第530話 アガリア・ユートピア
僕、アガリア・ユートピアは神様に作られ、そして彼女に仕える召喚士だった。こんな形をしてはいるけど、一応種族的には天使に当たるんだ。全然天使っぽくないって? そりゃあ、神様が美の完成形である自分をモデルにして作ったからね。見た目は人間にしか見えないし、天使の輪とか翼は、完全な不要物として排除されちゃったんだ。ま、僕としてはこの方が動きやすいし、その事について文句はなかったかな。異なる世界を繋げる特殊な召喚術と、召喚した勇者達を臨機応変に手助けする為のスキルコピー能力、神様から貰ったこれら唯一無二の力だって、それなりに便利だったしね。
でもさ、どう贔屓目に見たって、あの時の戦況はヴァカラ老とマリア側に傾いていた。対処可能な時に何もせず、事が起こってから慌てふためく。力だけが一人前で、その性質はボンクラそのもの。世界の管理者がそんなんじゃ、この世界があまりに可哀想だろう? ついでに、そんな上司に仕える僕だって可哀想だ。如何に懐が深い僕だって、気の遠くなる年月をずっと酷使させられたら、謀反の一つや二つは起こすってものさ。さっきも言ったけど、だからこそ僕は裏切った。密かにヴァカラ老、マリアと連絡を取り合い、僕が神を召喚する場所を伝えておいたんだ。
『―――ッ! アガリア、これは一体どういう事です!?』
『どうもこうも、僕は強くて頼りになる側の味方にありたいので。正直、今の神様はその辺が信用できないと言いますか。できればですけど、自らのミスで生み出したあの魔王達を、自分の手でカバーして頂きたいんです。それができればまた信用してあげますよ、神様。ま、できればの話ですけど』
約束の日、約束の場所。戦いの最前線であるユダ大陸に移動した僕は、ヴァカラ老とマリアの横に立ちながら神様と対面した。神様が僕に用意させていた勇者や軍勢はおらず、この場に居るのは完全に僕達だけ。ま、居たとしても戦いの邪魔になるだけだったし、僕としてもこれ以上の無駄な犠牲は避けたかったんだ。これでも一応、さっきまで人類の味方だった訳だしね。あとは神様が逃げないように、それ用の対神結界も施しておいた。けど―――
『実に愚かな。立場を見失い、戦局さえをも見誤るとは…… 良いでしょう。些かの手違いはありましたが、魔王と貴方は私が直々に処分するとしましょう。神に対しそのような発言をした事を、死の間際まで後悔していなさい!』
―――短気でもあったらしい神様は、こんな安い挑発にも速攻で乗ってくれた。おいおい、自分の力に酔い過ぎじゃないかって、心の中でこっそり思っちゃったよ。神様は神様であって、そりゃあ強いよ? 本来であれば、この星に住まう全ての生物、その頂点に立つお方だったんだからね。でも、今においては全く違う。そんな神様に並び得る魔王を二体、神様は自らの手で育ててしまったのだから。
『クハハハ。おい吸血鬼、あの女何か言っているぞ? 俺は最近耳が遠くてな、よく聞こえなんだ。処分やら後悔やら、やたらとネガティブな言葉が聞こえた気がしたが?』
『えー? マリア、そんな怖い言葉は分っかんな~い。それよりもアガリア、あのおばさんを倒したら、世界の統治は妾達がしちゃって良いんだよね? 妾、嘘は嫌いだよ?』
神様にとっての唯一の勝機は、別勢力の魔王であるヴァカラ老とマリアを敵対させ、人類全ての戦力の集結後、神様を支援させた上で混戦に持ち込む事だった。だけど、それも今となっては手遅れ。僕が魔王達の仲を取り持ち、同盟を組ませてしまったからね。
『約束は前に話した通りだよ。世界は支配しても良いけど、決して人類を滅ぼさない事。そして、これからも適度に人類の敵であり続ける事。それでこれからは人類とモンスターが平等な、真に美しい世界になるだろう。まあ僕としては、面白おかしく生きていければそれで良い。こんなブラックな職場、さっさと退職したいんだ』
『あは、ならおっけ~』
『フッ、承知した』
『愚かな、本当に愚かな。アガリア、それらは所詮モンスターなのですよ? そのような約束を守ると、そう思っているのですか?』
『思っていますよ? 暴れる事しか頭になかったこれまでの魔王と違って、彼らには理性と人間味がある。この目で見て、この耳で聞いて、心を通わせた僕が言うんだ。たぶん、恐らく、きっと間違いないです。僕が思うに、システムのバグは強さだけではなく、中身にも作用したんじゃないですかね? ま、そんなシステムも力の大元である貴女が死ねば、綺麗さっぱり消えてなくなる。強力過ぎる魔王が生まれる事は、もうなくなるんです。だから、安心して逝ってくださいね』
『ねえねえ、もうやっても良い~? 妾、おばさんと違ってそこまで暇じゃないんですけど~』
『神――― いや、旧支配者か。女、お前の時代は俺らが適度に引き継いでやる。そろそろ死ぬ覚悟は決まったか?』
『この、虫けら共がぁぁっっ!』
とまあ、そんな感じで神様は敗れ、この世界は魔王達の手に落ちたのでした。めでたしめでたし。
『この女の亡骸、俺が貰っても良いか? 性格は最悪だが、腕っぷしは気に入った。俺の力でアンデッドにして、右腕として仕えさせたい』
『うげぇ、ヴァカラったら悪趣味~。元がそんなんじゃ、絶対まともな奴にならないよ? 血も不味そうだし、妾は要らないや』
『ハッ、お子ちゃまにはこの女の利用価値が分からないか! 吸血鬼とはいえ、まだまだ青いな』
『……あ?』
『ちょっとちょっと? 何そこでバチバチやってんのかな? ラブアンドピースの心を忘れないで!』
え? 全然平和じゃないって? いやまあ、それから暫くしたら二人がガチ喧嘩を始めて、世界規模で暴れたりもしたけどさ、僕としては楽しい世界になったんだし、結果的にオールオッケーじゃない? うん、オッケーだよ。
それにその時は少しばかりの責任を感じて、僕だって仕事をちゃんとしたさ。放っておいたら人間が全滅しちゃうから、戦う場所はユダ大陸に限定するようヴァカラ老達と交渉して、その周辺に住んでいた悪人以外の生き物は別の異世界に転送。バトルが終わる頃合いを見計らって、わざわざ迎えにだって行ったんだよ? 最低限の仕事はしたって誇りが僕にはあるね、へへっ!
但しヴァカラ老とマリアの戦いは、確かに多大な影響を世界にもたらした。当時世界最大の面積を誇っていたユダ大陸は、今の冗談みたいに小さな孤島に変貌。更にその周辺の気候も激変して、常に何かしらのエネルギーが渦巻く魔の領域と化してしまった。善良な人々やモンスターは避難させていたから良かったけど、近隣の他大陸にまでその影響が伝わって、多少の大陸移動が引き起こされたりもして――― 正直に言おう。この選択に後悔がないと言えば、それは嘘になっちゃうかな。異世界への門を開きまくって、僕はもう連日連夜過重労働! へへっ、神様倒してちょっと後悔ってね! この時の労働がトラウマで、もう並大抵の事じゃ門は開いてやらないって、そう決意するほどだったよ。
あ、これは僕の責任って訳じゃないんだけど、避難させた人々を異世界から回収した時、避難民に交じって異世界のイカれた科学者がこっちの世界に入り込んでいたみたい。やたらと「幸福! 義務!」って連呼していたけど、前述の通り僕ってばお疲れちゃんだったんだよね。だからまあ、聞かなかった事にしておこうよ。大丈夫大丈夫、異世界の科学者が一人くらい居たって、何の影響もないさ!
で、その後は大八魔発足の流れになるんだったかな。当時、頭角を現して来たリムドに声を掛けたり、呼んでもいないのに正体不明の金属製ゴーレム・ゼクスが立候補してきたり、今は亡き魔王も色々居てさ、あの時はワクワクが止まらなかったなぁ。ふふふ。




