終わりから始まりへ
ゆらりゆらりと身体が揺れる
薄暗くまるで深海にいるような感覚が気持ちいい
私を呼ぶ声が聞こえる、しかしはっきりとはわからない
私は二宮 渚
性別は女性、年齢は25歳、
有名五ツ星ホテルのレストランで
見習いを経てシェフになり、もう6年が経とうとしていた
両親は死別、小さな身寄りのない私を祖母と祖父が
育ててくれたが、2人も3年前に他界してしまった
因みに彼氏いない暦…年齢ではないが
久しく恋だの愛だのという甘いものは無い
高校を卒業してから仕事命、料理命でやっている
暇さえあれば家のキッチンで研究、研究、研究をする
料理オタクと言っても過言ではない
今日、私は仕事中に珍しい食材が入ったと聞き
近くの中々良い取引をしている卸屋に伺い
品を受け取ってすぐさまレストランに戻り
調理するつもりでいた
しかし神様は酷いものである
まさか信号無視の車が暴走して歩行者専用道路に
来るとは思わないじゃない…
私以外にも巻き込まれた人はいるだろうが
まあもう直撃だわとすぐに諦めてしまった
これにて終了、25歳の二宮 渚の人生は終わり…
こんな事ならもう少し輝かしい賞とか取ればよかったわ
元カレにテレビ貸したままだー最悪最低
あのクソ上司にも借り貸したままなんだけど…
後悔先に立たずっていうのはこういう事ね
それで今、目を閉じてゆらりゆらり揺れている訳だけど
死んだのなら天国ってやつに行くんじゃないの?
なんなの、さっきっから本当に深海にいるみたい…
「まあだって深海だもの、ここ…」
(……。)
「え?無視なの?……息出来なくしてあげようかな~」
(のわああ、あ!!待って!ごめんなさい!)
そう、何故か私は深海にいて尚且つ呼吸が出来ている
摩訶不思議…何がどうしてこうなった
目を開けると、海なのに全く目は痛くないし喋れる
目の前には凄い…なんというか
それはもうこの世のものとは思えない程の
群青色の髪の毛にスカイブルーの色の瞳をした
美少年?美少女?が私と同じく
ゆらりゆらりと揺られて私を微笑みながら見ている
すんごい周りに綺麗なお魚ウロウロしてるし何これ
某マーメイドアニメ映画?
(質問…いいですか)
「どうぞ~答えられるかな~…」
(…私、死んだんですよね)
「うん、そうだって聞いてるよ!だからコッチに戻れたみたい」
(コッチ?)
「ざっと説明するとね、君は元々こちらの世界に
居るはずだったんだけど手違いで
違う世界に飛ばされて過ごしてたの
だからね、戻れたってこと!
それと死んだは死んだけど君の魂だけが
抜けるよう手配されたから肉体はきっと平気!
元の二宮 渚に生まれるはずだった魂がもう入ってるし
大丈夫だよ~!
今そのまま働いてるんじゃない?」
ちょっと待って全然追いつかないんだけど…
何言ってるのこの子…
「やっぱり名前とかもなーんも覚えてないかっ!
そりゃそうか、今生まれたって感じかな~
でもすぐ記憶とか戻るって言ってたのに~…
嘘つかれたのかな~?」
(えっと…)
「あ!自己紹介しなきゃね~
私の名前はノアル、ノアル・リト・リスメニア
水の精霊王且つ水の神様だよ~
だから深海にいるの~ふふ、驚いた?」
(え、いや、精霊、王…??)
「ま、そういうのは後々分かってくるから
とりあえず此処から出で
新しい世界を楽しんでみようよ!
元々の記憶も取り戻せるだろうしね~
みんな~行っくよ~!!」
(え?!ちょっ、なに!待って!!
ぎゃあああああああああああああああ!!!)
そう言ってノアルは手招きをして私を引き寄せ、
ぎゅっと手を繋ぎ水中に竜巻を起こしたと思えば
魚やイルカ、様々な海の生き物と一緒に上、
地上へと行くべく
美しい微笑みをしながら竜巻へと入ったのであった