18 転化
「転化とはヒト種が別の種族になること、またはそのスキルのことを指します。」
一概にヒト種といっても人間の他にエルフ、ドワーフ、獣人、魔族、竜人などの亜人、人魚や人馬、翼人などの魔人など様々な種が存在する。
これらを引っくるめてヒト種と呼称する。
要は人語を解する知性と道徳を理解する理性があり、獣のように四つん這いで本能のみで行動しない種は全て大まかにヒト種と呼んでいる。
ヒト種は魔物のように一定レベルで進化するといった権能は無いが、特定の条件を満たすことで別の種族に転化することができる。
人間が魔法使いや吸血鬼に転化したり、逆に人魚や人馬が人間に転化したりする。
転化は条件さえそろえば同一個体でも何回でも行える。
人間になった人魚がまた人魚に戻ることもできる。
ただし、【転化固定】というスキルがあり、このスキルを得てしまうと転化が一切できなくなるらしい。
【転化固定】の取得条件は分かっておらず、個体によっては突然スキルを得て、途方にくれる者もいるとか。
エルフやドワーフのような亜人はハイエルフやエルダードワーフのような、より高位の種族に転化する。
人間と比べると進化に近いが、進化との違いはレベル条件が無いということだ。だから彼等のは進化ではなく転化なのである。
転化したらレベルが1に戻るってこともないしね。
「わかりましたか?」
「ようわかった。して、人間が魔法使いになるにはどうすればよいのじゃ?」
いきなりぶっこんでくるね、カタリナ。
まぁ、教える気は無いけどね。
「それはまだカタリナ様には早すぎます。そもそもカタリナ様は将来エルヴェレストの門地を継ぐのではないのですか? 魔導に身を捧ぐ覚悟がなければ魔法使いにはなれませんよ。」
人間が転化する場合、転化先はそう多くはない。
わたしの様に魔法使いになるか、もっと魔物寄りの何かになるか。
吸血鬼や不死術師などが有名どころだけど、あまりにもデメリットが多過ぎておススメ出来ない。
そういえば、どちらにも知り合いがいる。
しかも、ただの吸血鬼や不死術師ではなく、その上位種、真祖吸血鬼と不死王だ。
二人とも長命種……というか、種族特性で【不老不死】持ってるし、2300年の間に滅ぼされてなければその内会えるだろう。
どちらも人族に仇為す存在だから、あくまで滅ぼされてなければ、だけど。
「魔法使いになるということは、人間辞めるってことです。人族は転化先から人間には戻れないので、本気の覚悟が無ければ絶対に教えません。」
「そうか。確かに妾にはその覚悟は無いの。妾はホラ、おなごじゃし、地方の小領主というならともかく、国威国政を左右する公爵家の門地を継ぐのは中々に微妙なのでな。別の道も歩めたらと、軽く思っただけじゃ。」
確かに女性は男性に比べて軽視されがちだ。
それはわたしの転生前の時代もそうだったし、古文書を紐解けば古代魔導文明時代からずっとそうだった。
おそらくは未来永劫変わらないだろう。
「それに父上も母上もまだ若いでな。今後弟が出来ないとも限らんでは無いか。そうなれば妾もお役御免じゃからな。ならば様々な将来を模索して於いても無駄にはならんじゃろ。」
「意外に考えられてるのですね。」
「其方、妾を何だと思っておるのじゃ。」
「いえいえ、立派な志を持っていると思っていますよ。」
これは本音だ。
カタリナはまだ12歳とは思えないほど聡明で、理知に溢れた人物だと思う。
彼女が育まれた環境が良かったのだろうね。
カタリナを見ればパルマス王国の貴族とやらも完全には腐ってないようなので、少し安心している。
むしろ、貴族院などという教育機関を作っているくらいだし、相当にマシなのかもしれない。
手放しで安堵できるような話ではないけども。
「まぁ、まだ出来てもいない弟で皮算用しても仕方ないがの。」
そう言ってカタリナは可可と笑う。
この娘、本当に12歳かよ。
わたしの12歳はこんなに人間できてなかったよ。
たぶん。
「マスター、逆探知成功しました。」
カルナの声で意識を引き戻す。
実は、先程からわたし達にちょっかいを出してきていた出歯亀をカルナに追跡してもらっていた。
以外にもカルナは【魔力追跡】のスキルを持っている。
というより、竜種の特性スキルとして魔力関係のスキルが充実している。
そもそもドラゴンは生物としては歪だ。
個体差はあるが成長すれば、大きいもので全長50メートルを超える。
そんな巨体の体重はやはり相応にトンを軽く超え、自重を通常では支えられない。
つまり彼らは常に魔力を帯び、その巨体を支えているのだ。
彼らは等しく、産まれながらに【魔力感知】【魔力操作】【魔力追跡】【魔力増幅】の4スキルを備えており、その意味では産まれながらに魔法のスペシャリストであると言える。
もっとも人化してる時は自重を支える必要は無いので、魔力で身体を支えていたりはしていないが、常に魔力を感知しながら行動していることに変わりはないらしい。
「邸内……地下から魔力が伸びてきています。 侮られたものですね、これほどわかりやすく魔力を隠しもしないとは。」
「で、その相手はどんなやつ?」
「人間では無いですね。魔力の質が素直ではありません。いずれ魔力を扱うのに長けた種族でしょうが、恐らく先程話題に上った魔族ではないかと思われます。」
「ふむ。」
魔族か。
魔族の情報は是非欲しいところだ。
パルマス王国の国軍から攻めようと思っていたけど、魔族本人に訊いてみるのもいいだろう。
もちろん鵜呑みには出来ないが、【虚言看破】があれば嘘は見抜けるし、判断材料のひとつくらいにはなる。
「カルナ、そいつ捕らえられる? 口さえ利ければ多少痛めつけてもいいから。」
「問題ありません。必ず御身の前に連れてきましょう。」
「イルミナよ。」
わたしとカルナの剣呑な会話にカタリナが入り込んでくる。
「なんですか? カタリナ様。」
「お主、何を考えておる?」
「良い機会ですので、魔族の情報のついでにこのランズロウトに巣食う病巣を取り除こうかと思いまして。」
※スキル講座
【不老不死(××)】種族特性スキル
本来(××)の部分に各種族が入る。
人族から転化できる種族は魔法使い、吸血鬼(真祖吸血鬼)、不死術師(不死王)の三種類で、どれも不老不死持ち。
種族によって効果の内容がちょくちょく違う。
【転化固定】特殊スキル
転化を繰り返すことができる種族に稀に発現するスキル。
このスキルが発言すると、以降転化条件を満たしても転化出来なくなる(その種族で固定されてしまう)
取得条件は分かってはいない。
魔力系のスキルについてはまた今度。