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第467話 謎の信頼感

 フンドがイリーガル姉妹を相手に、色々な意味で奮闘するちょうどその頃。色鮮やかな花々が咲き乱れるクロッカス城の中庭では、悠那、千奈津、刀子の三人娘に加え、織田、渕、真丹の凸凹三人組が集まっていた。


「とまあ、これを起床してから朝ご飯の準備時間までにこなす感じだよ!」

「ぜぇ、げぇ、うげぇえぇ……!」

「それでね、もりもりご飯を食べたらね、次は―――」

「―――か、桂城さん、一旦ストップ! 織田君が凄い顔になってるから! お、織田君、大丈夫かい? 水、水を飲んだ方が良いよ」

「おいおい、まだ準備運動の段階だってのに、息切れする声までかすれてるじゃねぇか。そんなんじゃ、いつまで経ってもレベルは上がんねぇぞ?」


 今や圧倒的格上となった悠那達に、普段どのような鍛錬を行っているのか、愛する人と国を守る為に、恥を忍んで教えを乞う――― 織田のそんな願いが形となり、同級生一同が集う事となったこの会。手始めに悠那の鍛錬メニューを実践してみた織田であるが、残念ながら彼女の鍛錬は常識的視点から大きく外れたものとなっていた。ある道を究めた達人クラスとされるレベル5、そこに属する織田でさえ、序盤の序盤でしかない準備運動をしただけで、この有様である。恐らくは、千奈津や刀子が行っている鍛錬法でも同じ結果となるだろう。


「えと、悠那と全く同じ鍛錬メニューをさせるのは無理があるんじゃ…… というよりも、上げるべきスキルの種類も違うから、最初の方向性からして間違ってないかしら?」

「ハハハ、最初から分かっていた事じゃないか。老婆心ながらに言っておくと、デリスさんに鍛錬メニューを組んでもらうのが一番じゃないかな? いくつか有用なスクロールを送っていた経緯もあるし、たぶんそれくらいなら引き受けてくれると思うよ?」

「ぞ、ぞれを、初めに、言っでぇほじぃ……」


 汗だくで地面に倒れる織田へ、追い打ちとばかりに千奈津と渕のツッコミが突き刺さる、そもそもの至極真っ当な問題点。よくよく考えれば、それはそうだとしか言えない指摘である。


「死にそうな織田は置いておくとして――― それにしても刀子さん達、本当に強くなったよね。以前とは比べ物にならないんじゃないかな?」

「そうか? まあ確かに、三人掛ならリリィ師匠とも良い勝負ができるようになってきたし、そうかもしんねぇな。あ、昨日気付いたんだけどよ、俺ってば職業がレベル9に上がってたんだぜ! これでめ、めーじつ共に? リリィ師匠に並んだようなもんだろ、フフン」

「レ、レヴェル、ぎゅ、う……!?」

「私や悠那もレベル9目前ね。今のうちに次に覚えるスキルの候補を絞っておかないと」

「だね~」

「ぶ、ぶだりも、目、前……!?」

「お、織田君、無理に喋らないで! 口と鼻から血が出てるよ!?」


 先にレベル9へと至った事が嬉しいのか、刀子は鼻高々といった様子だ。一方、織田は混乱している。


「上がったら上がったで、次に要求されるスキルレベル総数も凄い事になるのよね…… 刀子、レベル10になる為のスキルレベル、いくつ必要になってた?」

「んーと…… 3000! 今が大体1900近いから、残りは1100だぜ!」

「また果てしなく遠い道のりね、それ……」

「うんうん、凄くやりがいがあるよね!」

「なるほど、見事に数字がバグってるね。おかしいよね?」

「………」

「織田君、息をしてっ!」


 合計スキルレベル400を目指す渕達にとって、悠那達が目指す数字はあまりに現実離れし過ぎていて、最早ジョークかと耳を疑うほどだ。一方、織田はショックのあまり気を失った。


「レベルに差があるのも考え物だね。刀子さん達が先に行き過ぎてて、ちょっと僕達の参考になりそうにはないみたいだ。桂城さん、こっちの世界でも敵なしじゃない?」

「ううん、私は全然まだまだ! リリィ先輩の上には師匠やネルさんがいて、今回の戦いで更にその上にはマリアさんがいるって分かったし、きっと大八魔二席のヴァカラさんも強いだろうし…… うん、もっと頑張って鍛え直さないと!」

「ハハッ、大八魔とか人類の頂点クラスと比較できてる時点で、もう僕達の手の届くところには完全にいないよ。桂城さんは謙虚だなぁ」

「え、そうかな?」

「謙虚、とは少し違うかしらね。悠那の場合、現実と向かい合いつつ、次の障害をどうやって乗り越えようか、真剣に考えているだけだから」

「ああ、相手がどこの誰だろうと、勝つ事しか考えてないからな。日本にいた頃と全然変わってねぇよ、悠那は。このっ、うりうり~」

「わっ、刀子ちゃん頭をぐりぐりしないで~」

「ふふっ」


 悠那を中心にして笑い合う三人は、大変微笑ましいものだ。その場を通りかかったクロッカス兵士や従者達も、皆一様に顔を綻ばせている。一方で渕はそんな彼女達を見ながら、どこか納得するような表情を浮かべていた。


(なるほど、変わったのは二人の方だったって事か。以前の鹿砦さんは自分に自信を持てていなかったけど、今は桂城さんにも負けていない。刀子さんも落ち着きというか、凄まじいまでの懐の深さと余裕を感じる。桂城さんの成長速度に振り落とされず、並んで走っていけるのも納得だ。いやはや、高々二か月程度で、人間ってこんなにも変わるもんなんだね。勉強になるよ)


 探偵を目指す彼にとって、人間観察は利益を伴う趣味の一つ。千奈津と刀子はステータスや単純な強さ以上に、内面が最も成長している。渕はそう判断して、周囲とは違う意味で目尻を下げるのであった。


「ああ、そうだ。デリスさんから聞いたよ。僕達の元いた世界、日本へ帰還する方法を見つけたんだってね? 探偵を目指す者として、こっちの方法くらいは先に発見したかったけど、これも先を越されてしまった。正直、ハンカチを噛み締めるくらい悔しいよ」

「見つけたと言っても、殆どネル師匠やデリスさんの伝手だったんだし、そこまで悔しがらなくても良いと思うわよ?」

「そうそう、そうなんだよ! 結論として旦那が凄い! あと大八魔の一席二席の試練をクリアする必要があるんだけどよ、ま、何とかなるだろ! 俺はデリスの旦那の為にも、この世界に残るけどな!」

「へえ、刀子さんは残る考えなんだね。織田も君と同じで、日本に帰る手段ができたとしても、このクロッカスの為に残るつもりみたいだよ」

「こ、これでも、クロッカスの、騎士団に、所属しちまってる、からなぁ……!」

「織田君が生き返った!」


 織田、生還。


「まあ織田の場合、女王様と婚約までしてるから、それ以外の選択肢が最初からないだけなんだよね。ちなみに真丹君は帰還希望組で、僕はどうしようか迷ってるところかな。その移動手段が僕達にまで適用されるか、まだ分からない訳だし」

「あれ? 試練をクリアしたら許可してくれるって、大八魔の皆さんが言ってたよ?」

「それは試練をクリアした桂城さん達の話でしょ? 僕達は実質何もしていない。それなのに権利だけを得られるだなんて、そんなに甘くは考えてないさ」

「う、うーん、確かにそこまでの言及はしていなかったような……」

「あの大魔王達、そんな細かい事を気にする玉か? 試練さえクリアしちまえば、気前よく聞いてくれそうな感じじゃね? 行き来の自由も、まあ何とかなんだろ。リリィ師匠のかーちゃんとか、俺達にかなり期待してるみたいだしよ、むしろ願ったり叶ったりなんじゃねーか?」

「そうじゃなかったとしても、師匠なら屁理屈を使ってでも無理を通すと思うなぁ」

「「それは、確かに」」

「うーん、このデリスさんへの圧倒的な信頼感は謎だよねぇ」


 反対意見が一切出ない辺り、あのデリスなら……! という思いは、皆共通のようだった。そして明日は、そんなデリスの退院予定日である。


 ―――修行73日目、終了。

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