を受けました」

「他に仲間は?」

「申し難いのですがファイタスからは我々だけです。ですが地元の義勇兵が五十人ほど参加してくれる手筈です」

「その義勇兵の中にマギアギアは?」

「ゼロです」

「じゃあ、俺とコリンを混ぜて4騎か……。それならがんばりゃ何とかなるかな……」

「ちょっと、カナセ君! 本気で言ってるの?!」

 もう聞いてられないとばかりにクレアが止めに入る。

「本気って、さっき言ったろ? 話を聞いているだけだって……」

「嘘、仰い! その調子じゃ、カナセ君、アヌビアスに行くつもりでしょ?」

「総統がご自分でですか?」

 クレアの言葉にルイスが驚いた様な顔を浮かべる。

 しかしカナセは苦笑しながら首を横に振った。

「いや、とても総統として外に出る事なんて行けないよ。けど君等の手伝いぐらいは出来ると思うんだ」

「と、言うと?」

「君等の義勇兵と参加する。総統カナセ・コウヤの名前を伏せて。要はナイショで動くって訳……」

「絶対ダメ!」

 クレアが早速、反対した。

「そんなの余計に駄目に決まってるわ。あなたが直接危険に晒されるなんて!」

「けど、気の毒じゃないか。こっちの都合だけで故郷の解放が手付かずのままなんて」

「それは、判るわ。でも今はファイタスにとっても大事な時期なのよ。そんな時にあなたが無断で居なくなるなんて……」

「俺だってクレアの言いたい事は判るさ。それに俺の身を案じてくれている事だって」

「だったら……」

「けど、クレア。悪いけど俺にはモンベル団長にデカい借りがあるんだ」

「借りって……」

 カナセの言う借りとはモンベル団長の命と引き換えにカナセが生きながらえた事実だ。

「無論、俺だってアヌビアスを解放したからってその借りが全部、返せるとは思っちゃいない。でも、それで何もしないって訳にもいかないと思うんだ……」

「カナセ君……」

「総統閣下……」

「で、そんな所でどうかな、ルイス、ジャン」

「それは……」

 ルイスは答えに窮する。

 答え辛くて当然だとクレアは思った。彼等からすればアヌビアス解放の為に兵を借りに来ただけのつもりなのにまさか総統自らが出るとは思ってもみなかったはずだ。

 そんな中、今まで黙り込んでいたジャンが初めて口を開けた。

「その義勇兵、総督府の皆様で参加されるつもりですか?」

「そのつもりだ。俺とクレアとコリンの三人で参加する。クレア、今度の休みは最大でどれ位取れる?」

「次の水曜日からの三日間ね」

「なら明後日か。悪いが俺達が戦えるのはその三日間だ。それで蹴りが付かなければ作戦は中止だ。これが俺達の条件。急ぎの要件だが対応出来るかい?」

「ご心配なく、こちらは合わせてみせます」

 そう言うとジャンはテーブルに手を突くと深々と頭を下げた。

 それに横に居たルイスも倣う。

「クレアも良いだろ?」

「良いだろじゃないわ。私の反対意見を無視して……」

「別に無視した訳じゃ無いさ」

「でも。どうせもう決めたからって聞かないんでしょ? だったら後は秘書として全力を尽くだけよ。けど三日間って期日、それとあなたの身の安全だけは保障してね」

「じゃあ、決まりだ。これから細かい日程と作戦を決めようぜ」


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