第87話 やりますわよ!
オルト公が直接話したい。そんな節の伝言をテレーゼが預かって来た。しかし、それはまだ予想の範疇の出来事だ。見ず知らずの者が娘を護衛するとなれば、普通は確認しようとするものだからな。親馬鹿だとすれば、尚更である。保護者として会うなら俺かネルになるんだが、例の問題でネルは除外。やはり、ここも俺がパーティを代表して向かう事となった。
頻繁に人が行き来していたダンジョンだけあって、地下は明るく照らされ構造も単純なものになっている。噂の通路が発見されたのは地下の2層目、そこにオルト公が私兵と共に陣営を築き、通路の監視を当たっているそうだ。既に道中のモンスターは駆除されていて、俺とテレーゼは何事もなくオルト公の居場所に到着した。そして―――
「ほう、君達がテレーゼの護衛役かね。失礼だが、力量のほどは大丈夫なのかね?」
「ハッ。レベル4や5程度であれば、弟子達だけでも対応可能です。メイ夫人をグリフォンからお助けした時のように、勇ましく、一気呵成に討伐してお見せしましょう」
「やりおおせる自信はある、か。いや、すまないね。少し試させてもらった。テレーゼから話は聞いていたんだが、どうにも自分の目で確かめなければ納得できない性格なんだ」
「もう、それっぽく格好をつけて。さっきまで、すっかり乗り気だったではありませんか!」
「これこれ、お父様にだって面子というものがあるのだよ。まあ、可愛い愛娘を前にしては意味を成していないのだけれどね! アーハァッハァッ!」
「お父様ったらお上手です事! オーホッホ!」
「いえいえ、美しい家族愛ではありませんか。クックック!」
―――そして、なぜか親子ぐるみの高笑いの最中にいた。2人が笑えば俺も笑わないといけないような雰囲気で、かなり無理な笑いで合わせているものの、既に限界だ。限界突破している。自分でもこれはねぇよ、ってのが痛いほど分かる。高かったテレーゼのテンションも、この場だと2倍増しだ。どうにかして、逃げの一手を考えねば……
「テ、テレーゼお嬢様、探索ポイントへ向かう前に、お嬢様のお力を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか? お嬢様のお力を見極めて、戦い方を考えたいと思います。冒険者たる者、コンビネーションを疎かにはできませんから」
「流石はデリスさんですね。私、感服致しましたわ! 良いでしょう。皆様を集めて、3層に住まうモンスターを相手にお見せ致しますわ! さ、行きましょう!」
良い具合にテレーゼ嬢が話に乗ってくれた。入り口に向かっている辺り、他の皆を呼びに行くつもりだろう。
「はい。それではオルト公、お嬢様の護衛を件、しかと承りました。ではでは―――」
そう言って、そそくさと陣営から退出しようとする俺。
「デリス君、少しいいかな? その、ね。娘の事で伝えておきたい事があってだね」
しかし、バッテン家の魔の手はまだ遠ざかっていなかったようだ。
「テレーゼはね、とても責任感が強い子なんだよ。私や妻にとっては些細な事なんだが、我が家に泥は塗らんと、学院の卒業祭に何としてでも出ようとしている。生徒会長として尚更責任を感じているんだろう。私は娘が不憫で仕方なくてね」
「は、はぁ。テレーゼお嬢様はしっかりされた方ですからね」
「分かってるねぇ、君ぃ!」
バンバンと背を叩かれる。分かった、分かったからもう解放してくれ。
「しかし、しかしだ。不甲斐ない父である私は、娘にどうにも甘くてね。表向きは情報規制を施し、その裏では娘と共に戦ってくれる強者を探していたんだ。もちろん、これは娘には秘密にしているんだが…… だが、その甲斐あって王城のヨーゼフ魔導宰相から連絡があった! 戦闘に秀でた優秀な人材を派遣してくれると聞いているよ。アーデルハイトでは珍しい黒髪の者がいるからひと目で分かるとの事だったが、確かに確かに! 珍しいねぇ! パーティの中に3人も黒髪の者がいると聞いたが、本当かね?」
「……ええ、私を含めて黒髪が3人います。必ずやオルト公の望まれる成果を挙げてみせましょう」
「うんうん! 王城公認の者であれば、私も安心だよ! テレーゼを頼んだよ!」
ほうほう、ヨーゼフのじじいが。そうですか、そうですか。別に俺は嘘は言ってないし? 俺とハルと千奈津で黒髪は3人だし、王城の魔法騎士団団長のネル様公認の仲間ですし? これは詐欺でも何でもない。オルト公からテレーゼ嬢を頼んだとの言質も取った。詰まりはヨーゼフが解決しようとしていた仕事を横取りしてしまっても、何の問題もないって事だ。
まあ、ヨーゼフのじじいが派遣したって黒髪はハルのクラスメイトだろうな。向こうの出方を窺いつつ、ハルとぶつけてみるのも面白いかもしれない。ヨーゼフの手駒を使って経験値稼ぎ、堪らんな。
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「この辺りで良いでしょう。テレーゼお嬢様、準備はよろしいですか?」
「よくってよ!」
ハル達と合流し、遺跡の最下層へやってきた俺達。この辺りのモンスターはまだまだ残っているようだったので、テレーゼの実力を測る為に活用させてもらおう。
「ハル、千奈津。適当なモンスターをここに誘き寄せてくれ」
「はい!」
「了解です」
これで1分もしないうちにモンスターが現れるだろう。
「さ、やりますわよ!」
意気揚々とテレーゼ嬢が腰のショルダーから巨大な盾を取り出した。流石は金持ち、保管機能付きの収納アイテムを普通に持ってるのな。しかしな、その前に申し上げたい。
「あの、テレーゼお嬢様? 百歩譲って盾は良いでしょう。ですが、魔法使いの杖は……?」
「……? もう持ってますわよ?」
「いえ、それは盾で―――」
「―――ここですの、ここ!」
「………」
テレーゼ嬢が盾の裏側を強調してきた。そして、俺は理解した。大盾の裏側に杖が刺さっている事を……! いや、盾と剣が一体化してるタイプのものは知ってるよ? だけどさ、盾に杖を付けちゃうのは流石のおじさんも初耳だよ。思わす感服しちゃったよ。
「納得されまして?」
「ええ、大変失礼致しました。テレーゼお嬢様の発想は私と似ていますね」
「そうですの? デリスさんはなかなか見所がありますのね! オーホッホ!」
盾に杖を付けたのではない、杖に盾を付けたのだ。故にこれは杖であり、盾ではない。実に深い。
「そうですの! もののついでに、私のステータスも御見せ致しますわ! 確か、神問石を持っていた筈です。少々お待ちくださいませ」
「え? あ、ちょっと待ってください。流石にステータスは拝見できませんよ。迂闊に見せない方が―――」
「いいえ、問題ありません。上に立つ者として、私は常に公正公平、何も隠し立てしない事を信条としていますの! それは私のステータスにおいても同様なのです! 私の完成された美は、誇ったとしても恥じるものではありませんから! オーホッホ!」
反論する暇もなく、神問石を渡されてしまう。
「あ、見ても良いんですか? ご主人様、私も見たいです」
「私はもう知って、いえ、遠慮しておくわ」
「ゴブ!」
ま、まあネルはもう知っているみたいだし、この際参考にさせてもらおうか。
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テレーゼ・バッテン 16歳 女 人間
職業 :魔法使いLV3
HP :1195/1195
MP :50/50(+50)
筋力 :90
耐久 :547
敏捷 :1
魔力 :63(+30)
知力 :1
器用 :1
幸運 :1
スキルスロット
◆杖術LV32
◇防御術LV74
◇装甲LV63
◇根性LV57
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―――ハァッ!?




