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小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
20/159

17 黒歴史

「ところで、覗かれてますね。」


わたしはこの部屋の中に入った時から感じていた違和感をカタリナに伝える。

物理的な手段ではない、なんらかの魔法的な手段で監視されていることは感づいていた。

どうやらカルナヴァルも似た様な認識を持っている様だ。

わたし達がここに来る前から準備していたのだろう。

どうせだから排除しないで泳がせておく。


「女性の部屋を覗くなんてふしだらですね。」

「直接的な魔法スキルの行使は感じられませんね。第三者を介した間接的な監視と間諜というところでしょうか?」


カルナヴァルが冷静に分析する。

この子は随分と理知的になったものだ。かつてヤンチャしてて叩きのめした頃は脳筋だったんだけどねぇ。


「モンスターを介した監視スキルといったところかな。あの肥満豚に使える芸当ではないね。」


わたしは魔力の流れや大きさから、監視方法を特定する。

割と几帳面な魔力運用だ。

ランズロウト伯爵にその手のスキルも技量も、とてもじゃないがあるとはとても思えない。

【拷問術】とか【大食漢】とか【色魔】とかなら持ってても違和感はないけど。

……流石にそれは偏見持ちすぎかな?

なんにしろ、どのようなスキルがあるにせよわたしとカルナヴァルに通用するとは思えない。

もちろん警戒するに越したことはないけどね。

カタリナに対しては効果も発揮するだろうが、状況的にカタリナに危害を加えるとは思えないから、そんなに心配はしていない。

命さえあればどんな状態からでも復活させられる自信もあるしね。

覗かれているとはいえ、対間諜対策は万全だ。

少なくとも、こちらの会話は漏れていない。わたしの【音声遮断】はそんなに甘くは無い。

となれば監視者の次の手は捕縛だろう。


「カタリナ様、状態異常に注意してください。」


カルナヴァルはドラゴンだ。

しかも上位種たるオニキスドラゴンであり、その耐性スキルはヒト種の比では無い。

わたしは魔法使いだ。

人間より転化した種では真祖吸血鬼と並んで肉体的、魔力的にもトップクラスの能力を持ち、吸血衝動などの吸血鬼にあるリスクも存在しない。

その分基本的な耐性スキルは平均的ではあるものの、おいそれと状態異常にかかる程のものでも無い。

わたしはその上で耐性スキルを鍛えているから尚更だしね。


「監視者の意図として、情報の収奪が目的と思われますが、この部屋の守りは完璧ですので次の手を打ってくると思われます。」

「次の手……哀れな妾は拐かされてしまうのじゃな?」

「恐らくは誘眠系の魔法スキルだと思われます。わたしやカルナには効かないと思いますが……」

「それならば問題ない。妾にはこれがある。」


いうや否やカタリナは左手の中指に嵌めた指輪を見せてくる。

銀色の質素な造りの指輪で、確かにいくつかの耐性スキルが付与されているのが見て取れる。

……というか、どっかで見たことある様な?


「これは我がエルヴェレスト家にいくつか伝わる秘宝のひとつでな。高レベルの耐性スキルが付与されておる逸品じゃ。」


高レベル……? わたしは鑑定スキルでその指輪を観てみる。

確かに睡眠、麻痺、気絶、毒、混乱、盲目の各種耐性スキルが付与されているみたいだけど、高レベルか?

精々レベル3程度の耐性にしか見えないんだけど。


「なんでも、かつて世界の理を修め、数多の魔法を極めた大賢者が作ったと言われているものでな。エルヴェレストの初代たる王弟ヴェディウェールが時の国王より下賜されたものだそうだ。」


んん!? 誰が作ったって? ……あっ、思い出した!

この指輪、わたしが魔法使いになったばかりの頃に練習で作ったガラクタだ!

たしか全耐性を持たせようとして各種耐性を付与していったら高レベルの耐性を持たせられなくなって廃棄したやつだ。

付与魔法にまだ慣れてなくて、メモリの容量間違えて予定してた耐性レベル得られなかったんだよね。

若かりし頃(といっても70歳くらいだけど)の恥ずかしい思い出だ。

そういえば、廃棄しようとしたらくれって言われたから、仕えてた例の国の王様にあげた気がする。

大した耐性では無いけれど、一般に出回っている毒の類なんかは確かに防いでくれる程度の耐性は得られるし。

わー、黒歴史が巡り巡って目の前にあるとか勘弁してほしいわー、しかも秘宝として代々伝えられてるとかマジで勘弁してほしいわー。

そういえば、他にもいくつか失敗作をもう要らないからってあげた気がする。


「えー、カタリナ様。指輪だけでなく他にも色々伝わってるんですか?」

「うむ。我がエルヴェレスト家は魔導具の収集もしていてな。他にもかの賢者が造ったとされている逸品がいくつかあるぞ? こんど見せてやるから、楽しみにしておるがよい。」


うへぇ、マジか。

全部がそうではないだろうけど、いくつかわたしの黒歴史が ありそうな気がする。

これはその内なんとかしないとならないなぁ。

しかし、耐性レベル3程度の失敗アイテムが秘宝として伝わっているなんて、改めてこの時代の魔法レベルはどうなってるんだろう。

少なくともわたしの前世では耐性レベル3程度の魔導具はありふれていた。

耐性の種類を考慮に入れなければ、道端の露天商で手に入るレベルの品だ。

まぁ、この指輪は6種耐性が得られるから、そこまで安いもんでもないだろうけど、それだってちょっと名を売った冒険者が求めるには問題ない程度の値しかつかないものだったと思う。

……わたしの工房に放ってある完成品の魔導具引っ張り出して売ったらいくらになるんだろう。

まぁ、売る気はないけど。


「カタリナ様、ちょっとその指輪、貸していただいてもよろしいですか?」

「ん? 魔導師として高位の魔導具に刺激されたか? いいとも、じっくり見てたもれ。」


そう言うとカタリナはドヤ顔で指輪をわたしに渡してくる。

やめて、その笑顔がわたしの黒歴史に追い打ちをかけるから。

この指輪の失敗したところは魔法を付与するのに必要な容量を考慮に入れないで広く浅く各種耐性を付与したところだ。

付与する耐性の種類を増やしたぶん、各耐性のレベルを上げるだけの容量が足りなかったんだよね。

まぁ、当時はまだ未熟だったってことだ。

わたしは渡された指輪に自分の魔力を繋ぐ。使う魔法は2つ。

付与魔法レベル1スキル、【付与削除】と同じく付与魔法レベル8スキル、【上位耐性付与】だ。

【付与削除】は言葉通り、魔導具に付与された魔法スキルを削除するスキル。

ただしこれが効果を及ぼすのは自分で作った魔導具だけだ。他人が付与した魔法はこの魔法では消すことができない。

自分で付与したものなら、どんな高位の付与でも消すことができる。この指輪がわたしの自作だという証左にもなる。

【上位耐性付与】も言葉通り、対象物に高レベルの耐性スキルを付与する魔法だ。

ただし、こちらもただ漠然と付与できるわけではなく、魔力触媒が必要となる。

他にも付与対象物の魔力容量によって付与できる種類やレベルが変わってくるが、わたしが今付与するのはただ一つ、【全状態異常耐性】、付与レベルは6だ。

魔力触媒は削除したスキルから引っ張った。

削除したからといって付与されていた魔力が無くなるわけではなく、所謂宙ぶらりん状態になる。

魔力というものは方向性を与えてやるとその方向性に沿って馴染む傾向がある。

攻撃魔法を付与した魔導具なんかは使い続けていると発動がスムーズになったり、威力が上がったりする。

これは魔導具に込められた魔力が攻撃魔法という方向性に馴染んだためにおこる。

魔導具は使い続ければ強くなるのだ。

で、この指輪に込められていた魔力は長年耐性スキルとして形づくられていた魔力なので、やはり耐性スキルにするのが一番馴染む。

魔力自体が耐性スキルに向いてるので、方向性を変える必要が無いということだ。

付与レベルが6なのはわたしの【全状態異常耐性】スキルのスキルレベルが6だからだ。

これは自分の持つスキルを付与するスキルなので、わたしの持っているスキルレベルでしか付与できない。

もっと耐性スキル上げておけば良かったねぇ。

わたしが少し魔力を込めると、きゅきゅ、と淡い光と軽い音を発しながら指輪の魔法が組み替えられていく。


「そ、其方今何をしておるのじゃ!?」


カタリナが不安そうにわたしの右手に握られた指輪を見る。

指輪に封じられていた6つの耐性スキル、睡眠、麻痺、気絶、毒、混乱、盲目の耐性スキルを剥いで魔力触媒にする。

そうすることで空いた指輪の魔力容量に全状態異常耐性を書き込んでいく。

全状態異常耐性一つに必要な魔力は各種耐性一つの4倍だが、それでも一つずつ刻むより容量は軽い。

その空いた容量を全てスキルレベルにつぎ込む。


「出来ました。元の効果より高い全状態異常耐性の指輪です。」

「なんと……其方魔導具も造れるのかや!?」

「失礼とは思いましたが、わたしの目から見て大した性能には見えませんでしたので、付与を刻み直しました。」


カタリナは呆気にとられてるけど、まぁこの指輪はもともとわたしの魔力で作られているからね。

これが他人の作品だとこうはいかない。製作者の技量にもよるけど、刻まれた魔力を剥ぐだけでも半日作業になる。


「公爵家の秘宝に対し失礼かとは思いましたが、カタリナ様の命を守る為なので御容赦くださいね。」

「……いや、問題ない。いやあるけど概ね大丈夫じゃろう。見た目に変化があるわけでは無いし、より強力な加護を得られたのじゃからの……」


そうは言うが、カタリナの表情はイマイチ納得できていない様だ。


「其方、本当に何者なのじゃ。賢者が造ったと言われる伝説級の魔導具を片手間に造り替えるなど、寡聞にして聞いたことがない。」

「ただのしがない転生者ですよ。ですがまぁ、この時代はわたしが生きた時代よりも魔法技術が若干後退しているようです。」


わたしはカタリナにかつての時代の魔法レベルを掻い摘んで説明する。


「先に訊きますが、カタリナ様にとって有名な魔導師はどのくらいの技量の持ち主なのですか?」

「そうじゃな……わが国の宮廷魔導師であるアウストラリス殿は古代語魔法レベル4を修めておる国きっての才能じゃな。貴族院始まって以来の天才といわれておったわ。」

「スキルレベル4?」

「うむ。人の身で修むる限界がスキルレベル3と言われている魔導学に於いて、レベル4に到達した者はここ数十年、いや数百年では稀有であろう。それこそエルフや魔族の領域に足を踏み入れた者ということじゃな。」


ドヤ顔で語るカタリナを尻目に軽くため息をつく。

……やはり、かなり魔法技術の質が落ちてるようだ。


「カタリナ様、わたしはちょっと特殊ですが、わたしがかつて生きていた頃は多少名のある魔導師なら専門の分野ではスキルレベル5は当たり前に持っていました。研鑚を重ねて高名と呼ばれる域に達した魔導師なら、スキルレベル7までは到達していた者が普通にいたと思います。」

「なん……じゃと……」

「エルフや魔族などの長命種ならば一ジャンルは極めているものもおりました。流石に数は多くありませんでしたが。」

「其方は……どうなのじゃ?」

「わたしも転化して人間辞めてましたからね。そこそこに自慢できるものはもっていると自負しておりますが。」


そういえばカタリナには転生した理由とか語ってなかったな。

ま、その内話すこともあるだろう。


「……そのな、イルミナ。」

「なんです?」

「転化、というものがイマイチ良く分かってないのじゃが、不老不死でもあるし、其方はもう人間では無いということでよいのか?」

※スキル講座

【付与削除】付与魔法レベル1

自らが付与した魔法具の効果を消すスキル。

あくまで自分で作成したものに限り、他人が付与したものについては削除不可。


【上位耐性付与】付与魔法レベル8

自分の持つ耐性スキルを道具に付与するスキル。

単なる【耐性付与】と違い、耐性付与数に上限はない。

また最上位耐性スキル【全状態異常耐性】や【四元素魔法耐性】などのスキルを付与することも可能。

付与する道具にメモリが足りないと付与できないばかりか、最悪道具のほうがぶっ壊れる。


【全状態異常耐性】耐性スキル

読んで字のごとく、全てのバッドステータスに耐性を得る。

ただし完全に状態異常が効かなくなるわけではなく、状態異常にもレベルがあり、耐性スキルのスキルレベルを超えて状態異常がかかった場合、差し引きのレベルで状態異常にかかる。

何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。

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