プロローグ2
村についた僕は目の前に広がっている光景に驚いた。村中の至るところから火が上っていた。
耳をすませば遠くで誰かが悲鳴を上げているのが聞こえる。
家族が無事でいるか心配になった僕は家に向かって一目散に駆け出した。
家が見えるところまで近づくと家族が家の外で僕を待っている姿が見えた。
僕はできる限り大きな声で
「父さん!母さん!姉ちゃん!」
と叫んだ。僕の声は届いたようで全員が僕に気づいてくれた。
「父さん!今村で何が起こってるの!?」
「いいか、落ち着いて聞くんだ。今、この村は大規模な魔物の集団によって襲われている。いつも狩りに出ている大人や村にいた冒険者に頼んで魔物を迎撃しているがそれでもいつまで保つか分からない。俺たちみたく戦えないのはここよりも大きい隣町に行って応援を呼びにいく。」
魔物がたくさん襲ってきていることに僕は大きな恐怖を覚えた。
そんな僕の様子に気づいた母さんが
「大丈夫だよ、リーバァ。今すぐ逃げれば魔物に襲われないからね。早く逃げましょう?」
そういって優しく僕を抱きしめてくれた。
魔物に対する恐怖は完全には消えなかったがそれでも母さんのおかげで落ち着くことができた。
その後逃げる準備を整えた僕たちは隣町に向けて走り始めた。幸い隣町まではそれほど遠くなく走れば4時間ほどでつく距離にあった。
僕たちは一時間に一度の頻度で休憩をとりながら急いで移動し続けた。
途中魔物に一度も遭遇しなかったので僕たちは本来よりも早く進むことができていた。
だから僕たちも油断していたのだろう。僕たちは背後から近づいてきていた魔物に気づくことが出来なかった。
僕たちが気づいた時にはもう遅かった。狼のような見た目をした魔物に母さんが襲われていた。僕と姉さんは混乱していて動けなかったが父さんに
「母さんのことは父さんに任せなさい!お前たちは早く逃げろ!私たちは魔物を倒してから追いかける!」
そう言われて、僕と姉さんは後ろを振り向かずに走った。父さんが魔物を倒してくれることを信じて走った。
振り返ってしまったら見たくないものが見えてしまうんじゃないかと怯えながら走った。
いくらかの魔物は父さんを無視してきたのか僕たちが走り初めてしばらくしてから追いかけてきた。
隣町までの道は直線になっていてこのまま走り続けていたらいずれ追いつかれてしまうと思い、森の中へ逃げ込んだ。
暗くて足元がしっかりと見えず、何度も転びそうになるがそれでも僕たちは走り続けた。
怖い…怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
魔物に対する恐怖が僕の思考を塗り潰し声にならない悲鳴を漏らしながら僕は走り続けた。
しばらくすると魔物が後ろから追いかけてこなくなった。魔物を振り切ることができたと思い、喜んだ僕は思わずその場に座り込んでしまった。
姉さんも僕もずっと走り続けていたので疲労困憊であり、動くことが出来なかった。
だが、それがいけなかった。僕たちは確かに魔物を振り切ることができた。
他の地域の魔物が入りたがらない場所に入ることで追ってきた魔物を振り切っていた。
つまりは、魔物の縄張りに入り込んでしまっているのだった。
そのことに気づかなかった僕たちはその場に座り続けてしまった。だから、僕たちが気づいた時にはすでに遅かった。
さっきとは別の魔物が近くに来ていた。逃げ切れたと思っていたのにまた魔物に見つかったことに対する絶望感で僕は立ち上がれなくなっていた。
「走って!」
そう言って姉さんが僕の手を掴んで引っ張り魔物とは反対方向へと向かっていた。
途中から僕もしっかりと自分の足で走るようにしたが、魔物はどんどん僕たちに近づいてきた。
追いつかれてしまわないように必死になって走っていた僕たちは気づいたら森の中を抜けて隣町まであと少しといった距離の道に出ていた。
「助かった!姉さん!助かったんだよ!」
「そうね!急いで助けを呼びましょう!」
僕たちは残りの力を振り絞って隣町の門へとただひたすらに走った。門には大抵戦闘スキル持ちの門番がついてる。
僕はこのまま逃げ切れれば生き残れるということに安堵した。安堵したことで気が緩んでしまった。だから気付けなかった。
さっき振り切った魔物が近くの茂みに潜んでいたことに……
「キャアア!痛い!」
「姉さん!」
姉さんは魔物に噛み付かれてしまった。僕が助かるためには門番を呼ばなければならない。
でも、姉さんを置いてけない。置いて行ったら姉さんが殺されてしまう。どうすれば…
悩んで足を止めようとした僕に
「早く逃げて!私は大丈夫だから早く門番さんを連れてきて!」
「……分かった!少しだけ待ってて」
姉さんのおかげで踏ん切りがついた僕は姉さんを置いて門へと走った。
もう門が見えているのに門までの距離がとてつもなく長く感じられた。
世界が色を失い、時間がゆっくりと流れているような感覚までした。それでもどうにか門にたどり着いた。
「誰か!助けてください!」
僕は精一杯大きな声で助けを呼んだ。その声が聞こえたのか門から人がこっちに向かってきた。
「助けて!」
「待ってろ!今後ろにいる魔物を倒してやる!」
門から走ってきたのは男であり、腰に下げていた剣を抜き放ち
「スラッシュ!!!」
と叫んだ。その言葉を最後に僕の後ろを追いかけていた全ての魔物は断末魔をあげる間も無く息の根を止めた。
僕はその光景に思わず息を呑んだ。だが、すぐに姉さんのことを思い出した僕は、姉さんがいる方向を指しながら
「お願い!助けて!もっと向こうのほうで姉さんが襲われてるんだ!僕に大丈夫だからって言ってそのまま残ってるんだ!」
「!!!」
僕のその言葉に男は何も言わず、僕が指差した方向へ走って行こうとして足を止めた。どうしてすぐに行ってくれないのかと若干苛立ちながら男の方を見ると
狼のような姿をした魔物が口に何かを加えた状態でこっちの様子を見ていた。
他の門番たちが集まってきて、持ってきた松明の炎によって照らし出された魔物の口は赤く、どす黒く染まっており口の中で何かを食べているようだった。
見てはいけない、見たら戻れない。そう分かっているのに僕は確かめないわけにはいかなかった。
その魔物の周りには大きな塊が落ちていた。その塊からは魔物の口を赤く染めあげたであろう液体が溢れ出しており、胴体の部分からは食い破られたのか長いロープのようなものが外に飛び出していた。
おかしい、そんなわけない、あれに見覚えがあるはずがない、だって、あれは、
「おいボウズ!見るな!ソイツを見るんじゃねー!」
僕を先程助けてくれた男がそういうがもう見てしまった。あれは…あの狼の魔物のそばに落ちていたのは…
「クソ!酷いことしやがる!」
魔物によって殺された…僕の…姉さんだった
なんで?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
僕は間に合わなかったのか?自分が生き残るために姉さんが犠牲になったのか?………僕のせいだ…僕のせいで姉さんが…
姉さんの凄惨な死体をまじまじと見てしまった僕は頭の髪を掻きむしり
「ウワァァァァァァ!」
発狂した。