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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
王都騒乱編
43/159

35 銀縁のカード

「其方、六大迷宮というものは知っておるか?」


割と有意義な公爵閣下……お爺様(そう呼ぶ様に言われた)との面会終わり、わたしとカタリナは部屋に戻っていた。

わたしの自室として当てられる予定の部屋だそうで、わたしの使い魔達、カルナとシエラも最初からこの部屋に通されていた。

わたしは一息つくと無駄に広い部屋の真ん中に設えられたソファに腰を下ろし寛ぐ。

カタリナもわたしの向かいのソファに腰を落ち着けて、最初のセリフが冒頭の言葉だった。


「唐突ですね。」

「いや、お爺様との面会の際に、迷宮の話が出た時だけ目の色が変わった様に見えたのでな。」


ほんとよく見てるよ、この腹黒お嬢様は。


「そんなに分かり易そうにしてましたか?」

「いや、一瞬じゃよ。おそらくお爺様は気づいてはおらんじゃろ。」

「カタリナ様はよく分かりましたね。」

「妾は其方をよう見とるからの。」


ちょっと、引くぞ。


「なんじゃ、気づいとらんかったんか? 妾は其方のこと、非常に気に入っておるのじゃぞ。」

「いや、それは知ってますが。」

「何はともあれじゃ。これで妾と其方ははとこになったわけじゃな。」

「わたしはトーガ様ともはとこになってしまいました。」


まぁ貴族とは言っても名ばかりで実は無い。

わたし的には実は要らないので、名をトコトン利用させてもらおう。


「それで、六大迷宮なのじゃが……」


カタリナが説明してくれた六大迷宮とやらの概要は、わたしの興味を引くに十分な内容だった。

実際はカタリナの説明の不足分をカルナが補う形だったけどね。

二人の説明を要約すると、このパルマス王国がある大陸には古の大賢者が造ったとされる巨大な迷宮が六つあるらしい。

あくまでも伝承らしいのだが、六つあるというのはどうやらこの国の貴族階級には事実として受け入れられているらしい。

というのも、この王都の地下に広がる迷宮の一室から、それを匂わせる文献が見つかったんだとか。

六大迷宮ねぇ……なんとなく嫌な予感がするんだけど、流石にそれはないかなぁ。

わたしの工房は、そこまで広くはないし。


「というかカルナ、なんでそんなに六大迷宮に詳しいのさ。」

「それはちょっと、色々ありまして。」


メイド服を着込んだドラゴンは少々はにかみながら、可愛らしく微笑む。

あぁ~、やっぱこのドラゴン可愛いッ! 流石はわたしのカルナヴァルッ!!


「六大迷宮はかつての大賢者が、様々な魔導具を置いていったという逸話があっての。実際下層部ではなかなかお目にかかれない様な魔導具が発見されることもある。先ほどお爺様も仰っておったが、Dクラス以上の冒険者と貴族の私兵にしか開放されておらん。」

「? でもわたしの銀縁カードで入れるとお爺様は仰ってましたが。」

「それはそうじゃろ。銀縁カードは本来貴族院の卒業と同時に一人前の貴族となった証に与えられるモノじゃ。」


はい?


「その証拠にほれ、妾のカードは銅縁じゃ。貴族院卒業前の貴族の子弟は皆これじゃ。王族や幼くして門地を継いだ者などは例外的に銀縁以上のカードを持っておることもあるがの。」


なんでそんなもんをわたしにくれるんだあの人は。

貴族のカードはパルマス王国に限らない貴族の証明書みたいなもので、上から神鋼(オリハルコン)魔鋼(ガーマニオン)真銀(ミスリル)白金(プラチナ)黄金(ゴールド)(シルバー)(ブロンズ)の縁取りがされているらしい。

貴族の一番上が王族なので王族は神鋼縁なのかと思えばそうではなく、現国王は白金縁のカードで、それより上の縁取りカードを手にした者は王国700年の歴史でも片手で数えられる程度しかいないらしい。

貴族は生まれて五歳を数えるとまず銅縁のカードが与えられる。

また、騎士爵や準男爵などの当代貴族にも銅縁のカードが与えられる。

のちに貴族院を卒業して初めて銀縁のカードを与えられ、一端の貴族と認められる様になるそうだ。

黄金のカードを手にするには伯爵以上の爵位を受けるか、国に功を認められるかが必要になるらしい。

白金のカードともなると、国王や国家に対し重大な功を齎した者にしか与えられないらしい。

それ以上のカードはそもそも下賜条件が謎だそうだ。

一説には、カードの交付を受けた際に例の魔導具から自動的に該当のカードが出てくるとか何とか……流石に眉ツバじゃないかそれ。


「で、わたしのこのカードは?」

「お爺様がカードの申請に行ったら、そのカードが渡されたらしいぞ。カードはツァクール教団が一手に管理しているから、其方に関しては最初からカードの魔導具が其方を銀縁に相応しい者と認めたということなのじゃろう。」


ん~、なんか引っかかるが、まぁ、貰えるモノは貰っておくか。

それにしても、またツァクール教だ。


「あの、カタリナ様。恥を承知で訊くのですが、ツァクール教とはなんですか?」


その言葉に、カタリナの動きが本当に一瞬停止した。

そして、信じられないモノを見る様な目でこちらを睨む。

そんな顔されてもね。

転生前から転生した後の期間は知識の空白期間なんだから、その間に出来た宗教のことなんか知らないよ。


「本気で言っておるのか其方。ツァクール教は神が大地を創造した時からある世界最古の組織じゃろうが!」

「は? 何言ってるんですかカタリナ様。そんなものあるわけ無いじゃないですか。」


間髪入れずにわたしが全否定すると、目に見えて頭に血が上っていくのが分かる。


「そんなはずなかろう! 唯一神ツァクールが大地を創り、この世界に人々を生み出し、人族に世界の覇を統べよと仰ったのじゃろう!」

「神が世界を創ったのは嘘ではないですが、あのポンコツに名前なんかありませんよ。それにアレは基本世界には干渉しませんからね。唯一の例外はアルテマスキルを取った者が顕れた時に神界に招くくらいです。」

「なん……じゃと……」

「それにアレは別に人族だけに肩入れとか絶対しないですよ? アレにとって我々世界に棲まうモノは全て平等……というよりは玩具でしかないので、玩具が泣こうが喚こうが、どんなに熱心に祈ろうが願いを聞届けるなんてことはないです。断言してもいい。」


わたしはアレに会ったことがあるから、これだけは間違いなく言える。

アレは下界を見て(神界が天上にあるか知らんが)ほくそ笑むことはあっても、溺れてる者に藁を投げ込む様な真似は絶対しない。

まぁ、率先して梯子を外す様なこともしないけどね。

良く言えば中庸、悪く言えば無責任だ。

無関心では無いってことが余計に質が悪い。


「まて、待て待て、イルミナよ。それでは教会の説く教典や神の声を聞く神子の存在は……」

「あ~、そんなのがいるんですか。十割で騙りですね。は~、その様子ですと一大宗教としてかなりの勢力を持っているみたいですね。作ったヤツは上手くやったもんだ。」

「まさか……ツァクール教は大陸全土に支部を持つ、人族国家の聖域じゃぞ……我がパルマスが数ある人族国家で上位位階にあるのはツァクールの二大聖地の一つがあるからじゃというのに。」

「ははぁ、そんなものも有るんですか。まぁ頭から信じ切ってる人にペテンだと言っても信じてはもらえないでしょうが、少なくともわたしのかつての時代にはツァクール教団なんてものは影も形もなかったですよ。700年の歴史を持つこの国でこれだけ浸透してるのですから、それなりに組織としての根は深そうですが、いいとこ1000年、長くても1500年くらいじゃないですか? わたしにとっては古代魔導文明の方が遥かに興味ある存在ですね。」

「そん……な、いや、其方が、悠久の時を生きる魔女の其方が言うのであれば、本当のことなのじゃろうな……」


そんなことを喋っていたら、あらぬところから追い討ちが来た。


「ツァクール教ですか? あれは設立されてから800年くらいですね。当初は非常に小さな、集団とも呼べない集まりでしたが、ちょうどこの国が建国されたあたりで上手く立ち回って国教の地位を確立したんですよ。それからはトントン拍子に勢力を広げて行きましたね。」


語ったのはメイドドラゴン、カルナだ。


「あんた、随分詳しいわね。」

「勢力拡大の真っ最中に愚かにも我の討伐だとか言い出して、我の塒に集団で押し寄せて来まして。」

「あらら。」

「集団を数人残して粗方排除したあと、その生き残りによーく言い含めて返しました。そに際にそいつから教団の成り立ちを聞いたことがありましたので。」


う~ん、正に生き証人……というか当事者だなこれは。


「なんと……では黒竜討伐の件は事実と……というかあの事件はカルナヴァル本人の……」


カタリナがなんかブツブツ言い出してる。

わたしにとっては本当にどうでもいい、取るに足りない組織なのでカタリナのこの驚愕がイマイチ分からない。

宗教ってそんなに必要か?

わたしのかつての時代にも小規模な宗教の集団みたいのはいたけど、何かに縋るって風潮は基本的には無かったからね。

スキル技術がこの時代よりも発達してたからか、だいたい何かことが起きても自分たちで何とかしてたし、個々で神に祈るヤツはいるにはいたけど、あくまでも個人レベルで「明日は良い獲物に出逢えますように」とか「博打で勝てますように」とか取り留めもないことを祈るのがいいとこだった。

聞くとツァクール教ってのは、今日安らかに過ごせるのはツァクール神へのお祈りのおかげ、何かことが起これば神への信心が足りないからなどと本気で信じさせてるらしいじゃない。

これは思考の放棄だと思うんだけど。

何か上手くいかなかったら、それを踏まえて別の方法を試す。

そういった試みが技術の発展を促すのに、何があっても神の思し召しでは成長するものもしないでしょう。

もしかして、スキル技術の低下の原因は貴族ではなく、教会にあるんじゃない?


「一度調べる必要がありそうね。」


わたしの小さな呟きは、混乱しているカタリナには聞こえてなかったらしい。

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