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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
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20 青年の決意

今日は短めなので2話投稿します。

「あいわかった。今は其方を信じよう。」

「良いお返事です。いずれ“今は”の言葉を外してみせましょう。」


わたしとしては今後、恒久的にランズロウト領とは仲良くしていきたいので、次期当主たるこの青年にとは懇意にしていきたい。

偽らざる本音だ。

そもそもわたしの家族は辺境とは言え、ランズロウト領に住んでいる。

できるなら事を構えたくはない。

最悪の場合も想定はしているけど、穏便に済むにこしたことはないでしょ。

それにランズロウト領都に赴いて改めて思ったんだけど、この領はあまりにも一地方都市としては経済規模が大き過ぎる。

ここと事を構えるのは正直愚か者のすることだ。

この地を賜った先先代領主も、与えた王もこの地がここまで経済的に重要な地になるとは思ってなかったんだろうな。

でなければここまでの要衝、普通は王家の直轄地にするでしょ。


「トーガさま、命を狙われた相手にどなたか心当たりはありませんか?」


わたしは一番尤もで、大事な質問をぶつけてみる。

この常に苦虫を噛み潰した様な表情の青年は、少し考えたあと、ややあって口を開く。


「ある。……恐らく私の父だ。」


その言葉の歯切れは悪い。

信じたくない真実を無理矢理信じようとしている、そんな感じだ。


「根拠はおありですか?」

「ここ最近、私と父は折り合いが悪くてな。私はずっと父の貴族らしくない振る舞いを諌めていたのだが、聞き入れてもらえんでな。」


あらま、ここにもまともなお貴族様がいらっしゃったわ。

しかしまぁ、あんな父の下でよくこんなに真っ直ぐ育ったものね。


「恥ずかしい話だが、私も貴族院に入るまでは父と似たような考えの持ち主だったのだが、院で良い出会いに恵まれてな。今のランズロウトのやり方が如何に恥ずかしいものか思い知ったのだよ。」


貴族院でそれまでの価値観を変えるような出会いか……どうやらこの国、本当に国家としてはマトモらしい。

これはカタリナに付いて貴族院に行くのがちょっと楽しみになって来たぞ。


「恐らく御しにくい私を排除して、正式に弟を嫡子にするつもりなのだろう。弟はまだ幼い。かつての私の様に傲慢に育てられているようだし、父としても扱いやすいと踏んだのだろうが……」

「弟君とはお会いして無いのですか?」

「貴族院から帰って来た時、一度会ったきりだな。その後は父との確執もあり、一度も会ってない。恐らく私の考えに弟が染められるのを懸念でもしているんだろう。」


あの肥満豚、本当にクズだなぁ。

まぁ、クズはクズなりに知恵が働くみたいで、だからこそ邪魔になった実の息子を殺そうなどと考えたんだろうけど。


「トーガ様、本題に入ります。」

「解っている。どう動けば良いかといいたいのだろう?」

「敢えて言葉にさせていただきます。もしわたしの言が御身の意に背くものならば、この場でわたしを斬って捨てても構いません。」

「聞こう。」

「トーガ様にはいくつか選択肢があります。まず逃走。このままこの城を出て何処かに落ち延び、余生を一般人として過ごすというのであれば、僭越ですがわたしの村でお迎えすることもできます。」

「貴族を捨てるのか。それも悪くないかもな。」


青年は自嘲気味に苦笑する。

どうやら相当にお疲れの様だ。


「次に告発。この城から逃げるのは同じですが、行く先は王都です。わたしの主たるカタリナ様を頼って頂くことになりますが、ランズロウト卿を告発し、王命を持って処分していただくことになるでしょう。」

「最も有用な手段だと思われるが、その場合のデメリットを述べよ。」

「そうですね……まず王にランズロウト領の現状がきちんと伝えられ、王が正道の元にランズロウト卿を誅罰してくれることが大前提となります。」


実はこの時点でかなり難しいと言える。

ランズロウト伯爵にはこの国最大の貴族派閥モートディラウトが後ろにいる。

恐らくランズロウトからモートディラウトには相当額の付け届けがある。

モートディラウトはランズロウトを必ず庇うだろう。

モートディラウトが誅罰に非といえば、王と言えども巨大な貴族派閥を敵にしてランズロウトを罰するかはわからない。


「それが上手くいっても、ランズロウト領は領内を運営していく器量なしと見られ、最悪取り潰しの可能性もあります。何せここは王国内でも最大級の商業価値を誇る一大商圏公路ですから、国としては理由があれば直轄地として取り込みたいと常々思っているはずです。」


あくまでも、思っているはず、という自分勝手な想像だが、恐らく当たりだと思う。


「ふむ……それはあまり愉快とはいえんな。」

「それにこの方法で王がランズロウト伯を罰したとして、伯爵がそれを唯々諾々と飲むとはとても思えません。恐らく挙兵し、内乱になるかと思われます。」

「それはいかん。魔族の脅威がある今、王国内の身内で争ってる余裕なぞ無いぞ。」


わたしは魔族の脅威の言に少し苦笑しながらも、話を続ける。


「となれば最後の方法しかありません。」

「……其方は私に父殺しになれというのだな?」

「ご明察、痛み入ります。」


どうやらこの青年は最初からわかっていたみたいだ。

貴族としての正道がどうとか以前に、あちらが暗殺を仕掛けて来た。

ならば、迎え撃つのが道理というものだろう。

事が終わったのちに、国には改めて代替わりしたと報告すれば良い。

代替わりの理由はそれこそでっち上げでも構わないし。

まぁ、貴族の不自然な代替わりなぞよくある話だ。


「では、御身の勝利のためにわたしがお手伝いさせていただきます。」

続けて投稿します。

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