第433話 姉妹は仲良し
予想外の合流を果たしたリリィヴィアとオディール。しかし、彼女達はお互いに別々の陣営に属していた筈だ。オディールがウルスラの邪魔をした理由が、リリィヴィアにはいまいち理解できなかった。そもそもこれまで二人は、寝てばかり引き篭もってばかりと、ろくに会話をした事もなかったのだ。
「……何の真似だ、オディール?」
そう疑問に思ったのは、何もリリィに限った話ではない。攻撃の邪魔をされ、挙句の果てに自身の爆発を顔面に食らってしまったウルスラなどは、それはもう大層疑問に思っていた。
爆発の威力を一部に集中させられたのもあって、顔面爆発後のウルスラの顔は、前半分が完全に吹き飛ぶほど無残な状態だった。リリィヴィアが覚悟を決めた爆発を、ゼロ距離で受けたのだ。元は自らの攻撃とはいえ、そうなるのは当然だろう。しかし、ウルスラはオディールに対して問い質した。青筋を複数立たせながら、妹を窘めるよう努めて優し気な声色で、でもやっぱり血が逆流している矛盾した様子で、確かに問い質した。
「うげぇ、あれでも生きてるんですか? 不死身?」
「妬ましい不死度だけど、ママの実力に最も近いウルスラお姉様なら、まあ生きていても不思議じゃないでしょ。リリィヴィア、頭を吹き飛ばしたくらいでママが死ぬと思う?」
「ううん、微塵も」
即答するリリィヴィア。マリアほどではないにしても、ウルスラの治癒能力もまた尋常でない事を、リリィはよく知っている。現に爆発を受け、ウルスラの顔が弾けるように見えた直後には、彼女の顔の殆どは再生済みの状態となっていた。その上で血走らせた目でしっかりとリリィ&オディールを見据えているのだから、気分は最悪も最悪。純粋にこの上なく怖い。
「何の真似だと聞いているのだ、オディール。返答次第では、躾で済まないと思えよ?」
「あ、それ私も聞きたいです。今のオディールお姉様って、いまいち立ち位置が分からないので、私も困ってます」
「……私、真の愛と友情に目覚めたの」
「「は?」」
オディールの脈絡のない言葉を受け、リリィヴィアとウルスラが頭上に特大の疑問符を浮かべた。揺らぐ緊張、しかし張り詰めた空気は直ぐに戻ってくる。
「……リリィヴィアに続き、どうやらお前まで私を怒らせる気のようだ。余程死にたいと見える」
「いいえ、私はこんなところで死ぬ訳にはいかないわ。私は今まで紅国に引き篭もっていたから、外の世界をよく知らなかった。けれど、教えてくれたのよ」
「教えられた、だと?」
「そう、私の初めての友達…… いえ、私の親友が、世界はこんなにも明るく、優しいと教えてくれたの! そして私の愛するゴブオさんには、愛を教わった!」
唐突な爆弾発言、舞い戻る緩和空間。今まで見た事もないほどに燃えているオディールの姿に、リリィとウルスラは揃ってキョトンとする事しかできない。
「私は紅国を出て、妬むのではなく妬まれる自分を目指す事にしたの」
「……要は離反する、という事か?」
「そんな単純な事じゃないって言ってるでしょ!?」
「え、あ、うむ……」
ウルスラ、逆に怒られ気押される。
「ゴブオさんも、そうして生きる私の事が好きだと言ってくれた! その為の第一歩として、私はゴブオさん側に立たせてもらうの。言わばこれは、恋する女であるが故の決断! 居心地が良いだけの故郷を脱し、ゴブオさんの横に並ぶに相応しい女性になる為の、は、はなよ、花嫁…… 自分磨きの旅!」
リリィ、思う。恥ずかしさのあまり、花嫁修業を言い直したんだろうな、と。
「さあ、私を妬みなさい、お姉様! リリィヴィアと一緒に戦うのは不本意だけど、貴女に妬まれる度に、私は新しい私に生まれ変わるのだからっ!」
「ほう、なかなかに勇敢だ。妬むというよりも、私は頭に来ているのだがな……!」
ピリピリとした空気が漂い始める舞踏場。双方真面目にやっている筈で、一応これでも大八魔レベルの舌戦なのだが、緊張と緩和の入れ替わりが激し過ぎて、全員が全員、混乱をきたしているようにしか見えないのは気のせいだろうか?
(オディールお姉様ったら、本気ですね。初心なウルスラお姉様にとって、色恋の話はタブー中のタブー。それも当然でしょう。顔を全力修復して女を捨てられない癖に、ウルスラお姉様は武人を気取る気も強い。だからこそ、その手の話を年下の妹にされるのを、それはもう死ぬほどに嫌います。怒り心頭火山爆発プッツンのキレギレです。あのカタリナお姉様だって、ウルスラお姉様の前では絶対に色欲に塗れた話なんてしませんからね。なのでオディールお姉様のこの一連の言動は、信用に値すると考えられます。あとは、私と上手く連携してくれるかどうか、でしょうか。それができればオディールお姉様の能力的にも、勝ち筋が見えてくる筈です。あ、そういえばさっき出てきた、あの名前――― よし、これでオディールお姉様からの信頼を得られるかも……!)
こちらは全くもって状況の移り変わりを気にしない、末妹リリィヴィア。その代わりにオディールの心境の変化をヒントに、何やら良い策を考えついたようだ。
「あの、オディールお姉様? もしかしてそのゴブオって―――」
「―――ゴブオさん、でしょ?」
「あっ、はい……」
が、ゴブオを呼び捨てにされた事に腹が立ったのか、オディールにこれまた見た事もないほどに威圧されてしまう。
「ゴブオだか何だか知らんが、そんなもの今は関係な―――」
「―――ゴブオさんだって言ってるだろ?」
「………」
ついでとばかりに、ウルスラも威圧されてしまった。妹の予想外の口調に呆気に取られ、思わず固まってしまう長女。
(ついさっきウルスラお姉様を圧倒したのといい、これも一種のトランス状態と呼ぶべきでしょうか? 恋慕の力は偉大ですねぇ。違う意味で怖いです…… ま、イリーガル姉妹だし、変人なのは仕方ないですよね!)
まるで他人事のように納得するリリィヴィア。特大のブーメランが自らに返っている事に、全く気付いていないようだ。
「ゴ、ゴブオさんって、えっと…… こう、赤い肌で普通とはちょっと違う感じのゴブリンでした? 一緒にいたのはテレーゼちゃん達かな?」
「ふおわあっ!? リ、リリィヴィア、なぜにあの方の特徴を!? そ、それに私の親友達の事までっ……!」
「いやいや、私、その方々と一緒に乗り込んで来た訳ですし、知っているのは当然でしょう…… でも良かったですね、オディールお姉様。その恋路、私ならお手伝いできますよ?」
「っ!? その話、詳しく!」
リリィヴィアは自分とゴブオの関係について説明した。曰く、自分達は同じ職場で働く者同士である事を。曰く、自分はゴブオの上司よりも上の立場の先輩であり、その気になれば良い感じに2人を引き合わせる事ができる事を。曰く、自分にはオディールの恋を応援する為の用意がある事を……!
「リリィ先輩、貴女は昔から他の姉妹とは違うと思っていたの。具体的には超妬んでいたし、超尊敬していた! 私、リリィ先輩みたいになりたい!」
「なれます、なれますとも! 何て言ったって、私達は姉妹の絆で結ばれていますからね! ですがその前に、人の恋路を邪魔する長女を仕留めましょう! それが愛への第一歩、です!」
「お前ら……!」
意気投合、以心伝心、鉄の結束。互いを忌み嫌っていた姉妹は、この一瞬で信じられないほどに緊密な関係を構築。眼前の障害を倒すという目的の先に、己の欲望を叶える望みを見出したのであった。




