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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
38/159

幕間 − 焦る者、蔑む者

幕間

王国のとある貴族の屋敷。

その屋敷の最奥にある、小さな石造りの密室。

日差しを取り込む窓も無い小部屋に、わざと薄暗く灯された魔法の灯りが頼りなく揺れている。

ここは密談をするためだけに造られた特別な部屋だ。

常に魔導具により【音声遮断】の魔法がかけられ、外に決して音が漏れないようになっており、さらに魔導具により【封魔の結界】がかけられており、室内での魔法の使用が制限されている。

この室内では、記録を取ることも禁じられており、筆記具の類は一切持ち込めない。

その小部屋に数人の男たちが会し、密談を交わしていた。


「なんということか。ランズロウトがエルヴェレストに傾くとは。」

「伯爵は何をしておったのだ! 一夜にして倅に家督を奪われるなど!」

「ランズロウト領より送られてきた金品は我々にとっては最早無くてはならぬ収入源だったのだぞ!」


割と勝手なことを宣う男たちが、喧喧諤諤の言葉を応酬する中、一人だけ押し黙っている男がいた。

その男は目の前で醜い争いをしている男たちを尻目に胸中で考えをまとめていた。

その男にとって、ランズロウトからの付け届けなど元々泡銭でしかない。

無くなっても問題ない様、今まで行動してきた。

目の前の無能どもは所詮その程度の才覚しか持ち合わせていないと、コイツらを切る予定を早めることを内心決めていた。

問題なのはランズロウト領からの賄賂がなくなることではなく、ランズロウト領で起きた事件についてだ。

詳しい内容は公表されておらず、またその情報秘匿が巧みで、彼の元には断片的な情報しか入ってこない。


彼が知る情報の一つは一夜にして嫡男トーガ・ランズロウトが家督を握ったこと。

あの用意周到で猜疑心の塊の様なオリバー・ランズロウトが息子の謀反を察知できなかったとは思えない。

その新領主は何故かエルヴェレストに傾倒している。

エルヴェレストに恩を感じる何かがあったというのだろうか。


次にランズロウト領都で起きた大規模な破壊の跡。

これは早馬で手の者が確認している。

都市そのものを切り裂く様な破壊の後、領主城の半壊など、大凡人の手では成すことができないような破壊痕があったらしい。

被害者も相当数いるだろうが、発生当初に比べて大きな混乱もなく、住民は安堵されているという。

普通その様な破壊が起きればしばらくは住民たちから非難が上がり、これを安堵出来なければ国軍が出張る口実にできるのだが……

新たなランズロウトの領主はいともたやすくこれを治めてしまった。

トーガ・ランズロウトはまだ二十歳前後の若造だと聞いたが、そのような若輩者にこれほどの能力があったとは。

侮れない相手だ。

その様な有能、できれば我が方のシンパとして囲って置きたかったと男は臍を噛む。


ランズロウト伯爵……前伯爵のオリバーの行方も気になる。

行方が知れないと報告に上がっていたが、死んだのか、幽閉されているのか、それすらもわからない。

わからないことだらけだが、ここで悩んでいても仕方がないと、男は大きく息を吸って小部屋の男たちに告げる。


「諸君、今ここで話し合っても結論は出ないだろう。であれば、各個に調査を重ね、後に情報を付き合わせてはどうか?」


この言葉は実は何の解決にもなっていないのだが、男はこの不毛な責任の擦りつけ合いの空間からさっさと抜け出したかった。

建設的に見えて実は無責任な発言なのだが、それすら理解しえない諸氏は口々に「そうだ」とか「それがいい」などとほざいている。

その無能どもに冷ややかな視線を向けることなく、あくまでにこやかに男は解散を宣言した。



『どうだ? オズワルド。』


男の脳内に【伝言】が届く。

ややあって男は同じ様に【伝言】を飛ばす。

ちょうど衛星中継のように声が届くのにラグが発生する。

伝言の伝達速度がスムーズとは言い難いのは、仕方のないことだ。


『どうもこうもありませぬな。王都住まいの我々は仕方ないにしても、隣領のガディーウィン卿ですら正確な情報は持ち合わせてはおりません。まだ我々の方が事を知っていると言える。』

『……度し難いものよの。無能な貴族のもとに暮らす民が哀れじゃて。』

『まったくでございます。もうこの密議に意味があるとは思えませぬ。あれはいつからかランズロウトより届く賄賂の分配しか議題に上がらなくなりましたからな。』

『……そうか。ならば然るべき措置を執ることにしよう。で、オズワルド、お前はどうする?』

『私は新たなランズロウトの領主の方から探ろうかと思います。閣下のお許しがいただけるならばですが。』

『……よかろう、好きに動くが良い。では良い報告を期待している。』

「はっ、必ずや吉報を届けてみせます。』


男……オズワルドは【伝言】による通信を切ると、不敵な笑みを浮かべてその場を後にする。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか。藪を突かせてもらうぞ、新たなランズロウト伯爵よ。」


オズワルドはややあってさらに付け加えるように呟く。


「それにエルヴェレストの小娘……貴様もだ。」


オズワルドが懐から取り出したひと欠けの木片。

その小さなかけらには、こう書かれていた。


ランズロウト領の事件の裏にカタリナ・エルヴェレストの影あり、と。

ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

少しおやすみをいただいて、近日中に第二章「王都騒乱編」開始します。

二章途中で書き溜めが確実に底をつきそうなので、ちょくちょく更新が遅れるかもしれません。


もしかしたら書き溜めするために更新をお休みすることがあるかもしれません。

その時はまた告知しますね。


それでは今後もよろしくお願いします。

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