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第454話 舞う炎舞う鬼

 血色から漆黒へと舞台を変え、十数年の時を経て再び相見える破天荒と吸血姫。少年少女だったあの頃とは違い、かつての冒険者達の心に恐れの色はない。いや、ないといえば嘘になるが、それ以上に勝利への執念が強かった。一人は過去の敗北と決別する為に、一人は妻と弟子の為に、そして最後のもう一人は金と金と金の為に――― 挑戦者達はこの決戦に、全てをぶつける。


「ふっ!」


 戦いの火蓋を切ったのは、誰よりも最初に突貫したネルの剣だった。常人、それどころか自称魔王であったとしても、ネルの炎はただそこに存在しているだけで、等しく全てを焼き焦がす。その熱量は小さな太陽が間近にあるようなもので、最早存在自体が凶器と化している。そんな物騒な炎が剣の形となって、明確な殺意と共に攻撃として使用されでもしたら、一体どうなるだろうか? イコール馬火力に繋がり、剣を振った先が地獄になるのは想像に難くないだろう。


 しかもネルの剣の恐ろしいところは、それだけに留まらない。純粋な剣の技量、この一点においてもネルの力はずば抜けているのだ。ネルが本気で放った剣速は、この世に存在する剣士で並ぶ者は一人もおらず、正しく最速の剣を誇る。世でいうところの剣の道の最高域、達人の中の達人と名高いジョルジアや武王でさえ、遠く足元にも及ばない。というよりも距離が開き過ぎていて、物差しにもならないほどだ。


 そんな魔法(暴力)と武術(暴力)を掛け合わせたネルの剣は、一振りの間に幾つもの斬撃がほぼ同時に、それも四方から襲い掛かり、受ける避けるの選択をさせる暇も与えず、敵対者を細切れにぶった斬って、即時灰にしてしまう事を基本とする。 ……そう、基本でこれなのだ。所詮ここは地獄の一丁目。仮に万が一に奇跡が起こってこの攻撃を突破したとしても、まだまだ新たな地獄は続くのである。


「さあ、存分にやり合いましょうか!」

「あはは、何度も剣を振った後に言う台詞じゃないよねぇ、それ?」


 しかし、相手は世界に最強格の生物として名を轟かすマリア・イリーガル。迫り来る地獄を素手で応戦し、幾度となく炎魔剣の猛攻と張り合ってみせている。二人はどんな傷を負おうとも、纏う炎と自身の蘇生能力で、瞬間的に全快してしまう能力の持ち主達だ。一見して勝負は一進一退、まったくの互角。ここから形勢が傾く事はないのではと、そんな風に思えてしまう。


(ッチ、やっぱりマジにやり合うと凄まじいわね……!)


 実のところ、ネルは心の中で舌打ちをしていた。全力で斬り合って、未だに押し切れない現実に対して? 否、自分にとって有利な条件が揃った今でさえ、ギリギリ渡り合う事しかできない現実に対して、だ。


 デリスやネルの周囲数十メートルにおいて、そこはデリスが詠唱したとある魔法の支配領域にある。スクロール深淵魔法レベル80『フェイクユニバース』、重力の働く方向が出鱈目になった空間を作り出すこの魔法は、本来敵味方を問わずに効果を発揮してしまう類のものだ。だが、デリスはこれを類稀な魔力操作で調整し、仲間達の動きに合わせて範囲を変動させ、マリアにのみ効果が及ぶように展開させていた。


(さっきから動き辛っ! 何これ、デリスの仕業? 新感覚でちょっと楽しいけど、キツっ!)


 マリアの足裏の部分は正常に地面に向かって重力が働いている。が、そこより上は前後左右真上斜めところにより無重力と、場所場所によって重力の向きが異なり、更には時間経過によってその方向もまた変化して作用、重力の強弱さえもランダムだ。普通であれば直立するだけでも危うい状態、下手に跳躍でもしようものなら、輪をかけて混乱してしまう事だろう。格闘戦において、このフェイクユニバースは最悪のコンディションをもたらす――― 筈なのだが。前述の通り、それでもマリアとネルは互角だった。左腕の魔法生物が欠けている分、これで九割の力しか出せないのだから、マリアの実力は底が知れない。


「おいおい、何で無重力よりも酷い状況にいるっつうのに、ネルと正面からぶつかり合えているんだよ? どんな魔法を使った?」

「魔法を使ってるのはデリスの方じゃん! 妾のは魔法でも何でもないも~ん。マリアはね、ダンスがとっても上手なの。レベルが四桁を軽~く超えるくらいにね。それは詰まり、どんな姿勢でどんな状況でも、こんな風に舞えるって事! あと、地味に死角から見えない攻撃をしてるのもデリスだよね!? やっぱり汚い、デリス汚い! デリスは汚い! ちょっと臭う!」

「人を汚物みたいに言うなっ!」

「うっさいわよ、アンタ達!」


 接近戦にて残像ができるほどに斬撃打撃を浴びせ合うネルとマリア、そんなネルの後方にて魔法による工作活動を行うデリスは、隙を見ての嫌がらせに徹底するという位置取りだ。位置的にも攻撃の余波やら炎やらが飛び散ってきている為、デリスは日焼け必至である。では、アレゼルはというと―――


(―――アレゼルの奴、さっきからシャカシャカ算盤鳴らしながら外周を走り回ってるけど、何のつもり? しかも、お金稼ぎに精を出している時のあくどい顔をしてるし…… 妾の気を引くための、単なる嫌がらせ?)


 とまあ、マリアが見ての通りの行動に走っていた。マリアを以ってしても、その意図が掴めないようだ。但し、アレゼルの速度ならばこの程度の距離はあってないようなもの、隙を作った瞬間に何かをされる可能性は大いにある。取り敢えず要注意という事で、放任される事となった。


「デットリーロースト!」

「っとぉ!?」


 剣が振るわれる最中に放たれた、ネルの小型火球連射弾。かつてデリスとのキャッチボールの際にも放たれたこの一見地味な攻撃は、接触を引き金にその場で大爆発を巻き起こす、世にも恐ろしい紅蓮魔法だ。眼前のマリアの足元に向かって撃ってしまった為、自爆に近い形での使用法になったしまったが、それもネルにとっては滋養強壮剤以上に効果的なおクスリ代わり。


「ハハハハハァッ!」


 自ら全身に超威力の爆発を浴びて、ネルは今まで以上に元気に血沸き肉躍っている。鎧を焼いていた炎はネルの髪にまで届き、その色合いを黄金から紅蓮へと変化させている。ネルの特性は髪の毛の一本にまで行き渡っている為、実際に引火して燃えているのではなく、肉体から溢れ出る生命エネルギーの如く纏っている…… という解釈の方が近いかもしれない。荒々しくも美しい鬼が、文字通り爆誕した訳だ。


「けほけほっ……! もう、口の中まで焼かれたじゃん! いくらその程度じゃ一割も死なないからって、痛いものは痛いんだからねっ!」

「言ってなさいよぶりっ子ぉーーー!」


 どうやら変化が起こったのは、見た目だけではないらしい。一振りで火の海を作り出していた剣筋が、更に勢いと威力と手数を増やすというランクアップを果たしている。初めから万事を期していたネルであるが、戦闘の最中に、いや、今においても物凄い速度で成長を遂げ続けているようだ。


「こぉれぇはぁっ! 退避ぃ~~~!」


 反撃するのを止め、舞うようにしてネルの攻撃を躱すマリア。翼を動かしながら、後退してネルとの距離を一旦置く。


(想定よりも適応するのが早いな。踊りが上手いとか、ふざけた理由を並べていやがったが、それもハルの投擲と同じで解釈次第って事か?)


 マリアにとって状況は最悪な筈なのだが、フェイクユニバースの悪環境にも慣れてきたのか、序盤よりも動きがスムーズになっているようにデリスは感じられた。ネルの成長と差し引きして、それでもデリス達に利がある程度の事ではあるのだが、火消し役としてデリスはこれに懸念を抱かざるを得ない様子だ。


「ネルったら怖いんだぁ。本当に鬼みた~い」

「鬼はアンタでしょうが、この吸血鬼!」

「違うもん! 妾は吸血! 姫の方だもん!」

「そうでんな~。流石は姫、良いお召しもんをしとりますわ」

「でしょー! ……んんっ?」


 後退中のマリア、何者かに肩を叩かれる。振り返ると、そこにはアレゼルの姿が。


「あ、これどうぞ」

「へ?」


 そして、何かを手渡された。

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