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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
王都騒乱編
49/159

41 古代魔導文明とスキルレベル

「古代……魔導文明? なんですかそれは?」


やはり知らないのか。

既に記録が絶えているのか、はたまた意図的に秘匿されているのか。


「古代魔導文明とは大陸文明の……いや、ヒト種の生活の基礎とも言える最初の文明ですよ。古代語魔法などはその頃から存在する最も古い魔法大系ですよ。」

「そんなものがあったのですか? 寡聞にして知りませんが……」

「あったのです。この金貨の成分含有量測って見てください。」


わたしの言葉に疑問符を投げかけながらも、言われた通りに鑑定をしてみるアディーレ。


「こっ、これは、こんなことが出来るんですか?」


案の定驚きを隠せないようだね。

そう、古代金貨の金含有量は100%だ。

混じりっけなしに、正真正銘全て金で出来ている。

これは現代の技術どころか、かつてのわたしの時代ですら不可能だった技術で、もちろんわたしにも不可能だ。

どんなに錬成魔法で細かく丁寧に精錬しても含有量100%の金属塊を錬成することはできない。

99.99%まではいけるのだ。

その先に進めない。


「含有量100%……そんな技術、聞いたことがない……」

「この金貨を作ることが出来る技術を持った文明が、古代魔導文明です。」


わたしがアディーレに軽い講釈をしていると、会話に入ってくる人がいた。


「古代魔導文明、本当にあったのか!?」


アスターだった。

アスターはかなり前のめりになって、勢い良く近づいてくる。

近い、鼻息が感じられるくらい近い。

もう少し離れてくれ。


「アスターは古代魔導文明を知ってるの?」

「もちろん。というより、僕は古代魔導文明を追うために冒険者になったようなものだから。」

「どこで知ったの?」

「それは……まぁ、僕も貴族の端くれだから、 いろいろ聞くことはあるよ。」


確かに貴族階級なら平民よりも魔法に関する情報を得やすい立場にあると言える。

冒険者ギルドは貴族を相手にすることも多いが、基本的には平民階級を相手にする組織だ。

どうしても魔法関連の知識は、豊富とは言い難いと思う。

それとは別に錬金術の技術は平民にも伝わっているのが謎なんだけどね。

錬金術スキルは確かに魔法スキルでは無いが、発動する際に魔力……つまりMPを使う。

ジャンルがどうあれ、本質的には魔法スキルと変わらないスキルだ。

錬金術を使うクラス……錬金術師が平民間で廃れずに今日まで続いているのは、魔法スキルが貴族階級のみに伝わっていることと関連して、なにか特別な理由がありそうなんだよね。


「訊いてもいいか、古代魔導文明のことを。」

「わたしも、そんなに知っているわけじゃないよ。」


まぁ、たぶんこの世界の誰よりも知ってはいるとは思うけどね。

わたしの魔法研究の基礎は古代魔導文明にあると言って良い。

というより、魔導研究者は大凡古代魔導文明を最初の研究対象とする。

これはやはり古代語魔法が魔法スキルの基礎といえるモノだからだろうね。

古代語魔法はとても洗練されたスキル大系で、その全てを開放したわたしをして「こんなに美しいスキルツリーは見たことない」と感激したものだ。


「そもそもアスターは、古代語魔法についてどう思う?」

「どうって……どういうことだ?」

「古代語魔法の「古代語」ってなんだと思う?」

「……まさか、古代語って古代魔導文明の言葉なのかい?」


そう、ご明察だ。

というか、なんで誰も疑問に思わないのか。

古代語魔法は魔法大系の中でも最も基礎にして、極めれば集大成ともいえる洗練された魔法だ。

攻撃、防御、補助、増幅と、回復以外のありとあらゆるジャンルに精通し、基本的に発動は自分の魔力で行い、触媒を殆ど使わない自己完結型の魔法で、もちろんこの魔法が廃れた時代に於いてさえ、貴族が一番最初に習うのは古代語魔法だ。

だが、古代語魔法という名称が一般的に浸透しているにも関わらず、じゃあ「古代語」とは何なのかと疑問にする研究者というものをわたしは寡聞にして知らない。

そうだね、わたしと……あと二人くらい。

主観時間で1000年以上の時を経たわたしでさえ、わたしを含めてたったの三人。

かつてこの時代よりも魔法スキルが一般常識として知れ渡っていたあの時代ですら、そんなものなのだ。


「ちなみに古代魔導文明時代はマイノリーゥヤ語と呼ばれていたらしいです。これはそのままかつてこの大陸を席捲したマイノリーゥヤ王朝、すなわち古代魔導文明そのもののことを指すらしいですよ。」

「マイノ……なんだって?」

「マイノリーゥヤ王朝です。確かに言い難いですが……」


マイノリーゥヤ王朝が22000年前に築いた遺跡や遺構が今でも残っているし、そういったものが迷宮となって冒険者たちの糧となっている。


「マイノ……マイノリーゥヤ。うん、覚えたぞ。」

「王朝の遺跡なんかは大陸の各地に残ってますよ。遺跡や遺構……つまり建築物は一応道具扱いになるので【道具鑑定】で調べることが可能です。材質や建築年代も確認できますね。」


まぁ、スキルレベルが低いとその限りではないが、レベル4もあれば年代まで確認できたはずだ。


「やはり……君も【道具鑑定】持ちだな?」


思わぬところから攻撃された。


「ああ、やはりバレますよね。」


アディーレだ。

彼は呆れたような表情でわたしに問う。


「やっぱりか。おかしいとは思ったんだ。君の魔導具に対する知識、見識、そしてこれらの素材の数々、明らかに我々の常識から一線を画している。恐らくだが、まだまだ私たちの知らないことを知っているのだろう?」


まぁ、ここまでヒントを出せばちょっとわかりやすかったかな。

わたしは徐々にでも世界の知識を、少なくとも以前のレベルまで戻したいと考えている。

学問というものは一人で抱え込んでいても向学は見込めない。

同等の相手と議論し、切磋琢磨することで新たな道が拓けるのだ。

まぁ、魔法スキルに関してはわたし極めているけどね。

しかし、世界にはまだわたしの知らないことは沢山ある。

それを詳らかにしていくのは楽しみで仕方ない。

どうせなら、同好の士とともに出来れば尚良しなので、わたしはせっせと知識の波及に努めるのだ。

といっても、直ぐに広がるわけでもない。

いくら間違いとはいえ、既存の常識を打ち破るのはなかなかに骨が折れる。

人は事実と常識がかち合う場合、何故か常識を優先して「こんなことはあり得ない」とか言っちゃう生き物なんだよなぁ。

その点ではアディーレはなかなかに柔軟な思考力の持ち主らしくて、わたしとしては嬉しい。


「君は、スキルに熟練があることを知っているか?」


おっ、この時代でスキルレベルに言及した人物を初めてみたな。


「スキルに熟練? なんだいそりゃ。」

「仮定の話だ。アスター、お前は同じスキルを幾度となく使うことで効果が上がったり、発動がスムーズになったりすると感じたことはないか?」

「いや、あんま気にしてないかな。でもそうだな、言われてみればよく使う魔法スキルはどんどん使いやすくなってるかもな。【光源】とか【浄水】とかは結構得意だ。でもそれって慣れたってことじゃないのか?」

「ふむ……」


そう、この時代にはスキルレベルの概念がない。

同じスキルを繰り返し使うことで、スキルは成長し、スキルレベルが上がる。

一定のスキルレベルに達すれば上位スキルへの道筋が解放されて、新たなスキルを取得することができる。

実は魔法スキルの位階も同じ原理で上がるので、まったく知られていないわけではないのだろうが、大系としての魔法スキルのスキルレベルと個々の細かいスキルのスキルレベルに関連性を持たせられないのは何故なのかね。

これのスキルレベルのシステムはわたしにとっては常識なのだが、この時代ではスキルは生まれつきの才能で、望んだスキルが取得できないのは仕方ないという考え方が主流だ。

確かに一つのスキルを習熟するのは時間のかかることではあるから、そう思われても仕方ないとは思うが……


「ありますよ、スキルの熟練。」

「何ッ!」

「えっ、あるの!?」


そもそもなんでスキルレベルの概念に行き着かないのかが謎なのだが、一応仮説もある。

恐らくだが、ピーピンググラスの所為だ。

【能力鑑定】のスキルの存在が知られていないこの時代、ステータスやスキルをを確認するにはピーピンググラスに頼るしかない。

ところがピーピンググラスに付与されている【能力鑑定】のスキルレベルは高くても3、廉価品は当然1だ。

【能力鑑定】のスキルレベル1で見ることのできる能力は名前、クラス、ステータスくらい。

スキルレベル3でようやくスキルが覗き見できるようになるが、そのスキルレベルまではわからない上、個人が隠したいスキルは見ることができない。

もっとも、「このスキルを所持していることが知られたくない」と明確に思う必要があるので、大概は読まれてしまうが。

必然、スキルにレベル、つまり熟練度が設定されていることを知るものは少なくなる。

というよりいるのだろうか? 技術秘匿の疑いがあるツァクール教の連中なら知っているかもしれない、くらいのものだろうね。


「システム的にはスキルレベルと言います。スキルを習熟することで上昇し、最大10レベルまで上がりますよ。」

「なんと……でも、教会に能力の鑑定を頼んでもその……スキルレベルのことなど一言も言ってこないじゃないか。」

「それは教会が事実を隠匿しているか、教会も知らないかのどちらかでしょうね。」

「それで、君はわかるのか?」


……アディーレ、わりと確信を突くなぁ。

【能力鑑定】に関してはおいそれと広めるべきではないスキルじゃないかと思ってるんだよね。

個人のステータスというものは個人で秘匿されるべき情報だとは思うんだよ。

絶賛覗き見し放題のわたしが言っても全く説得力は無いのだけれども。

というわけなので、わたしは誤魔化しをする。


「まさか、わたし個人では無理ですよ。ですがまぁ、こんなモノを持ち歩いています。」


わたしが【空間倉庫】から取り出した魔導具、それはピーピンググラスではないもう一つの鑑定魔導具、スキルスケールと呼ばれるものだ。


「それは?」

「これはスキルスケールという魔導具です。個人が使えるスキルのスキルレベルを測ることができる魔導具です。」


スキルスケールは自分に使う魔導具で、自分のスキル一つを指定するとそのスキルレベルが確認できる魔導具だ。

【能力鑑定】持ちのわたしには正直必要のない魔導具なのだが、これは作成がものすごく楽なのだ。

クズ魔石とクズ魔木があれば錬成魔法レベル1【基本錬成】で作れてしまう。

上位スキルの錬成魔法が必要なあたりアレだが、たぶん錬金術でも作れるんじゃないかな?

ガラウスの水晶というそれなりにレアな素材が必要なピーピンググラスとはその入手難度が桁違いに低い。


「なんと、こんなモノがあるのですか。」

「あまり役に立つものではありませんが、自分を知る分には使えるものです。数はあるので、試しに使ってみてください。」

「面白そうだな。俺にも一枚くれよ。」


横で聞いていたサラーフが大きな手をヌッと出してスキルスケールを一枚抜いていく。


「あっ、ダメですよサラーフ。勝手に使っては。」

「いいですよ、是非使ってみてください。サラーフさんなら【魔物解体】のスキルあたりを見たいのですか?」

「応よ。やっぱ自分がどのくらいできるのか気になるじゃねぇか。」

「それではスケールを持って、魔物解体のスキルを念じて見てください。どうですか?」

「ああ、これは……スキルレベル5と出たそ。これは……高いのか?」

「ええ、かなりの高位ですよ。流石ギルドお抱えの解体職人ですね。」


実際サラーフの【魔物解体】スキルはかなり高い。

わたしが褒めると、「当ったり前よ!」などと胸を張ってくるが、その顔はニヤケ顔だ。


「では、わたしも使ってみて良いですか?」

「どうぞ。これはそう高価なものではないので、ガンガン使っちゃって大丈夫ですよ。」


言われてアディーレも何やら念じる。


「道具鑑定のスキル……4と出ましたね。」


ん? さっきわたしが【能力鑑定】で見たときはアディーレの【道具鑑定】は3だったような……この数十分で色々高位の魔導具を鑑定してたから上がっちゃったのかな?

なんにしろスキルレベルが上がったことは喜ばしいことだし、残りのスキルスケールは全部アディーレにあげよう。

ちなみに実際の現実でも金含有量100%の金塊というものは基本的に存在しないそうです。

有名な24金(純金)は純金含有量99.9%以上と表記されます。言うなればほぼ金で出来ているということですね。

ちなみに自然界で採取される金は通常10%前後の銀が含まれているらしいので、精製しないと純金は生まれません。

便宜上は24金を100%とすることはあるみたいですが、学問上はあり得ないらしいです。

(ざっと調べただけなので、間違ってるかもですが)

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