3 神様のミス
「あ~、神様? 最近地上を見ました?」
「ん? さっきも言ったじゃろ? 地上に沙汰をしたと。」
ダメだ、神様のスケールだと2万年も3日前も大して変わらないらしい。
「神様、地上で2万年も経てば、かつての文明は滅んで久しいですし、現在は古代文明として遺跡からその存在が確認される程度の知識しか伝わってないですよ。 神様の言葉も、かろうじて考古学者がもしかしたら知ってるかもしれない、くらいの程度の話だと思いますよ。」
「なんじゃと! それは誠か!」
ダメだ、この神様ポンコツだ。
「2万年ともなれば、長命種のエルフや魔族ですら当時から存命してる方も居ないのでは無いですかね。いてもまともな口伝も残ってないと推察できますよ。」
口伝は伝言ゲームみたいなもんだから、スパンが長くなればなるほど元の言葉がなんなのかわからなくなる。
「なんと、それでは致し方ないのう。ふ~む、ではお主はワシのことは一切知らずにアルテマスキルを取得し、神への道を登ってしまったのだな?」
「その認識で間違いありません。」
「では、神に至る気は無いというのだな?」
「その通りですね。わたしは地上で好き勝手にだらだらするのが性に合っています。一応不老不死なので、外部から害されない限り死にはしませんし。」
これはわたしの種族が人間から魔法使いになった際に種族特性スキルとして取得した【不老不死(魔法使い)】の影響だ。魔法使いになった時点で老いることはなくなり、生命活動に必要な栄養摂取も必要なくなる。
故に病気や寿命で死ぬことは無いし、食べなくても餓死はしなくなる。とはいえ、ご飯は美味しく食べられるし、食事は精神衛生上必要だと思うけどね。
ただし、外部から害された場合は死ぬらしい。
致命的な攻撃……例えば首を飛ばされたりしたら多分死ぬ。
一度も死んだことなかったからわからんけども。
「そうか、しかし困ったのう。」
……何が困ったというのか。いやな予感がする。
「実はな、お主とワシが話をしているこの空間、神域いうてな。ぶっちゃけ神でなければ存在できん空間なのじゃ。」
「はい?」
「つまり、お主はアルテマスキルを取った時点で半神半人みたいな存在になっておってのう。このままお主を地上に戻すのは無理なんじゃよ。」
それは困る。
わたしは神になる気なんてさらさら無いのだ。
「いや~、まさか神化を拒否られるなんて思ってもなくてのう。拒否された時のことを全く考えておらなんだ。」
「神よ、流石にそれは勝手が過ぎませんか……」
まぁ、神様なんて勝手なものだとは思うが。
「そこでじゃ、お主のその身体は既に神なのでそのまま返すワケにはいかんが、別の器でなら問題ない。
ワシの通達ミスでもあるからの。特別に精神と魂をそのままに別の器に入れて地上に戻そうと思うのじゃがどうじゃろうか?」
……うん。いや、悪くない条件だな。
スキルは精神に宿る。
精神がそのままなら取得したスキルはそのままのハズだ。
スキルは1300年の努力と研鑽の賜物だ。
これが無くなるのは耐えられないが、そのままならばまぁ良し、だ。
……まぁ、この肉体はそこそこ気に入ってるので惜しいことは惜しい。誰もが振り返る絶世の美女だったのになぁ。
「もちろんスキルはそのままじゃ。才能の差こそあれ、スキルはお主自身が鍛えてきた財産じゃからの。 ただのう、レベルとステータスは残念ながら最初からじゃ。転生という形を取るからの。スキルは精神に宿るが、レベルは肉体に付随する。身体が変わる以上、レベルだけはどうしようもないの。」
それは予期していた。
まぁ、いまのスキルがあればレベル上げ自体はさほど難しくは無いだろう。
ノウハウもあるし。
「わかりました。その条件でお願いします。」
「うむ。返す返すもすまんな。お詫びにいくつかスキルをプレゼントしておくので、勘弁してくれ。」
「はい、もうあまり気にしてませんよ。」
「そうか、では地上に送還するぞ。気を楽にするのじゃ。」
次の瞬間、ふと視界がぼやけ、意識が途切れ始めた。
「新たな器は、地上に於いてお主と最も波長が近く、且つ不自然の無い器に転生する。ではな、もう話すこともあるまいが、ワシはいつでも世界を見ておるよ。」
……2万年も放っておいたくせによく言うよ。
とりあえず今日はここまで