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第96話 杖塞

 ゴブ男をこちらに戻したら、さっさと避難を開始。このままこの場所にいたら観戦どころではなくなってしまう。リリィとゴブ男にシートとお茶弁当を運ばせ、石巨人の攻撃が届かない所まで移動する。ゴブ男がテキパキと働いてくれたお蔭で、新たな席の確保は直ぐに終わった。


「ご主人様、お引越し完了です! どうぞ、私達の愛の巣へ!」

「随分と開放的な愛の巣じゃない? 流石はリリィヴィア、貴女の思想は一線を画すわね」

「うふふ、ネルがお堅いだけだと思いますけどぉ? ご主人様の性癖を隅々まで理解してこそ一流のメイドなんですぅー」

「……ふーん?」


 おい、そこ。勝手に人の性癖を捏造するな。そして頼むからこんなところで戦わないでお願い、更に面倒な事になるから。せめて、バチバチと視線を交わすだけに止めてくれ。それなら殺気で地面に亀裂が走る程度で済むから。


「……それでは、私達はあちらに移動します」

「ええ、お気を付けて」


 テレーゼの戦い方は変わらず、盾を構えての受けに徹しようとしている。例の力を使って敵のターゲットが自分に集中している間に、ハル達に倒させる算段なのだろう。確かにテレーゼの力は石巨人にも通じていて、その威力は絶大だ。


 獅子ゴーレムを投げつけるハル、グリッターランスを突き刺す千奈津を丸っきり無視して、石巨人はテレーゼの元へと一直線に向かって来る。時折ハルに攻撃しようとする素振りも見せるが、テレーゼが叫ぶとそれを止めてまた走り出すのだ。ここまであからさまだと逆に笑えてくるな。しかし、このままではテレーゼが防御を固めようと、さっきの二の舞だ。


「テレーゼお嬢様、無理であるようでしたら盾役を代わりますが……」

「ご心配頂きありがとうございます。ですが、まだ私は諦めておりませんのっ!」

「そうですか。ですが、お嬢様にもしもの事があっては、オルト公に合わす顔がありません。次に私が無理だと感じたら、大人しく退いて頂きます。よろしいですね?」

「チャンスをくださるのですね。デリスさんの寛大なお心遣いに感謝致しますわ」

「ご武運を」


 ネルとリリィがいがみ合う火中へと戻る俺。戻ってしまう俺。まあ、あそこからでも危機の直前で救出はしてやれる。むしろ俺を救出してほしいくらいだが、それができるような輩はこの国にはいないだろう。テレーゼ嬢、君が大変な状況下にいるように、俺は俺で大変なんだ。だから君も―――


「バッテン家に伝わる秘宝、『杖塞コウアレス』! その真の姿をお見せなさいなっ!」


 ―――君も、何をやり始めたのかなぁ?


 テレーゼが持っていた盾の本体である杖から、何やら灰色の土のようなものが溢れ出している。次から次へと杖から現れる山盛りの土は、装着された盾の表面へと移行して、次から次へと盾に同化。次第に大盾の厚みや横縦幅は増していき、杖から出て来る土が止まった頃にはふざけた代物ができあがっていた。あれは盾なんだろうか? それよりも動く城塞と言った方がしっくりくるような…… ああ、だから杖塞なのか。


「コウアレスの杖に溜め込んだ魔力を使い、最大の防御力を発揮させるのがこの形態ですわっ! 使用者に魔力がなくとも使用できる安心・安全設計のバッテン家の誇り! 今、その想いを受け継いで、テレーゼ・バッテンが参りますっ!」


 そんな叫びと共に、今度は杖塞の真下から杭が何本か飛び出して、石畳へ深々と突き刺さった。杭自体がかなり長いもので、これを地面に突き刺す事でより安定性が増すんだろう。もう完全に盾の範疇を越えている。


「………!」


 あと、また大声で叫んだ為に石巨人の目にはテレーゼしか映ってないっぽい。その間にハルと千奈津が全力攻撃を叩き込んでいるが、それでも意識するのはテレーゼのみ。この頃になって、ハルの獅子砲弾も全て投げ終わった。


「全弾命中! だけど止まらないっ!」

「足も、関節も、顔も駄目。全身石ってのは厄介ね、弱点らしい弱点がない……!」


 テレーゼに向かって走って行くとは、詰まるところ自分達が逃げられているようなもの。全力で遠ざかる相手に攻撃するのは厄介なもので、遠距離からの魔法は威力が落ち、近距離で攻撃するには追い掛けなければならない。背を晒すにしても、本来はウィークポイントであるこの場所も全て石。正面と比べても耐久性に大差はないのだ。


「テレーゼさん、1撃だけ耐えて! その間に追い付くから!」


 負傷していると言って良いのかは定かではないが、石巨人の全身の表面はひびだらけになっている。度重なるハルの獅子弾投擲、千奈津のグリッターランスによる追撃、打撃斬撃等の諸々を食らい続けたのだ。ノーダメージではないだろう。ただ、石巨人の歩みを止めさせるには更なる決定打が必要になる。あるとすれば近距離からの確実な一撃か。石巨人がテレーゼに攻撃している隙に、2人は大技を仕掛けるつもりだ。


「1撃と言わず、2度3度と耐えてみせますわっ! 来なさいっ!」


 テレーゼの眼前にまで近づいた石巨人が、大きく右足を高々と振り上げた。その大きな足裏で、標的を踏み潰さんと構えているのだ。


「何という威圧感っ! ですが、逆境に勝ってこそのバッテン家なのですわっ!」

「………!」


 ここに来ての更なる挑発。全身を覆い隠す杖塞を構えて、この状況においてもテレーゼは立ち向かおうとしていた。


 そして、ハル達も黙って見ている訳ではない。走りながらハルが虎の子の鉄球を投じ、石巨人の全身を支える左足の足首に命中させる。ゴーレムには毒が効かない為、兎に角重みを強化した威力特化弾である。獅子弾のように面ではなく、一点に威力を集中させたせいか足首に大きくめり込み、かなりのダメージを与えたと確信できるほどの亀裂を走らせた。更にはその直後に、千奈津のグリッターランスが同じ個所に直撃する。


 遂には石巨人の左足がバランスを崩し、その巨体が倒れようとしていた。それでも最後の意地だろうか、振り上げた右足だけはテレーゼに当てんと明確な敵意となって襲い掛かる。


「ぐうっ……!」


 振り下ろされた強靭な右足は正確にテレーゼを捉え、全体重を乗せての踏みつけが炸裂。最初に受けた拳以上の衝撃がテレーゼに押し寄せるも、彼女は何とか耐えている。杖塞が悲鳴を上げ始めているのが怖い。


「最後に粘り強く残るのはぁ~、泥臭い根性ですわぁ~!」


 あろう事か、テレーゼはこの恐ろしい1撃を耐え切るどこか、逆に押し返してしまった。唯一の支えとなっていた右足が押され、完全に安定性を失った石巨人は無残にも地面へ倒れてしまう。同時に、テレーゼの盾に展開されていた杖塞も元の形態へと戻ってしまった。文字通り、最後の力を振り絞った結果だろう。


「根性って……」

「やっぱりあの子は良いわね。是非とも騎士団にほしいわ」


 ズゥンとどでかい転倒の地響きが鳴り、ハルと千奈津が畳掛ける。

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