7 魔法講義
この話より、登場したスキルを解説するスキル講座を後書きに書きます。
参考までに。
夜になって、どうやら家族も落ち着いたようだ。
村は大騒ぎだったらしい。
どうやらわたしが病弱で、明日をも知れぬ命だったことは村のみんなが知っていたそうだ。
それが死んだと思ったら生き返ったものだから、神の奇跡だとかで大騒ぎになったんだそうだ。
……神の奇跡。
あながち間違いじゃ無いんだよねぇ。
個人的には神の呪いと言い換えてもいいけど。
望まない神化の誘いを断ったら、今まで慣れ親しんできた身体を捨てさせられて、レベル1からやり直しだからねぇ。
少し自分を鑑みて解ったこと、というより困ったことが発覚した。
それは種族【魔法使い】のまま転生したことだ。
種族としての魔法使いは内包魔力の増大や栄養摂取の不必要化、肉体の基礎能力の向上など様々な恩恵がある、魔導師ならば最終目標とされる種族だ。
その種族特性に不老不死がある。
スキル【不老不死(魔法使い)】は種族【魔法使い】の種族特性スキルのひとつで、魔法使いに至った時点で自動取得される。
このスキルを所持しているものは外的要因以外で死ぬことが無くなる。
つまり病気もしなければ老いることもない。
前の身体はもともと老化を抑えるスキル【老化抑制】のスキルをかなり若いうちに取得し、その上で70歳くらいのときに魔法使いに至ったので、肉体的には20後半~30前半くらいの若さで不老不死になった。
ちなみに【老化抑制】は【不老不死(魔法使い)】に統合されて無くなった。
つまり、何が言いたいかというと、わたしはこの9歳の幼女の姿のまま歳を取らないのだ。
これは生活をしていく上で非常にデメリットが多い。
どんなに強い魔力やスキルを持っていても外見が9歳の幼女では舐められること確実だ。
それに今は良いが、数年後全く成長しない娘を見て家族や村人たちはどう思うだろうか。
そうなる前になんらかの理由を考える必要がある。
しかし考えようによっては赤ん坊からやり直しとかにならなくてよかった。
一生赤ん坊では流石にどうにもならない。
まぁ、その辺は神様も考慮してくれたのかも知れない。
そういえば、自然な形で転生するとか言ってたのはこのことなのかも。
夜、落ち着いたところで家族への魔法講義を始めた。
改めて紹介すると、家族はわたしを含めて4人。
父ハンス、母リラ、弟フレデリック、そしてわたし、イルミナ。
父は村の警備の仕事をしているらしい。
もともとはもっと大きな都市の衛兵だったが、母と結婚して母の実家のあるこの村に腰を落ち着けたらしい。
母曰く、腕のいい剣士なんだそうだ。
弟のフレッドは父に剣を習っているとか。
母は裁縫職人だそうだ。
何日かに一度やってくる大きな都市の商人に服や髪飾りを納品するのだという。
本来ならわたしも母の手伝いをする年齢なのだが、病弱で寝込むことが多かったので、手仕事などは一切やってなかったらしい。
実際生活はわりとカツカツだ。
わたしは生産になんら寄与していない穀潰しだったので、このレベルの生活だと切り捨てられても仕方ないほどだと思う。
家族の愛に感謝するしかないところだよ。
「それでイルミナ、魔法が誰にでも使えるという話だが……」
父の言葉を受けて、わたしは魔法の基礎から説明する。
どうやらこの時代……といっても、わたしが以前の身体でいた時代からどれだけ経っているかまだ把握してないんだけどね。
この時代は本気で魔法は貴族以外に使えないと思われているらしい。
魔力を持って産まれるのは貴族の血筋だけであり、故に魔法は貴族以外には使えないと思われているようだった。
「お昼にも言ったけど、魔力は生物なら人でも魔物でも、植物にすらある普通の力だよ。一般の平民が魔法を使えないと思い込んでるのは使い方を知らないだけなんだと思うんだよね。」
普通は親なり先生なりが教えるものなんだけどね。
この時代はその常識が廃れているのか、あるいは意図的に隠蔽されているのか。
「まずは魔力を自分で感じることから始めよう。」
わたしは魔法を発動させることの準備段階の初歩、【魔力感知】から説明する。
【魔力感知】は魔法を使う上で必ず必要となる必須スキルだ。
とはいえ、【魔力感知】は知的生物なら普通に取れて当たり前のスキルなので、そんなに難しいことはやらない。
要は自分の中の内包魔力を自分で感じ取れば普通に取れてしまう。
「初めてだとちょっと手間取るから、わたしがお手伝いするね。」
わたしは自分の魔力を自身の中で循環させる。この状態のわたしに触れることで、魔力が循環しているという状態がどういうものか理解しやすいと思う。
「お父さん、わたしに触れてみて。」
「……おぉっ、なんかぐりぐりとしてる感じがわかるぞ。」
同じ様に母とフレッドにも接触を促す。
「うん、なんか流れてるのわかる気がするわ。」
「俺もわかるよねぇちゃん。これが魔力の流れってやつ?」
わたしは失礼を承知で3人のステータスを【能力鑑定】してみる。
スキルも確認できる【能力鑑定】Lv6だ。
うん、たしかに3人に【魔力感知】のスキルがある。
今獲得したのか前から持っていたのかはわからないけどね。
わたし……というよりイルミナの家族なのだから取れて当然なんだけどね。
自分で言うのもアレだけど、イルミナは極みに至った大賢者フィオレンティーナの転生先に選ばれるほどの素質の持ち主だ。
その家族に魔法の素質が無いわけないと思うんだよね。
「ちゃんと魔力を感じられてるみたいだから、次の段階にいくね。そしたら、一番基本的な魔法スキルを教えるから、試してみて。」
初心者……というより、子供が最初に教えられる魔法スキル。
【古代語魔法】と【精霊魔法】だ。
【古代語魔法】は魔法スキルの中でも一番確立が古くて、基本的なスキルだというのは散々言ったと思う。
古代魔導文明の遺産だ。
かつてこの世界にあって、大陸を席巻した超大国、マイノリーゥヤが滅んだ理由は解っていない。
でも、各地にその名残とも言える遺跡は点在するし、その言語を基にした魔法、【古代語魔法】は確実に存在している。
【古代語魔法】は魔力そのものを事象に変換するスキルなので、己が身一つで使える、正に基本中の基本魔法だ。
【精霊魔法】は自然現象を司る精霊の力を借りて行使する魔法スキルだ。
こちらも確立は古い。
古代魔導文明時には既に確立されていたと記録にはある。
精霊を使役するのではなく、精霊と仲良くなってその力を貸してもらうスキルだ。
なので高圧的な態度や命令口調だったりすると精霊は力を貸してくれなかったりする。
まぁ、へり下る必要はないんだけどね。
あくまで対等の友として助力を要請する感じかな。
【精霊魔法】はちょっとした火を起こしたり、水を清めたり、穴を掘ったりと、生活に役立つ魔法が多いので、覚えておくと非常に便利だ。
それにこの2種類の魔法スキルは基礎魔法という事もあり、殆どの人、種族に適応している。【魔力感知】さえ出来ればこの2種類の魔法スキルは取得できない方が珍しい。
まぁ、【精霊魔法】はさらに4種の属性に分かれるので、相性が悪いと取得出来なかったりするけど。
案の定、家族3人は当たり前の様に2種類の魔法スキルを取得した。
父ハンスは自分の出した魔法の灯りを感慨深げに眺めていた。
母リラは取得した【精霊魔法】で家事がはかどると喜んでいた。
母は火と風に適性があった。
弟のフレッドはやはり【精霊魔法】で家の手伝いが楽になると言っていた。
特に水の適性が高く、水汲みが楽になるのは助かるとか言っていた。
「しかしイルミナ、なんで誰でも魔法が使えることを知っているんだ? 俺たちの常識じゃ魔法は貴族様の証みたいなものなんだぞ?」
「うーん、多分なんだけど……わたし死にかけたときに夢の中で神様に合った気がするの。その時に魔法の使い方を教わった様な気がするんだ。」
わたしは用意しておいた言い訳を父に聞かせる。
実際、皆の常識として平民は魔法が使えないなんて思われてる世界でわたしが魔法の手解きができる建前は必要だからね。
このくらいのでっち上げは準備しておくよ。
この世界の魔法は全てスキルです。
各種の魔法には位階レベルとスキルレベルがあり、例えば【光源】の魔法は古代語魔法レベル1スキルで、これが位階レベルです。
スキルレベルはそのスキル個別に設定されたレベルのことで、そのスキルを使うことで熟練度が貯まり、レベルアップしていきます。
魔法個々に最大レベルが設定されており、【光源】は最大で2レベル。
レベル1ではランプの灯火程度の明かりを数時間持続させる程度ですが、レベル2では光量と照射時間を調節することができるようになります。
光量と照射時間は反比例しており、光量最大・照射時間一瞬で目潰しなどに使えたりします。
※スキル講座
【光源】古代語魔法レベル1スキル
明かり取りの魔法。
詳細は上記参照。
【老化抑制】特殊スキル
肉体の老化を抑える。
スキルレベル最大で未取得より老化速度が1/2となる。
健康にするスキルではなく、あくまで肉体の老化を抑えるスキルなので、死病などを得ればあっさり死んでしまうことがあります。
【不老不死(魔法使い)】種族特性スキル
種族【魔法使い】にくっついてくるパッシブスキル。
人種よりも強靭な肉体となり、怪我などは直ぐに治り、病気などに一切罹患しなくなる。
生きるための栄養補給などの一切が必要なくなり、睡眠すらも不要となるが、必要に応じて食事や睡眠を取ることもできる。
このスキルに於ける不老不死は内的要因に対するもので、外的要因には効果を発揮しない。
具体的には瞬間的な致命傷を負うと死にます。
首を刎ねられるとか。