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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
王都騒乱編
88/159

69 尋問

「で、結局あんたは魔族軍の何なワケ?」


貴族にあるまじきぞんざいな言葉遣いだが、もともとわたしは平民です。

前世でも今世でもまごうこと無く平民の出身なので、素のわたしはもともとこんなんだ。


「諜報部の……」

「それは聞いた。」


腹に思いっきりブチ込まれ、再度痙攣して死にかけてたトクトーだが、今回は【手加減】を同時に発動させていたため極限までHPが減っても死にはしない。

わざと痛みが残る様に回復魔法を用いて、口が利ける程度に回復してから、漸く尋問に入った。


「諜報部がなんなのか訊いてる。具体的にやってる事を述べろ。」

「いやそれは……」

「何? 喋りたくないワケ? なんなら喋りたくなる様にしてあげてもいいんだけど。」


わたしはにっこりと笑顔を湛えて促す。


「い、いや、話す、話すからその笑顔をやめてくれ。」


なんだよ、こんな美少女がにっこり微笑んでやってんのに失礼な。


「うわぁ、えげつない笑顔じゃのう。」

「流石はマイスター・イルミナ。昔と何も変わっていませんネ。」

「ある意味脅迫ですね。契約前に我と戦ってた時もあんな笑顔してましたよ。」

「流石わたくしの主人様ですわ。」


外野が喧しいなぁ。

で、まぁトクトーから得た情報を総合すると、魔族軍の諜報部っていうのは今代魔王肝いりの直属組織で、人族領への諜報、魔導具の実験、破壊工作など、様々な作業をする部隊らしい。

あのランズロウト事変の時の魔族、ノーマン・ボーマも諜報部所属だったとか。


「魔導具の実験って言ったけど、悪魔の種子以外にも何かやってたの?」

「あ……あぁ……他にも……」


もちろん尋問にあたっては【虚報看破】を使用している。

最初は嘘を交えて自白していたトクトーだが、その度に腕をすっ飛ばして再生させるという一種拷問みたいなことをやったので、今は素直に事実を白状するようになった。

え? えげつないって?

いや、こいつらはわたしよりよっぽどえげつないことしてるからね、因果応報だよ。


「で、それらの魔導具の出所は? まさか全部おまえ達魔族のオリジナルじゃないでしょ。」

「あぁ……大概は魔族領の迷宮(ダンジョン)からの太古の遺物だ。なんでも昔いた大賢者の研究施設だったとかで、今でも様々な魔導具が出土するらしい。中は相応に広くて、魔物も多いから発掘隊が専門で編成されている。」


……大賢者の研究施設?

うん、お約束の嫌な予感がバリバリするね。


「俺は部署が違うから入ったことはないが、奥には打捨てたれた古の魔導具がゴロゴロしているらしい。どれも付与された魔法レベルが4を超える逸品揃いだそうだ。」


レベル4? 随分低いな……うん?


「その迷宮(ダンジョン)から出土した魔導具を、魔王様が再度研究し、その実験の実地をするのが俺たち諜報部の仕事の一つってわけだ。」

「ちょっと聞くけど、あんた達って人族に比べてステータスは高いよね?」

「あぁ? そりゃまぁ、そうだろう。昔から人族には数では負けるが質では負けないというのは魔族の誇りみたいなもんだ。」

「じゃぁ一般的なスキルレベルはどのくらいよ。一般人じゃなくて、実戦級の戦闘職や研究者のスキルレベルのことだぞ。」

「んん……人族よりは高いだろう。専門の職種でスキルレベル4から5くらいだと思うが。」


は? ひっく。

確かに人族に比べれば多少は高いが……これはちょっと勘違いしていたかもしれない。

わたしは人族に関しては寿命的なものもあるし、胡散臭い宗教のこともあってスキル技術の全体的な低下が起こったと思ってたんだけど、魔族は長命種だし、かつての技術を今に伝えているものだとばかり思っていた。

魔族にとってスキルレベルが7や8は当たり前なんだろうと思っていたけど、いまのトクトーの言を信じるなら魔族側にも大きなスキル技術の低下が起こっている。

魔族にもなんらかの事象が起きたのは明らかだが、まぁ流石に分からないだろうなぁ。

こいつまだ魔族としては若造みたいだし。

ハゲてるけど。


「あんた、ヴォロネーズって名前の魔王知ってる?」

「んん? ヴォロネーズ? 確か四代くらい前の魔王様がそんな名前だった気がするな。確か凄い平和主義だったとか聞いたことあるぜ。魔族としては異端だな。」


そのヴォロネーズは最も得意とした槍術のスキルレベルが10だったんだけどね。

さらに古代語魔法のスキルレベルが8あって、圧倒的な戦闘センスをもった歴代でも一、二を争う魔王だったんだけど。

まぁ中身は親バカ一直線のアホ親父だったけどな。


「そいつがどうかしたのかよ。」

「何で失脚したのかなって。」

「いや、失脚ではなくて自分から魔王を降りたとか聞いたことあるがな。全く、自ら最高の権力を手放すなんて俺には理解しかねる話だ。」


ふ〜ん、まぁあのおっさんの行方は取り敢えずどうでもいいや。

ここからが本題だ。


「そのヴォロネーズに娘がいたんだけど。名前はルーデルフェルト。聞いたことない?」

「んん? ルーデルフェルト……? っておいまさか!?」


トクトーは拘束されながら唯一自由な頭をメーヴィに向ける。

そのメーヴィもまさかという感じで驚いている。


「そう、ルーデルフェルトはその四代前の魔王、ヴォロネーズの一人娘。本名はルーデルフェルト・アヴィシャス。おそらくあんたなんかよりもずっと強い実力を持った魔族のお姫様よ。」


ルーデルフェルト自身は全く戦闘向きの性格では無かったが、だからといって弱いわけではなく、実力主義の魔族の中にあってさらに頭抜けた力を持つ少女だった。


「そんな馬鹿な! じゃああの娘は自分の力を隠しながら、俺達に従っていたってのか!」

「それだけ孤児院の子達が大事なのよ。優しい娘だからね。けど、いつまでも大人しく従っているかはわかんないわ。何せ魔王の娘なのだから。」

「……お、なんと……」


まぁ、脅しては見たものの、あの娘の性格から言って人質がいるうちは従うでしょうね。

ただまぁ、普段大人しい人が怒ると怖いってよくいう様にあの娘もそういうところがあるから、人質が解放されたらどうなるか……ああ、怖い怖い。


「それで、そのフェル……んん。ルーデルフェルトは今どこにいるの?」

「いや……済まんが俺は彼女の現在を知らん。確かに会ったことはあるが、そこのガキ……メーヴィを引き取る時に一度きりだし、それから二年くら経つ。今どこにいるか、何をしているかまでは知らん。」

「それもそうね。」


トクトーの話におかしいところはない。

コイツが数年前から王都(ここ)で暗躍していたのは悪魔の種子の件からいっても事実だろうし、そうなると今の魔王に従わされているという推測以外は分からないか。

えーっと、あとなんか訊くことあったかな。


「あと……そうだ。魔族領にある迷宮(ダンジョン)なんだけど、名前付いてる?」

「ん? 迷宮(ダンジョン)の名前か? それなら【ヒュマニム】って名前だぜ。」


それを聞いたわたしはがっくりと肩を落とした。


「やっぱり……わたし(フィオレンティーナ)の魔導研究所跡か……」


その呟くような言葉は迷宮(ダンジョン)の制御室にいる誰にも聞こえなかった。

わたしの魔導研究施設のひとつ、【ヒュマニム】はわたしがかつてもっとも長く滞在していた場所だ。

その目的は魔導具作成及び実験のため。

つまり【ヒュマニム】にはわたしの研究成果が大なり小なり残っている。

もちろん大事な研究成果を盗られないための防衛手段も構築してあるので、おいそれと奥には進めないだろうし、ここも長い年月の間に生体化しているとしたら非常に厄介な迷宮(ダンジョン)と化してる可能性が高い。

魔族領(ここ)に工房ともいうべき施設を作った理由は単純で、ルーデルフェルトの居る魔族の都に近かったからだ。

要は頻繁に友人に会う為に、その近くで研究作業していたわけだ。

あ〜、【ヒュマニム】かぁ〜。

確かに失敗して打ち捨てた魔導具にすらならないものや、作りかけて飽きて放置した未完成品なんかはあちこちにあるわあそこ。

そういうのを拾ってきて自分なりに改造(アレンジ)することは、高位の錬金術師とかならできそう。

ただまぁ本気の完成品もあるんだよなぁ……持ち出されてなければだけど。

本気の完成品の保管場所にはわたし肝入りの防衛機構(セキュリティ)もあるはずだから、それが壊れてなければ大丈夫だとは思うんだけどね。


「とにかく、行ってみないことには始まらないか……」


いつものように呟く。

どうにも、フィオレンティーナ(わたし)の所為で生まれた厄介な魔導具が沢山あるみたい。

責任は……取らなきゃね。

そうして、かつて生きた大賢者が後の世——つまり現代に残した魔導遺産(マギアテクノロジー)、その回収もわたしの目的の一つに加わったのだった。

「これって結局マスターのズボラが後の世に災いの種を残したってことですよね? 失敗作とかきちんと処分しとけばこうはならなかったと思います。」

「マイスター・フィオレンティーナは片付けられない女子でしたかラ。」

イルミナ(いま)も大して変わらんぞ。エルヴェレストの屋敷のあやつの部屋はうちの優秀なメイド達が匙を投げるレベルじゃ。」

「わたくしはそんな主人様も好きですよ。」


……ええい、外野が煩い。

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