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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
32/159

27 精神汚染

「う〜ん、流石に内包魔力だけでは再生速度が遅い。瞬間再生とはいかないか。」


わたしは神聖魔法の上位スキル、神威魔法に属する【部位再生】を発動させるが、自分で放った【マギアブラスター】の影響で周辺の魔力が減少しているこの状況では高い効果は望めなかった。


通常、魔法スキルは内包魔力だけで発動させるものではない。

内包魔力はあくまで自己の魔力最大量の目安で、これだけでも魔法スキルが使えるのは間違いないが、大魔力を使用する魔法スキルなどを使えば自己内の魔力はあっという間に尽きてしまう。

俗にMPを使い切ると言った状態のことで、MPの著しい低下は精神に良くない影響を及ぼすため、魔導師のみならずスキル使用者は自己の内包魔力を全てスキルとして使うことはできない。

ならば大きなスキルを使う時はどうするか。

外から持ってくるのだ。

魔力というものはそこにあるもの、だ。

世界の魔力は尽きることはない。

空気中に、大地に、水に、炎に必ず魔力は宿っており、魔導師はこれらの魔力を拝借して大きなスキルを行使する。

だが、使えば当然魔力は減り、使い続ければ無くなる。

減った魔力は時間とともに回復するのだが、この回復時間が地域によってまちまちなのだ。

特にヒト種が多く住む場所は魔力の回復が遅い傾向にある。

ここは数万人が行き交う商業都市の中心だ。

自然魔力の回復速度は推して知るべしである。


わたしの治療・再生魔法でじゅくじゅくと破断面が再生を始めているのは解るが、完治までには数分かかるだろう。

魔法使いは無限再生者じゃないので、瞬時に治ったりはしない。

こういうところも戦闘経験として拙いといえる。

後先考えず大魔力ぶっ放してどうにかなる相手ではなかったってことだ。


「まぁいい。戦闘なんだから、十全で戦えないこともある。」


そう、戦場に於いて常に100%の状況などありはしない。

そんな当たり前のことも忘れていた。

この時代のこともわたしが油断していた遠因の一つだろう。

この時代はあまりにもスキル技術のレベルが低すぎる。

魔法のみならず、ありとあらゆる分野でスキルレベル3あれば一流、4を超えたらその分野の大家になれるような時代、油断するなという方が難しい。

かつての時代、大賢者だった頃でもここまで油断はしなかったと思う。

改めてわたしも情けなくなったものだね。


「まさかオレ様の腕を吹き飛ばすとはな。だが、それは悪手だぞ?」


悪魔は腕を奪われたというのに余裕の構えを崩さない。

悪魔のスキルに再生系のスキルは無い。

どうするつもり?

と、その悪魔の傷口がおもむろに炎を纏う。

炎は明確にではないが、悪魔の腕を形作る。


「炎を纏う……なるほど、それが【炎纏】ね?」

「ほう、知っているのか。博識だな。」


ちょっとズルしてるけどね。

どうやら【炎纏】はその名の通り炎を纏うスキルらしい。

ただ纏うだけではなく、形状を自由に変えられるみたいだけど。


「ふんっ」


腕の形をした炎の奔流が、脚を再生中のわたしに襲いかかる。

脚を失い動けない上、先程の【マギアブラスター】の影響で周辺魔力が薄く、思うように魔法スキルが使えないが、ここはわたしの内包魔力だけで防ぐ。

【戦盾】のスキルに指向性を持たせれば、一定方向に対する防御力は格段に上がる。

その分多方向への防御力は下がるが、ここはこの炎を防ぐ。

そうしなければならないほどに、この炎はヤバい。


「【魔界の炎】ってやつ? 魔界が本当にあるかは別として大した効果じゃない。」

「貴様は本当に博識だな。そうだ、これこそが炎魔たる我が力の源、【魔界の炎】だ。」


どうやら肉体を得たとはいえ、この悪魔の本質は『炎』という現象にあるらしい。

炎には形が無い。

悪魔の腕を形作る炎は、自在に形を変えワタシに襲いかかる。

ある時は一直線な槍の様に、またあるときは横薙ぎに大剣の様に、かと思えば放射状に範囲攻撃もかましてくる。

わたしはそれを避け、避けられない場合は防ぐ。

縦横無尽に攻めてくる炎は一度でも食らえば部位ごと持っていかれるほどの魔力が込められている。

さらに断面を焼かれてしまえば、早急に再生というわけにもいかなくなる。

攻撃手段に回復不能効果を乗せている、上手い攻撃方法だ。

こんど真似しよう。


「ははははは、よくまあ防ぐものだな。まるで蝶のようだ。」

「あら、ありがとう。そんな気の利いた例えもできるのね。」

「そらっ、まだまだこれからだ!」


悪魔は【炎纏】の炎を自在に振るい、わたしを追い詰めていく。

特に範囲攻撃を執拗なまでに行う。

なるほど、奴の意図はわたしに回復の暇を与えないことか。

範囲攻撃は避けられない。

わたしに防御魔法を止めさせない一方で、周囲の魔力を炎に変換し、周辺魔力の回復を遅らせている。

わたしに周辺魔力の補給をさせないつもりだ。

ただでさえ片足が不自由している状態で、受けに回ることが多く、その分魔力を消費している。

防御に魔力を割けば回復に魔力を回せない。

このままではジリ貧だ。

かつての大賢者だったわたしならもっと強大な魔力を用いて、問答無用で防御しながら回復することもできたが、生憎この身体はそこまで理不尽な戦闘力は持っていない。

所詮は10歳過ぎの小娘だ。

いくら魔法で強化しようが、いくら魔法使いとして一段上の肉体機能を持っていようが、いくら三千世界の魔法スキルを知っていようが、元々の底が浅い。

1000年を生き、強大な力を有した大賢者は既に居ない。

わたしはもう、かつて謳われた「最強」ではなくなってしまっていた。

あっ、これヤバイかも。


……いいじゃない、別に。

周りから最強の賢者なんて言われて、有頂天になってたかな。

……最強なんてものになりたくてなった訳じゃないし。

どうせやり直した世界じゃない。

……わたしがここで敗れたとしても、それもまた世界……あの神が定めた摂理ということなんだろう。

神になっとけばこんなとこで死ぬこともなかったかもね。

……やっぱわたし死ぬのかな?


わたしがここで敗れたら?

わたしがここで敗れたら、この世界はどうなる?

あの悪魔が、世界を好きにするかもしれない。

いや、確実に世界で遊ぶだろう。

神が造った箱庭を、神以外が壊す。

そんなこと許される訳ないだろう。


わたしはなけなしの内包魔力を全て【部位再生】に注ぎ込む。

(待ちなさい、後先考えずにMP使うとかアホなのわたし)

まずは、五体満足に動けるようになってからだ。

(だから、そんなことしたら精神にダメージが来る。それがわかってるのに止められない)

瞬間に失くした脚が再生するが、途端に精神に重くのしかかるネガティブな感情。

(だから言ったじゃない、この感情の揺れ幅はすっごいきついんだからね!)

MPの著しい低下によるバッドステータス【精神汚染】が起きる。

(ああ、何してんのよもう、死ぬ死ぬ死ぬわたし死ぬ死ぬ)

【精神汚染】でマイナスの感情が引き起こされるが、【精神汚染】は一応状態異常の一種だ。

(わたしみたいなクズが耐性持ちでごめんなさい、今すぐ死にます)

【全状態異常耐性】でちょっとは耐えられるらしい。

(あれ? 少し楽になってきた?)

どうやら耐性のスキルレベルが上がっているらしい。

(あ〜、かなり楽。これなら後少しは耐えられそう)

だが、このまま魔力の補給が出来なければ同じこと。

だから、わたしはここに至って大博打を打つことにした。


魔力の補給が出来ないなら、そういう魔法スキルを作ってしまえばいい。

そう、わたしには神に至ったアルテマスキルを手にした時に、そのスキルも同時に手にしていたハズだ。

そうだ。

それこそが、切り札。


……特殊スキル【魔法スキル作成】をわたしは発動させる

※スキル講座

【部位再生】神威魔法レベル8

失くなった身体の一部を新たに作り直すスキル。

本人の身体の一部が、文字通り生えてくる。

見た目はすっごくキモチワルイ。

込める魔力量によって再生スピードが変化する。



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