どう説くの、供花処
欠けたコップ
ひとつしかないお茶碗
二本長さの違うお箸
家族の象徴
なんにもわたしの夢を叶えてくれなかった神様は
「それでも幸せだったろう」と請求書ばかりをこちらに寄越す
飴玉ひとつ食べて殴られた子供は
「それでも幸せだった」から
吐き出させられた飴玉ひとつ分と
殴られた愛情を利子つけて支払わなければならぬ
餓死しないくらいの食事と屋根のある寝床があるだけで
わたしたちは親に感謝するわ
無償の愛という膨大な借金
返さねば生きる資格はないと道徳の教科書に書いてある
みんなに従わない子は仲間はずれにされて当然で
他人の気持ちがわからない子はいじめられて当然で
よい人間でありさえすればそんなことは起こらないのだからと
ただそれだけを条件にされて育てられたからには
与えられたものをどうにか愛情にすり替えて
そうして親にも子供にも与えなければならぬ
二重の負債を支払う者はいいカモだから
世間様に対してもネギを背負わされる
自分の身を火にくべて何も残さない兎が
いちばん正しい存在だって道徳の教科書に書いてある
いずれ誰も生きていけなくなることを予測しながら
誰もいなければ自分もいる必要がないからよいのだと正当化しながら
自己中心的になってはいけないと叫ぶのはもはや自己中心的な人たちで
自分が押し付けられた負債をどうやって誤魔化すかのことばかり
花を供えてお祈りしましょうね
神様、せめてはやくここから逃がしてください
コミュニケーションの教科書は断絶を押し付けてくる
言語は相手を変えることはできないと
自分が変わりなさいと、それは
もう何も考えるなということだわ
骨を折って身を粉にして心を砕いて
なんにもなくなるまで自分を消すことだけ
宇宙の法則の本には自分が幸せになればまわりも幸せになるって
書いてあるけどそんなことを正しい大人たちは認めない
だって幸せな人を見ると妬ましいのだから
自分が惨めになった分だけ相手に支払ってもらわなければ不公平
自分で自分を幸せにすることができない人たちは
そうやって取り立てることが正しいと道徳の教科書から読み取るの
本当にそんなことが絶対的に正しいのだと
そう以外に読み取ることはできない、そうでなければ、確実な不幸に、押し潰される、潰される、潰されろ、潰される、潰される
壊れた天秤に絡み付いた手垢と粘着質の嫉妬と癇癪
測るたびに重くなる正しさと皆が同じでないと許せない気持ち
裁く剣さえ携えて正義の女神にばかり己を投影して
だからそれこそが正義としていま存在する大いなる力たり得ている
あからさまに書いたゼロ円の請求書が
「我々の兎になるならば」と注釈を浮かびあがらせる
不幸を感じるほど嵩むからわたしたちはきっと考えるのをやめる
それが正しいって道徳の教科書に書いてある
幸せの代金は理不尽を受け入れるほど高くなる
幸せの代金は支払わされた分だけ幸せだと思い込むしかない
「幸せは自分で決めるものよ」と
その口から出る、寒気、感じてはいけない、幸せであるためには、それは
死んだ兎に花を添える優しさは道徳の教科書には書いてない
ありがとうって言いながら次の兎を死なすだけ