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第17話 ミスラ写本

 それからのカナセは演説廻りと称してファイタスの勢力圏内で組織の結束を精力的に呼び掛けた。

 それは当初のモンベル兵団のテリトリーだけに留まらず、ロータス各地に及び、時にはウラ鉄の勢力圏内にまで足を延ばした。

 他にも行く先々で現地のファイタスのリーダー達と細かな会合を開いたり、市井の人々の前で演説や意見交換会を行い自分達の正統性を訴えた。

 何もかもが慣れない仕事だった。

 演説中にジャン・フランドルの様なカナセの事を良く思わない連中から野次を飛ばされた事も幾度となくあった。

 それどころか演説の最中にウラ警が押し寄せて来た事もあった。

 だがカナセは挫ける事無く彼等の前に立った。

 そして共に戦い続けようと訴えた。

 カナセを支えたのは自分を庇って死んだ、モンベル団長の遺志に少しでも答えたいという思いからだ。

 そんなカナセによる懸命な訴えの甲斐あって、演説の終盤には野次は減り誰もがカナセの言葉に耳を傾けてくれる様になった。

 お陰でゴッペル先生が危惧していたメンバーの離反はほとんど起こらず、逆に組織内の結束は固くなっていった。

 そして今日も演説を済ませた後、カナセと秘書のクレアは森の中の隠れ家に帰還した。

「ただいま。コリン、ギギ」

「お帰り。カナセ、師匠」

「ただいま、変わりなかった?」

「なんだ、何の土産もないギギか?」

 屋敷では何時もの様にコリン、そしてギギが待って居てくれた。

 何時もと変わらぬ二人の様子を見てカナセは安堵する。

「それとカナセに手紙だよ」

「手紙?」

 コリンは手紙をカナセに渡した。

 差出人の名前を見てカナセの表情から笑みが零れる。

「誰から?」

「トギスだよ」

「トギスさんから?」

 それはヨシュアに無事帰還したトギス・エニールからの手紙だった。

 カナセは早速、封を破って読んでみる。

 内容はトギスの近状が書かれていた。

 僕は今、故郷のヨシュアでエニール家系列の商社で一社員として働いてる。

 ヨシュアは今、戦後復興の好景気に湧いていて、その中で自分は毎日、忙しく走り回っている。

 始めたばかりの仕事で慣れて居らず、上司や先輩に怒られてばかりの毎日だけど何とかやっていけているよ、とそんな事が数枚の便箋に綴られていた。

 そして手紙の最後にはこう締められてた。

「残念ながら軍師様や参謀閣下にはなれなかったけど軍隊で君に出会えた事とロータスでの隊長に勝利した経験が僕の中で自信になった。ありがとう、カナセ。この恩は一生忘れないよ」

 その最後の一文にカナセの胸の奥から熱い物が込み上げてくる。

「手紙には何ですって?」

「元気でやってるって。新しい仕事にもぼつぼつ慣れて来たってさ」

 そう言いながらカナセは手紙をクレアに渡してみせた。

「そう良かったじゃない。トギスさんの苦労は何も無駄じゃ無かったって事よね」

 クレアも彼の今の頑張りを素直に喜んでくれた。

 その後、三人で食事となった。

 本日の料理番はコリンだった。

 師匠ほどではないが料理長の腕前だって中々のものだった。

 食事が済むとカナセは平穏なひと時を満喫していた。

 風呂上りのクレアと共に一つのソファに仲良く座って一息付く。

 コリンとギギは既に自分達の部屋で休んでいた。

「お疲れ様、これで演説周りは今日でおしまいね」

 クレアが優しい笑顔で労ってくれる。

「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなるもんだな」

「それはカナセ君が成長した証よ。私が初めてヨシュアの魔煌士組合に連れて行った時のままだったら、こうは上手く行かなかったでしょうね」

「お褒めに頂き、至極光栄……と言いたい所だけど、本当に疲れた……」

「本当にお疲れ様」

「それに少し安心してる」

「安心してる?」

「あのジャンとルイスの二人。覚えているだろ? 団長の葬式の時の……」

「流石に演説会場や総統府までは押し駆けて来なかったわね」

「暴れられたらどうしようかと思ったけど……。もっとも一発殴って気が晴れたか?」

「逆に、カナセ君の気持ちが通じたんじゃないかしら?」

「そうかなぁ~」

「彼等だって、どこかであなたの演説を聞いていたと思うわ。もしかしたら野次を飛ばしていたひとりかもしれないけど……。でも、そこでカナセ君の考えている事を理解して認めてくれたんだと思うの」

「だったら良いんだけど……」

 カナセは腰掛けていたソファの上で大きく伸びをした。

「本当に疲れているみたいね。やっぱり今日はこのまま寝ちゃいましょうか?」

「まさか! ちょっと疲れたくらいで君との夜を終わらせるなんて勿体ない」

 そう言いながらカナセはガウン姿のクレアの首に腕を回した。

 そして強引に自分の方へと引き付ける。

「キャア!」

 クレアが短い悲鳴を上げた。

「今夜は絶対に寝かせない」

 カナセが嬉しそうにクレアの耳元で囁く。

「もう、カナセ君のエッチ!」

「クレアも期待してたんだろ?」

「私はそんなふしだらじゃありません」

 だがクレアは言葉とは裏腹に、今度は行儀悪くソファのクッションに足を掛けると向き合う形でカナセの膝の上に跨った。

 ふたりは深く抱き合うと自分の下腹部をカナセの両膝に押し付ける。

 体の密着し合う感触がふたりの身体の芯を熱くした。

「いやらしいなぁ。やっぱりふしだらじゃないか……」

「今日は特別。がんばったご褒美よ」

 クレアが耳元で囁く。

 そしてふたりは抱き合ったまま、ゆっくりと唇を重ね合わせた。

 押し付け合った口腔の中で二人の舌が濃厚に絡み合う。

「ぁん……」

 クレアの蕩けた吐息から気怠い声が漏れる中、不意に離れた唇からの互いの混ざり合った唾液が糸引く。

 ゆっくりと流れる二人の時間、逢瀬は時が進むにつれ激しくなる。

 いつの間にか着衣は脱ぎ散らかされていた。

 ソファの上では互いの体が重なり合い沈んでいく。

 後は時間を掛けてクレアの中にカナセを迎え入れるだけだ。

 だがその直後、クレアの青い瞳が不意に壁に掛かっていた棚に向いた。

 そして目を醒ました様な一言を漏らす。

「待って、カナセ君」

「へ?」

「先生の魔煌書か傾いてるわ」

 クレアはそそくさと立ち上がり寝間着を戻すと棚の方に向かった。

 棚の上にはラッツ村で受け取ったミスラ写本が飾られていた。

 淡海に落ちてふやけて読めなくなってしまい、今は棚の上で神仏の様に飾られていた。

 クレアは写本に近付くと曲がっていた本の向きをまっすぐに戻す。

「そんなの後でいいじゃないか。せっかくの盛り上がってきたっていうのに……」

 興を削がれたカナセが詰まらなそうにつぶやく。

「そうはいかないわ。ベス先生の残された物はきちんとしなきゃ」

「残された物つったって、淡海になら何処にでもある様な出版物だぜ」

「もう、直弟子のあなたがそんな事、言って……あら?」

 クレアが写本に触りながら何かに気付く。

 そしておもむろに棚から降ろすとまじまじと表装を見詰めた。

「どうかしたのか?」

 不審に思ったカナセが訊ねる。

「カナセ君、これ見て」

 そう言うとクレアは目の前の小机の上にミスラ写本を置いた。

「写本がどうかしたのか?」

「ここよ」

 クレアが写本の拍子を指差す。

 すると表紙の小さなコアの下辺りの装飾に僅かな焦げた跡が見えた。

「何だ、この焦げ跡?」

 それを見てカナセが不思議そうな顔をする。

 淡海に落ちて魔煌書全体がふやけてしまった事ばかりに気を取られ、焦げ跡があった事など気付きもしなかった。

「何時からこんな所、焦がしたんだ?」

「多分、何かの魔煌技が発動した後みたいね」

「魔煌技?」

「例えば……何て言えば良いかしら。ある一定の条件下で発動する様な……」

「マギアトラップの一種とか?」

「そう、そんな感じ。でも発動するからには何かがあったはずよ。カナセ君、身に覚えは無い?」

「身に覚えって言われても……」

 クレアからの問い掛けにカナセは困った顔をする。

「よく思い出して。これは魔煌書からの……いいえ、あなたの師匠であるエリザベス・アムンヘルムからの呼び掛けかもしれないわ」

 そう力説するクレアに請わると、カナセは頭を捻ってこの魔導書を触れたその日から今までの事を振り返ってみせた。

「何でもいいわ。ほんの小さな事でも……」

「そういえば……」

「なに?」

 カナセのつぶやきにクレアが思わず身を乗り出す。

「こいつを触ってて、急に眩暈がして気を失った事が一度だけある……」

「その前後に何が遭った?」

「確かロータスの子守歌を歌った。あの師匠から聞かされてた奴だ……」

「それから?」

「それからって……確か三番まで歌い終わった時だったかなぁ……バンって電撃でも眉間から喰らった様な……」

「それだわ!」

 クレアは思わず叫んだ。

「子守歌に……ミスラ写本はそれに反応したんだわ!」

 そうクレアは叫ぶと、カナセの目の前に写本を掲げた。

「カナセ君、歌って」

「歌うって?」

「子守歌! 三番まで、早く!」

 そうクレアに急かされるとカナセは仕方なく子守歌を歌い始める。

 しかし何度、三番まで歌っても写本はピクリとも動かない。

「反応しないぜ」

「おかしいわね。もうトラップの煌力は出尽くしたって事かしら?」

 クレアは写本を眺めながら頭を捻る。

 すると今度は目の前のテーブルに写本を置き、一人祈りを捧げた。

「ベス先生、どうかこれから行う事をお許しください……」

 そして淡海に落ちて密着し合った本のページを強引に引き離そうとする。

「う~ん……固いわね~」

「お、おいクレア」

 目の前で躍起になってページを開こうとするクレアにカナセは唖然とする。

 それはエリザベス・アムンヘルムの著書は全て聖典だと普段から宣う彼女とは思えない乱暴な扱いだ。

 だがクレアはページをこじ開けようと試みながらこう切り出した。

「多分だけど……。カナセ君が受けたマギアトラップはベス先生からのメッセージだと思うの」

「メッセージ? なんじゃそら?」

 カナセには意味が分からない。

「まずは事実確認としてミスラ写本はある条件下でトラップが発動した。それはベス先生から伝授された九曜神の子守歌のマルケルス神の章を歌った時。ここまではいい?」

「ええ?!、うん、まあ……」

「そしてここからは私の推測だけど、突然起きた、雷に打たれた様な眩暈はカナセ君にミスラ写本の封印を解除した事を伝える為の合図だと思うの」

「合図?」

 カナセは驚いた表情で聞き返す。

「ちょっと、待ってくれ。それってどういう事だ?」

「多分だけど、子守歌は写本の開封の鍵となる魔煌技。そして魔煌技を唱えた途端、ミスラ写本の封印は解かれた。要するに……」

「要するに?」

「開けてびっくり玉手箱。今、このミスラ写本の中味は誰もが読める様になっているはず。カナセ君、あなたがベス先生から教わったのはモーフィングマギアだけじゃない。肝心かなめの世界を破滅から救う魔法の呪文も受け継いだって訳、まったく大した男の子よ!」

 そう答えた途端、固く閉じていたページが開いた。

 同時に勢い余って写本はテーブルの上を跳ね飛び、クレアの手から離れていった。

「ああ、いけない! 写本が!」

 クレアは慌てて写本を拾い上げる。

 その一方でカナセは複雑な表情を浮かべていた。

 それを見てクレアが不審がる。

「どうしたの? 私の説に不満がある?」

「そうじゃないけど、何で俺なんだ? 何で俺なんかにそんな大事な秘密を託したんだよ」

「そりゃ、可愛い弟子だからよ」

「そういう問題じゃない。写本には世界を左右するだけの力が込められてるんだ。それを俺みたいな……」

「俺みたいな?」

「俺みたいなちっぽけな男に……」

「あら、そんな事無いわ。カナセ君、あなたは私が出会った人の中で最高の男の子だったわ。今も、昔も、これからも」

 そう言いながらクレアは再び写本をテーブルの上に置いた。

 そしてカナセと一緒に開いたページを覗き込む。

 ページの文字は水に浸された影響で滲んでいたが文字の形は充分に判別出来た。

 しかし文章は出鱈目なままで、とても読める様な代物ではない。

「おかしいわ、以前と変わらないままだわ」

 自分の予想が外れた事にクレアは唖然とする。

 彼女は表紙の焦げ跡がマギアトラップの発動痕である事を突き止めた。もしかしたらミスラ写本解読の糸口が掴めるかもしれない。

 だがトラップ発動後もミスラ写本は解読不可能なままだった。

「結局、私の糠喜びか……」

 クレアから落胆の声が漏れる。

 だがその一方で彼女の中で疑問が残る。

「だったら何故、マルケルスの歌詞でトラップが発動したのかしら?」

 そんな時、カナセが写本を見ながらつぶやいた。

「なんだ、これ?……」

「どうしたの?」

 少年の声にクレアが反応する。

 しかしカナセは水で滲んだ文字を見詰めながら、黙り込む。

 そして延々と出鱈目な文章を目で追い続けた後、思い出したようにこう叫んだ。

「そうか! そういう事か! ああ、どうして気付かなかったんだ!」

「カナセ君?」

 クレアが茫然としながらカナセに聞き返す。

 するとカナセは開いたページを凝視したまま答えた。

「クレア、ギギを起こしてきてくれ。ここからは機械の力が必要だ……」


 そんなクレアとカナセが新生魔煌技で頭を悩ませていた頃、一方のウラ鉄本部内でも新生魔煌技絡みで一つの事件が起きていた。

 場所は浮島中央部にある魔煌技研究所。

 そこではカッツェ姉妹から入手した子守歌の研究が行われて居たのだが、その夜、突如として爆破テロが発生したのだ。

 爆発の規模は凄まじく、施設は全焼し、当施設で働いていた魔煌士6人が死亡、他の一般職員や警備員も含め24人が重軽症を負った。

 この大惨事の第一報を受けたウラ鉄総裁ロッゾ・カルの怒りと落胆は凄まじい物だった。

「我々が二十年間掛けてやっと掴みかけた希望が……たった一晩で失われてしまったという訳か……」

 燃え盛る火事の炎を遠目に、総裁はガラス瓶の中で声を震わせる。

 一方、同じ火事の炎を見ながら真逆の思いに馳せる者が居た。

「ぐふふふ……よう燃える花火で御座いますねぇ。これでシラッセル隊長の留飲もあの世で下がった事で御座いましょう」

 笑うのはウラ鉄施設管理部のサミー・トンベだった。

 同時に彼は審判の会の会員のひとりでもあり、今回の爆破事件の首謀者だった。

 トンベは施設管理の立場を駆使して警備の目を掻い潜り、新生魔煌技の施設をその手で破壊したのだ。

「これで“あの方”もお喜びになられるで御座いましょう。あとはあのエリザベス・アムンヘルムの弟子をどうするかで御座いますね」

 トンベは胸を弾ませながら炎を背に去っていく。

「おっと大事な事を忘れていたで御座います」

 しかし何かを思い出したのか再び振り向くと右手を掲げてこう言った。

「禍つ青き光の滅却を! わっはっはっはっは!」

 サミー・トンベは炎に向けて笑った。

 そんな彼の表情は充足感に満ち綺羅星の様に輝いていた。

 事件後、すぐに捜査が行われたが犯人はまだ特定されておらず不明のままだ。

 だがウラ警の中ではファイタスによる破壊工作だとほぼ断定されていた。

「結局、残す希望の光はお前の残した弟子だけという訳だ、ベス……」

 壁に掛けられたエリザベス・アムンヘルムの肖像を眺めながら総裁はつぶやく。

 施設の再建も研究の再開の目途も事件以降、未だ経っていない。


 その数日後、森の隠れ家に深夜、ひとりの来客が現れた。

 クレアは玄関先で客人の顔を見るなり嫌そうな顔をする。

「お久しぶりですね」

「久しぶりだね、嬢ちゃん。またご縁があって何よりだ」

「とっくに死んでるかと思いましたわ」

「スパイってのはしぶといもんでね。生きて情報を持ち帰って初めて一人前なのよ」

 客人にはクレアの皮肉も通じない。

「さあ、どうぞ。総統がお待ちかねです」

 クレアは詰まらなそうに、その顔見知りの客人を屋敷の中へと招き入れる。

 奥の応接室には屋敷の主人であるカナセ・コウヤが待ち受けていた。

「よく来てくれたね。しかしあの中を生きてたなんて……」

「それはお互い様って事で」

「今すぐ話がしたい。さあ、座ってくれ」

「じゃあ、遠慮なく」

 二人はテーブルを挟んで椅子に座る。扉は閉じられ完全な密室になった。

 部屋の中にはクレアすら同席していない。カナセと客人の二人きりだ。

「いいんですかい、総統閣下? 美人の秘書ちゃんまで締め出すと、後で焼き餅焼かれる事になりますぜ」

「これもアンタにこちらを信用してもらう為だ。それだけに焼かれ甲斐のある話をこれからする」

「ふふん、信用ねぇ~」

 そう鼻で笑いながら客人はかぶっていたハンチング帽を脱いだ。

 帽子の下から現れたのはあのヨシュアのスパイ、フィリップ・ギヒンス。コードネーム「ガーリック」、カナセが処刑現場から助け出した男だった。

「しかし、あの下層界の崩壊から生き延びたとはね」

「それはお互い様でさぁ」

「今もガーリックって名前は使ってるのかい?」

「いいえ、今はターメリックで通ってやす」

「名前だけじゃなく臭いまで変えたか……」

「ふははは、流石、総統閣下。面白い事、言いやすね」

 密室の中でガーリックの乾いた笑いだけが響く。

「遅ればせながら礼を言っておくよ。アンタのお陰でゴディバの塔を脱出、出来たらしいから」

「それこそお互い様という事で。けど面白い、まさかあの時の王子様が総統閣下に御成りになるとは。長生きはしてみるもんですねぇ」

「ところでアンタをここに呼んだのは他でもない。仕事を頼みたい」

「へぇ~。私なんかで良いんですかい。こっちにも人は揃ってるんでしょ?」

「いいや、アンタみたいなタイプの人間が必要だ。この国の外の人間で、なおかつ大河川の西側で顔があまり知られていない。そして何より優秀な人材が欲しいんだ」

「と、言うと仕事は大方、ファイタス組織内の内偵って所ですかい?」

「察しが良くて助かる。ファイタス内に巣食っている「審判の会」を見付けてほしい」

「審判の会?」

「知ってるか?」

「初耳でさぁ……」

「ウラ警の隊長がアンタの前で禍つ青き光の滅却を、って言ったろ? そんなお題目を掲げている連中の事だ」

 その後、カナセはフィリップ・ギヒンスことターメリックに審判の会について自分が持っている情報を全て話した。

「問題はそいつらにこちらの情報が筒抜けになっている事だ。そのせいで俺は何度も殺されそうになった」

「そりゃ一大事ですな。おちおち枕を高くして眠れやしない」

「頼めるか?」

「良うござんす」

 ターメリックは総統からの要件をあっさりと引き受けた。

「簡単に言うけど当てはあるのかい?」

「いいえ、文字通りゼロからのスタートですが、私にもプロとしてのノウハウと意地がありやす」

「だったら取り合えずこいつを渡しておく。プロの意地って奴の足しにしてくれ」

 カナセはテーブルの下に隠しておいた鞄を上に置いた。

 中にはロータス紙幣がぎっしりと詰まっていた。

 それを見てターメリックはうんうんと頷くと当たり前の様に鞄を手に取った。

「じゃあ、私はもう行きやすけど、ひとつ教えてくれませんか?」

 ターメリックは椅子から立ち上がるなりカナセに訊ねた。

「何だい?」

「私の噂は聞いているでしょ? 逃げられたりしたらどうするんです?」

「そりゃ困る。正直、アンタに居なくなられたらこの件は手詰まりだ。だから人選は厳正に行った。信頼しているよターメリック。アンタには期待している」

「へへ……。流石、総統閣下。その御歳で人の煽て方って奴を心得て居らっしゃる」

 そう言ってターメリックは笑った。

「では私はこれにて。美人の秘書ちゃんにはよろしく言っといて下さいな。今度は楽しく酒を飲もうってね」

 そしてカナセの前から風の様に去っていった。

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