表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
426/588

第407話 玩具も使いよう

 その場で大きく跳躍し、飛空艇の真上に着地するアレゼル。視線の高さとしては、これで空に止まるヴェロニカ、エリザとほど同じだ。メイド吸血鬼達は酷く不機嫌そうな態度だが、それに対峙するアレゼルも「何見下しとるんじゃ」などと、そう言いたげな顔をしていて決して負けていない。放たれる殺気は向かいから更なる殺気を呼び、空がドス黒く染まっていく。


「一応、確認の為にもお伺いしておきましょう。 ……貴女、正気ですか?」

「うわー、ヴェロニカの静かなる怒りを感じちゃう。傲慢に傲慢で返されちゃ、そりゃ頭にきちゃうもんね~。でも、その気持ちはエリザも同じかな。ゼクスとタッグを組んで来るならまだしも、一人で私達に挑むつもりなの? すっごく馬鹿にしてな~い?」

「おう、これ以上説明せんと分からん鳥頭だったんか。ああ、そう言えば羽があるさかい。元から鳥と同じようなもんやったな。馬鹿にした上で喧嘩売っとるんやで? はよ得物を出せや。あたしがせめてもの慈悲に待っとるって、何で理解できないんや? ダァホが」

「「……」」


 ヴェロニカとエリザは怒筋をピキピキとひたいに走らせ、目を限界まで見開いていた。これはもう何が起ころうとも止められない。地上にてゼクスと共に様子を窺っていたゼータは、このままここにいては危険だと即座に判断。クワイテットの社員の者達に避難を促し、自身も殿として付いて行く事にした。


「ほほう。アレゼル殿、存外に冷静のようですな。部下達を巻き込まぬよう、自らヘイトを稼ぐ作戦に出るとは…… ならば、某らはそのお手伝いすると致しましょう! ゼータ、退却の支援に回りますぞ!」

「承知しました。ゼクス様ならそう仰ると思い、既に行動に移っているところです」

「おお、グッドチョイス!」


 ゼータがゼクスを搭載した左腕を後方に向けると、その表面装甲が外側へ突き出すように変形する。突き出された装置には電気が流れているのか、荒々しく発光していた。


「よく整備していますな。実にスムーズな動きです」

「せ、整備は得意ですから。では、いきます。マグニズムシート・プラス……!」


 紫電魔法レベル60『マグニズムシート』。磁力の壁を発生させて、敵の攻撃を弾き飛ばす障壁魔法だ。今回の義手型ゼクスボディには、ゼータの魔法によって発生する電気の力を、著しく増幅させる働きが備え付けられている。このマグニズムシートも例外ではなく、出力が数段階底上げされる事で、避難する者達を丸々カバーできるサイズにまで拡大。純粋な魔法の規模としては『紫電魔法』の更に上を行く、『天雷魔法』の領域に至っているだろう。面倒事しか引き起こさないマリアの壁はノーサンキューであるが、こちらの障壁は皆にとって心から受け入れられる、非常に頼もしい存在に違いない。


「お心遣い感謝致します。ゼクス様、ゼータ様」


 障壁展開の直後、同じく集団の後列を走っていた男に話し掛けられる。吸血メイドが現れる直前に紹介された、あの眼帯をした初老の男だ。ただ名前までは聞いていなかったので、どう返事を返したものかとゼータは少し困ってしまった。


「貴方は、ええと……」

「申し遅れました。私、クワイテットにて主任を任されている者です。以後、お見知りおきを」

「ああ、それはどうもご丁寧に……?」


 丁寧だったが、なぜか名前は教えてもらえなかった。


「我々はこのまま、クワイテット系列の支部を置く街まで避難しようと思います。一般市民に危害を加えない敵方の出方からして、中に入り込み無抵抗のままでいれば、攻撃はしてこない筈ですから。飛空艇についても、まあ社長がいるので問題ないでしょう。お二人は如何致しますか?」

「ふぅーむ、某らの施設はここから少しばかり遠いですからなぁ。可能であればご一緒したいところです」

「ゼクス様の意見に同じです。ですが、アレゼルさんをあそこに残したままで大丈夫でしょうか? せめて2対2になるよう、ゼクス様をインした私も参戦するべきでは?」

「必要ないでしょう。アレゼル殿の戦い方は独自で他にないものですから、むしろアレゼル殿の邪魔になる可能性が高いです。ゼータはこのまま社員の方々と行動を共にし、皆の安全の確保に努めるように。某、かなり期待していますぞ!」

「しょ、承知しました! ご期待に沿えるよう全力で頑張ります!」


 電気にゼータの感情の起伏が呼応したのか、障壁がバリバリと唸る。


 と、そのような形で避難が行われる一方で、殺気渦巻く戦場ではヴェロニカとエリザが得物を取り出していた。血の如く血紅色で染められた鞭と、刃より血を滴らせた大斧である。もしかしたら使用直後? なんて感想が出てきそうなほどに、どちらも血塗れだ。


「なんちゅうか、そないにまで頑張ってイメージ作んなくても良いんちゃう? 吸血鬼ですってアピールのつもりなんか、もしかして? あ、変にツッコミ入れん方が良かった? すまんなぁ、この口は思った事を素直に言ってしまうんよ」

「……なるほど、どこまでも口が減りませんね。貴女もさっさと手に武器を取りなさい。この間は貴女に無駄口を叩かせる為のものではありませんよ」

「そうそう。人に言うだけ言っといて、自分は突っ立ってるだけとか、どういう了見な訳? 殺しちゃ不味いから、半殺しで済まそうかと思ったけれど……キャハハ! やっぱり全殺しにしちゃおう! ほら、出しなよほらっ!」

「あーらら、本性が包み隠さず出てんなぁ。それじゃ、皆も逃げて良い頃合いやし、そろそろ始めよか。素手でも良かったんやけど、折角やしお言葉に甘えておくわ。つってもあたしは非力やから、クソガキ共みたいな大層なぶつは持てん。ま、精々これくらいが―――限界やなぁ!」


 アレゼルが勿体ぶった挙句に取り出したのは、2門の大型銃器であった。かつて悪徳商人サンゴの地下闘技場にて、対アレゼル用殲滅兵器として用意されたあのガトリング砲である。人の身長ほどもある銃身を持つこの銃器は、本来地面に固定した上で連続発射させるものだ。間違っても手に持ってぶっ放す武器ではなく、ましてや2丁拳銃の如く両手に1門ずつ持ってぶっ放す為のものでもない。


「「っ……!」」


 だというのに、アレゼルは片手でも撃てるよう改造したガトリング砲を当然のように持ち上げ、飛空艇の上より一斉射撃を開始した。重厚なる銃口より放たれる弾丸の嵐は凄まじく、同時に使用者側のアレゼルにも凄まじい反動が襲い掛かる。しかし自称非力であるらしいエルフは、おかしな事にこれにも普通に耐えていた。


 弾丸の雨あられを降り注がれた側のメイド吸血鬼2人はというと、見た事もない武器の登場に少し戸惑いはしたものの、掠る事もなく回避に成功していた。静から動へと一瞬で移行し、完全に弾丸を見切った上で躱している。


「フン。見知らぬ得物に驚きはしましたが、ただそれだけだったようですね。私に当てるには、少々攻撃が遅いのではありませんか?」

「キャハハハハ! こんなの玩具をいくら撃ってきたって、見てからでも余裕で避けられるよ~っだ! 数だけ多くしたって無駄無駄~!」

「せやな。ま、どんくさい攻撃やけど、姿を隠す遮蔽物くらいにはなったわ」

「「―――!?」」


 アレゼルの声が、2人を通り過ぎた弾丸の影より聞こえて来る。


「な!?」

「あ!?」


 彼女達が声に反射して振り返った先には、確かにアレゼルの姿があった。実はガトリング砲を目一杯ぶっ放したアレゼルは、無数の弾丸を追い掛ける形で空に駆け出していたのだ。しかも途中途中で弾丸の後ろに隠れ、ちょっとした小休止を挟みつつ、である。そんな馬鹿げた芸当も、大八魔の中でもマリアに次ぐスピードを誇る彼女にとっては朝飯前。弾丸の第一陣がメイド吸血鬼達に届いた時、アレゼルは既に彼女らの背後を盗っていた。


「さ、すれ違いざまに何をスられたんやろな、お二人さん?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ