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第476話 躯国と大帝国

 鑑定が終わり無事に依頼達成を認められた俺達は、ついでにギルドの会議室を借りて、そのまま勉強合宿のプロローグを始める事とした。理由は至極単純、今城に戻ったところで、厄介な講和会議に巻き込まれるのが濃厚であるからだ。となれば会談が終わるその時まで、害の及ばない安全な場所にいた方が賢いというもの。よし、ギルドが閉まるまでやるぞ、今日は!


「―――よって、ヴァカラと直接矛を交える事はないだろう。自分が一番目立ちたい楽しみたいなマリアと違って、あいつは将棋やチェスのような盤上での戦いを楽しむ傾向にあるからな。ここまでで何か質問はあるか?」

「「………」」


 手始めにと開始した講義はヴァカラについて。残る試練にはアガリアもいるが、圧倒的にあの髑髏の方が厄介なのは明白だ。今のうちに俺の知る全てをハル達に叩き込む。


「おい、デリス。ハルナちゃんとトーコちゃんが完全停止しておるぞ」

「あと、頭から何か黒いのが出てるけど大丈夫なのか……?」

「大丈夫大丈夫、いつもの事だから」


 合宿序盤はハルと刀子の他にも、折角だからと爺ちゃんズがなぜか参加している。講義内容がジジイであれば、生徒も約半分がジジイだ。ギルド長の仕事は良いのかよ、暇か。


「分かりやすく一言でいうとだな、マリアはネルタイプで、ヴァカラは俺タイプって事だ」

「あ、それなら直ぐに理解できます!」

「俺も完っ全に理解した。旦那、教えるのが上手いな!」


 爺ちゃんズがそれで良いのか? みたいな視線を送って来ている。良いんだよ、これくらいかみ砕いた方が。間違ってはないから。


「にしても驚きだ。あの髑髏の爺さん、全属性の魔法を使うとはなぁ。やばくね? 尖り過ぎじゃね?」

「思い切りが良いよね。普通、そんなスキル構成にはしないと思うのに」


 ハル達の言う事は尤もだ。属性魔法系統スキルの会得は、どんなに多くても精々二種類までが相場である。いくら適性スキルとなる魔法使いでも、HPや耐久値といった他のステータスが疎かになってしまうし、他にも弊害が盛り沢山であるからだ。これは結構前に、ハルにスキルを覚えさせる時にも言ったかな? 


 だがしかし、ヴァカラは炎魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、光魔法、闇魔法にスキルスロットの七枠を費やした。その上で、それらの問題を自らを不死とする固有スキルと、膨大な時間を費やして得た経験値で強引に突破した。ああ、あの髑老は頭がおかしいよ。マジで全属性の魔法を使いこなしやがる。そりゃあ、魔法でヴァカラの右に出る者がいないのも納得だ。俺だって敵わない。


「ヴァカラ自身についてはこの辺にしておこうか。次に本題、ヴァカラが所有する軍事力について」

「あれ、そっちが本題なんですか?」

「そ、こっちが本題。さっきも言った通り、ヴァカラとお前らが直接戦う可能性は極めて低い。それじゃあ、その代わりに試練の御題となるものは何か?」

「それが髑髏爺さんの軍事力に繋がるって訳か」

「師匠、結婚式の時に言ってましたよね。ヴァカラさんの軍勢は精強で、大八魔の中でも随一だって」

「ああ、あの現実逃避していた時の……」

「へ?」

「い、いや、何でもない。よく覚えていたなと、ハルの事を感心していたんだよ。ハルは偉いなぁ」

「えへへ、一番強いところは印象に残っていたので」


 なるほど、ハルらしい覚え方だ。越えるべき目標として記憶していたのね。


「ちなみになんですけど、それって今回戦ったイリーガル一家の皆さんより強いって事なんですよね? 一番ですし!」

「目ぇ輝かせながら、よくそんな事を聞けるよな、お前…… 幹部クラスの筆頭でいえば、あの欲望丸出し姉妹達より強い奴もいるよ。揃えている装備も半端ない。まあ軍事力つっても、その算出方法は色々ある。あくまで単純な総合力での比較だと思ってくれ」

「それはそれで素晴らしいと思います!」


 うん、良かったね。頭を使う側の俺は良くないんだけどね。


「リリィ師匠の姉妹以上……! へへっ、おもしれぇじゃねぇか。良いぜ、今日の俺は冴えてるから、一発で覚えてやる!」


 冴えてたっけ? さっきまでハルと一緒に頭から黒煙出してなかったっけ?


「そこまで言うのなら、俺も気合いを入れてレクチャーしてやろう。ヴァカラが治める躯国くこくカーマインは、周期的に唯一国境を接しているエルデラド大帝国と戦争をしている。まずは前知識として、この事を頭に入れておいてくれ」

「「エルデラド大帝国……?」」


 ポカンとした顔で首を傾げる二人。そこからか。ああ、そこからだった。


「お嬢ちゃん達、エルデラド大帝国ってのはな、世界で最も危険とされるダイ大陸にある国だ。さっきから何度も話に出てきた軍事力って意味じゃ、人族が支配する国ではここが最強とされてんだ。大英雄クラスの人間が何十人と国に仕えているらしいぜ?」

「へ~!」


 ハル、すべからくエルデラド大帝国をロックオン。恐らく、もう忘れる事はないだろう。


「人族最強の国と魔王最強の国が争ってんのか。それってすげぇ燃える展開じゃん! その国が頑張って髑髏爺さんの侵攻を抑えてんだろ?」

「あー、燃えているとこ悪いんじゃが、エルデラドはそこまで褒められた国でもなくてのう。エルデラドは人類最強の国であると同時に、人類最悪の国でもあるのじゃ」

「戦乱の世が常と呼ばれるダイ大陸だが、エルデラドの捕虜の扱いは群を抜いて酷いもんだ。他国からすれば違法に当たるであろう人身売買が横行し、国が怪しげな人体実験をやってるって噂もある。俺ら冒険者ギルドも、あの国には支部を置かねぇくれぇだよ」

「それは最悪ですね……」

「ハルナちゃん、憂う言葉とキラキラした表情が一致してないんじゃが……」


 たぶん、それなら後腐れなく叩きのめせそうです! とか、そんな事を心の中で思っているからだ。ハルの顔がそう言っている。


「更に補足すると、エルデラドがヴァカラの軍勢の侵攻を抑えてる訳でもないぞ。毎度毎度エルデラド大帝国自らが、ヴァカラの国に攻め込んてんだ。その度に負かされに負かされ、エルデラドの連敗記録が今も続いていたりする」

「毎回自分達から仕掛けておいて、その上連戦連敗~? おいおい、何でそんな事を繰り返してんだよ? 馬鹿なのか? 俺や悠那以上に馬鹿なのか?」

「馬鹿で世界一の強国にはなれんよ。まあ、ワシらには理解できん何かがあるのじゃろう。或いはエルデラドの野心が過ぎる侵略国家の悲しいさが、というべきかのう?」

「勝てない相手に挑み続ける姿勢は共感できますけど、多くの人々を支えるべき国としては…… う~~~ん、やっぱり私もスッキリしないです」

「……推測しても意味のない事に時間を費やすのは止めておこう。俺達にとって問題なのは、エルデラド大帝国が連敗を重ねるほどに、ヴァカラの率いるアンデッド集団が強化増員されるって事だ。もしヴァカラが自分とこの部下とハル達を戦わせようと企画したら、頭数が多い分対策も酷く面倒臭―――」


 ―――コンコンコン。


 会議室の扉から聞こえるノック音に、俺の言葉が遮られる。何だ何だ、これからが大事なところだってのに。


「おう、入って来て良いぞ」

「お忙しいところ、失礼致します。あの、バルクギルド長、お客様がいらしているのですが……」


 扉から姿を現したのは、受付カウンターにいたあの受付嬢であった。僅かにであるが、何やら困惑しているような表情を見せている。


「客だと? そんな予定はなかった筈だが?」

「それが―――」

「―――うむ、ここがそうか。やっほっほー、失礼するぞ」

「あ! か、勝手に入られては困ります!」


 受付嬢の後を付いて来たのか、不意に彼女の横を通って客人であるらしい人物が現れる。そいつは俺も見知った奴で、突然の訪問に頭を悩ますしかない奴でもあった。

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