交戦
リアリスが大丈夫なのかと目線が訴えかけてくる。男達は僕の挑発が効いたのか額に青筋を浮かべている。
僕はリアリスを安心させるために右手を上げることで大丈夫だと伝える。
「ガキが!調子に乗りやがって!いいぜ!お望みどおりボコボコにしてやるよ。」
「やってみろよ、チンピラ風情が!」
「なめやがって!テメェはこのスタッカート様がボコボコにしてやるよ!」
そういうと金髪のチャラついた男が殴りかかってくる。流石に冒険者をしているだけあって身体能力は高い。
一瞬のうちに二人の間にあった距離を詰めてくる。
いいだろう、人間相手にスキルを使った場合の実験に参加させてやるよ。
「防御結界」
そう唱えると自分の周りに結界が張られる。この結界は魔物に神聖結界を突破された時に、攻撃を受けないよう考えて作ったものだ。
結界に自身が考えた名前をつけることで、唱えるだけで自動的に結界が発動できるようになっている。これも範囲と結界の強度をいじれば消費魔力は変化する。
もちろん相手からは見えていないので
「オラァ!」
今、僕に繰り出された拳が顔面に当たったように見えただろう。
それにしても、どれくらい耐久力があるか分からないから攻撃が通るんじゃないかと思ったが、ヒビすら入ってないのを見るに要らぬ心配だったようだ。
「どうした?ボコボコににするんじゃなかったのか?」
「はっ!様子見で手加減してやっただけだ!テメェこそ涼しい顔してるが実際は我慢してるんじゃねえのか?」
「悪いけど僕は我慢するのが嫌いでね。あんたの攻撃は欠片も効いてねぇよ。」
「そうかよ!おい、テメェらもこっちこいや!」
「「おう!」」
今度は三人して様々な角度から殴りかかってくる。顔、鳩尾、股間など急所と呼ばれるところは一通り攻撃された。
だが、防御結界は依然としてヒビが入ることなく僕を守り続けていた。
ずっと殴り続けて疲れたのか男達が息切れし始めた。これで終わりか?だとしたらつまらないな。
「おいおい?もしかしてこれで終わりか?腰についてるもんが飾りじゃねぇってんなら使ってもいいぜ。」
そう言って男達が腰につけている剣を指差す。
「テメェ…後悔しても知らないからな!」
「そう言うことは一度でも有効打を当ててから言うんだな。」
「この野郎!」
先程スタッカート名乗っていた男が腰から剣を抜き放つ。その剣からは離れていても分かるほどの熱量を持った高音の炎が吹き出していた。
「これでテメェも終わりだ!俺の固有スキル「灼熱」で灰すら残さず燃やし尽くしてやるぜ!」
炎が意志を持つかのように剣に纏わり付く。そして、その剣は真っ直ぐ自分へと振り下ろされる。
まずいぞ…固有スキルを防御結界で耐え切れるか分からない!最悪死ぬぞ。強度を1番上まで上げて…出来るかどうか分からないがやるしかない。
「炎から守れ!」
僕が声を発すると同時に結界と剣が衝突する。力が拮抗しているのは一瞬だけであった。
剣は結界に触れた瞬間、大きな反発力によって遠くへと弾かれていった。
防御結界の方にも多大なダメージが入ったのか全体にヒビが広がっていた。
危ねぇ。もし失敗してたら死んでたぞ。だが、これで固有スキルが通用しないことが証明された。あとは処刑するだけだな。
「これでもう全ての攻撃をし終えたな?」
「クソ!まだだ!もう一度やれば!」
「もう十分楽しんだのでそろそろ終わりにしましょう。」
「あぁ!?それは一体どう言う意…ぐぼぁ!」
男が何か言い切る前に結界で攻撃を開始する。結界でハンマーのような形状を作り、思いっきり叩きつけるだけ。
ただそれだけの攻撃だが、さっきの防御結界の時点で見えてなかったのだ。
同じく透明な結界で作られたハンマーを回避できる訳もなく
「なっ!お前一体何し…ぐばぁ!」
「お、おい!テメェ!よくも…ごへぇ!」
残った二人も無様に飛んでいき、壁に叩きつけられた。いいぞ、十分実戦で使えるじゃないか。
周りで戦っているのを見ていた冒険者達は何が起こったのか分からなかったようだが、少しすると僕が勝ったことを理解したのか大きな歓声が上がった。
その後、依頼達成金とE級のプレートを受け取ると、また絡まれるとめんどくさいと思い急いで宿に帰った。
リーバァが立ち去った後のギルドでは今しがたリーバァ達が繰り広げた戦いによってお祭り騒ぎのような状態になっていた。
「おい!さっき何が起こったか分かる奴いるか?」
「いや、全く分かんねぇよ!何かの固有スキルじゃねぇか?」
「そうだとしても、炎に耐性がある上に強力な耐久力を持つスキルなんて聞いたことがねぇ。」
「いや、それは違う。」
リーバァに吹き飛ばされたスタッカートが気絶から復活し、話に加わる。
「違うって何が違うんだよ?」
「いいか、アイツは攻撃が来る前に炎から守れって言っていた。」
「そうだが、それがどうしたんだよ。」
「つまりだな、俺が攻撃した瞬間に炎熱耐性を付与したってことなんだよ。」
「な!そんなわけねぇだろ!」
「流石にそれはありえねぇよ!」
スタッカートのを言葉に周りが口々に批判的な意見を述べる。それもそのはず
「耐性の付与なんて高度な技術を一瞬でできるわけねぇだろ!そもそもお前の一撃は相当な威力があるんだぞ!そんな奴がE級なんてあり得ないだろ。」
「でも…もしできるんだとしたら?」
最後に放たれた言葉によって冒険者達は一斉に口を噤んだ。そんな中
「彼ならどうにか出来るかもしれない。」
新たな騒動にリーバァは巻き込まれようとしていた。