68 ハーレム?
通し話数番がいくつか忘れてました(笑)
トクトーとかいう魔族を拘束魔法で完全に動けなくした後で、回復魔法で気付けになるまで回復してみる。
気付け専門の魔法も存在するが、極限まで減ったHPを一定量回復すると気付け効果があったりするので、わざわざそちらを使う必要はない。
ちなみに貴族院でアルトリウスとの決闘からこちらずっと寝ていた役立たずをこの気付け魔法で起こさなかったのは、起きてるとうるさいからでそれ以上の理由はない。
「どうすんだ? ねぇちゃん。」
「まぁ、詳しいことを訊きたいからね。こいつが黒幕ならメーヴィが知らされてないことも知ってるでしょ。」
とはいえ、べらべら喋ってくれるとは思えないからね。
眼を覚ますまでに色々と尋問の準備をしておこうと思う。
『主人様、ちょっといいかしら?』
ん? その声はシエラ?
突然の【伝言】に頭に浮かぶはてなマーク。
声は確かにシエラなのに、口調が彼女と全く違う。
わたしの知っているシエラは、割と舌足らずなお子様口調だ。
『ん? どうかした? お城の方は大丈夫なの?』
『色々あったけど、そっちは片付きましたわ。その色々の原因の魔力残滓を追っかけてる最中なんですけど、どうやら今のマスターの近くに反応があるみたいなんですの。』
……原因ね。
どう考えてもトクトーのことだよね。
『今からそちらに移動したいので、主人様の魔力貸してくださる?』
『いいけど……どうすんの?』
『主人様は何もしなくてもいいですわ。主人様とわたくしの間には従属契約のパスが繋がってますから……』
シエラの言葉尻が薄れると同時に大きな魔力が空間を超えてくるのがわかった。
音がしたわけではないが、ずるっとした感覚とともにわたしの影から何かが現れる。
何かとは言わずもがな、シエラだった……のだが。
「アンタ、ちょっと見ない間にデカくなったわね。」
「主人様は縮みました?」
「変わってないわよ。アンタがデカくなっただけで、相対的にそう見えるだけでしょ。」
わたしの前に現れたシエラは、以前の幼女然とした外見ではなく妙齢の女性になっていた。
見た目が全く違うし、内包魔力なんかも飛躍的に上昇しているが、魔力の質は全く変わっていないので、彼女がシエラだということはわたしにはわかる。
だけど、他の者はどうかというと……。
「おぉ……随分と美しい方じゃな。其方の知り合いか?」
カタリナはやはり分からないらしい。
う~ん、確かに様変わりし過ぎてるけど、面影とか残ってるし、よくよく見ればシエラだって分かると思うんだけどね。
「この魔力……まさか、シエラですか……?」
おっ、流石は魔力運用の第一人者。
面差しではなく魔力で分かるあたり流石はドラゴンだ。
そもそもドラゴンはヒト種を人相じゃなく魔力で判別してるくらいだしな。
「えっ!? シエラ? ホントに!?」
「そうですよ、カタリナ様。そこの男が悪魔を降ろしまして、その悪魔をこう……ぱくっと。」
「ほうほう」
「喰ったのですか……それで、その様な姿に?」
なるほど、悪魔が悪魔を喰らったのか。
推察するに、魔力だけじゃなくて受肉体も同時に取り込んだことで肉体を構成するリソースが増えた感じか。
魔力食べて成長するなら、わたしから常に供給している魔力で成長してもおかしくないのに、この2年成長の兆しなんて無かったからね。
「わたくしもまさか成長するとは思っていなかったですわ。」
「それにしたって口調までかわるもんなの?」
「わたくしとしては何も変えてないつもりなのですが、恐らくわたくし達悪魔は本来精神体なので、外見が変わるとその外見に在り方が釣られてしまうのでしょうね。」
面白い考察だ。
なかなか凡例が無いから、検証のしようがないけど。
それからわたしはルナリアをみんなに紹介した。
この中では一番古い付き合いになるルナリアだが(カルナヴァルと逢ったのはルミリオシリーズを完成させた後)、イルミナのパーティとしてはルナリアが一番新参になるから、ちょっとややこしいね。
「皆さま、どうぞよろしくお願いしまス。」
ひと通りルナリアの経歴をみんなに紹介すると、いつものように「まぁ、イルミナなら何でもあり」という大変ありがたく投げやりなコメントが帰ってきた。
最早何も言うまい。
ルナリアは、というかルミリオシリーズはわたしの娘みたいなものだから、みんなに受け入れてもらうのも早いでしょ。
自動人形はゴーレムの一種だから製作者には絶対服従だし、面倒がなくて良いね。
「それにしてもマイスター、相変わらず女誑しですネ。マイスター自身が女性なのにハーレムを構築するのはワタクシ如何なものかと思いますガ。」
と思ったら、いきなり爆弾発言してきた!
「だってそうじゃありませんカ。カタリナ様もカルナヴァル様もシエラ様も大変可愛らしくお美しイ。この様な美姫を侍らせておいて何を知らぬ存ぜぬを決め込んでいるのですカ?」
突然何を言い出すんだこの子は!
「以前もルーデルフェルト様やアルトゥクル様、我々ルミリオシリーズを侍らせて置いて今更隠さなくてもワタクシは全て知っていまス。」
え、ちょっとまって。
その認識はもしかしてルミリオシリーズ共通認識なのか……?
この子らは【情報共有】のスキル持ってるし……。
あとサラッと自分たちは可愛いと主張ししてるぞ。
まぁ、可愛いけどさ。
「それは違う! たまたまこの場に女の子しかいないだけで……ホラ、メーヴィは男の子だし!」
「なるほど、ショタ属性も追加したト。ますます変態街道真っしぐらですネ。」
「ちがぁうっ!!」
なんてこった! 話が通じないぞ!
「そういえば、アルトリウス様もどちらかといえば女顔ですね。王太子殿下はあんなにイケメンですのに。」
「あれは母君であるナユタ王妃が可愛らしい御方でな。完全に母親似じゃな。」
「めんくいなのは間違いないですわよね。」
いきなり別の方向から狙撃してくるんじゃないよそこ!
第一、アルトリウスは向こうの方から絡んできたんだけど! カタリナもカルナヴァルもその場にいたよねぇっ!
そもそも男の子捕まえて可愛いとか、泣くぞあの子!
「あれがゴツい男だったら絶対捨て置いてましたよね、マスターは。」
「あ〜、それは想像に難くないのう。」
「一応、わたくしは契約してからヒト形態になったので、そこまで女性に執着はしてないのでは……?」
シエラだけが味方で天使に見える。
実際は悪魔だけども。
「と、まぁ、冗談はここまでにしましテ。マイスター、そこな男が目をさましましタ。」
あぁぁっ、疲れる! この子は疲れる! そういえばこんな性格の子だったっけ。
製作者を製作者とも思わぬこの所業。
なんでこうなったんだろう、そんな風に育てた覚えはないのに。
……ふう、まあいいわ。
今はこんなくだらないやりとりを続けている場合じゃない。
「ぐっ……ここは……何が起きた……。」
そう、この男、メーヴィが魔族軍の幹部とか言ってたね。
メーヴィがルーデルフェルトの下にいて、そのメーヴィを人質にルーデルフェルトをなんらかの事態に巻き込んでいるなら、この男はルーデルフェルトに繋がる情報を持っているかもしれない。
「これは……何故拘束されている!?」
「何も覚えてないのかな? トクトーさん。」
「むう? なんだ小娘。俺に何をした? この拘束は貴様か! とっととこれを外せ!」
……こいつ、一方的に捲したてる癖でもあるのかな?
そういや制御室に来た時もこんな感じだったな。
あまり関わり合いたくないタイプだわ。
「おい、聞いているのか小娘! むっ、そこにいるのはメーヴィか! おまえ一体何をしている! 早くこれを外せ! 俺に何かあったらおまえの大切なあの女がどうなるか……」
「ちょっと黙れ。」
わたしは最大レベルの【威圧】を至近距離から発する。
ここんとこよく使ってる所為か、最近【威圧】のスキルレベルが7に上がったんだよね。
そしたら、なんとある程度指向性を持たせることができる様になった。
いままで全方向に垂れ流しだった【威圧】の効果を一定方向に集中して発することができる様になった。
その分、効果範囲が濃くなったので、耐性無しでマトモに受けると下手すりゃ気絶するレベル……というか【威圧】の最たる効果はどうやらショック死らしいので、下手すりゃ死ぬ。
見るとトクトーはガクガクと震え、顔は青ざめて今にも泡吐いて倒れそうになってる。
なんだこいつ、諜報部とかイキってた割に尋問スキルの耐性持ってないのか。
【威圧】なんて尋問スキルの中でも基本中の基本なのに。
「相変わらずえげつないですネ。精神系スキルが効かないはずの自動人形ですら気圧されるほどの威圧感を感じまス。」
「あれをマトモに耐えられるのはアルトリウス様くらいじゃないですかね。我でも完全には抵抗できないと思いますよ。」
「そう考えると、アルト殿下も大概人外レベルじゃの。」
なんか外野が煩いな。
まぁ、【威圧】は正直便利スキルだからなぁ……これのレベルが高ければ大概の敵性存在は萎縮するなり逃げ出すなりするし、戦場で使えば一方的に敵軍を蹂躙することもできる。
昔の時代だと国は戦争するのにまず【威圧】対策をしたものだよ。
戦争が起こりそうな国に恐慌や気絶のバッドステータスに抵抗する魔導具を売りつけて大儲けしたこともあったな。
まぁ、四、五回も【威圧】受けたら砕けてなくなる様な魔導具だったけど、これが飛ぶように売れるんだわ。
傭兵とかは個人で購入してたけど、大体国が一括で大量に買ってくれたりしてたな。
製造コストが二足三文だったから、ホントいい商売だった。
「あ……あ……」
いかん、ホントに泡吹いてる。
わたしは気付けの魔法をササっと使い、トクトーの精神状態を回復する。
「あ……はぁ、何だったんだ今のは……」
「アナタ、まだ気付かないんですの?」
声を掛けたのはシエラだ。
「おっ、おまえはさっきの悪魔! 俺を追ってきたのか!」
「まぁそうですけど、結果としては主人様と合流できましたのでこの際アナタのことは主人様に任せようかと思ってますわ。」
「あるじ……さま? 誰のことだ? まさかおまえの様な強大な魔力を持つ悪魔ともあろうものが誰かの従属魔にでもなっているというのか!?」
「ええ、先ほどお城でも言いましたが、わたくしはその方からこの地に存在するだけの魔力を常にいただいております。とても美味な魔力なんでしてよ。」
「馬鹿な……貴様の様な圧倒的な力を持つ悪魔が、ヒトの下にいるだと……。」
なんか一人で盛り上がってるけど、困るんだよなそういうの。
こっちの話も聞いて欲しい。
「あの〜、一人で慄いてないでわたしの話を聞いてほしいんだけど。」
「なんだ小娘、まだいたのか。俺は今貴様の様な小娘と関わっているヒマはないのだ。早くここから逃げないと……そのあるじとやらに見つかる前に……」
「それはもう遅いと思うんだけど。ていうかその主人様、目の前にいるんだけど。」
「何!? それを早く言え小娘! どこだ! そこの竜人族は……メイド服だから違うか。ではそこの貴族の娘か!? ……え、違う?」
わざとやってんじゃないのかこいつ。
だんだん腹たってきた。
「どこにも見当たらんではないか。さては、俺を逃がさぬ為の嘘だな! こうやって時間稼ぎをしてる間に王国の騎士がここに来る算段でもしているんだろう!」
「アナタ、本気で気付いてないんですの?」
「何を……あれ?」
どうやらやっと気付いたらしい。
わたしから漏れ出る魔力の規模に。
「小娘……いや、貴女が……?」
「もう遅いわ! もういっぺん死んでこい!!」
わたしは先程と同じ【魔力刃】を纏った拳をトクトーの腹に思いっきりブチ込むのであった。
今回から主人公視点に戻ります。
この「王都騒乱編」ももうすぐ終わりです。
終わったら一章と同じく何人かの閑話を挟んで次章に進む流れとなります。
その前に二章終了までのキャラクター目録を挟む予定です。