閑話 – フレデリック
俺の名前はフレデリック。
親しい人たちからはフレッドって呼ばれてる。
パルマス王国の辺境にある名もない開拓村の生まれだ。
俺の家族は村の警備兵をやってる親父と裁縫職人の母ちゃん、そして病弱な姉がひとりいる。
姉ちゃんはいつも高熱を出しては寝込んで、苦しそうにしていた。
俺と言えばまだガキで、家族にしてやれることなんてほとんど無かった。
苦しそうにうなされる姉にも、悔しそうにしている父にも、悲しそうにしている母にも、何かしてやりたいのに何もできなかった。
きっと姉ちゃんの命は長くない。
親父と母ちゃんが夜遅くにそんな話をしていたのを聞いた。
俺はただただ悔しくて、そして少しでも多く姉ちゃんに付いていてあげたかった。
姉ちゃんを守れないことに不甲斐ないと本気で思った。
そしてその日、姉ちゃんは死んだ。
でも姉ちゃんは生き返った。
奇跡ってあるんだと、俺は普段そこまで熱心に祈らない神様に祈りを捧げた。
生き返った姉ちゃんは、不思議な力を持っていた。
魔法だ。
正直、俺は魔法がどういうものかすら知らなかった。
だって、魔力は貴族の証で、魔法は貴族でなければ使えない権威の象徴みたいなもんだと思ってたから。
こんな辺境の開拓村で魔法を見る機会なんて一生ないと思ってた。
いや、思うことすらしなかったはずだ。
姉ちゃんは「魔法はすべての人間が使える特別でもなんでもないスキルだ」って言って、俺の目の前で魔法を使ってみせた。
親父も母ちゃんも驚いていた。
俺ももちろん驚いたんだけど、それ以上にワクワクしたんだ。
だから、俺は姉ちゃんに魔法を教えてもらうことにしたんだ。
姉ちゃんは凄かった。
そして俺に色んな魔法を教えてくれた。
魔法だけじゃなく、生きる術をたくさん教えてくれた。
体術スキルや知覚スキル、それらを加味した特別な手段、戦い方のコツや人との接し方。
宮廷マナーなんてのも教えてもらった。
なんでそんなものを知っているのかという疑問はとりあえず無視した。
多少……いやかなり厳しかったけど、でも楽しかった。
強くなってるのが実感できた。
ある日、姉ちゃんが「新しい家族になるから」、とか言って一人の女の人を連れてきた。
その人はすごく美人で、そして強かった。
姉ちゃんはオニキスドラゴンだって言ってた。
名前はカルナヴァルさん、カルナって呼んでほしいと言われた。
ドラゴンって伝説とか言われてる幻の魔物だろ?
例によってなんで姉ちゃんがそんな人と知り合いなのかは無視した。
だって姉ちゃんだし、そうゆうこともあるだろう。
村ではこの手の疑問は気にしないのが暗黙の了解だ。
カルナさんは一旦姉ちゃんとどっかへ行ったけど、しばらくして村に戻ってきた。
そして姉ちゃんと一緒に俺の稽古に付き合ってくれた。
正直、カルナさんは美人でスタイルも凄く良いから、目のやり場に困る。
こちとら健全な男子なんだよ!
目の前でボヨンボヨンされたらたまんねぇっての!
そんな俺を生暖かい目で見てんじゃねーぞ、姉ちゃん!
そんなこんなで、自覚できるほどには強くなれたと思う。
実際、村の同年代の男子で、俺より強いヤツは居ない。
ウチの村は姉ちゃんが魔法を教え込んでるから、個々の強さの平均が他の村より圧倒的に高いんだけど、それでもたぶん俺が一番強いと思う。
合わせて剣術を親父から習っているけど、姉ちゃんはその剣術を応用する方法も開発してくれた。
いまや俺は魔法と剣術の双方から自分を鍛えている。
だが、強くなればなるほど、姉ちゃんとカルナさんが強いのがわかる。
どんなに自分を鍛えても、あの二人には届かない。
あの日、姉ちゃんに何もしてやれなかった不甲斐ない俺は姉ちゃんのために強くなりたかったのに。
姉ちゃんを守りたいのに、姉ちゃんはいつまで経っても俺より強い。
昔はあんなに身体弱かったクセに。
「フレッド、あんた結構やるわね。鍛え甲斐あるわ。」
「あんたは特別。村の人たちにはあんたほど才能ないし。」
「男なら、行けるとこまで行かないとね。」
姉ちゃんは俺にだけ特別厳しい。
でもそれが苦ではない。
こうやって姉ちゃんに師事してるうちは無理だろうけど、いつかは……
「いつか、自分の大切な人くらい助けられるような男になりなね。」
姉ちゃんは俺のことを全くわかってないよね。
色々規格外の人だけど、いつか追い抜いてやる。
主人公イルミナ以外の独白は閑話として挟みます。
フレッドは明らかに時代にそぐわない鍛えられ方をされています。