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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
王都騒乱編
42/159

34 イルミナ・エルヴァ・ランズロウト

「実のところ、其方にランズロウトを名乗ってもらうのは不自然でもなんでもない。」


わたしが再度ジト目を投げて、嫌そうにしていると、公爵が説明してくれる。

つまり、もともと辺境とはいえわたしはランズロウト領内の出身なので、出身地を氏として名乗るのにおかしなことはないということらしい。

もちろん領主の許可は必要になるが、昔から才あるものを囲い込むために限定的に爵位を与え、貴族に迎え入れるということは稀に行われてきた行為だそうだ。

騎士爵とか準男爵とか平民から当代貴族(本人のみで世襲されない貴族階級)に叙されたものはそこそこいるらしい。

この制度は正直、わたしの知らない制度だ。

パルマス王国に限定的に存在する制度なのかな?


「以上のことから、其方がランズロウトを名乗るのに不都合は無い。ただ今回は少々事情が異なる。」


だろうね。

公爵は「儂の孫」と言った。

単純にわたしを当代貴族にするということではないだろう。


「貴族院の入学規定に当代貴族は含まれんのだ。さもありなん、当代貴族は当人がその才や成果を認められて貴族に叙された者だからな。基本成人しておるものが多く、当代貴族で貴族院入学規定の十三歳というものはおらん。」


まぁそうだよね。


「当代貴族の子弟は貴族ではないので、貴族院に入学はできん。」


まぁそうだよね。


「それに仮に当代貴族やその子弟が貴族院に入れたとしてもな。その、こう……貴族社会というのは特殊でな。いや、特殊というか閉鎖的というか、陰湿というか……」


ありゃりゃ、歯切れ悪いな。

まぁ言わんとしてることは分かる。

貴族の教育機関というものはわたしも初めてだけど、貴族の集団というものがどういう性質の集団かは簡単に想像できるしね。


「それでの、単純にランズロウトの一族として爵位を与えて貴族院に上げるといろいろ面倒事になると考えてのう。」


イジメだろうなぁ、更に言えば高い位階の貴族の子弟は下の者を虐げることを当然の感覚……いや、当然とすら感じてないか。

自然に虐げる。

もちろん全部の貴族がそうではないだろうし、そうならないように学ぶべき場所が貴族院だ。


「そこで、儂の孫ということにして、後ろ盾になれれば、とな。外縁ならば公爵家として周囲に立つ波風も然程ではないと考えられるし、儂が後ろにいるとなれば大っぴらに其方を責め立てる輩もいないだろう。」


いやぁそれはどうかな。

世の中公爵のように理知的な人ばかりじゃないんだよ。

まぁこれは貴族とか関係なく、置かれていた環境によるので、位が高くても下衆はいるし、平民でも聖人はいる。


「そこで其方の名だが、このようになった。確認してくれ。」


公爵が一通の封書を取り出し、わたしに渡す。

わたしはそれを受け取ると、軽く指先に【魔力刃】を発動し封を切る。

『イルミナ・エルヴァ・ランズロウト』と書かれたカードが一枚入っていた。

……このカード、魔導具だね。


「それは貴族に名を連ねた者が必ず所持する貴族の証明書みたいなものだ。ある特殊な魔導具で作られるもので、再発行は非常に手間が掛かる。失くすでないぞ。」

「ほほう、この様な魔導具があるのですか。」


カードは銀色の縁取りの正方形で、二辺の対角線上にわたしの仮の名前、『イルミナ・エルヴァ・ランズロウト』が刻印されている。


「ランズロウトは言わずもがな、家名だ。エルヴァはエルヴェレスト所縁のもの、という証名(あかしな)だ。一応の設定としては儂の死んだ弟がそとに産ませた子の娘で、その相手がランズロウトの縁者だったという話をでっちあげたわ。」

「随分とベタなお話ですが、大丈夫なんですかそれ。」

「儂にかつて弟がいたのは事実だよ。魔族との戦で失ったがね。何分30年も前の話だから顔を覚えとるモンも殆どおらん。ランズロウトの縁者という話にしても、先先代、今のトーガ卿の祖父にあたる方は割と好色だったと聞いておるし、庶子の一人や二人居てもおかしくなかろう。」


あの酒樽も大概好色だったと思うが、その親父もなのか。

息子の酒樽とは違い、優れた経済感覚を持って領を栄させたと聞いていたけど、血は争えないというか。

まぁ英雄好色という言葉もあるし、そこは問題はない。

問題があるとすれば、トーガにもその好色の血が流れているということなんだけど、これはもうなるようにしかならないね。

というか、この設定を受け入れるということはわたしはトーガとはとこになるのか。


「何より其方は魔法が使えるでな。貴族を騙っても誰も不思議には思わん。むしろ、そうだったのかと誰もが納得するだろう。

そうしてランズロウト辺境領のさらに奥に隠棲しておった其方を見つけ、不憫に思った儂が弟の孫を儂の孫として引き取ったという筋書きだ。このことは既に新たなランズロウト卿には許可を取り付けてある。あの青年は其方にある大恩を少しでも返せればと、妙に乗り気で二つ返事で回答して来おったわ。」


可可と笑う公爵。

そりゃ恩はあるだろうが、公爵から直々に要請されて否が出せる王国貴族なんて殆どないだろう。

ま、その腹黒公爵ならそんなことも承知の上でなんだろうけど。


「少しでよいから、其方の魔力をカードに通してみてくれ。」

「はい。」


わたしは公爵に言われた通り、ちょっとだけ魔力を通すと、カードが魔力を吸って薄く発光した。

なるほど、今のは認証みたいなものか。


「ほう、流石にもうカードがどういったものか理解したようだな。」

「これは身分証ですね。渡された時点ではまだわたしのものではなかったが、今わたしの魔力を吸ってわたしのものになったというところでしょうか?」

「如何にも。王国、特に王都にはこのカードの認証がないと入れない箇所がいくつもある。この国を建国した初代国王様や、その仲間たちが作られた個人認証型の魔導具でな。正確にはこのカードを作る魔導具なのだが、正直今の我々では同じものを作ることはできぬだろう。」


700年前にこの国を建国した王は、どうやら優秀な付与魔導師だったみたいね。

いや、「仲間たち」だから仲間に優秀な魔導師いたのかも。

いずれにせよ、わたしも知らない個人認証型の魔導具、見てみたい。

少なくとも、700年前くらいはまだ致命的にスキル技術が衰退してはいないという証左になるかな。


「銀縁のカードは貴族院内の施設なら入れぬところはないだろう。王都内の施設に限っても王立図書館や史跡資料館などには入り放題だ。あとはコロシアムなどもフリーパスだが、其方はあまり興味がなかろう?」

「そうですね。図書館や資料館は興味が尽きないところですね。」


というか、貴族院の書庫の他にもそんな素敵な施設があるのか。

残念ながら王宮の図書室は無理くさいかな?

わたしがそれとなく聞いてみると、王宮の図書室は禁書の山で、流石に入室許可は出ないだろうとのこと。

いつかなんとかしよう。

そもそも銀縁カードでは王宮を自由に歩くというわけにはいかないらしい。

一部の施設は可能だそうだが。


「ああ、王宮というなら、銀縁ならあそこにも入れるな。」

「どちらですか?」

「王宮の地下にある広大な迷宮、「オーグル」だ。」


王宮の地下に迷宮?


「これは王国の貴族とC級以上の冒険者なら誰でも知っていることなので隠す様なことではないが、一般市民には知らされていないので忖度してほしい。このパルマス王国の首都シュナイゼルは、かつて古の大賢者が造ったとされる広大な地下迷宮の上に建っているのだよ。」


なんだそれ。

まさかだよね……?

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