26 顕現
「ぐああぁぁぁっ!」
突然響く爆音と、魔族の男の叫び声。
吹き飛ばされたカルナばかりに気を取られていたが、捕らえていた魔族の男の方を向けば何やら触手のようなモノが絡みついていた。
触手は今カルナが焼き尽くしたハズの悪魔から伸びている。
「助け……」
求助の言葉も虚しく、触手は男の口や耳といった身体中の穴という穴に入り込み、男を蹂躙していく。
……正直見たくない。
最早まともに声を上げることもできない男はそのまま悪魔に引きずられ、取り込まれていく。
「カタリナ様! トーガ様! 今すぐ避難を! ここにいては危険です!」
ヤバい。
あれはヤバい。
あの低級悪魔は、あの形態ならばわたしとカルナでどうとでもなる程度の存在でしかなかった。
けど、いまのアレはそうではない。
内包魔力に優れた魔族の肉体を取り込んで、ひとつ上の存在になろうとしている。
ここは先程とは比較にならないほどの戦場になる可能性がある。
お爺さんを合わせて3人、守りながら戦うのは少々ハンデになる程の。
「わかったのじゃ。其方も無茶をするでないぞ!」
「カタリナ殿はわたしが責任を持って安全な場所まで送る。其方は後方を気にせず存分にやるがよい。」
はっ、言うじゃないか、小僧が。
だがまぁ、あんなんでもそこそこできることは確認済みだ。
カタリナの方は任せていいだろう。
執事のお爺さんはわりと空気だが、カタリナが退避するならば一緒に行動するだろう。
カルナは……まぁ大丈夫か。
生命反応に問題はないので、時期起きてくるだろう。
ドラゴンを一撃で気絶させるとか、随分なことだ。
「そろそろ、かな。」
わたしは改めて悪魔に向かって【鑑定】を使う。
何故ならそこにいる存在は既に先程の低級悪魔とは別モノだったからだ。
名前:@#¥-*h「5…m
種族:悪魔
クラス:@34-^/)「*-
性別:不明
年齢:不明
レベル:55
HP:3421(3500)
MP:7549(7800)
内包魔力ランク:S
STR:563
INT:324
AGI:422
VIT:437
DEX:234
WIZ:179
LUK:0
スキル:
古代語魔法Lv8 暗黒魔法Lv8 強化魔法Lv8 召喚魔法Lv3
魔法耐性Lv8 物理耐性Lv9 衝撃耐性Lv7 斬撃耐性Lv7 熱変動耐性Lv5 全状態異常耐性Lv1
HP自動回復Lv3 MP自動回復Lv3
気配察知Lv3 魔力感知Lv4 威圧Lv1 悪魔の瞳Lv1 神への憎悪Lv1 魔界の炎Lv5 サークルバーストLv3 炎纒Lv1 魔の咆哮Lv3
中級悪魔ex 子爵級悪魔ex 炎魔ex 神の敵ex
つっ……よ。
なるほど、カルナが吹き飛ばされるわけだ。
名前やクラスが読めないのは、恐らく発音出来ない言語なんだろうな。
見たこともないスキルもいくつかあるし、攻撃手段が想像できないのはちょっとキツめかな。
高レベルの耐性スキル、全状態異常耐性のスキル、両自動回復スキルと、防御面でも隙が無さすぎる。
「ククク……フアーハッハッハーッ!」
高らかにそれが嘲笑う。
ゆっくりと背にある翼を羽ばたかせ、空に浮かぶ悪魔。
黒い、不自然なまでに黒いその姿は、まるで影が形を為して浮かび上がっている様に見える。
その黒い影のシルエットに真っ赤な瞳だけがはっきりと見て取れる。
「随分、ご機嫌じゃない。」
わたしはそれに向かって問いかける。
「小娘、礼を言うぞ。オレ様が受肉できたのは貴様のお陰だ。」
思いのほか流暢に喋る。
やはり先程の低級悪魔とは完全に別物のようだ。
「あなたの目的を聞いて良いかしら?」
「目的? そんなものはない。強いて言うなら好きに生きることだな。」
この動く災厄みたいなのの好きにさせる?
ないわ〜。
こんなんが好きに行動したら世界はとんでもないことになってしまうだろう。
「提案なんだけど、このまま元いた場所に帰ってくんない? アンタみたいなのが自由に遊べるほどこの世界は物騒じゃないのよ。」
まぁ戦争とかやってるし物騒といえば物騒な世界ではあるが、それでも悪魔とかに好き勝手に動かれるとかなり困る。
「聞けんな。それに既にオレ様の肉体は受肉してしまったのでな。元の世界には戻れん。」
はぁ〜、知ってたけどね。
受肉ってのは高次元の存在がこの世界で肉体を得ることで、基本的に一方通行だ。
ある意味ではわたしも神界にいた時は高次元存在で、転生するときにイルミナの肉体に受肉したといえる。
まぁわたしに場合はコイツよりはスマートな形ではあるけども。
ただ、目の前のコイツはわたしとは違って完全に肉体に精神体が固着してる様には見えないんだよな。
いいとこ精神60肉体40ってとこかな。
ま、ともあれ帰らないっていうならやることはひとつしかない。
「そう、じゃぁ仕方ないわ。いまここで強制的にお帰りになってもらいましょう。」
「フハハハハ、そうこなくっちゃなぁ! 貴様から感じる魔力、ただの小娘では無いと思っていたが、貴様神の手の者か!」
ん?
神の手の者?
わたしは神界の経験者ではあるが、別に神の使いというわけではないのだが。
それとも神界経験者は自動的に神に付随する何かがあるのだろうか?
まぁこの世界で神界経験者はわたしだけだ。
過去例があまりにも少なすぎて、検証のしようが無いね。
「まずは小手調べと行こうか!」
悪魔が【威圧】を放つ。
効果範囲内を無差別に威すスキルではあるが、それはわたしには効かないよ。
しかもスキルレベルが低いから、寧ろこちらの気分が高揚する。
逆効果ってヤツだ。
わたしは小手先の技をちまちま使うのは好きじゃないので、一気に決めさせてもらおう。
「ならばこちらは……こういく!」
「ぬうっ!」
こいつには低級悪魔についていた【封魔の結界】と【投射魔法軽減】が無い。
つまりこちらの魔法スキルも通るということ。
使うスキルは対高魔法耐性を考慮して威力が高めのもの……周辺被害を無視するわけにはいかないのがネックだなぁ。
わたしは空を浮遊する悪魔に対して投射速度、威力、魔力収束率のもっとも効果的だと思われる砲撃魔法、真古代語魔法レベル7スキル【マギアブラスター】を放つ。
【マギアブラスター】は真古代語魔法という、古代語魔法の上位カテゴリーに入る魔力収束砲撃魔法で、周囲の魔力を取り込みながら拡散せずに一直線に対象を撃ち抜く、高火力の一閃砲撃だ。
地平に向かって撃てば向こう数十キロ貫いて尚光を失わない凶悪な火力を誇る砲撃魔法だが、空に向かって撃つ分には被害を最小限に抑えられる。
当然、個体の持つ魔力障壁などでは防げるものではない。
まぁ、良いことばかりでは無いんだけど。
速射力が高すぎるため狙いが付けづらいこと、魔力放出時は硬直して動けないこと、周辺魔力を食い尽くすため次のアクションが出来ないことがスキルデメリット。
う〜ん、いやぁ……コイツ、強いわ。
「フハハハハ、やるな小娘。このオレ様の腕ごと持っていくとは。見たことのない攻撃魔法だったが、貴様のオリジナルか? 反応が遅れればこのオレ様とて一撃でやられていたかもしれん。」
悪魔の左腕が吹き飛んでいた。
わたしはもちろんヤツの体のど真ん中を狙ったわけだが、どうやら避けられたらしい。
そしてまさか身体の一部を吹き飛ばされた状態で反撃してくるとは……
「やってくれるじゃない、あの状態からこちらに【魔の咆哮】使ったわね。」
わたしの左脚が吹き飛んでいた。
【魔の咆哮】はあの低級悪魔が放った魔力砲スキルのことだ。
こいつのスキル欄にも【魔の咆哮】は存在していたが、まさか出力調整してカウンターで使ってくるなんて想定してなかった。
【魔の咆哮】はスキルレベルが上がると出力調整できるようになるみたいね。
スキル後の硬直と周辺魔力枯渇状態による障壁の隙を完全に狙われた形だ。
あと、口から出すのがデフォルトでも無いんだね。
まぁ、周辺魔力は遅まきながらでも回復するし、わたしの内包魔力的にこんな傷、どうってことないんだけど……
「ふふ……あははは……はははははは!」
わたしは高らかに笑っていた。
わたしが? 傷を! 負っただって?
こんなこと、わたしの長い魔法使い人生で初めてだよ!
正直に言おう、わたしは油断していた。
主観時間で1000年を超えるわたしの魔導師人生ははば傷とは無縁だった。
カルナと戦った時ですら、火傷一つ負っていない。
わたしにとって戦闘とは常勝であり、蹂躙であり、無傷と同義だった。
ちょっと面白くなってきた。
対等以上の存在との戦闘、なんて心踊ることか!
※スキル講座
【マギアブラスター】真古代語魔法レベル7
超高火力の砲撃魔法。
周囲の魔力を食い、加速および火力増幅しながら対象に向かうので、相手との距離があるほど威力が増し、一定距離を超えると避けるのは困難になる。
貫通性能に特化しており、攻撃範囲は割と小さい。
ただし射程距離は内包魔力にもよるが、数十キロ先に及ぶ。
使用時に殆どMPを食わないため、現在のイルミナでも使用可。
イルミナの切り札的魔法スキルなのだが……結果は本編の通り避けられた。
少し距離が近すぎましたな。
【魔の咆哮】種族限定スキル
悪魔系種族の限定攻撃スキル。
魔法ではないので、【封魔の結界】に阻害されない。
大出力のエネルギー放出型砲撃で、最大出力で撃てば向こう数キロ先まで融解させる程の熱量を放つ。
スキルレベルが上がると出力調整ができる様になり、小火力を速射できるようになったり連射できるようになったりする。
小火力といってもレベル3程度の魔力障壁くらいは平気で抜く。