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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
王都騒乱編
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幕間 —— 黒曜竜カルナヴァル

大地の巨獣(べへモス)が足を止める。

その進行方向に決して無視できない存在が、明らかに自分のルートを塞ぐ形で降り立ったためだ。


「おい……、なんだこれは。俺たちは何を見させられている……?」


誰かの声がその場にいた全員の気持ちを代弁する。

現代を生きる誰もが、いや、かつて大賢者だ生きた時代ですら見たこのない魔物が二体、あろうことか人族の街の中でも最も中心といえるパルマス王国の王都シュナイゼル、その中心に在った。

方や全長50メートル、体高は20メートル、巨大な角を生やし、全てを踏み潰さんと睥睨する紫の獣。

一方は全長は30メートル程度と獣よりは些か小さいが、その存在感はより大きく感じるだろう。

黒曜石を思わせる全身を覆う漆黒の鱗を持ち、ドラゴン然とした美しいフォルムがその存在感をより一層引き出していた。


「グオォォォォッ!!」


大地の巨獣(べへモス)が大きく一声吼えた。

黒竜を敵と認めた合図だろう。

大地の巨獣(べへモス)の目的が王城にあることは明白で、その進行ルートに立ちはだかり、明らかに敵意を放つ漆黒のドラゴンは、先程から自分の周りをうろつく蟻供とは違う存在だと認識していた。


「……ガアァァッ!」


対するドラゴンも声を上げる。

だが、その声は巨獣に対する威嚇というより、逃げ惑う人々に向けられている様に感じられた。


「……なんだ? ドラゴンが、避難を促している?」


それに気付く者もいた。

明確な言葉ではなかったが、知覚系のスキルをもつ冒険者などはその意思を感じ取ることが出来た。

それは彼女——カルナヴァルのスキル【伝心】の効果である。

【伝心】は複数対象に一方的に言葉を送るスキルだが、受信側の感度が高いとより広範囲に思念が届く。

彼女がかつてやんちゃだった頃、討伐に来た冒険者に一方的に警告を発するために取得したスキルではあったが、どこでどんなスキルが役に立つか人生……いや竜生分からないものだな、と益体も無いことを考えていた。

これで散ってくれれば多少は人的被害を抑えられる。

これでもまだ周囲にいて、戦いの余波に巻き込まれるならそれはそれ、命を守るのも自己責任で、あとのことは知らない。

彼女にとって、顔も名前も知らない、人族の命など割とどうでもいい。

そもそも今から避難したところで、間に合うかも定かではない。

これからここで始まる戦いに、どれだけの被害が出るか分かったものではない。

ただ、この街自体は彼女のお気に入りだ。

だから、この美しい芸術のような街を一部とはいえ瓦礫に変えたあのクソ魔獣は許さない。

ただ、彼女はこれから起こる戦闘で更に被害が広がることはこの際仕方ないとは思っていた。

お気に入りの街とはいえ、それを守って戦える程楽な相手ではない。

なるべくなら守って戦いたいとは思っているのも事実ではあるが、ある程度の割り切りは必要だと感じていた。

先手は大地の巨獣(べへモス)が取った。

巨体とは思えない繊細な動きで、頭の角をカルナヴァルに向け、地面から上空にしゃくり上げる。

ただでさえ大きな体躯からワンアクションで繰り出されるしゃくり上げはかなりの速度でカルナヴァルを襲う。

まともに受ければ防御したところで上空に吹き飛ばされる威力だったが、カルナヴァルは冷静にその攻撃範囲を見極め、最小限の動作で角を躱す。

この光景をイルミナが見ていたら、「ドラゴンの巨体でかなり器用なことをしている」などと感想を漏らすだろう。


基本的に最強種たるドラゴンは脳筋が多く、攻めるにしろ守にしろ力技が多い。

敵の攻撃は一旦受けて、然るのちに反撃するという、どこかのショー競技の様な思考がドラゴンの一般的な思考なのだが、カルナヴァルはその辺がかなり他の個体と違う。

かつてはカルナヴァルも他の個体と変わらぬ認識の持ち主だった。

この世界に竜種を超える存在など無い。

その中でも自分は最も優秀な個体の一つであり、自分を超える存在は同じ竜種の先達しかなく、片手で数えてもまだ余る。

その認識には基本的に間違いではないが、何にでも例外というものはある。

彼女には幸運とも呼べる出逢いがあった。

ただ、あくまでも後に幸運と呼べる出逢いであり、当時の彼女にとってみれば災厄以外の何物でもなかったのではあるが。

イルミナ——当時はフィオレンティーナと名乗っていたヒト種のメス。

あろうことか、矮小なヒト種の中でも最も弱いとされる人族(に見えた)の、しかもか弱きメスに完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

しかも真っ向勝負の肉弾戦(ステゴロ)でだ。

もちろんフィオレンティーナは強化魔法増し増しの身体能力爆上げ状態だったわけだが、それでも放出系の攻撃魔法や精神系の搦め手の魔法などは一切使わず、それでいて質量差のあるドラゴン相手に完勝をおさめたのだった。

感服し、己の未熟を悟ったカルナヴァルは、その場でフィオレンティーナに従属契約を持ち掛け、彼女の従魔となった。

以来、カルナヴァルは竜の種としての強さよりも、個体としてどれだけ高みに登れるかを研鑽してきた。

従魔としてフィオレンティーナに喚ばれることは殆ど無かったが、たまにふらっと巣に遊びに来て、一晩お喋りをして帰っていく自分の主をカルナヴァルは気に入っていた。

そして、彼女が自分の元を訪れなくなっても彼女は研鑽をやめなかった。

時には【人化】スキルで変身し、人里に赴き、彼等の戦闘技術や生活の知識を学んだりもした。

知識を蓄えることは楽しかった。

ドラゴンとして、修羅の道を進んでいたら気づけなかった楽しみがそこにあった。

そんな時間を過ごして幾星霜経ったのか、突如として喚ばれた。

自分を【従属召喚】で喚ぶことができる存在、そんな者は一人しかいない。


……少し、感傷的になってたのかもしれないと、カルナヴァルは大地の巨獣(べへモス)の攻撃を避けながら思った。

避けた攻撃は大きく空振って、大地の巨獣(べへモス)に大きな隙を作る。

カルナヴァルはドラゴンの巨体に似合わない速度で大地の巨獣(べへモス)の懐に入ると、その顎に向かって一撃をお見舞いする。

がごん、と一際大きな音を立ててクリーンヒットしたカルナヴァルの拳が大地の巨獣(べへモス)を仰け反らせた。


「ドラゴンが徒手空拳で戦ってんぞ……」

「俺……夢でも見てんのかな。」


それを見ていた冒険者から、そんな言葉が漏れた。

ドラゴンの攻撃方法といえば、普通ブレスとかだろ……、などという声が其処彼処から上がるが、カルナヴァルは気にする風でもなく大地の巨獣(べへモス)の顎周辺に拳と蹴撃、時には尻尾を使った打撃を連撃で浴びせていく。

大地の巨獣(べへモス)もやられっぱなしではなく、角や牙を駆使してカルナヴァルを攻めるが、カルナヴァルは器用にその攻撃を躱し、隙を突いてカウンター気味に攻撃を繰り出していく。


「凄え……格闘の教科書みてぇな戦い方だ……」


ドラゴンが使う格闘術はヒト種のそれとは体型に差異があるため、全部がお手本になるとは言い難いが、それでも攻撃の躱し方や見切り、隙を突いた反撃の入れ方など、見ていて為になる動きで、格闘術メインの冒険者などは食い入る様にその動きを観察していた。


「まさか、街の被害を抑える戦いをしているのか? あのドラゴン。」


それに気づいたのはギュンターだった。


「つまりあのドラゴン(これ)が、嬢ちゃんの言っていた「なんとかするから」の答えか。」

ギュンターはカルナヴァルとはもちろん面識はありますが、その正体は知りません。

普通に竜人族の娘だと認識しています。

強さに関しては、自分よか圧倒的に強い娘、との認識はあります。


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