生まれ変わる
「ふぅーっ…ううっ…」
「奥様、もうすぐ旦那様がいらっしゃいますからね!」
屋敷の中はバタバタと忙しく、1人の女性が
苦しそうに息を吐いている
周りのメイド、執事は励ます声をかけながら
今か今かと主の帰りを待っていた
「はあっ……もうすぐ、会える のねっ……」
女性は苦しい中でも微笑み、大きなお腹を擦りながら
深く深く呼吸をしていた
女性の名前は[メリダ・ラスターナ]
この屋敷に住む公爵の妻である
長い睫毛がキラキラと光り、唇の下のホクロが
とても色っぽく見える
男女問わず魅了する美しさに惚れた公爵が、
数多くいる男の中から口説きに口説き
やっとの事で結婚にありつけた程の女性である
「メリダ!!!大丈夫かい!?」
メリダが伏せている扉を勢い良く開けた人物、
それこそがこの屋敷の主、
[フィリアス・テル・ラスターナ]である
王家の側近であり、元騎士。
現在は数多くの領地を所有し
地方行政を主に行っている
国王とは親戚で軍事への協力もしばしば…
彼自身、試験突破は10%以下と呼ばれる有名な学習院を
首席で卒業する程、頭の切れる人間である
「フィリアス…っ」
「ああ、メリダ遅くなってすまない…
君が苦しんでいるというのに何もしてあげられないなんて」
「いいんですのよっ……、その代わり、
しっかりと手を握っていてくださらないっ…?」
「勿論だとも!!」
2人の出会いは学習院、卒業間際…
試験勉強に明け暮れていた中
入学して来た2つ年下のメリダを
遠くから見ていたフィリアスは
ダンスパーティーで絡まれていた彼女を助け、
そこから繋がりを必死に設けてきた
そんな愛する妻が今、まさに
2人の愛が形となる…子供を産もうとしている
そう考えるだけでフィリアスは涙が止まらない
「な、何故泣いているのですか…旦那様?」
「メリダが産む子なら、目に入れたってきっと
痛くないんだろうね…」
もうメイド達には理解不可能である
奥様を思う気持ちは分かるが、今はそれどころではない
しかし、生まれる子供への愛が満ち溢れているのは
確かである
「うっ…!!」
「奥様!しっかり、ヒッヒッフーですよ!」
「ヒッヒッフー!!」
「貴方が言ってどうするんですか!!」
メイド長兼助産師でもあるアナ・ツーウェが
フィリアスに呆れながらも必死にメリダを介抱する
もう少し、もう少しで生まれる赤ちゃんを
早くこの手に抱きたいと思いながら…
「はあっ…!!頑張ってっ、赤ちゃんっっ!!」
ここぞとばかりに踏ん張るメリダ
そして、その時は来た
―――――――――「ゃぁ……おぎゃあ!!おぎゃあ!」
「生まれた!!生まれたぞ!!!メリダ!!」
「はぁっ……やっと…」
「奥様!まあなんと可愛らしい子でしょうか!
ご覧下さいませ!!」
産声を上げ、綺麗に拭かれた赤子をメリダに渡す
寄り添っているフィリアスと共に見るその顔は
まるで人形に可愛らしく、艶々としていた
「あぁ…メリダ、愛してるよ…」
「私もですわ、フィリアス…」
「名は…ナナリー・ルーシェ・ラスターナ
今日から君はナナリーだよ…、僕らの天使ちゃん」
そう、こうして私、二宮 渚は
愛が溢れる出産を経て
ナナリー・ルーシェ・ラスターナとして生まれ変わった