勇者(教え子)召喚に養護教諭が巻き込まれました。
佐倉 日和。26歳。私は高校の養護教諭をしている。
小さい頃から保健の先生に憧れて沢山勉強して頑張って、念願の夢を叶えて四年が経った。
四年も経つとある程度、生徒との距離感が掴める様になった。
そしてなぜか生徒達からは恐いと恐れられる様になった。多分、この顔と身長のせいだと思う。私は父の目つきの悪さと背の高さをそのまま受け継いだせいで人にはよく恐がられる。威圧的に見られるのだろうか?...母の様な小柄で可愛いらしい容姿がよかった。まぁ母の容姿をそっくりそのまま受け継いだ兄は父さんみたいに男らしい方がよかったのに!って嘆いていたけど。
...うん、需要は有ると思うよ兄さん...多分。
でも、やっぱり生徒と仲良くなりたい。私は父に似て口下手だから人と喋るのが苦手だ。だから必要な事以外あまり喋らないせいで余計に生徒から恐がられる。...うん、もう、母みたいに以下略。
私の数少ない友人兼幼馴染みは、見た目によらず付き合い良いし、喋り易いから楽しいと言ってくれた。それは嬉しいがその後に
『まぁ仲良くなるまでが大変だけどね!口下手だから変な誤解を生んだりして大変だったし!それが面白いんだけど』
と、まぁ褒めているのか貶しているのか分からない評価をくれた。
...喜んで良いのか怒って良いのか分からん。とりあえず怒っておいたけど。
何て考えていたから声を掛けられていたのに気付かなかった。
「...せ、先生!ひよりん先生!」
「...あ」
「あ、じゃないですよ!...全く、何か考え事ですか?ひよりん先生」
この生徒は、私を恐がらずに接してくれる唯一と言っても良い生徒だ。
名前は鈴本 遥。
女の子っぽい名前をしてるけどれっきとした男の子だ。
うん、恐がらずに接しくれるのは嬉しい。...だけどね?
「その呼び方は止めて」
さすがに26歳にもなってその呼び方は嫌だよ。しかも此処は学校で私は先生。
「え一っ?ひよりん先生の方が良いですって。ただの佐倉先生じゃつまんないです」
何て事を宣う鈴本くん。
「...あのね、呼び方につまんない、面白いは無いと思う。それに鈴本くんは生徒で私は先生。年上の人にひよりんは無いでしょう」
さすがに失礼でしょうと言っておく。
「ええーっ、ありますよー。愛称で呼んだ方が親しみ易いです。それにちゃんと先生って言ってますし。...あ、あとひよりん先生以外にも愛称で呼んでますよ!例えば、秋村先生は貧血先生で小森先生は天然先生とか」
...たしかにその二人をそう呼ぶのは分かる。秋村先生はよく貧血に為られているし小森先生は少し天然が入っているから。
「あ、あとはヅラ校長とか鬼教頭とか」
「それ本人の前で言って無いよね!?」
とんでもない事をさらりと言う。
...いや、いくら何でもさすがに言って無いと願いたい。
「あははっ、さすがに言ってませんよ~...教頭以外」
言ったのか。本人の前で言ったのか。
鈴本くんは少し遠い目をしていた。
多分、それを言って怒られた時の事を思い出しているのだろう。
「そ、それで、今日は何の用なのかな?」
あからさまに話題をすり替える。
この話はどちらの得にもならない。むしろ減る。主に私の精神がゴリゴリと。
「ああ、そうでした!実はですね...え?」
鈴本くんは視線を落として固まった。
どうしたのだろうと思い私は床に目をやる。そして鈴本くんと同じ様に固まった。なぜなら私達の足元に不思議な光を放つ複雑な円形模様が浮かび上がっていたからだ。あんぐりと口を開けて固まっている私達を余所にそれは光り続けている。そしてその円形模様が強く光ったと思ったら何と
床が抜けた。
「「うわああああぁぁぁっ!!??」」
女性としては、可愛いくは無い悲鳴を上げた。多分、此処まで大きな声を出したのは初めてだと思う。
そして私達は筆舌しがたい浮遊感を感じた。
だけど、あっ落ちたと思ったらなぜか水中だった。
どうやら、余り深くは無い様で直ぐに水の中から身体を起こす事が出来た。しかし、いきなり水の中だったので思いっきり水を飲んでしまった。
水が変な所に入ったのでむせる。
「ゲホッ、ゴホッ...は、はぁはぁ」
涙目になりながら息を吸う。
空気ってこんなに美味しいんだって初めて思った。
にしても何が起こったんだ?いきなり変な光りを放つ模様が現れたと思ったら床が抜けて水の中に落ちたんだけど!?
軽くパニックになる。
まぁ、普通あんな事が起きたらこうなるのは当然だ。
「...や、やったぞ!成功だ!!」
いきなり声が聞こえたので周りを見る。
私の隣にはずぶ濡れの鈴本くんがいた。っていうか私もずぶ濡れだ。しかもまとめていた髪留めが外れ長い髪だ落ちている。濡れた服が肌に張り付いて気持ち悪い。幸い眼鏡は壊れて無いみたい。よかった。目はそこまで悪くは無いが、目つきが悪いのをごまかすのに掛けている。要するに伊達だ伊達。
どうやら、鈴本くんはずぶ濡れなだけで怪我はしてないみたいだ。よかった。
しかし先程聞こえた声は誰だ、と思い探す。
だが探す必要は無かった。
「ど、どちらが勇者様でしょうか?」
向こうから声を掛けてきたからだ。
声を掛けてきた人は、日本じゃまず見ない様な髪色と服装をした人だった。
* * * *
とりあえず私達はずぶ濡れだったのでお風呂に入れてもらった。
その後に色とりどりの髪と変な服装をした人達の話を聞いて一番最初に思った事。
お前等ふざけんなよだった。
口が悪くなるのも仕方ないと思う。
長くなるから要約すると封印されていた魔王が復活したらしい。私達が呼ばれたのはその魔王を倒してほしいそうだ。
が、話は何とこれだけじゃない。何と、復活した魔王は確認されていないらしい。どうやら今年は流行病や不作が続いてそのうえ水害が重なったので国民達が魔王が復活したのではないかと騒ぎ出したのだ。実際はただの偶然なのだが、国民達は怖がり国としても無視する事が出来なくなったので国は形だけの勇者を立て不安を取り除こうとして今回の召喚に至ったらしい。
...怒って良いよね?さすがに。
そんな事のために私達は拉致られたのかよ。しかも帰る手段は無いときた。さすがのこれにはあの鈴本くんも呆れている。
ちなみに、呼んだ人達は日本で最大の謝罪を示す格好をしています。
...いわゆる土下座です土下座。
まぁこれでこの怒りが消える訳じゃないんですけど。
先程、有無を言わせず土下座をさせた時、鈴本くんから格好良いと聞こえたのは気のせいです。
はぁ、本当にどうしよう。頭が痛い。
そうだ、眼鏡を外しとこう私は、目つきが悪いからこいつらには調度良いと思う。いい感じに恐怖感になるだろ。
そう思い眼鏡を外す。そして尚も土下座を続ける人達を見る。
すると眼鏡を掛けている時には無かった文字が見えた。
えっと、何々?
『 名前 ウェブルド・ラギュー (39) 職業 神官
魔力値 150
体力値 70
知力値 170
装備 神官服
武器 無し
状態異常 無し
危険値 無し
性癖 他者から痛め付けられる事
備考 無し 』
眼鏡を掛け直す。
あっれー?おっかしーなー?なーんか変なのが混ざってたよー?
なーんか知りたくもない性癖の欄が在ったよー?
もっかい眼鏡を外してみる。
多分、気のせいだ気のせい。
『 性癖 他者から痛め付けられる事 』
気のせいじゃ無かったよ!!おい、どーすんだよ!こんなの知ってどーすりゃいいんだよ!?
とりあえず眼鏡を掛ける。
...うん、今の事は無かった事にしよう。うん、そうしよう。
とりあえず、私は異世界でいろいろな事に頭を悩ますのであった。
...お父さん、お母さん、もう容姿の事で文句は言わないから帰してください(涙)
息抜きに書いてみました。
最後、駆け足でしたが御容赦ください。