5 イルミナ
さて、わたし個人の現状は把握したが、わたしが置かれている現状が解らない。
わたしがこのベッドに寝ていた以上、ここはイルミナの部屋なのだろうけど。
……しかし粗雑なベッドだなぁ。
今にも壊れそうな粗悪な作りで、掛けてある毛布もぺったんこだ。
裕福とは縁遠い家だということはわかる。
不意に部屋の扉が開いた。
扉の向こうから現れたのは7~8歳くらいの少年だった。
少年はわたしを見て驚いてる様に見える。
「イ、イルミナねえちゃん?」
うん、さっき鑑定した自分の名前は確かにイルミナだった。
なので、少年がわたしを呼んだことは間違いないだろう。
どうやらわたしは少年にとっての姉であるらしい。
「ね、ねえちゃん。生きてんのか?」
「生きてるけど、それがどうしたの?」
生きてるか? とはまた変な質問だ。
まるで死んだ人間が生き返ったような……まてよ?
もしかして、イルミナは死んだのでは?
イルミナと呼ばれていた少女がなんらかの理由で亡くなり、その瞬間その肉体にわたしの魂が転生したのでは?
「か、かぁちゃーん、ねえちゃんが生き返ったーっ!」
どうやらこの推測は正しい様だ。
「なんですって! それは本当なの!? フレッド!」
さらに扉の奥から女性声がする。
フレッドがわたしの弟、女性の声は母親だろう。
「ああっ、イルミナ、本当に生きているのね!」
部屋に入ってきた女性は私に抱きつくと、ボロボロと泣き出した。
女性は母親とはいえまだ若く、さらに美人だった。
自分の顔はまだ確認していないが、これだけ美人の人の娘ならばそれほど見れない容姿というわけでも無いだろう。
「お、お母さん?」
「そうよ、あなたのお母さんよ。大丈夫? 何も変わってない?」
ごめんなさい、中身が別人です。
あなたの娘のイルミナさんは本当は亡くなっています。
……なんて言えるわけもなく、わたしとしては現状を受け入れるしか無い。
「いけない、フレッド。お父さんに早くこのことを伝えて。お葬式の準備を始めてしまっているわ。」
「うん、親父、きっと喜ぶぞ!」
そういってフレッドは部屋を駆け出していく。
「イルミナ、身体はなんとも無いの? 昨日はあんなに熱があったのに。」
母がわたしの身体を気遣う。
確かにイルミナの身体は9歳にしてはかなり小さい。
恒常的に身体が弱く、体調を崩して寝ていたものと思われる。
そしてその原因がなんなのか、わたしには心当たりがあった。
わたしでは無いイルミナが死んだ理由だ。