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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
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19 暗殺の行方

わたしは領主の邸宅、というよりは城に近いその建造物のとある部屋を訪れた。

城の中には何故か警備兵がいなかった。

城の外周や通用門には相応の兵員が動員されていたが、内部はスカスカだった。

ちょっとした潜入スキル持ちならいとも容易く城内に潜入できるなぁ、などと益体も無いことを考えながら、わたしはその部屋の前まで行く。

本来であれば、その部屋の前にも警備なりなんなりいてもおかしくは無い身分の人の部屋なのだが、何故かこの夜には誰も立っていない。

わたしはその部屋をノックする。

中からの反応は無かった。

いや、正確に記すならば、ヒトの反応は無かった。

その代わり、ある魔物の反応を感じた。

超小型ながら、動物にとっての脅威となる虫型の暗殺者、アサシンバグの反応。

わたしは若い頃……肉体的には今も若いが、精神的にそりゃもう気の遠くなる様な昔の頃にこのアサシンバグに本気で殺されかけた事があるので、こいつらの魔力波長は忘れようが無い。

一時期本気で絶滅させてやるといろんな研究をしたので、その特徴も生態全て網羅している。

もちろん毒にも精通している。

アサシンバグ自体は魔物であり、その身に強い魔力を帯び、魔石も体内に宿してはいるが、その毒は純粋な生物的神経毒で魔法的な付加は一切無い。

つまり、解毒の魔法スキルが効き放題なのだ。

わたしは部屋のドアを開けるとーー鍵は掛かっていたが、そんなものは開錠魔法でなんとでもなるーーまずアサシンバグを仕留める。

アサシンバグはその体躯実に5ミリ程度の極小の虫系の魔物ではあるが、魔物なので普通の動物より強い魔力を持っている。

故に補足し、討ち滅すのに然程手間は要らない。

恐らく鍵穴などから侵入したのだろうが、そもそもアサシンバグはこんな街中にいる魔物ではないし、単体で行動する魔物でもない。

本来は集団で行動する社会性昆虫のような習性がある。

いずれ何者かの手による持ち込みだろう。

そしてその目的はその名の通り暗殺しかない。

となればその対象はこの部屋の主人でしかないだろう。

見渡せば、貴族の嫡子の部屋らしく大きな造りの中央、執務机と思しき大きな机に臥せっている人物がいる。

恐らくあの人物がわたしが会いに来た目的、このランズロウト伯爵家の嫡子、トーガ・ランズロウトだろう。


「誰の差し金か知らないけど、わたしの目の前で暗殺なんて、成功するはずないでしょうに。」


まぁ、わたしの存在なぞ認識していたかも怪しいし、よしんば認識していたとしても単なる小娘としてしか思ってはいないだろうけどね。

さて、毒消しといえば回復系の神聖魔法の出番だ。

さっきも言ったけど、アサシンバグの神経毒は毒としては強力だけど、普通の生物毒でなんら魔力を帯びていない。

なので解毒も簡単な神聖魔法レベル1スキル【解毒】で事足りる。

これが魔毒や呪毒などの魔力精製毒だともっと上のレベル6スキル【上級解毒】が必要になる。

もっともカタリナから聞いた現状の魔法技術を鑑みれば、上級魔法毒の精製自体がこの時代では困難なのではないかと思うけど。

上級魔法毒の精製にはレベル7以上の呪術魔法と多種多様の毒草や生物毒が触媒として必要になるからだ。

……それとも、どこかで魔法技術の隠匿でもしてるのかね。


ランズロウトの嫡子と思われる人物は呼吸不全に陥っている様だった。

顔色は青く、正常な息づかいでは無い。

アサシンバグの神経毒は即効性だけど、だからって毒を盛られた瞬間に死に至るわけじゃない。

わたしはすぐさま解毒を試みる。

念のため、【解毒】のあとに【上級解毒】も重ねがけしよう。

【上級解毒】は毒消し効果の他に少量ながら回復蘇生の効果もあるので、毒で内部組織がやられてもある程度の回復が見込める。

うん、顔色が良くなってきたみたい。

こうなればあとは体力を回復すれば良い。

手っ取り早く神聖魔法レベル9スキル【超回復】を使用するとしよう。

レベル9スキルだけあって、【超回復】はいかなる重傷であろうとも瞬時にHPを最大値に回復する。

部位欠損は流石に治らないが、ことHPの回復に関しては最高の魔法スキルだ。

ちなみに部位欠損を治すには神聖魔法ではなく、その上の神威魔法で、さらにレベル7の【部位再生】スキルが必要だ。


「うう……」


どうやら気が付いたみたいね。


「ここは……わたしの部屋か……?」

「お目覚めですか? トーガ様。」


わたしの問いにトーガ・ランズロウトは顔を上げる。

まだ意識がハッキリとはしていないみたいだ。


「そなたは……何者だ?」

「申し遅れました。わたしはエルヴェレスト公爵令嬢、カタリナ様付きの魔導女官、イルミナと申します。」

「なんと、カタリナ殿のか。そなたの様な童女が……」


童女ときたかぁ。

まぁ、見た目に関しては今後もこういうことはあるだろうし、しょうがないね。

魔導女官というのはまぁ方便だ。

少なくとも今はまだ、カタリナに仕えているわけではない。


「魔導師に見た目はあまり関係ありませんよ、トーガ様。」

「……そうなのか?」

「そういうものです。それよりも避難をお急ぎください。トーガ様はお命を狙われています。」

「そなた、今何と……?」

「これをご覧ください。先ほどトーガ様に危害を加えたものの正体です。」


わたしは討っておいたアサシンバグの死骸をトーガ・ランズロウトに見せる。

死骸といっても極小の虫だ。

これが何なのかは説明しなければ解らないだろう。


「これはアサシンバグというとても危険な魔物です。時には人間の何倍もある巨大な魔物をも襲う凶悪な魔物です。」

「この様な小さな虫がか……?」

「もともとは人のいない地域でほかの魔物や動物を襲う習性を持つ魔物なのですが、しばしば暗殺者の道具にされることがあります。極小で跡がほとんど残らないので、飼いならせれば暗殺に非常に適している魔物です。」

「その虫が真実、暗殺用の魔物であるとして、そなたがその黒幕ではないという確証はあるのか?」


ふむ、なかなかに用心深い。

悪くない、こういう人間は嫌いではない。

だがまぁ、今はそんな事を問答している場合ではない。


「信じられぬならば、このまま命を落とすだけです。わたしは別にそれでも構わないのですが、我が主がそれを良しとしませんので、ここは信じていただくしかありません。」

「なんと、公爵令嬢がわたしを助けよと命じたと?」

「直接命じられたわけではありませんが。言葉が無くとも、主の意図を理解することは臣下としては必要なスキルです。」

「そうか……公爵令嬢はそなたの様な臣を持てて幸せよな……」


そう呟いたトーガ・ランズロウトの表情は目に見えて落ち込んでいた。

この伯爵家の跡取りには信頼できる隣人が存在しないのだろう。

恐らく、身内すら。

※スキル講座

【解毒】神聖魔法レベル1

単純な毒を消し去る。


【上級解毒】神聖魔法レベル6

魔毒や呪毒などの上級魔法毒を消し、ダメージを受けた内腑をある程度蘇生する。

毒消しにHP回復効果が付随していると考えれば分かりやすい。


【超回復】神聖魔法レベル9

ベホマ。

部位欠損は治りません。

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