閑話—— アルトリウス・ド・パルマセウス
俺様はアルトリウス。
パルマス王国の現王朝の第三王子だ。
パルマス王国には今んとこ、俺様を含めて五人の王子王女がいる。
もちろん親父はパルマス王国国王、ルーヴェンス二世だが、母親がちょいちょい違う。
一番上が長女、ヒルデガルド。
俺様には鬼とも思える恐怖の象徴だ。
ヒルデ姉貴はもうどっかの国に嫁に行ってもおかしくない歳なのに、輿入れどころか浮いた噂一つ出ねぇ。
女だてらに国軍の一将軍を任されていて、そのせいで完全に行き遅れ状態だ。
姫将軍なんて渾名されてて、事あるごとに俺様や兄貴達に訓練という名の拷問を課す。
あの強烈な扱きをよくもまぁ、俺様も兄貴達も耐えていると思う。
二番目が長男のガストーニュ。
ガスト兄貴は長男だけど、王太子じゃない。
親父には嫁さん……王妃様が三人いんだけど、ガスト兄貴の母さん、ネイ王妃は下働きからのお手付きで出身が下級貴族の出なんで、序列が低いんだそうだ。
でも、ガスト兄貴はそれに腐ることなく自分を磨き、実力で王国でも指折りの魔導師になった。
剣の腕も王家に相応しい遣い手で、俺様にとっては自慢の兄貴だ。
三番目が次男のエルディラン。
俺様はこの三つ違いの兄貴が苦手だ。
言ってることは間違ってない、正しい見識と優秀な頭脳を持ってんだろう。
政治家として優秀なんだとは思う。
実際、この春に貴族院を卒業して、改めて立太子された。
時代のパルマス国王ってわけだ。
ただ、とにかく俺様とこの兄貴は反りが合わない。
どうやらエル兄貴の方も俺様のことが気に食わないらしい。
こいつが正式に即位したら、王国に俺様の居場所は無くなるんじゃねぇかな。
ちなみにヒルデ姉貴とエル兄貴は母親が同じ、シェシンガ王妃だ。
四番目は俺様だ。
そのすぐ下に妹がいる。
次女姫のリルカと俺様は同腹だ。
俺様達の母ちゃん——ナユタ王妃は序列的にはシェシンガ王妃と変わらない。
ただ、俺様の母ちゃんは隣国アレリスト帝国の侯爵の出なので、国内に地盤が無いんだけどな。
他国出身の血筋、しかもパルマス王国とアレリスト帝国はかつて戦争していた歴史もあってか、どこを向いても良い顔はされない。
今でも決して両国は仲がいいわけじゃないから、国内に敵も多い。
親父が国王である内はいいが、その後はどうなるか。
だが、それでも俺様は王位継承権の第二位に位置している。
この事実からも俺様はエル兄貴から、そしてシェシンガ王妃から疎まれている存在なわけだ。
俺様的には次期国王なんて冗談じゃない、糞食らえ的なモンなんだが、エル兄貴と特にシェシンガ王妃はそうは思わないらしい。
どうあってもエル兄貴を次期国王にしたくて仕方ないらしい。
幼い頃から色々と嫌がらせをされたモンだ。
本気で命の危険を感じたこともしばしばだ。
だから俺様は、阿呆になることにした。
何とか妹にまで魔の手が及ばないように、間違っても親父が俺を立太子しないように、優秀な優秀なエルディランお兄様に御鉢が回るように阿呆を演じてきた。
甲斐あってか、兄貴が貴族院卒業と共に立太子され、正式に王太子になった。
あとは兄貴が即位する前になんでもいいから、妹のリルカ、あとは母さんに害が及ばないようになんとかしねぇとな。
だが、俺様はまだたかだか14のガキでしかない。
何か、今の俺様にできることは無いだろうか。
今日、面白いやつに会った。
貴族院の入寮日、たまたま同じ日に入寮した、たぶん新入学者だと思う一団。
城下でも数少ない特大型の馬車に乗ってきたそいつら——いや、正確にはその二人のうちの一人が、世にも珍しい竜人族を侍従にしていたのだ。
竜人族といえば亜人のなかでもトップクラスの戦闘力を誇る一族だ。
そんな強力な配下がいれば、もしかしたら冒険者としてひと旗上げられるかもしれん。
よし、物は試しだ。
金で解決できるなら、大枚叩いてもいい。
俺様は意を決してそいつに声を掛けて——ぎたぎたにやられちまった。
その女——イルミナと名乗った少女はそれからの数週間ですっかり貴族院の有名人になっていた。
貴族院始まって以来の神童、数ある学科全てをたったの二週間で終わらせ、その上で貴族院の講師陣に劣らない見識と技術を持って新しいスキルツリーの可能性を打ち出したりしてるそうだ。
もちろん実践も優秀らしく、特に魔導学に於いては講師の誰もが舌を巻くほどらしい。
この少女ならば、俺様の新たな道が拓けるかもしれねぇ。
後にエルヴェレストの娘っ子が全学科を終わらせたと聞いてこの思いは確信に変わる。
やはり、あの娘には何かある。
あの娘はどうやら毎日書庫に入り浸っているらしい。
ならば俺様も、邪魔が入らないように全ての学科を終わらせてやる。
会う約束もしていたしな。
いきなり門前払いってことはねぇだろ。
……だよな?
とりあえず、今までサボってきた分を取り戻すかね。
今日は閑話なので、ちょっと短め