第411話 情報収集と下準備と勧誘と
―――修行68日目。
リムドの試練にワープ帰還、更にはマリアの襲撃と色々と忙しかった昨日。本当にクッソ忙しい時に限って、厄介な出来事はなぜ起こってしまうものなのか。この世界に仮に神様という存在がいたとするなら、俺は声を大にして言いたい。サボってないで世界平和の為に仕事しろ、と。まあ、ヴァカラやマリアにあれほど好き放題させてる時点で、今更改心するとは毛ほども思っていないんだが。
さて、愚痴はここまでにしておこう。今日からはクロッカス奪還に向け、早速行動を移す事になる。まずは情報収集と下準備、という事でハルと共にディアーナの街へ。
「―――となると、アレゼルの乗った飛空艇がクロッカスにいるのは確実か」
「ええ、ここだけの話ではありますが。それと、この件はくれぐれも内密に。社長と旧知の仲であるデリス様だからこそお教えしましたが、社内でも一定の権限がある者しか知らぬ話ですので」
クワイテット魔具店のオーナーに話を聞きに行ったところ、アレゼルとゼータが飛空艇ごとクロッカスで足止めされている事が確定。社長の気まぐれで別の飛空艇がジバ大陸に来ていた、って説は木っ端微塵に消失した。
「分かってるよ。ま、これについては国も放置しておくつもりはないだろ。どうにかならないもんか、俺の方でも色々と動いてみる」
「おお、『黒鉄』のデリス様が動かれると……! そうなると、やはり奥方様も?」
「……お互い、内密にな?」
「もちろんでございます。微力ながら私もご協力致しますので、何なりと申しつけください」
「あ、それじゃあさ、何か良い感じのスクロールとか入荷してない? 戦術の幅が広がれば、アレゼルを助け出すのも早まると思うからさ」
ここぞとばかりに状況を有効利用し、己の欲求の足しにしておく。前払いの報酬金だとでも思ってくれ、マイフレンド。
「っと、先に来てたのか、ハル」
「あ、師匠お帰りなさい。こちらの買い物はバッチリですよ。お値段が変動していない食材を中心に、価格交渉をしてきたので!」
店から出て、別の買い物先で食材の補充を済ませていたハルと合流。弟子は師に似るものだと聞くが、こいつもこいつで逞しく生きている。いや、俺はハルほど逞しくないんだけどさ。
「次はどちらに?」
「冒険者ギルドだ。ジョルジアに話があるのと、ちょっと取りに行きたいものがあってな」
という訳で、さっさと目的地であるギルドへ向かってしまう。ギルド内は相変わらずの盛況振りで、ジョルジアが担当する受付は相変わらず閑古鳥が鳴いていた。まったく。いつ来ても空いていて、会いやすいったらありゃしない。
「爺さん、暇過ぎてボケてないだろうな?」
「あん!? 誰がボケ老人じゃ! ワシは生涯現役じゃといつも――― って、デリスじゃねぇか。何でそんなに粧し込んでんだ? ギルドに着てくる格好じゃねぇぞ。お前さんこそ、遂にとち狂ったのか?」
「ドレスコードだ、ドレスコード。さっきまでクワイテットの魔具店に行ってたんだよ」
「おお、ハルナちゃんいらっしゃい。ゆっくりしていくと良い。ほっほっほ」
「聞けよっ!?」
挨拶代わりの軽いジャブの応酬。ハルは飴ちゃんをもらっていた。
「で、今日は何の用だ? またハルナちゃんに無理難題を押し付けるつもりか?」
「おい、誤解されるような言い方をするなって。それに今のハルの実力からしたら、そこに貼ってある依頼レベルじゃ何の修行にもならねぇよ」
「はい! 私、あの頃よりもかなり強くなりましたので!」
「ああ、噂は色々聞いとるし、ハルナちゃんの実力はワシも太鼓判を押しちゃる。ったく、この二か月でハルナちゃんにどんな鍛錬積ませたんだか……」
やれやれと顔を振る受付爺。こいつ、絶対俺をろくな師匠だと思ってねぇ。
「実力に応じた鍛錬を積ませているだけだっての。それで今日の要件についてなんだが、クロッカスの話は聞いてるか?」
「クロッカスの壁か? そりゃ知っとるわい。うちも随分と迷惑しとるからな。冒険者の間でも結構な噂になっとるよ」
「なら話は早い。ジョルジア、俺らと一緒に壁壊して首謀者を叩きに行くぞ。ほら、さっさと準備してくれ。生涯現役なんだろ?」
「唐突だし何か誘い方が軽くないっ!? ワシ、一応ギルドの長じゃよ!?」
―――ざわざわ。
ジョルジアが急に騒ぎ出したもんだから、周りから視線が結構集まってきた。爺様、何してんだ。これ以上受付前で話すと、余計に目立ってしまうぞ。
「ジョルジア、話し辛くなったじゃないか。注目を集めた責任を持って奥の応接室に案内してくれ。これ、マジで緊急案件なんだ」
「ジョルジアさん、お願いしますっ! お話だけでもっ!」
「うぬっ、ハルナちゃんを出しに使うとか狡くない……!?」
「クックック、何を今更。俺を誰だと思ってんだ」
ジョルジア、ハルに弱い。これ常識。
「あの、ギルド長。何かありましたか?」
騒ぎを聞きつけたギルド職員が、受付奥の事務所から声を掛けてきた。よし、ナイスタイミング。
「……いや、何でもない。それよりも、このお二人さんを応接室に案内してくれ。ワシも一緒に行く」
「は、はい。では、こちらへ」
「お邪魔します!」
職員に案内され、応接室に通される。職員からゴブラ茶を差し出されると、何やらハルが嬉しそうに笑っていた。あれ、ハルってゴブラ茶がそんなに好きだったっけ?
「失礼致します」
「おう、ご苦労さん」
職員が部屋を出て行くと、ジョルジアはらしくもなく真面目な顔を作って俺の方へと向き直る。
「それで、デリスよ。真面目な話、どういうこった?」
「ああ、話せば長くなるんだが―――」
これまでの出来事を大雑把に説明する。一方でハル、ズズズと茶をすする。
「―――ハァ、そいつはまた、何と言ったら良いんだか……一応再確認するけどよ、全部マジな話なんだよな?」
「わざわざジョルジアを騙す為に、こんな大言は吐かねぇよ。それでも疑うんなら、国に問い合わせてみると良い。そうでなくとも、後で正式に国王直々にご指名されるだろうさ。何せ、俺が推薦しておいたやったからな!」
「ああ、分かった分かった。そこまで言うんなら仕方なく信用してやる。ったく、こんなロートルに何を期待するんだかよ。はじめに言っとくが、ワシのレベルは剣士の7じゃ。第八魔の、それもやべぇ筆頭のマリア・イリーガルの軍が相手じゃ、大した活躍は期待できんぞ」
「大丈夫だって。レベル7なら十分に人間辞めてる領域だ。武王に匹敵する…… と言ったら、凄いのかよく分からなくなるか。兎も角、マリア討伐隊にようこそ、だ。その剣で吸血鬼共を斬って斬って斬りまくってくれ。でないと直ぐに再生するから、あいつら」
「お主、とんでもない事を笑いながら軽く言うの、本気で止めてくんない? つか、守銭奴のアレゼルも生きておったのかよ! 引退した時に死んだとかぬかしおって、貴様っ!」
「ククッ! いやいや、そんな事は言ってないし。勝手に勘違いしたのはギルド側だし。俺は全然悪くない!」
のらりくらりとジョルジアの口撃を躱し、喉を潤す為にゴブラ茶を飲む。うわ、思っていたより濃くて苦っ! 口内に刺激を受けて、俺はもう一つの用事を思い出した。危ない危ない、こっちも伝えておかないと。
「あ、そうだ。実はもう一つ要件があったんだよ。今回の戦いは当然俺も本気で臨む。だからさ、ここに派遣していたイー達四人も、その時に連れて行こうと考えているんだ。暫く解体の仕事は空けておいてくれ」




