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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
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8 魔女と聖女

今日はもう一本、夜に更新します。

それからというもの、村の生活は一変した。

わたしは特に魔法を隠すことなく村のみんなに教え伝えた。

最初は半信半疑だった村のみんなも、わたしが一度死にかけた(実際死んだのだが)ことは知っているし、その際に神様から魔法を教えてもらったというホラ話を信じ込ませるのは特に問題なかった。

魔法は貴族様のもの、という古い価値観は根強かったけど、古代語魔法も精霊魔法も一度覚えてしまえばその利便性を前に忌避感は無くなる。

なんせ夜は明かり取りに貴重な油や蝋を使う必要はないし、炊事の際の火種や水汲みも必要ない。

それほど多くのスキルを教えたわけじゃないけど、生活レベルが数段上がるくらいには村のみんなに魔法スキルが浸透するのに然程時間はかからなかった。

農作業も魔法があれば効率が段違いに変わる。

精霊魔法の土適性があるなら畑は指一本で簡単に耕せるし、水路から水を引っ張るのも思った通り引ける。

土の中の栄養素は流石にわたしが弄ったけど、その成果は非常に大きなリターンとなった。

周りの同規模の村がどちらかというと不作だったのに対し、わたしたちの村は大豊作だったからだ。

栄養素の操作は追々みんなに指導していこうと思う。

また、狩りにも魔法は大いに役に立つ。

古代語魔法レベル2のスキルに【ショックボルト】という魔法がある。これは対象を気絶させるという効果のある魔法スキルで、これが狩りに非常に有用なのだ。

対象を傷つけることなく無力化できるので、綺麗な形で獲物を狩れるのである。

魔物の中には毛皮や爪、牙などが武具や道具の素材となり、商人や冒険者ギルドで高値で売れるものが多い。

内臓なんかも薬の材料になったりする。

だが、剣や槍などで獲物を狩れば当然外傷が残り、その分安く買い叩かれてしまう。

魔法スキルで狩れば、外傷どころか、ともすれば生け捕りも可能なのだ。

生きた魔物はコロシアムなんかにも需要があるので、非常に高額で取り引きできる。

狩りによる魔物の排除、魔物の素材を剥ぐ際に綺麗な形で解体できること、【ショックボルト】は中距離からの投射型魔法スキルなので、安全に狩りがができるため、怪我人が出ないということも魔法が重宝されている理由の一つだ。

わたしが転生して一年ほど経つと、わたしたちの村は他の村とは比べ物にならない程裕福になっていた。


「これもイルミナのお陰だなぁ。」

「あぁ、あの娘は貧しかった我が村に降り立った救世主だな!」

「聖女様だわ!」


誰かがそんなことを言いだすのに然程時間はかからなかった。

わたし的には魔法文化のない底辺の暮らしに耐えられなかっただけなのだけれど。

とまぁ、そんな風に村の生活レベルを向上させるのに腐心していると、当たり前の様に問題が起こった。

想定内ではあったけど、貴族様のお出ましだ。

まぁ、当たり前だよね。

今までどちらかといえば貧しい方だった村が突然羽振りが良くなり、あまつさえ貴族様しか使えないはずの魔法スキルを村人の誰もが使っているのだからね。


その日、完全武装の騎士が10人、領主の遣いとしてやってきた。

村の人たちは騒然となったが、問題ない。

これはわたしが自分でそうなる様に仕向けたことだからだ。


「この村に魔女がいるはずだ! 今すぐ出せ! 庇いだてするなら容赦はせぬぞ!」


村の人たちの間で騒然となる。

まぁ、魔女ってのは間違いなくわたしのことだ。


「魔女などこの村にはおりません。何かの間違いではないでしょうか?」


村の警備を代表して父が騎士に対応する。

父はこの一年で村の警備隊の隊長になっていた。

まぁ、村の聖女であるわたしの父親だし、担ぎ上げられるのも仕方ないよね。

実際父はわたしたちの村どころか、辺境の村々の中でも一、二を争う剣の遣い手だ。


「隠し立てしても良いことは無いぞ? この村が魔女を匿い、その力を使って不当に利益を貪っていることは既に領主様の知るところだ!」


不当な利益ときたか。魔法を貴族様以外が使うことがそんなに困るかねぇ。

既得権益がどうとか、貴族の矜持がどうとかめんどくさい事言い始めてるし。

まぁ、こうなることは予測済み。

なのでわたしは特に気負いもなく、騎士様の前に出て行こうとしたところを母とフレッドに止められた。


「どこにいくのイルミナ、出て行っちゃダメよ!」

「でもわたしが出て行かないと村の人たちに迷惑がかかっちゃうし、お父さんも危ないよ。大丈夫、ちゃんとお話しすれば解ってくれるから。」

「ダメだねぇちゃん。魔女なんて難癖つけてきてるんだぜ。捕まったら殺されちまう。」


うーむ、このままでも村の人たちにスケープゴートにされる未来しか見えないんだけどね。

人はそう強い生き物じゃない。

圧倒的な権威や暴力、圧力には弱い生き物なんだよ。

わかりやすい人身御供がいれば差し出してしまうことは分かり切ってる。

もちろん家族の3人は近しいし、そんなことは無いと思うけど、村の人たち全員にそれを期待するほどわたしはお気楽にはなれない。

ならここは自分から出て行って聖女伝説をさらに加速させた方が後々便利なんだよね。

今後家を出て旅をする理由にもなるしね。


「大丈夫だよ、フレッド。あんな三流騎士におねえちゃんが負けると思う?」

「そりゃ、ねぇちゃんに勝てるやつなんて思いつかないけどさ……」


この一年でフレッドには色々教え込んだ。

もともと筋がいいせいか、教える方も楽しくてちょっと鍛え過ぎた気もするけど。

おそらく村の入り口で喚いている三流騎士なんかはフレッドの足下にも及ばない。

齢9歳にしてフレッドは父に剣を師事し、魔法をわたしに師事するハイブリッド魔法剣士なのだ。

……まぁ、純粋な戦闘力ではまだまだわたしには遠く及ばないけど。


「まぁ、おねぇちゃんに任せときなさい。フレッドはお母さんについてあげててね。」

「わかったよ。気をつけろよ。」


うんうん、家族思いの思いのいい弟に育ったね。

おねえちゃん嬉しいよ。

わたしは母をフレッドに任せて、騒然としている村の入り口に向かう。

入り口は既に一触即発状態だった。

父が警備隊隊長ということもあるのだろうが、思いの外村の人たちはわたしを護ってくれていたみたいだ。

わたしは自分の中の村の人たちの評価を変えるとともに、心の中で謝っておく。

見くびってごめんなさい。


「お父さん。」

「来るな、イルミナ。お前が奴等のいいなりになる必要は無い。」

「大丈夫だよお父さん。わたしが行かないと村が酷いことになるでしょう?」


わたしは半分演技、半分本気で三流騎士と相対する。

声に少しの【威圧】を込めて。


「わたしがイルミナ。貴方がたが魔女と呼ぶものです。」

「な、お前が……!?」


まぁ、驚くのも無理はない。

恐らく魔女などと実しやかに噂されているから、ステレオタイプの婆さんでも想像していたのだろう。

それが年若い、いや、年端もいかない幼女であることに意表を突かれたというところか。


「貴方がたはいかなる正当性を持って無辜の民を詰問しているのですか。この村は領主様に定められた租税もきちんと納めていますし、領主様に対し叛意を示したこともありません。咎められるようなことは一切しておりません。」

「な、何を言うか。貴様らは我々貴族のみに許されし魔法の秘儀を使うと言うではないか。」

「これは異な事を。わたしたちは魔法など使っておりませんよ。そちらがなにか勘違いされているのではありませんか?」

「な、何だと!」

「だっそうではありませんか。貴族様の言い分では魔法は貴族様にしか使えない特別なスキルなのでしょう? ですからわたしたちが使うものは魔法に良く似てはいますが、魔法では無いのでしょう。そうでなければ魔法を使えるわれわれは貴族ということになってしまいます。」

「ぐぬぬ……」


勿論詭弁だ。

わたしたちが使うのはまごうことなき魔法スキルである。


「わたしたちは特に貴族であることを主張することは無いですし、する気もありません。村が平穏で、誰からも害されることなく、皆が笑って生きていければ良いのです。領主様に対しては税をきちんと納めますし、兵役があれば参加するでしょう。これ以上領内のいち村落に何を望むのですか。」


そうだそうだ、と周りから声がする。

少々言葉は荒くなったが、言いたいことは言ったぞ。

実のところ、この村に限れば農耕や狩猟での完全自給自足が成り立っているし、魔法があれば防衛面での心配もないので領主の保護自体を必要としていない。

それではカドが立つからちゃんと税を払っているというのに、物々しい出で立ちで犯罪者の如く扱われては腹も立つというものだ。


「自らの正当性も碌に保てないこの状況で、それでも尚わたしを捕らえるというのであれば構いません。連れて行きなさい。わたしが直々に領主様に説いて差し上げます。」


わたしは笑顔で、そしてスキル【威圧】を込めて目の前の騎士の隊長と思しき人物に言い放つ。

【威圧】は体術スキルであり魔法スキルでは無いが、かなり便利なので会得した。

これと【気配遮断】は野外活動をする冒険者などは必須と言っても良いスキルだ。


「ぐ……ぬう……、も、もう良い。この場は引くことにする!」

「流石は聡明な騎士様。ご理解いただいたようで何よりです。」

「小娘が……調子に乗るなよ!」


調子に乗っているのはどちらなんだか。

しかしこのままでは済まないだろうなぁ。必ず何らかのアクションをしてくるだろう。

実はこの状況はわたしにとっては願ったりなのだ。

この時代の常識はわたしの知る時代と乖離しすぎてる。

わたしの前世では魔法スキルは才能や環境の差こそあれ、誰もが使える当たり前の技術だった。

そこから何年経てばこのような特権階級の権威的な技術になるのか。

どういう過程を経ればこうなるのかが知りたかった。

そして出来ればその考えを是正したい。

世界の歪みをスルーして村の中だけでひっそりと改革するのは魔導を修めるものとして看過できない。

当然、村に引きこもっていてはその理由はわからないだろう。

わからないことはわかる奴に訊くのが一番手っ取り早いよね。


「一度、領主様とやらに会いに行くかね。」


わたしは考えを思わず口に出していた。

となれば早いほうがいいな。善は急げっていうし。

まぁ、会いに行って会ってくれるとは思えないから、多少強引になるのは仕方ないよね。

※スキル講座

【威圧】体術スキル

使用者を中心として放射状に威圧感を撒き散らすスキル。

自分より弱いものを萎縮させ、遠ざける。

たまに自分より強いものを興奮させ、呼び寄せるので使用時は注意。


【気配遮断】体術スキル

自分の気配を希釈、遮断する。

スキルレベル依存で最大レベルで完全に気配を消せる。

相手に高レベルの【気配感知】がある場合、効果が相殺されることがある。


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