14 パルマス王国
マイノリーヤ大陸のほぼ中央、北の剣尖山脈から流れる長大なグナイ川に沿って建国された王制国家、それがパルマス王国だそうだ。
わたしの転生前にそんな国は聞いたことがなかったので、いつ頃建国されたか聞いてみたら700年ほど前に建国されたらしい。
確かにそれではわたしの記憶には無いね。
パルマス王国に於いて、エルヴェレスト公爵家は現王国より4代前の王弟が祖になるらしく、割と新しい公爵家だそうだ。
王国にはもう一家、公爵家がありこちらは8代前の王弟が祖になるらしい。
王国は現在17人の国王を戴いている。
国家として700年が長いのか短いのかは意見の分かれるところだけど、人族の建国した国としては長い方じゃないかな。
ヴァゼルダ大森林にあるエルフの王国は10000年以上続いていたハズだし。
王国には公爵家の他にも侯爵が3家、伯爵は辺境伯も含めて二十数家あるらしい。子爵男爵を含めれば星の数だ。
エルヴェレスト公爵家はどちらかと言えば文官寄りの家柄で、現内務卿はカタリナの祖父、リスト・エルヴェレストが勤めているそうだ。
もう一つの公爵家、モートディラウト公爵家は武官寄りの家風で、現当主サーディン・モートディラウトは現王国軍務卿だそうだ。
そしてやはりというか、エルヴェレスト公爵家とモートディラウト公爵家はあまり仲がよろしくない、と。
「よくある話ですね。」
「よくある話なのじゃ。」
この国の貴族は大体どちらかの公爵家の派閥に入っている。3つある侯爵家は1つがエルヴェレスト、1つがモートディラウト、残り1つは中立で、政争にはあまり興味がないらしい。
ランズロウト辺境伯はどちらかといえば武官寄り、モートディラウト派の貴族らしく、そういう意味でもちょっとめんどくさい相手らしい。
とはいえ、いくら派閥が違っても公爵家と面と向かって相対すことは無いだろうし、辺境の村の安全一つくらいちょっと圧力をかければどうとでもできると姫は言う。
うーん、ランズロウト辺境伯がモートディラウト派だと、政争の引き金にされないかなぁそれ。
一応防衛手段は講じておこうかな。
みたいなことをカタリナ(名前で呼んでほしいと仰ったので)としていると、わたしたちの乗った馬車はランズロウト領都に近づく。
かなりの規模の城塞都市だ。
ランズロウト領は王都から3日かかるほどの辺境で、国領としてはパルマス王国の最南端に位置している。
西はアレリスト帝国、南はイルカーサク諸島連合、北に向かえば王都という商業公路のど真ん中にあるため、非常に富が集中するらしい。
さらに東側には広大な穀倉地帯が広がっており、わたしたちの村はその奥のさらに奥にある。
また、街をぶち抜いて流れるグナイ川から引いた水路が街に網の様に張り巡らせており、陸運と水運を同時に利用できる様に整備されている。
領都は巨大な商業都市なのだそうだ。
そのため、魔物や盗賊から街を守るための巨大な城壁が必要になったという。
壁外に広がる農村は領所属の兵士や騎士が交替で巡回するのだろうが、完全に被害を防げているとは思えないなぁ。
街は領主の城を中心に放射状に広がっており、外側に向かって三重の石壁が建てられていた。街が徐々に広がっている証拠だ。
壁の高さは一番外側の壁で優に10メートルはある。
街の四方に門があり、様々な人が並んで入門審査を受けていた。
当たり前だが入門税も取られるらしい。
一番多いのはやはり商人だ。
荷馬車や馬、驢馬などに荷を積んで、審査を待っている。
次いで多いのが冒険者と思しき出で立ちの者達。
行き交う人が多いということは、それだけ護衛などの副次的な商売も成り立つということだ。
こう言った冒険者たちは大体冒険者ギルドに所属していて、ギルドからの護衛の依頼などを受けて旅商人の護衛などをしたりしている。
大きなキャラバンになれば大人数の護衛を雇う必要もあるので、個々で依頼するのは難しいからね。
なので、商人たちはまず、冒険者ギルドに護衛任務を依頼し、ギルドは斡旋料をマージンとして貰い、冒険者達は依頼を受けるのだ。
冒険者は他にも魔物の討伐や、素材の納品などの依頼を受けて生計を立てている。
うちの村も魔物を狩り、その素材を領都まで来てギルド経由で売ったりしている。
戦闘をすれば少なからず素材にキズがついたりするが、うちの村では狩りに気絶系の魔法スキルを使うのでキズがつかない。
最近辺境から美麗な素材を納品に来る集団がいるっていうので、話題になっていたことをわたしは知らなかった。
「わたしも冒険者ギルドに登録しておこうかな。」
実はわたしの【空間倉庫】には大量の魔物の素材が入っている。
時間魔法で倉庫内の時間を止めているので、素材の劣化もしない。ギルド登録すれば売れるので、少なくない財産になるはずだ。
「いやぁ、無理じゃろ。冒険者ギルドの最低登録年齢は12歳からじゃぞ? 其方、どう見ても12歳には見えんの。」
「なんですとーっ!」
むう、確かに10歳でしかないし、更に言うなら肉体年齢は9歳のまま歳を取らないけどさ。
精神的な実年齢なら1000歳超えてるんだぞ〜っ!
「そういえばカタリナ様はおいくつなんですか?」
「妾は今年で12歳じゃ。誕生日はまだじゃがの。貴族は13の数え年の春に貴族院に上がるしきたりじゃ。」
なるほど、来年数えで13になるからそれまでに魔法を鍛えたいわけね。
わたしとカタリナは一つ違いになるのか。見えないって? 煩いよ。
たしかにカタリナは来年13歳とは思えないほど大人びている。
美しいハニーブロンドの髪、整った顔立ち。
今はまだ可愛らしいけど、あと数年も経てば美しいと言う形容がしっくりくるだろう。
そしてスタイルも良い。人間形態のカルナには及ばないけど(あれは規格外だ)、十分に魅力的なスタイルだ。
一つ違いでしかないのに、なんでわたしはこんなお子様体型なのか。
なんか泣けて来た、考えないようにしよう。
そうこうしてるうちに馬車が門に到着する。貴族用……というかお金持ち用の別門だ。
さすがお貴族様は特別扱いで、並ばずに素通り出来るし、入門税も無い。
「そういえばお主、どうやって門を超えるつもりだったのじゃ? おそらくおなごひとりでは門を通してはくれぬぞ? 入門税もあるしの。」
「空からですかね。この城塞、外壁は立派ですが、上が完全にお留守ですし。飛行魔法くらいお手の物です。」
「空襲を考慮した城塞というのはあまり聞かんのじゃが。」
まぁ、空を飛べるのは一部の魔物くらいだしねぇ。
「あとは【光学迷彩】を使って姿を隠してもいいですし、色々やりようはありますね。」
「真っ当な手段はないのかや?」
「まぁ、領主様を脅しに来たって時点で理由が真っ当じゃないですからね。手段選んでてもしかたないかなーって。」
「恐ろしいのう。お主と敵対せんで済んで良かったわ。そしてランズロウト伯が憐れでならぬわ。」
「そうですね。今だから言っちゃいますけど、わたし一人ではキツイですが、カルナと一緒ならこの街くらい簡単に滅ぼせますんで、気をつけてくださいね。」
わたしはにっこりと満面の笑顔で伝える。
まぁ、村のこともあるし、とりあえずやらないよ?
「……ちょっと引くのう。一人ではキツイというのは、キツイだけでできんとは言わんのじゃな……」
それはねぇ……
わたしは無言で肯定しておいた。
※スキル講座
【空間倉庫】特殊スキル
【空間収納】に付随するスキルで、【空間収納】を取得した時点で自動的に取得するスキル。
【空間収納】で作り出したパーソナルスペースのことで、スキルレベル依存で拡張される。
評価とブクマありがとうございます。
少ない評価でも、付くと嬉しいものですね。
今後も頑張っていきます。