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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
9/159

9 従属召喚

度量衡について

作中では当たり前にキロだのメートルだのと表現してますが、勿論本来はこの世界特有の単位が使われています。

ただそれをいちいち表現すると読みにくくなるので、わかりやすい様現実の単位を当てはめて表現しています。


転生して一年ちょっと。

わたしはそこそこ強くなった。

あくまでわたしにとってはそこそこだ。

相変わらずわたしの身体は虚弱のままだ。

暴魔熱(マギアフィーバー)を起こした身体が一朝一夕で頑丈になるはずはない。

でも魔法スキルでそれを補うことは可能だ。

11種ある魔法スキルの大体系の一つ、強化魔法のレベル1に【身体強化】というスキルがある。

その名の通り身体機能の代謝や活力を高めるスキルで、この魔法を常時展開することでそれなりに動けるようにはなっていた。

ここにさらに強化魔法レベル2にある【肉体強化】を重ねて身体能力を補強し、フレッドの修業という名目で森に出てはレベルを上げていた。

今では単純な戦闘力では村の誰よりも強い。

勿論身体は虚弱のままなので、強化魔法無しではそうもいかないのだけれど。

ちなみに強化魔法のことは村の人たちには一切教えていない。

フレッドだけだ。

父や母にも内緒である。

これに頼りすぎると反動が結構洒落にならないので、職業兵士や騎士のような常時戦闘職以外にはあまり広めたくないのだ。

わたしは基本的に古代語魔法や精霊魔法のようにデメリット無しで使える魔法スキル以外は広める気は無い。

魔法は便利な反面、強力な武器になるのであまり強力なものはわたしから伝える気は無い。

戦争の引き金になったりもするしね。

自力で研鑽して習得するならそれは奨励するけど。

村ではわたしは神様の啓示を受けた聖女ってことになっているので、多少人並外れていてもそんなもんか、で済んでしまうし。

まぁ、そうなるように世論誘導したんだけどね。


「お母さん、ちょっと領主に話つけてくるよ。」


わたしはちょっとそこまで散歩、みたいなノリで外出の旨を告げる。


「えっ、イルミナ!?」

「あいつらどうせまたくだらない難癖とか絶対付けてくるよ。面倒だからこっちから出向いて話つけてくるよ。」

「ちょっと、何言ってるのイルミナ。危ないことはやめてちょうだい。」

「危ないことはないと思うよ。ちょっと行ってくるだけだって。晩御飯までには帰るから。」

「晩御飯って……領都までは馬車で飛ばしてもまる一日掛かるのよ。無茶言わないの。」


うえっ、馬車でまる一日ぃ~

そんな遠くからわざわざ難癖付けに来たのかあの三流騎士。

ご苦労なことだこと。

うーん、移動手段がめんどくさいな。

馬車で一日中とかお尻が壊れちゃうよ。

飛行魔法はあるにはあるけど、疲れるから長距離移動には向かないし、空間転移魔法は行く先のイメージをかなり細かく持ってないと使えないしなぁ。

この国が前世のどの辺かの知識さえあればねぇ。

かつては大陸中を一瞬で行き来したわたしともあろうものが情けない。

となると足を用意するしか無いか。


「お母さん、少し裏山に行ってくるから、またあいつらが来たら【伝言】で教えてね。」

「え、あぁ、わかったけど、裏山に何しに行くの? 魔物とか大丈夫?」

「村の周囲の魔物はこの一年で粗方狩り尽くしちゃったから大丈夫だって。」


これは本当のことだ。

村の人たちに魔法を教えたら、村を脅かしていた大型の魔物とかもアッサリ狩ってくるようになった。

いまやこの村の周辺は付近の村の中でも非常に安全になってしまった。野宿してもいいレベルで。

今では村で狩りに行くなら、森の奥に分け入らなければ獲物がいない。

古代語魔法レベル1スキル【伝言】もかなり村に浸透していた。

指定対象に短いメッセージを一方的に送りつける魔法だが、双方が使えばタイムラグはあるけど会話ができる。

効果範囲は内包魔力によるが、魔法初心者でも20メートルは行ける。

ワンパーティをカバーするのに問題ない効果範囲だろうね。

送受信範囲、伝言速度ともに魔力量で変わるので、母の送信をわたしが受信する分には10キロメートル離れようが余裕で受信できる。


わたしは裏山で、少し開けた空間を見つけ、そこに召喚のための魔法陣を敷く。

召喚魔法レベル4の魔法スキル【従属召喚】だ。

力を示し、合意のもとで従属契約をした魔物を召喚する魔法スキルで、一度契約した魔物ならば対象のレベルを問わずに喚び出せる。

ただ問題が一つ。

わたしが転生してるってことだよね。

転生前より明らかに弱いしね、わたし。

従属契約は肉体じゃなくて魂で縛るから、喚び出すこと自体はできると思うんだけど、大人しく従ってくれるかなぁ。


「ま、やってみますか。」


わたしが従属契約をした魔物は一体しか居ない。

確かわたしが前世で600歳くらいのときだったと思うんだけど、とある理由で戦うことになって、三日三晩戦った末にぶちのめして、感服したってんで勢いで従属契約をした子がいた。

わたしは特に従属した魔物に何かを強いるつもりは無かったので、その後も好きに生きろと言っておいた子なんだけど……自重しろとは言っておいたけども。


「まだ生きてるのかな、あの子。」


考えたらあれから少なくとも700年経って居たわけだし、転生後は更に年月上乗せだ。いくら長命種とはいえ、生きてる保証は無いな。

わたしみたいなのに倒されることもあるだろうしねぇ。


「まぁ、居なかったら別の手を考えればいいか。」


わたしは気楽に考え、魔法陣を起動する。


《我が喚び声に応えよ僕。我は汝が主なり。この声聞こえたならば、その身此処に顕せ》


魔法陣に魔力を注いでいく。

地面に敷いた魔法陣が中空に浮かび上がり、幾重かに分裂して輝き出す。

そして開ける巨大な魔力。

魔力が晴れると、そこに一体の巨大な竜がいた。

体長は頭の先から尻尾の先まで優に30メートルはある。

暗灰色の鱗を持ち、鋭い牙と爪、背には翼、美しいフォルムの鈍色のドラゴン。


「我を【従属召喚】で喚び出すモノよ、問おう、汝の名を。」

「わたしはイルミナ。在りし日の名はフィオレンティーナ。久し振りだね、カルナヴァル。」

「なんと、誠にフィオレンティーナ殿なのか!?」

「何年振りかはわかんないけど、わたしだよ。キミを喚び出したことがなによりの証拠だろう?」

「しかしどうしたのだ、その姿は。我の知る大魔導師の面影も無いでは無いか。」

「あぁ、ちょっと神様に勧誘されてね。」


わたしは転生した経緯を鈍色のドラゴン、カルナヴァルに説明する。


「……というわけで転生して人生やり直しさ。笑ってくれて構わないよ。」

「ハハッ、拒否したとはいえ、神に至るとは流石はフィオレンティーナ殿。我がかつて唯一破れただけのことはある。」

「あんたは元気にしてたかい?」

「主たるおぬしに好きに生きよと言われたからな。あれより3000年、適当に生きていたわ。」

「あの頃よりもデカくなったんじゃない?」

「我も竜生が長い。4000年も生きれば身体もデカくなる。」


成る程、ドラゴンは年嵩になればなるほどデカくなるらしい。

爬虫類みたいだな。

というか、今サラッと重要な情報がありましたね。


「カルナヴァル、わたしと戦ってから何年経ってるって?」

「我がフィオレンティーナ殿と従属契約を結んでからかれこれ3000と25年経つぞ。それがどうかしたのか?」


3000年……わたしが転生したのが1300歳で、カルナヴァルと戦ったのが600歳くらいだから、わたしが転生してからおおよそ2300年くらい経つのか。

神様流石に大雑把過ぎませんか。

同じくらいの時期に転生させてくれるものとばかり思っていたからねぇ。

それともアレかな、わたしと波長の合う身体がそれだけ時代を降らないと現れなかったのかな。

まぁ、2万年も3日も感覚的に変わらない(ひと)だからなぁ。

神様的には同じ時代に転生させてくれたつもりなのかもしれない。



「それでフィオレンティーナ殿、此度我を喚び出したのは何用で?」

「あー、それそれ。わたし転生したら前より弱くなっちゃってさ。フットワークも全然重いんだよ。」

「弱くなって……ご冗談を。我から見ても以前と変わらぬ力をお持ちのようだが。」


そんなことないと思うけどな。

レベルのことも勿論だけど、明らかに転生前よりできること少ないんだよね。

スキルだけ持ってても、レベルは足りないし、触媒も持ってないからね。

スキルの持ち腐れ?

その内各地の工房にもいかないとな。

あそこなら色んな魔法の触媒もあるし、魔法研究の資料もあるからね。

保管の魔法、きちんと機能してるかな? 2300年前だしなぁ。

あっ、以前カルナヴァルと戦ったのは600歳の時だもんな。

わたし転生直前は1300歳なんだから700年の誤差があるんだ。

てことは今のわたし、カルナヴァルに勝った時くらいには力を取り戻してるのかな?

人生の後半は引き篭もって研究ばかりしてた気もするけど、そこそこ成長してたのかも。

※スキル講座

【身体強化】強化魔法レベル1

身体機能の代謝、活力などを向上させるスキル。

要はなんとなく元気になるスキル。


【肉体強化】強化魔法レベル2

筋力や神経系を一時的に向上させるスキル。

使った後は反動があり、若干通常時よりもステが下がる。

常時展開は諸刃の剣。


【伝言】古代語魔法レベル1

通話スキル。

内包魔力次第だが、距離を超えて会話することができる。

また言葉を介さず直接脳内に語りかけるため、内緒話に使える。

通称念話。

伝達速度や距離は内包魔力に比例するため、上位魔導師などはタイムラグ無しで遠方通話が可能。


【従属召喚】召喚魔法レベル4

『契約』した魔物を召喚する。

魔物と契約するには【従属契約】のスキルが必要でありワンセット。

従属契約をロハでしてくれる魔物は基本いないので、召喚魔法は割とハードルの高いジャンル。

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