表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな賢者の魔導学  作者: 五泉 昌
聖女転生編
14/159

13 勧誘

何はともあれ、公爵令嬢が一旦領都に向かうそうなので馬車に便乗させてもらった。

というよりも公爵令嬢に請われてお話相手をする羽目になった。

護衛兵の方達も、わたしが同行するのを歓迎してくれた。執事のお爺さんだけはちょっと難しい顔してたけど、命の恩人であるわたしに特に意見することは無かった。


「実はの、妾は其方に会いにきたのじゃ。」


公爵領エルヴェレストはこの地から更に馬車で3日以上かかる王都中央地に近い場所にあるらしい。

どうやらわたしたちの村はホントに王国の端っこにあるようで、王都からだとまるまる馬車で4日以上かかるとか。

まぁ、わたしならカルナの翼で数時間の距離だけども。


「ここで其方に会えたのは僥倖よ。更に馬車を走らせる手間が省けたわ。」


公爵令嬢……カタリナ姫は臆面もなくそう言い放つ。

呵呵と笑う姫に少し毒気を抜かれた。

先ほどの従者の死に面した儚げな感じは微塵も無い。

多分こちらが素の姫様なんだろう。


「一度ランズロウト伯爵の屋敷に居を構えてからお主のいるという辺境の村に向かうつもりであったのじゃが、あと少しというところで先程のゴブリン共の襲撃じゃ。いや、生きた心地がせんかったぞ。」


ランズロウト伯爵……そんな名前だったのか。

そういや、会うつもりの相手の名前知らなかったよわたし。

辺境の村じゃ、領主様としか聞いてなかったし、それで十分だったしね。

今、馬車の中はわたしと姫の2人しか居ない。

姫のお付きの執事のお爺さんはかなり体力が回復したので御者台に戻っている。

カルナも御者台でお爺さんのフォローするように言っておいた。

護衛兵の4人は馬車を取り囲むように徒歩で行軍中だ。


「其方もランズロウトの領都に向かっておったのか?」

「そうですね、姫と一緒です。まぁわたしはそのランズロウト伯爵に用があって来たのですが。」

「ほう、辺境の魔女が領主に何用なのじゃ?」

「こんなことを公爵令嬢に言うのもどうかとは思いますが……」


わたしは自分の村であったこと、今後想定される被害、そして現在の貴族のあり方について説明した。

この姫様なら客観的に状況を俯瞰して見ることができると思ったからだ。


「やはり其方、魔法が使えるのか。正直、平民出の魔導師など最初は眉唾じゃと思っておったのじゃが……」

「魔法が使えなければわたしなどただの小娘ですよ。ゴブリンどころか近所の犬猫にすら勝てません。」

「その……魔力は誰にでもあると言うのは誠なのか? 妾も含め、貴族社会では魔力は選ばれた者の証、みたいな教育を受けるのじゃが。」

「事実ですよ姫。今の時代はともかく、3000年ほど前は王侯貴族のみならず平民、奴隷に至るまで魔法は必須の技術でした。余程適性のない者でも生活魔法くらいは使えたものです。」

「お主、まるで見て来たかのように語るのう。」

「はい、見てましたから。」


わたしは特に自分が転生者であることを隠すつもりはない。

姫に真実を伝えてもデメリットは無いし。

家族に言うと色々混乱するし、転生前のイルミナと別人と判ればめんどくさいことになるので言ってないけど。


「なんと、お主は古えの時代の転生者だと申すのか!?」

「はい。古の時代というのがいつのことを指すのか判断できかねますが。とある国の宮廷魔導師をしたこともありますね。」

「なるほど……いや、その形で強大な魔力、高い魔法技術、疑うべきも無いのじゃがな……」


姫はちらりと御者台に座るカルナを見る。

カルナが人に擬態したドラゴンであることは明かしていない。

割と面倒なことになるし。

この世界には竜人族というドラゴンの力を継ぐ亜人の種が存在する。

本家本元のドラゴンとは比べるべくも無いが、人間などでは到底太刀打ちできない種で、カルナをこの竜人族と姫には紹介した。


「伝説の種族である亜人を従える程の力も、納得できるというものじゃな。」

「姫が聡明な方で良かった。この時代の常識からすれば荒唐無稽な話ですから。本当のことは今の家族や村の人たちにも伝えてないのです。」

「なるほどのう。妾も事実を突きつけられなければ信じられんかったしのう。」


平民出の年端もいかぬ幼女が、竜人族の少女を従え、十数匹からなるゴブリンの群れを瞬殺し、死に瀕した者を稀に見る力で救ったのだ。

姫の持っていたいままでの常識など粉々に粉砕してしまったのだろう。

まぁこちらとしても姫に一部嘘とはいえ真実を明かしたのは思惑あってのことなんだけどね。


「姫、こちらから訊いても宜しいですか?」

「む、うむ。妾で分かる事ならなんでも答えてやろうぞ。」


よし、言質とった。

わたしはナイショで真古代語魔法レベル3スキル【虚言看破】を発動させる。

このスキルは古代語魔法の上位スキル、真古代語魔法に属する魔法スキルで、相手の同意があれば嘘を見抜けるというもの。

本来は尋問などに用いるスキルで、最初に言質は嘘でも言葉にさせれば発動する。

秘密裏に使えて利便性の高いスキルだ。

まぁ、姫が嘘をつくとは思えないけど、念のためだね。


「王国で魔法を王侯貴族の証みたいに扱っていると聞きましたが、いつ頃からその様な考え方になっているのでしょう。」

「ふーむ、妾は教育上、既にその様に教わって来たし、相当昔からではなかろうか。もしかしたらパルマス王国建国当初からそうなのやもしれぬのう。」


王国建国からか、あり得そうな話だな。

我欲に塗れた魔導師が王として建国し、魔力の強い者を貴族として遇し、弱い者を虐げて平民や隷属階級に落とす。

魔法に関する知識を奪い、教育を疎かにすれば、数世代も経てば平民階級以下は魔法のことを忘れてしまうかもしれない。


「王都の王宮図書館や貴族院の図書館ならば、もう少し詳細な情報も得られるかもしれぬがのう。」

「王都ですか。図書館は魅力的ですが、平民のわたしでは王宮にも貴族院にも入れませんね。」


わたしは「正規の手段ではね」と心の中で付け加えるが。

というか、貴族院って何だ?


「そうじゃな……お主、妾の魔導師顧問をやらんか?」

「はい?」


姫は突然そんなことを言い出す。


「妾も来年は貴族院に入らねばならぬ。貴族は本来なら貴族院で魔法の基礎を学ぶのじゃが、そこはそれ、人を出し抜き生き馬の目を抜く貴族社会じゃからのう。家庭教師を付けて入学前から魔法を学ぶのが公然の秘密となっておる。

ところが、妾はこう……あまり魔法が得意ではなくてのう。何人か高名な家庭教師を付けてもらったのじゃが、なかなかに上達せん。」

「はぁ……」


なるほど、貴族院って教育機関か。


「そこでじゃ、お主の噂を聞いてな。」

「つまり、魔法を知らぬはずの平民に魔法を教えた辺境の魔女なら、魔法が苦手な姫様にも……と思われたのですか?」

「察しが良くて助かる。恥ずかしい話じゃがのう……」


姫はそう言って顔を赤らめる。

うーん、この娘可愛いな。

照れている顔が超絶キュート。


「其方ならば宮廷作法も問題ない様だし、妾の御付きとして貴族院や王宮にも出入りできると思うのじゃが、どうじゃろ?」


嘘は言ってないね。

姫の言うことは全て真実だ。

となればこの誘いは渡りに船というべきかな。

問題があるとすれば、わたしの見た目年齢、あとは後顧の憂いだな。


「非常に魅力的なお話です。家族の許可が出れば是非お受けしたいのですが……それには一つやることがありますね。」

「うむ、其方の村のことじゃな。」

「はい、そもそもわたしは村の安全のために領都に向かう途中ですからね。」

「それならば妾からも働きかけることにしよう。なぁに、公爵家が村の後ろ盾になれば、伯爵も愚かな真似はすまい。」

「ありがとうございます、姫。」


うーん、最初は領主を脅すつもりだったんだけど、こっちの方がスマートかな。

でもそう上手くいくかなぁ。

【虚言看破】真古代語魔法レベル3

対象の嘘を見抜くスキル。

相手に「承認」させることで発動し、嘘をつくと嘘と分かる。

明確なYES NOだけでなく、お茶を濁したような受け答えも見抜く。

最初の「承認」は嘘でも構わないので、交渉時などに非常に有利になるスキル。

ただし、古代語魔法の上位スキル、真古代語魔法に属するスキルなので使い手自体が殆どいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ